デルタ電子株式会社 PROJECT

4日間で予約販売が完売。大反響を呼んだ家庭用水耕栽培の開発は、
スタートアップ的アプローチが鍵

パソコン用電源などで世界的によく知られるデルタ電子。世界的な大企業というイメージのデルタ電子ですが、2014年にIoT部を設立、これまでのアプローチとは異なるやり方で、スタートアップ的な新製品開発を開始しました。

IoT水耕栽培器「foop」は、IoT部を率いるデルタ電子のマーベリックさんがFabCafe Tokyoと開発した製品で、初回予約が4日で完売、国内海外から大きな反響を呼びました。

マーベリックさんと、製品開発を一緒に行なったFabCafeの川井に開発秘話を話してもらいました。

社内リソースを最小限にし、あえて外部クリエイターチームを作った

デルタ電子株式会社 ジェネラルマネージャー IoT事業開発部 シェ・ユンホウ (マーベリック)

ー foopプロジェクトは、今までのデルタ電子の開発プロセスとは違う、初めての取り組みだったと伺いましたが詳しく教えてください。

マーベリック(デルタ電子):
今回、製品開発においてスタートアップ的なアプローチをとったことが、実験的且つ初の試みです。プロジェクトの全プロセスにおいて、デルタの社内リソースは限定し、多くをアウトソーシングしたのが大きな特徴です。リサーチ、PR、プロダクトデザイン、ソーシャルコンテンツまで、外部リソース化することで、独立したプロジェクトになっています。まるで映画の製作チームを作るような感じです。

ー 家庭用水耕栽培市場を選んだのは何故ですか?

マーベリック:
水耕栽培は一般的とは言えず、市場も小さいです。しかし、メジャーではない、ニッチなトピックにチャレンジすることこそ、ベンチャーマインドの醍醐味であり、小さなアイディアこそ大きな影響を与える可能性があると考えました。例えば、家庭用ソーラーパネルや電気自動車は、10年20年前には考えられませんでした。それが数十年かけてアイディアが育ち、今、大きな成功を収めつつあります。

FabCafe店内を利用したテストマーケティングで、ユーザーの要望を洗い出す

株式会社ロフトワーク FabCafe LLP COO 川井 敏昌

ー プロジェクト開始にあたり、なぜFabCafeとタッグを組むことになったのでしょう?

マーベリック:
プロジェクトに協力してくれるコンサルタントを、カフェやファッション業界で探していた時、友人がFabCafeを紹介してくれたのです。foopのコンセプトを話すと、川井さんは、私たちが何を求めているかすぐに理解してくれました。

川井(ロフトワーク/FabCafe)
foopに対する反応を調査するため、まずフィールドリサーチとして、foop試作品をFabCafe店内に設置しました。当初は、カフェやギャラリーなどの店舗に訪れる人々(幅広い層の人)が、foopに興味を持つものと考えましたが、特に女性のお客さんが強い関心を持っていることがわかりました。これを踏まえ、次のステップとしてロフトワークが主体となり女性参加者を対象としたアイディエーションワークショップを開催しました。

ー ワークショップではどのようなことを?

川井:
foop試作品、つまりモノを見せずに「未来の家庭用水耕栽培」というコンセプトだけでアイディエーションをしてもらいました。“未来”をキーワードにして、「水耕栽培で何したい?」「家にあったらどう使う?」「水耕栽培がネットと繋がっていたらどう?」というように、1つずつブレイクダウンしてアイディアを深めていきました。

マーベリック:
ワークショップでは、IoTテクノロジーの面でもさまざまなアイディアがでてきました。ユーザーが予想以上に強くコミニュケーション機能を求めていることもわかりましたね。

アイディエーションワークショップ「水耕栽培+IoTがつくる未来」

フィードバック・ループを回し、試作品をブラッシュアップしたデザインフェーズ

フィールドリサーチの結果とワークショップで出てきたアイディアをもとに、試作品をさらにブラッシュアップ。FabCafeがディレクションを担当し、プロダクト・デザインはカドケシなどのデザインで有名なBARAKAN DESIGNの神原秀夫さん、機構設計は株式会社テクノラボが行った。

ー ワークショップ後の試作品で大きく変わったのはどういう点でしょう?

川井:
デザイン一新です。ワークショップ前までの試作品は、どこか宇宙的というか近未来的なデザインであまり女性向けではなかったかなと思います。神原さんは3種類のデザインを提案してくれ、その中から、今回の丸いフォルムのデザインに決まりました。もちろん、デザインにはワークショップ発のアイディアである木が使われていました。

マーベリック:
正直、最初に木と聞いた時は、悪くはないが……くらいの気持ちでした。木製デザイン好きは日本だけじゃないかと思ったのですが、実際に日本人の木へのこだわり、飛騨などの高品質な材木を知ったことで、採用することを決めました。丸いデザインを選んだ理由は、このデザインが最もチャレンジングだと思ったからです。プロジェクト根底にある、ベンチャーマインドや今までにない新しいものへの挑戦を最優先した結果です。

川井:
ちなみに、マーベリックさんに木の良さを知ってもらうために、岐阜県飛騨市で林業とFabCafeHIDA運営を行っている株式会社飛騨の森でクマは踊る(ヒダクマ)に協力してもらい、みなさんが日本の高級木材に触れる機会を作りました。木の良さを知るには、実際に触れてみるのが1番です。

ここからプロジェクトは、アプリやWebサイトの制作へ。アプリ開発では、FabCafeが主導となり、ペーパープロトタイピングを使ってUIデザインを行うワークショップを開催しました。Webコンテンツ制作とウェブ構築はロフトワークが担当。アプリ、ソフトウェア開発はT2T、アイコンデザインはBloombroomDesignと多くの外部パートナーとチームを組んで情報設計からコンテンツ制作、デザイン、実装までを行いました。

foopに利用する木材は、岐阜県飛騨市にある株式会社飛騨の森でクマは踊る(ヒダクマ)に協力してもらい調達

そしてついに、foopが完成。予約販売開始後の反響を聞く

ー プロダクトローンチ後の反響はいかがでしたか?

マーベリック:
4月の初回予約販売では、初日数時間で50台が、残りの50台もそこから4日間で完売しました。2度目の予約販売は1日で50台売れましたが、内35台は予約開始1時間以内のオーダーでした。海外からの問合せもきています。フランスのメディアでもfoopが取り上げられたようで、Webサイトには2日間ほどでフランスから数千件を超えるアクセスがありました。SNSでも拡散され、好意的な意見がよせられています。この反響にデルタ社内の人間も驚いていると思います。

ー すごい反響ですね。では今後foopをどう育てていく予定かぜひ聞かせてください。

マーベリック:
まずは、予約を受けている150台を無事出荷すること(笑)。購入してくれた150人のお客さんに満足してもらうこと。そして、世界中でみんなが欲しいと思うものにしていきたいです。

ー 最後に、新たなものづくりに挑戦する方たちに向けて、foopプロジェクトを通じて得た新しいチームづくりのヒントを教えてください。

マーベリック:
フラットな付き合いができる環境がないと、クリエイティブな意見は出てきません。仕事をただこなすのか、やりたいことをやってやるんだと感じるかは、大きな違いではないでしょうか。また、納期やコストを優先するよりも、ユーザーが何を求めているかを最優先に考えるというのが大事になり始めています。コストは二の次、高くても欲しい物は買ってもらえるという雰囲気があるのです。foopプロジェクトは、まさにその流れに身を任せて多くのパートナーとユーザーと共につくりあげていったことで、今回の反響につなげられたと感じています。

プロジェクトの詳細

Keywords