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永谷 聡基 2018.07.27

創造性を育てる「言葉」を見つける。
世界屈指のデザインスクールに学ぶライティングを楽しむ極意

こんにちは。クリエイティブ・ディレクターの永谷です。
2018年3月22日〜3月25日に岐阜県飛騨市のFabCafe Hidaで開催された、AWAメソッドに基づく「クリエイティブ・ライティングワークショップ」に参加してきました。講師はNYのデザインスクールでの指導経験があり、自身でも小説や詩を執筆するレスリー・フィエロさん。私は文章を書くことが好きで、「もっとうまくなりたい」と思っていたところにこのワークショップを見つけましたが、予想以上に多くの気づきが得られる貴重な体験になりました。「書くことをもっと楽しめるようになりたい人」には、ぜひとも知ってほしいワークショップを紹介します。

はじめに : AWAメソッドとは

AWA(Amherst Writers and Artists)メソッドとは、以下の信念のもとにライティングワークショップを行う国際コミュニティです。

  1.  誰もが個性的で、力のある声を秘めている
  2.  誰もがクリエイティブな才能を持って生まれている
  3.  「ライティング」は経済や教育レベルに関わらず、誰もが使える芸術表現である
  4.  個人が持つ本来の声や創造性を失うことなく、書く技術を教えることができる
  5.  「書く人」こそが「ライター」である

このAWAメソッドに基づき、今回のライティングワークショップは開催されました。

世の中のライティングを教える講座には、マーケティングの視点で「読み手にどんな価値を提供するか」を考えるものや、「読みやすい文章構造」を教えるものまで様々ありますが、今回のワークショップのテーマは、

  • 「いかにインスピレーションを得て、書くことを楽しむか」

講師のレスリーは笑顔で、

Play the world with the word!(言葉を使って世界と遊んでね!)

と言い、私たち参加者をクリエイティブな世界に誘います。

講師のレスリーと、息子のレンくん

思い出に写される「個性」 “Where I am from”

ワークショップの自己紹介から早速、“Where I am from”という「子どもの頃の強く思い出に残っているイメージ」を書いてみるエクササイズを行いました。 「好きだった食べ物の味や匂い」、「よく過ごした場所の風景やそのときの季節」、「思い出の人や印象に残っている言葉」など、自分のなかに眠るイメージを探ってみます。

エクササイズの題材になった詩 “Where I am from”

そうやって子どもの頃の思い出を覗いていくと、それぞれの個性的な体験が言葉になって生まれてきます。ある参加者は、「書道教室のあとに配られる、甘いキャンディーを楽しみにしていた」と思い出を共有し、彼女の感覚に根づいた情景が目の前に浮かぶようでした。

自己紹介といえば、経歴や肩書きなど「私はどこに所属しているか」を伝えることばかり。一方で思い出に残っているイメージは、その人が「何を経験し、何を感じたのか」を伝えます。思いや感覚に写されたその人の「個性」に共感し、誰もが個性的で力のある声を秘めている、というAWAメソッドの信念を実感しました。またお互いの個性に触れ合い参加者同士の信頼が生まれたことで、その後も恥じらうことなくライティングを共有しあえる効果も。 講師のレスリーは、

More you write, more you know yourself.(書けば書くほど、自分を知ることができる。)

と言います。

レスリーの息子のレンくん。飛騨の街並みも、彼の思い出になるのでしょうか。

クリエイティビティを刺激する「感覚の翻訳」 “Capture the feeling”

自己紹介が終わると参加者は「飛騨の匠文化館」へと移動し、組木のパズルに挑戦します。

組木とは、釘を使わずに組み上げる日本古来の木材工法のこと

ここでまずは、「自分の感覚に注意を向けながらパズルで遊んでみる」ように促されます。

パッと見るとシンプルそうな組木のパズル。バラバラに分解してから、元の形に組み立てようとしても……さすが匠の技術。いったいどういう構造になっているのか、なかなか分かりません。「面白い」「イライラする……」「うまくはまった!」など、パズルに挑戦する過程で色んな感覚が生まれてきます。

ひと通り楽しんだあとは、「違うシチュエーションで経験した同じような感覚」を思い出してみるエクササイズを行います。

「考えてみても全然分からない」感覚から、「高校時代の数学のテスト」を連想する参加者がいたり、「なかなか難しく、あるときカチッとはまる」感覚から、「哲学書の読書体験」を連想する人がいたりと、人によってイメージはいろいろ。パズルを楽しむ過程で得られた感覚を丁寧になぞり、頭のなかから別のイメージを探していく過程は、まるで「感覚の翻訳」をしているようでした。

ものづくりの場でも、例えば「冷たい」感覚を「青色」で表現するなど、「感覚の翻訳」をすることが多いように思います。感覚を頼りにイメージを探すことは創造の過程そのもののようで、クリエイティビティが刺激されるエクササイズだと感じました。感覚を捉えようとすることを、英語では“Capture the feeling”と表現するそうです。

「街を書くこと」で見える新しい世界 “Mindful walking”

