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庭野 里咲, 加藤 翼 2018.09.26

不確実な時代を乗り越えるために──
20代が目指すこれからのコミュニティとは?

ロフトワークのLayout Unitには、300人ものメンバーを抱えるコミュニティ「100BANCH」の運営に日々奮闘するふたりの20代がいます。

いつも冷静沈着、落ち着いたトーンで話しながらも、たまに見せる優しい笑みがとってもズルい28歳の加藤翼さんと、誰もが心を許してしまうほどの愛されキャラで無邪気な笑顔が印象的な23歳の庭野里咲さんです。

ふたりはどのようにコミュニティと向き合い、なにを感じ、この先をどう見ているのか。社会におけるコミュニティのあり方や、それを必要とする理由について伺いました。

編集=関口 智子
インタビュー / テキスト=船寄 洋之

帰属と承認、その欲求がコミュニティを増加させる

──はじめに、今まで経験して印象的だった「コミュニティ」を教えてください。

加藤翼 Layout Unit ディレクター 2017年入社

加藤翼(以後、加藤) 大学時代に取り組んだボランティアのプラットフォームですね。東日本大震災をきっかけに立ち上げ、最終的に全国200団体まで広がりました。

庭野里咲(以後、庭野) そもそも私はコミュニティに属したくない人間でした(笑)。でも、大学で携わったゼミのプロジェクトチームは印象に残っています。ここでは明確なビジョンがあったし、メンバーの目線が一緒だったから、たとえ衝突しても本質的には壊れないコミュニティでした。

──最近、あちこちで「コミュニティ」が増えているように感じます。

庭野 里咲 Layout Unit 2018年入社

庭野 「コミュニティづくり」とか「コミュニティデザイン」とかもよく耳にするけど、言葉だけが先行しているような気がします。

加藤 多くのコミュニティが帰属意識や承認欲求から生まれているのではないでしょうか。日本人は海外よりは宗教が根付いてないので、この世に存在する理由を自分で探さなきゃいけない。だけどなかなか見つからないから、何かに属していないと不安を感じるんだと思います。SNSのコミュニティで「いいね!」をもらうこともひとつの例で、「自分の存在が肯定された」と安心する人も少なくないと思うんですよね。

庭野 みんな「さみしい」ってことだよね(笑)。

加藤 そういうこと(笑)。他にも、ビジョンより先に人集めが先行してしまうコミュニティが多い気がします。それだと手段と目的が逆転してしまうので、たとえイベントに少人数しか集まらなくても、その人たちが「いかに満足してもらって、次のメンバーを誘ってくれるか」について考えた方が結果的に全体をハッピーにしてくれると思います。最初から多くのフォロワーを持っている“コミュ力おばけ”は別だけどね(笑)。

庭野 “コミュ力おばけ”って(笑)。

加藤 スター性がある“コミュ力おばけ”がトップに立つコミュニティって、けっこうあるんです。僕はコミュニティの主語が2パターンあると考えています。“コミュ力おばけ”みたいにひとりがコミュニティを引っ張る「I」タイプと、所属する全員が盛り上げる「We」タイプです。「I」タイプのコミュニティはトップの意向でどんどんと進むけど、「We」タイプはメンバーだけの力では進まないこともあるので、運営側のマネジメントが重要になってきます。

庭野 場所だけ作って全く稼働していないコミュニティも多いように思います。

加藤 もっと有効な使い方があると思うんですよね。コミュニティって個人の欲求やスキルの解放の場にもなるから、普段は会社でなにかと我慢する人たちが「実は絵を描きたかった」とか「こういうものを作りたかった」って気持ちを表現したり、その人の持つポテンシャルを発揮する役割も持っていると思います。

フラットな関係性がもたらすコミュニティの「心理的安全性」

──普段、おふたりはどのようなことを意識して、コミュニティを運営していますか。

加藤 メンバーの無意識にある制限を外して、いかに可能性を広げるかを意識しています。例えば備品が必要な時にそれが欠けているだけで、メンバーのクリエイティブがひとつ消えてしまう。「キャンバスの大きさが作品を制限する」という言葉があるように、メンバーが「これがなかった」とか「これやっちゃダメなんだろうな」という感覚を極力外してあげることが大切だと思います。

これは、僕が考える「コミュニティマネジメントの6つの仕事」の中の「スペース・マネジメント」のひとつです。

「コミュニティマネジメントの6つの仕事」=「スペース・マネジメント」「メンバー・マネジメント」「イベント・マネジメント」「メディア・マネジメント」「プロジェクト・マネジメント」「セルフリソース・マネジメント」

庭野 私は初歩的だけど、あいさつと、いち早くメンバーの名前を覚えることを意識しています。メンバーに「いってらっしゃい」「おかえり」って声をかけるだけで、コミュニティの雰囲気は大きく変わります。名前を覚えるのはすごく苦手だけど、入居メンバーが決まったら頑張って覚えていますね。

加藤 いつも必死だよね(笑)。

庭野 メンバーは名前を覚えられるだけでもうれしいし、安心感も生まれる。つばさん(加藤)はプロジェクトを進めていくうえでの技術的な部分=ハード面をサポートしているけど、私はまだまだ仕事の経験が浅いから、まずはメンバーの感情に近い部分をくみ取っていきたいと思っています。

