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イベント/コラボ 2008/05/27

デジタル時代の著作権 (1)世界一厳しい著作権の国に生きる日本のクリエーター

クリエーターにとって、作品の次に大事な著作権。とはいうものの、法律は難しく複雑で、素人にはわからないことだらけ。ましてコピーや配布が簡単にできてしまうデジタル時代とあって、事はますます複雑です。
そもそも著作権とは何なのか? クリエーターは著作権とどう向き合えばいいのか? 

著作権に詳しい岩倉正和弁護士をロフトワークにお迎えして、「デジタル時代の著作権」についてのセミナーを開催しました。
今週と来週の全2回に分けて、セミナーの内容をご紹介します!

グーテンベルクの印刷機が著作権を生んだ

弁護士の岩倉正和先生は、数々の大型M&A案件で華々しく活躍され、メディアでも常に注目の的。ニューヨーク州弁護士としての資格も持つほか、一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授、ハーバード大学ロースクール客員教授など、複数の大学で教鞭もとられています。
1990年代後半からは、政府のデジタル・コンテンツやインターネット関連の委員会で委員を務め、知的財産権に関する提言を行なってきました。

2007年発足した「デジタル・コンテンツ法有識者フォーラム」では「ネット法(仮称)」制定を求める政策提言も行ない、話題となっています。まさに、「デジタル時代の著作権」について伺うには、最適の存在。
余談ですが、明治の元勲・岩倉具視の6代目の子孫にあたります。

そもそも著作権は、いつできたのか。岩倉先生のお話は、著作権の歴史から始まりました。
著作権の確立は、15世紀のグーテンベルクによる印刷機の発明と時を同じくしているのだそうです。というのも、印刷機という当時としては画期的な複製技術が誕生したことで、困る人が出てきたのです。
それは、書物を手で書き写して販売していた人たちでした。当時は出版業者が著作物を買い取っていたので、執筆者の権利は守られていました。
ところが、もしその手書きで販売した書物を勝手にどんどん印刷して販売されたら、大打撃です。そこで手書きの出版業者たちが自分たちの権利を守るために、著作権を考え出したのです。
ここで言う著作権とは、著作者の権利ではなく、それを販売する今で言う出版業者の権利でした。財産的な権利を守ることから、著作権はスタートしたのです。

この考え方が大きく変わったのは、フランス革命(1789-1794)だったと言います。財産権だった著作権が、基本的人権(天賦の人権)へと変わります。
というのも、それまで著作権は、国を統治する王や皇帝が認めた権利でした。その王政に対抗して、人民にこそ国を統治する力があると蜂起した革命です。この国は民衆のためにあると書いてある書物の権利が王の側にあるというのは、許されないことです。
そこでフランス革命を率いたインテリたちは、こう言ったのです。「自分たちの著作は心の発言であって、それは基本的人権だ。王のものではなく、市民のものだ」。

これによって著作権は財産権ではなく、基本的人権であるという考え方がヨーロッパに広まります。
それを形にしたのが、1886年にスイス・ベルンで締結された著作権に関する最古の国際条約「ベルヌ条約」でした。以来、世界中のほとんどの国が、これに加盟し、著作権に関する国際的な基本条約となっています。

唯一アメリカだけは、独自の著作権法であるコピーライト法を固持し、ベルヌ条約加盟を拒んできました。しかし、国際協調の趨勢に押され、ついに1989年世界で80番目の加盟国となったのです。
この間、ベルヌ条約は、パリ、ベルリン、ローマなどで数回にわたり改定が加えられましたが、基本がベルヌ条約にある点は変わりありません。

日本は世界一著作権が厳しい国

日本では、作者が改変を許さないのであれば、状況はどうあれダメなものはダメ。
日本では、作者が改変を許さないのであれば、状況はどうあれダメなものはダメ。

実は、日本は著作権法の下において、「世界一強い著作者人格権を認めている国」なんだそうです。
これは岩倉先生の恩師で、日本の知的財産権法分野の権威である中山信弘元東京大学教授のお言葉。著作権法の第一人者も認めるほど、日本はある意味特異な著作権法を持っている国だと言います。

その根底にあるのは、著作権法は「考え」ではなく、あくまで「表現」を対象にしている点。「表現」とは、文章・音楽・絵画・写真など形は何であれ、ある人の創造的な思いつきを形にしたもの。頭の奥底から出てくるものだから、これは「天賦の人権」の対象だと考えるフランス革命の影響を強く受けているのだそうです。

いったい、何がどれほど強いのか。著作者人格権の中でももっとも中心になっているのがローマ改定で定められた「同一性の保持」
これは簡単に言えば、複製を許したとしても、中味を勝手に変えられては困るということです。

岩倉先生は、最近テレビのワイドショーをにぎわせた歌詞をめぐる歌手と作詞家の争いを例に挙げました。これは、ある歌手がオリジナルの歌詞の前に、作詞者に無断で台詞を加えて歌っていたというものです。
法律的にみると、あの争いはどうみても歌手の負けだと、岩倉先生は言います。「同一性の保持」を侵害しているから、いくらファンがあれはいいと言っても、作詞家がダメと言えばダメなのだそうです。
一方、ベルヌ条約では著作権者の評判を落としたり、心情を害するようなことは許されないと規定されています。
この場合、歌手が加えた台詞が“客観的に”著作者の気分を害したり、評判を落としたというわけでなければ、著作権侵害には当たらないというケースも考えられるのです。
こうしてみると、日本の著作権法はベルヌ条約よりもさらに厳しいというのがわかります。

このことからも分かるように、著作権法というものは、絶対的なもの、普遍のものではありません。最初に生まれた経緯からも分かる通り、国によっても、時代によっても中味が変わってきます。
そんな中で、私たちは世界一強い著作者人格権のある著作権法の国である日本で仕事をしています。クリエイティブな仕事をするとき、いちいちコンプライアンス(法令遵守)を考えていられないかも知れませんが、法律やルールは守らなくてはいけません。
ビジネスの中で他人の著作権を守らなくてはいけないし、違反を見つけたら注意して直させなくてはいけません。それは自分の著作権を守ることでもあるのです。岩倉先生は、クリエーターが著作権法を守る大切さを強調しました。


「デジタル時代の著作権」次回は、クリエーターがインセンティブを持って仕事できる社会にするための、これからの著作権法の「あるべき姿」について解説します。次回掲載は6/3(火)。お楽しみに!

次回はより、問題の本質に迫ります!
次回はより、問題の本質に迫ります!

岩倉正和(いわくら・まさかず)

1962年東京生まれ。83年司法試験合格。85年東京大学法学部卒、最高裁判所司法研究所入所。87年最高裁司法研究所卒、西村総合法律事務所(現西村あさひ法律事務所)入所。
93年米ハーバード大学ロースクール卒、ニューヨーク州司法試験合格。96年西村総合法律事務所(現西村あさひ法律事務所)パートナー弁護士、02年同事務所経営会議メンバー就任。
一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授(現任)。07年ハーバード大学ロースクール客員教授。
数多くの大手企業のM&A案件を手がける一方、知的財産法の専門家としてインターネットや著作権関連の政府委員会の委員を務める。「ネット法(仮称)」を提言した「デジタル・コンテンツ法有識者フォーラム」のメンバーでもある。
『知的財産法概説』(共編著、弘文堂)や『新会社法実務相談』(監修・共著、商事法務)など著書・論文多数。


西村あさひ法律事務所   http://www.jurists.co.jp/ja/
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