4日間にわたるライティングワークショップでは、他にも以下のシチュエーションで感じたことを書いてみる様々なエクササイズを楽しみました。

  • 飛騨の森の恵み「クロモジ」の茶茎の匂いやお茶を味わってみる
  • 和蝋燭の炎のゆらめく動きを眺めてみる
  • 飛騨の伝統音楽の響きを聴いてみる
  • 森や街を流れる川の動きを観察してみる
  • 山の上から見下ろす街並みを見渡してみる
  • 「自分の内側にある神聖な場所」をイメージしてみる

感覚を研ぎ澄ませていろんなものを観察していくと、子どもに戻ったように好奇心が刺激され、今まで何も感じなかったものからも新しい世界が見えてきます。街を眺めて、気づいたことをスケッチをするように書いて歩くことを“Mindful walking”とも言うそう。

参加者からは例えば、

「水が濁っているとき、私たちはその水を“汚い”、と言う。水が透明であるとき、私たちはその水を“綺麗だ”、と言う。その水は、透明で見えないのに。私たちは、何を見ているのだろう?」

という気づきが共有され、なんだか不思議な気持ちになりました。

飛騨の豊かな自然

またエクササイズのなかには、「森の中で目隠しをして感じたこと」を書くシチュエーションも。2人一組になって交互に目隠しを行い、パートナーに誘導されながら森の中を探検してみます。

足場の不安定な森の中で視覚を奪われると、「自分はいまどこにいるのか」分からなくなり、思った以上に恐怖に襲われました。ゆらぐような暗闇のなか、パートナーと繋いだ手の温かみや、地面に立つバランス感覚だけが、なんとか自分を支えようとします。

そんななか、「これ触ってみて」というパートナーからの声が。

言われるがままに、おそるおそる確かめるように手を伸ばしてみると、研ぎ澄まされた指先の感覚からたくさんのイメージが伝わってきました。

「湿っている……」「ふかふかしている……」「鮮やかな緑色……」「気持ちいい……」「少し沈むけれど張りがある……」「オオカミの毛並みを撫でているみたい……」「生きている……」「ずっと触っていたい……」「安心する……」

目隠しを外してみると、触れたものは「倒木に生えた苔」。直接見てはいないものの、指先から豊かな感覚が生まれ、暗闇のなかに生き生きとした情景が浮かぶようでした。 「森は生きている」とはありふれた表現ではありますが、たしかな身体感覚のもとに「生命」を感じることができたようにも思います。街へ帰るときも気のせいでしょうか。風に揺れる木々が、こちらに向かって手を振っていたような気がしました……。

「またね〜」

シェアすることで気づく「見えないもの」 “Picture window”

各エクササイズでは個人で感じたことを書いたのち、参加者同士で書いた文章や気づきを伝えあう時間もありました。

例えば、“Picture window”というエクササイズ。同じ窓から切り取られた風景を眺め、それぞれが感じたことや気づいたことを書いていきます。あなたならこの飛騨古川の風景を見て、どんなことを感じ、どんな言葉を紡ぐでしょうか?少し時間を取って、自分のなかに生まれる感覚を楽しんでみてください。

いかがでしたか?

参加者からは、

「街灯が見張り番のように街を守っているみたい。」
「川沿いの建物が、エコーのように遠くまで連なっている。」
「調和のとれた風景のなかで、木々の揺れや小鳥のさえずり、遠くに聞こえる祭りばやしが、Jazzのセッションのようだ。」

など、様々な表現が生まれました。

そのなかである参加者は、

「しきたりやルールによって守られてきた美しい風景だからこそ、この裏には、美しさが排除してきた新しい文化や価値観も感じる。変わらないから美しいものと、変わるからこそ生まれる魅力。相反するものが混在しているようで、永遠の無情を感じる。」

と、感じたことを共有してくれました。

同じものを見ても、「見る人によって独自のイメージが生まれる」ことを教えてくれるエクササイズでしたが、同時に「目に見えるものがすべてではない」という気づきを体感しました。

ある参加者はこの体験を通し、『星の王子様』のフレーズ「いちばん大切なことは、目に見えない」という言葉を思い出したとも言います。

Play the World with the Word!

ワークショップを終えたのちに、講師のレスリーは「ぜひ自分たちでもやってみてほしい」と私たちに伝えます。今回のライティングワークショップはレスリーの教えのもと、参加者の新鮮な気づきや生き生きとした表現が生まれ、とても充実した体験でしたが、

  • 「誰もが個性的で、創造性を秘めている」

そんな想いさえ共有できていれば、いつでもどこでも、誰だって楽しめるワークショップです。創造性、というとどこか難しく考えてしまうかもしれませんが、あまり構えずに、感じたことを言葉にしてみること。書いてみること。そうやって書くことを楽しんでいると、いつのまにかハッとする文章に出会えることも。

創造性を育てる言葉は意外と、私たちのすぐそばに眠っているのかもしれません。

永谷 聡基

Author永谷 聡基(Layout Unit ディレクター / SHIBUYA QWS プログラムマネージャー)

京都大学で建築を専攻後、現代アートを制作する株式会社SANDWICH、事業・ブランドプロデュースを手がける株式会社Smiles:を経て、株式会社ロフトワーク所属。関わるステークホルダーと共に価値を紡ぎあげることを得意とし、企業、官公庁、大学などをパートナーに新規事業や空間など様々なプロジェクトをデザインする。2019年11月にオープンした共創施設SHIBUYA QWSでは、プログラム企画・マネジメントを担当。

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