加藤 運営側はいかにメンバーの心理的安全性を確保できるかだと思うから、庭野ちゃんの力ってすごく大切なんですよね。あいさつをするとか、いつでも相談に乗るとか、オフィシャル以外のコミュニケーションを取ることも安心感につながるし、それが育つことでコミュニティの一員としての意識や誇りが芽生えるから、とても大事なことだと思います。

庭野 つばさん、うれしい(笑)。

加藤 庭野ちゃんは100BANCHのアイドルだからね。僕みたいに左脳型の人間は行動に対して、一度思考の中断を挟んでいろいろ考えてしまう。でも右脳型の庭野ちゃんは「面白い」「楽しい」って感情をパッと出すことができるんです。そのプラスのムードがコミュニティに波及していくことで、その場所独自のカルチャーやムーブメントが生まれると思います。

月1回開催されている鍋BANCH。食事を通じてラフなコミュニケーションが生まれる場を作っている。

──100BANCHの運営チームはあえて上下関係を作らないと伺いました。そのメリットを教えてください。

加藤 自分に主導権が向くので、物事を進める時間が圧倒的に短くなります。日々急速に変化する100BANCHでは「何が最適か」を判断する瞬発力が重要になるので、この仕組みのおかげでコミュニティがうまく機能していると思います。

庭野 運営側とコミュニティメンバーもフラットな関係にしていることも大きいと思います。メンバーから「もっとこうなってほしい」とか「こういう仕組みがあればいいな」と提案をもらえる環境があるからこそ、コミュニティ全体が日々進化している実感があります。

加藤 そうだね、メンバーをなるべくルールやヒエラルキーで縛らないことだよね。メンバーが「これもやっていいんだ」と感じるような活動の余白を与えることで、彼らはチャレンジできやすくなるし、お互いの関係性が強固なものになるはずだと思っています。

──これから期待されるコミュニティとは何だと思いますか。

加藤 柔軟に動けるコミュニティだと思います。急速にテクノロジーが進化する複雑な社会で、来年に何が出てくるか分からない時代だからこそ、どれだけメンバーに安心感を与えて柔軟にマネジメントするかが必要になると思います。

トップダウンではない、ひとつの熱意からはじまる

──未来の投資には多くの不安がつきものだと思います。では、なぜ100BANCHは踏み込むことができたのでしょうか。

加藤 不安を超えた場所にこそ、新しい価値が生まれるからだと思います。例えばKPI(重要業績評価指標)を定めた瞬間にコミュニティは予定調和になり、その伸びしろは決まってしまいます。「ある程度のものができて、そこそこ満足で、まずまずの効果を回収できたよね」と中途半端に終わるだけでは、何かを変えるほどのムーブメントは起こりません。

──では、コミュニティづくりはどこから始めればよいのでしょうか。

加藤 飲み会とかピザパ(ピザパーティー)……

庭野 なにそれ(笑)。

加藤 いやいや真剣な話で(笑)。学生時代のボランティアプラットフォームは、ファミレスの雑談からはじまって、結果2万人のコミュニティになりました。はじまりはどこでもいいから、社内に「コミュニティのためなら死ねる」ってほど熱意を持つ人がいて、それに感染する人がいれば、自然と意思を持つコミュニティが生まれると思います。

庭野 そんなに熱い人が企業にいなかった場合は?

加藤 その場合は、会社で感じる問題意識や、足りていない要素をくみ取ることが必要じゃないかな。「一緒にごみ拾いをやりましょう」とか「社内で誕生日会を企画しよう」とか簡単なテーマでいいんです。アクションを起こす機会をみんなに作ってあげることで、コミュニティは育っていくと思います。そのテーマがより共感されやすくて、社会に価値があるほど、コミュニティとしてはスケールを広げやすいから。

──社員が会社を押し上げるようなイメージですね。

加藤 トップダウンだとビジョンの一方通行なので、いいコミュニティは生まれにくいと思います。トップは社内で生まれたコミュニティに対して、安心安全の場を担保してほしいです。会社のコミュニティづくりって、傍からは遊んでいるようにも見えるから、ほかの部署の嫉みを買いやすい。でもその時に「失敗のリスクを持ちながらも、会社のために挑戦しているんだ」と、メンバーの気持ちを代弁してあげることが重要だと思います。

庭野 外に目を向けることや、外の視点を借りて自分たちについて考え直すことも必要だと思います。外の視点があると、自分たちにない新しい発想や、自分たちが持っていたバイアスに改めて気づけるチャンスが増えます。また、社会との接点を俯瞰することで「自分たちのなりたい未来像」が見えてくると思います。

──社員の思いから生まれるコミュニティが、企業には必要かもしませんね。

庭野 そもそも会社のはじまりってコミュニティじゃないですか。自分がやりたいことをはじめて、それに共感するメンバーが集まり、そこから人数を増やして会社になった。大企業であっても、最初は「小さなコミュニティづくり」からはじまったんだと思います。社会の未来に不安がある今だからこそ、その原点であるコミュニティが見直されているように感じます。

加藤 コミュニティづくりを通じて、会社の原点を見直す時期が来ているかもしれないですね。

──言葉だけではなく本質的にコミュニティを捉えながら、日々その運営に取り組む加藤さんと庭野さん。きっと、この若い力が未来の扉を開き、私たちに新しいコミュニティのかたちを見せてくれる。ふたりの真っ直ぐな視線を見て、そう感じました。

今回話しを聞いたふたり

加藤 翼

株式会社ロフトワーク
Layout シニアディレクター

Profile

庭野 里咲

庭野 里咲

株式会社ロフトワーク
Layout Unit

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