PROJECT

なぜ今、排泄の未来をデザインするのか
― Deasy プロジェクトレポート#1

『全ての人が、その人らしく快適で、環境に配慮した暮らし方ができるために、“オムツ / Diaper をより容易 / easy に扱える”』というビジョンの実現に、デザインの力で貢献するにはどうしたらいいか? そんな Deasy プロジェクトにおけるロフトワークの取り組みを、シリーズでお届けしていきます。

本記事では、「なぜ今、排泄の未来をデザインする必要があるのか」、そしてDeasyはどのようなアプローチで社会変革を目指すのかを紐解きます。

執筆:飯澤 絹子・加藤 修平(株式会社ロフトワーク)
編集:loftwork.com編集部

「排泄のデザイン」とは

人が1日にトイレへ行く回数は平均して約7回。これだけ日常生活の中で頻繁に行っていながら、普段あまり意識されることのない排泄という行為。こうした排泄を支えているのは、トイレ、下水道処理施設、紙オムツやオストメイトなど、誰かによってデザインされたものたちです。

人類が集まり、定住しはじめて以来、必ず向き合ってきた排泄の問題。約4000年前の古代メソポタミア文明では、川から水を引き込んだ“水洗トイレ”がすでに使われていたそうです。健康かつ快適な社会をつくるために、先人たちは人々の排泄の問題に対し、脈々とデザインの力で解決を試みてきました。

現在、超高齢社会を迎えた日本では、大人用の紙オムツの消費量が、すでに子ども用を上回っています。紙オムツは限られた人のための排泄ケアではなく、より多くの人々にとってスタンダードな排泄手段になりつつあります。翻って、これを読んでいるあなた自身に排泄ケアが必要になったときに、果たして「紙オムツがあるから、安心」といえるでしょうか? 

紙オムツ当事者を取り巻く問題

紙オムツの利用者とそれを支える人の生活には、日々数多くのハードルがあります。以下、ぜひ、「自分自身が紙オムツ利用者、あるいは家族の排泄ケアをする当事者だったらどう感じるだろう?」と想像しながら読んでみてください。

まず、介護の現場では、排泄介助のひとつである「オムツ交換」が、介護者の大きな負担となっています。こうした問題に対して、介護施設によっては、吸収容量の大きな紙オムツを使用して交換頻度を減らしたり、下剤の使用によって排泄タイミングを管理しやすくしたりするといった苦渋の対応を迫られているところもあります。

また、紙オムツは使用時だけでなく、使用後の一時保管や処理においても、臭くて、重くて、衛生的にも問題があります。こうした問題は介護の現場だけでなく、育児に紙オムツを使用している人にも身近に起きています。消臭機能付きの袋や専用のゴミ箱に入れるなどの工夫をしてゴミ収集の日まで対応している人もいるようです。

紙オムツの問題は外出先でも発生します。最近は、紙オムツ専用のゴミ箱が設置されている商業施設や公共施設も増えていますが、「いつでもどこでも捨てられる」という状況ではありません。「紙オムツのことを考えると外出が億劫になってしまう」という人も少なくはないはずです。

オムツはトイレに流せない?

「紙おむつをトイレに流せたら、楽なのに」―このように考える人もいるでしょう。

家庭や施設のトイレで、オムツをそのまま流すことができたなら、履いている本人や介護者の作業的・心理的負担は軽くなるはず。しかし、現在の紙オムツは、吸水性や履き心地を高度に発展させてきた結果、高分子ポリマーやポリエステル不織布、ポリオレフィンフィルム、スチレン系エラストマー合成樹脂といった、様々な素材が複雑に組み合わさっています。これらの素材を、そのまま下水道に流すことはできません。

しかし、「その不可能を可能にできないか?」さらに、「社会システムのデザインによって、紙オムツを履く人・排泄介助する人両方の生活をもっと楽に、快適にできないか」―そんなことを真剣に考える人々によって、Deasyプロジェクトは産声を上げました。

Deasyのアプローチ

学び合い、ともにデザインするコミュニティをつくる

国土交通省下水道部により、民間企業による紙オムツ分離装置の検討が行われており、実用化に向けた実証実験の取り組みが進んでいます。しかし、これらの技術開発をするだけでは、社会実装には至りません。

