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林 千晶 2019.04.03

#03 デザインは、量より質?
(ドーナツの穴 ー創造的な仕事のつくり方ー)

クライアントが提示するのは「真の課題」か?

受託制作の仕事の多くは、クライアントが解決したい課題やテーマを提示することからはじまる。あらかじめ掲げられた問いに対する最適解を考え、解決策を提案するのが自分たちの仕事である——そう捉えているデザイナーが多いかもしれない。

しかし、いざ蓋を開けてみると、オーダーする側のクライアントが、真の課題や本質的な問いにたどり着けているケースは決して多くない。課題の片りんは掴めていても全体をとらえきれていなかったり、実際に課題をひも解いてみると、実は違う問いにつながっていたりすることも多々ある。

例えば、「若い人に、もっと投資の話に興味を持ってほしい」という“課題”をひも解いていくと、「若い人がお金を増やそうとしないのはなぜか?」という問いにたどり着くのではないだろうか。

クライアント側が当たり前に使うビジネス用語や専門の言い回しではなく、「生活者」が、暮らしの中で違和感なく使っている言葉を探し出す。課題をひもとき、社会に対して問いを「ひらいて」いく作業である。

根本的な問いを掘り下げていくことで、「アイデア」の種が集まる土壌が生まれる。

キラリと光るアイデアの「質」を生むもの

質の高いアイデアは、本当の意味でアウトプットを磨き上げてくれる。その種を発見するには、発想の「量」が不可欠だと私たちは考えている。

ロフトワークは創業時から、クリエイターが集う共創プラットフォームの運営を通じて、オープンコラボレーションを推し進めてきた。

このプラットフォームには、実に多様な「クリエイター」が集まっている。さまざまな領域で仕事をしているデザイナー、デザインを学ぶ学生、デザインに興味を持つビジネスマンや主婦の方などまで、その層は幅広い。

だからこそ、「問い」に対してあらゆる視点からのアイデアが集まる。ひらかれた課題を、クライアント、ロフトワーク、そして大勢のクリエイターと共に眺めることによって、想定していなかった方向から“新発想”が生まれるのだ。

それは、クライアントにとってもワクワクする体験につながる。「じゃあ、このアイデアにしようか!?」と、新たな一歩をふみだせる喜びである。

専門家だけのクローズドな世界をひらく

オープンなプラットフォームでアイデアを公募すると、質が下がるのではないか——そうした懸念を抱く人もいるだろう(実際、そう指摘されることもある)。

確かに数が一定数以上集まれば、思索が浅かったり、的外れだったりするアイデアも増える。しかしそれと同時に、質の高いアイデアが生まれる可能性も広がっていくのだ。

そもそも、プロジェクトに携わるデザイナーや、そのテーマに興味関心がある人だけでアイデアを出し合うことがすべてではないはずだ。プロの世界は、膨大な「生活者」に対し、ごくごくクローズドな世界にすぎないのだから。

質の高いデザインは、キラリと光るアイデアから生まれる。

数多くのプロジェクトを彩ってきた「loftwork.com(旧称)」は「AWRD(アワード)」に生まれ変わった。国内だけではなく、世界中にひらかれたプラットフォームを目指し、2019年春、私たちが思い描いてきた機能をたずさえて本格始動する。

ここからどんなアイデアが飛び出すことになるか、今から楽しみにしている。

林 千晶

Author林 千晶(ロフトワーク共同創業者・相談役/株式会社Q0 代表取締役社長/株式会社 飛騨の森でクマは踊る 取締役会長)

早稲田大学商学部、ボストン大学大学院ジャーナリズム学科卒。花王を経て、2000年に株式会社ロフトワークを起業、2022年まで代表取締役・会長を務める。退任後、「地方と都市の新たな関係性をつくる」ことを目的とし、2022年9月9日に株式会社Q0を設立。秋田・富山などの地域を拠点において、地元企業や創造的なリーダーとのコラボレーションやプロジェクトを企画・実装し、時代を代表するような「継承される地域」のデザインの創造を目指す。主な経歴に、グッドデザイン賞審査委員、経済産業省 産業構造審議会、「産業競争力とデザインを考える研究会」など。森林再生とものづくりを通じて地域産業創出を目指す、株式会社飛騨の森でクマは踊る(通称:ヒダクマ)取締役会長も務める。

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