越後妻有アートトリエンナーレに向けた「Roooots 名産品リデザインプロジェクト」の応募作品が集まりました。総応募点数は900点。本当にたくさんのクリエイターが参加してくれました。
水曜日はその審査会が開催されました。「明治おいしい牛乳」なども手がけたアートディレクターの佐藤卓さん、東京造形大学の教授でありISSEI MIYAKEのグラフィックなども手がけている秋田寛さんが特別審査員として加わってくださり、私も一緒に応募作品の選考を行いました。
みんなで応募作品一点一点、しっかり目を通して選考しました。
佐藤卓さんがいった言葉で印象に残っているのは、
「デザインが主役じゃない。
あくまでも中身が主役。
中身を伝えないデザインなんて、意味がないどころか
迷惑になるということも知っておいてほしい。」
プロの重みに溢れているコメントでした。
その上で、今回は公募というプロセスをとっているけれど、これはきっかけにすぎない。ちゃんとクライアントと対話して、生産されている現場をしっかりみて、そしてじっくり検証してから最終的な商品に仕上げてほしいとアドバイスをくださいました。
また秋田寛さんも、コンピュータで簡単にコピー&ペーストしたり、色のバリエーションを増やしている応募作品を目にして、
「どれだけコンピュータが便利になっても、「丁寧につくる」という行為が大切。特に口に入れるような商品のデザインは、手作りの要素や肌合いを大切にしながら、丁寧に手で仕上げる感覚を大切にしてほしい」
とコメントをくださいました。
また、佐藤卓さんや秋田寛さんと一緒に審査させてもらい、ロフトワークとして「安直な公募を実施してはいけない」というメッセージも受け取りました。公募には幅広い若手や新人にチャンス与えられるという魅力があります。でも、通常の一対一で発注される仕事に比べ、責任感が希薄なままでも応募できてしまうリスクもあります。
主催者が、最終品質に責任を負わないで公募を開催してしまうと、聞こえのいい民主主義のようでありながら、クオリティの低いものがそのまま商品化されてしまい、結果としてデザインの価値や商品の価値を下げてしまう恐れがあるのです。
公募という手法をとるときには、選考過程は必ずプロフェッショナルな視点が必要であること、対象商品をしっかり研究しその魅力を伝える責任があることを忘れないようにしながら、今後も価値のある公募に取り組んでいきたいと思いました。
また課題はありつつも全体としてみると、みんなの口から「面白いデザインが集まっているね」というコメントが自然にでていたので非常に嬉しく思いました。
今回選ばれたデザイン案はこれから地元業者の人たちとのやりとりを通じてブラッシュアップされ、今年夏に開催される越後妻有アートトリエンナーレでお披露目の予定です。私自身、選ばれたデザインをもって来週末に新潟入り。地元業者の人たちと一緒にこれからの進め方を話あってきます。どんな素敵な商品がうまれるか。お楽しみに!
Comments 5
評価する側とされる側には、共有できる基準がないというか、
評価する側にも偏りがあるし、評価される側も安易なところがあります。
何が正しいか、などはいわゆる「教育」が必要で、骨が無く肉ばかりの
デザインをおそらくたくさん目にしてお怒りのご様子。
思考を深めて、吟味を繰り返すことで、共通の頂点へ向かうわけで、
教わることでもない気もします。
肯定的にうけとめるならば「評価してほしい自信があるもの」を出す人、
「評価しうるべくに値する人」が評価できる公募があればすばらしいですね。
ただデザインは「公」のものと「パーソナル」なものがあるので、
あまり重く捉えすぎるのも、どうかなと思います。
最近でも、まだまだいいものはたくさんあります。
「最近はつまらない」なんて言っている人は、評価しないで欲しいですね。
公募のサイトも拝見しましたが、パッケージデザインの公募って、
最終的に売り上げに直結するので、選定がとても難しそうですね!
デザインそのものは「機能」であり、目的を果たすための「手段」なので、
いくら見た目がカッコよくても、中味が何なのかが伝わらなくては
意味がありませんからね。
商品の魅力を十分に引き立てるためにも、商品やその背景を知った上で、
丁寧にデザインを創る、という意識はとても大切なのではないかと思います。
それにしても、たくさんのクリエイターとのコラボレーションで
どんな名産品デザインが生まれるのか、とても楽しみです!
千晶さん、
毎回公募は気をぬけないですが、今回は特にチャレンジする部分の多い企画だったので、普段以上に最後までドキドキしましたね。
最終的に素晴らしいデザインが集まったということと、それを最後までじっくり佐藤さんや秋田さんにみていただけたのは貴重な機会でした。特に審査が始まる前、最近の公募の問題点について厳しい指摘をされていたお二人が、審査が始まると大変な集中力ですべてのデザインに目を通し、そしてとても楽しそうな様子が印象的でした。
皆さん、色々なコメントありがとうございます。
今回の審査は本当にいい勉強になりました。佐藤さんも秋田さんもとっても素敵な方で、900案もある応募作品を(実際にプリントアウトすると相当の枚数です)、数時間かけて一枚一枚真剣に評価してくれました。
その過程を通じてNonさんが言う「評価してほしい自信があるもの」を見つけ出し、プロの視点でブラッシュアップの方向性を吟味することができました。あとはロフトワークとクリエイターの頑張りが必要です。やりますよ!
デザインって、「関係する全てのものを統合してより良いパフォーマンスを実現する」ものなんだろうな。って思います。デザインの語源は
「“計画を記号に表す”という意味のラテン語designare」(Wikipediaより)なのだとか。そう考えると、商品パッケージのデザインって「商品自体」に加えて、「作り手」「売り手」「買い手」「社会環境」や「作り方」「売り方」「使い方」を統合するものにならなければいけないのでしょうね。
自動車会社のデザイナーは自動車の外見や内装は元より、そこに使われている技術や部品の制約、製造上の効率や輸送上の効率も考えないといけません。部品一つでも、工場への輸送効率が一番高いパッケージングを考慮して選択をしていきます。部品のサプライヤーで半製品に組み立てるのか、工場で全てやるのかも合わせて考える必要があるのだそうです。
以前、SUICAの読み取り機のデザインの話を聞いたことがあります。あの改札の読み取り機の角度は、あの傾きのせいで利用者が自然と読み取り機にカードを「置く」のだそうです。ICカードは読み取りと書き取りで0.2秒ほどかかるのですが、水平なデザインの読み取り機だと利用者はカードを読み取り機上を滑らせるので、読み取り書き込み時間が足りずにエラーになるのだとか。あのでざいんのお陰でSUICAは「使える」仕組みになったんだと思うと「デザイン」って奥深いと思います。