紙オムツメーカーや素材メーカーによる製品開発、トイレ・住宅メーカーによるシステム・製品開発、工務店などの実装側の技術習得、さらには輸送業者による処理されたオムツの運送など―幅広い領域の周辺産業において、連携とイノベーションが必須となります。

そこで、Deasy実行委員会は国土交通省と共同で、業界の垣根を超えた幅広い専門家とともに、現状の課題を認識し、解決策を考えるためのコミュニティをつくりました。紙オムツ処理機や紙オムツのメーカーといった作り手だけでなく、使い手としての介護福祉施設や環境評価を行う研究者などをメンバーに迎え、これからの日本に求められている排泄のデザインを検討するための勉強会が、始まっています。

Deasyが目指す社会

勉強会の中で浮かび上がってきたキーワードは、「ソーシャルコンチネンス」「資源循環」

「ソーシャルコンチネンス」とは、「たとえ『漏れ』という障がいがあっても、支障なく日常生活を送ることができる状態、あるいは『漏れ』が問題にならない状態」を指します*。排泄ケアは、個人宅や介護施設といった閉じられた空間の中で完結するべき問題と思われがちです。しかし、実際には、排泄ケアにおいて地域との繋がりは不可欠であり、排泄ケアをデザインすることは、社会システムをデザインすることと同義です。

「資源循環」という観点では、わたしたちは個人の健康から社会の健康、そして、地球の健康にまで視野を広げる必要があります。排泄されたものを浄化してくれる自然環境が健康でなければ、快適に暮らすことはできません。誰もが気持ちよく排泄できるためには、持続可能な社会を実現する必要があります。

Deasy 10の原則
Deasy 10の原則

排泄のデザイン 3要素

以上の話をふまえて、未来の排泄をデザインするためには、意識を向けるべき3つの要素があるといえます。それは、「生活への影響」「社会的なコスト」「環境への影響」です。紙オムツを例に取ると、

  • 生活への影響:紙オムツを使用する人・それを支える周囲の人たちの生活への、心理的、作業的、コスト的なインパクトはどのようなものか。
  • 社会的なコスト:汚物処理・下水道処理システムの開発、設置・改修、ランニングコストはどのくらいかかるのか。
  • 環境への影響:原材料の調達や製造の過程、廃棄物の処理が自然環境に与えるインパクトをどのように考えるのか。

Deasyプロジェクトでは、これから、紙オムツが必要になる人にとって、本当に必要となる排泄ケアについて、この3つの要素から包括的に見つめ直していきます。

「日本から世界に発信できるようなモデルをつくりたい。」そんな思いで、未来の排泄をデザインするDeasy実行委員会のメンバー。まずは、当事者である紙オムツを必要としている人たちについて、より深く知ることから始めています。

Deasy のプロジェクトレポートでは、今後、勉強会の参加メンバーが実際に見た介護福祉の現場や、それらに対する考察を紹介していきます。一連のレポートを通じて、より多くの人がDeasyプロジェクトに共感し、参加してくれることを願っています。

「全ての人が、その人らしく快適で、環境に配慮した暮らし方ができるために。」

Deasy 実行委員会 事務局メンバー。(左から)加藤 修平、伊藤 健人、飯澤 絹子。(いずれもロフトワーク)この3名が、レポートをお届けします。

*:榊原千秋「排泄ケアのプロフェッショナルを目ざす人のためのおまかせうんチッチ MTown UNKO BOOK」木星舎より引用

[イベント] 未来の排泄デザインを考える―Deasy Conference 開催

誰もが当事者である排泄のデザイン。これからより多くの人と一緒に考えていきたいと思っています。ロフトワークは、Deasy実行委員会、国土交通省とともに、プロジェクトを通じて、得た知見を共有するための連絡会議を実施します。
参加を希望される方は、以下からお申込みください。

Deasy Conference Vol.2 下水道への紙オムツ受入れに向けた連絡会議

  • 開催日時:2020年2月4日(火)13:00-18:00
  • 会場:100BANCH(東京都渋谷区渋谷3丁目27−1)アクセス
  • 定員:100人
  • 参加費:無料

>>参加お申込み・詳細

お困りですか?