今回の出張は珍しくJALを使った。窓際の席だったのでぼんやり空を眺めると、雲の上に日本の国旗を連想させる赤い翼が見えた。小学生時代をアブダビで過ごしたこともあり、両親と一緒に中近東やヨーロッパ、アフリカなどかなり色々な国を訪れる機会があった。海外の空港で、エールフランス、アメリカン、KLMなどの中に、JALの鶴マークのジャンボジェット機を見つけると、「あ、こんなところでも日本の会社は頑張っているんだな」と子供心にとっても誇らしく感じていたことを思い出した。
▲香港から成田へのフライトで撮影
JALの経営危機を指摘するニュースは今までにも何度も目にした記憶がある。パイロットを中心とした高コスト体質の問題だったり、小説にもなっているけれど、社内政治の弊害が蔓延して本業の企業力強化に目がいかない問題だったり。
それでも私も含めてどこかでみんなが「どうにかなる」と思っていたような気がする。日本の航空政策を担うフラッグ・キャリアだから国が助けるんだろうな、とか、国内線は儲かっているんだからちょっと赤字路線をやめれば経営基盤は改善するんでしょう、とか。JALの社員も、自分は自分に与えられた仕事をちゃんとやっているんだし、改革なんて自分には関係ないと考えていたのかもしれない。そしてこの「なんとかなるんじゃないか」という問題意識の弱さこそが、大きな変革への推進力を弱まらせ、今回の存続の危機にまで至らしめたような気がしている。
改めて、変わることのリスクと変わらないことのリスクについて考えさせられた。日本人は変わることを恐れる気持ちが強いと思う。変化をリスクと考える思考。特に大企業や官僚の人たちと話をしているとそう感じることが多い。新しいことを提案すると「でも何が起こるかわからないリスクがあるから」と言って及び腰になってしまう。
でもね、それは当たり前のことでしょと私は思っている。だって生きるということ自体が、未知のリスクと対峙することでもあるんだから。明日、地震があるかもしれない。金融危機が起こって株価だって暴落する。もっと身近なことで考えれば、取引先が潰れるかもしれないし、逆に素晴らしい仲間との出会いもあるかもしれない。
そう、人間には未来は完全には予測できない。
だから何が起こるかわからないことを恐れていたら、何にもできないよ。でもだからといって変化しないということは、外界から取り残され、今回のJALのように少しずつ死に至る道なんだと思う。
変わる時には、痛みが伴うときもある。不安にもなるし、孤独にもなるかもしれない。でも外界にさらされて痛みを感じながらも、その状況にあわせて自分を変化させることは、筋肉痛になりながらもカラダを動かし続け、余分なぜい肉をそぎ落とした、敏捷で抵抗力のあるカラダをつくることになるに違いない。しなやかなカラダ。
私は断然に変わることのリスクを受け入れて生きていきたい。しっかりと目を開いて現実をみて、仲間と一緒に風の中を前進していきたいと強く思った。
感傷的になっていたら、飛行機の中でNHKニュースが流れ始め、「鳩山新内閣発足」について報道していた。ああ、日本国もやっと「変化する道」を選べたのだなと思った。どこまで政策レベルで改善できるかはわからない。保守派もそう簡単に変化を受け入れてはくれないだろうから。でも改革は壊すことからしか始まらないらしい。文化大革命みたいに。
新しい内閣によって古い体制の悪しき慣習が少しでも破壊されて、新しい日本の姿が見えてきたらいいなと、JALの翼を見ながら思った。
Comments 5
変化をリスクではなく可能性として、活かして行きたいですね。地震や火山でリセットされては再起して来た地変国民なので、自信を持って新しい段階に望みたいです。素早い変化を武器とする、インフルエンザウイルスとの冬の陣も始まりますし。
すばらしいエントリだなと思いました。
何もしないことが最大のリスクという言葉がありますね。
財務や統計の勉強をしていた時に、統計上のゆらぎつまり「起きるかどうか分からないこと」が”リスク”なんだということを学びました。そう、何もしなくてもリスクはあるわけです。去年おきたことが今年繰り返されるわけではないのですから。予算を作っていても、結局前年の何掛けかして・・・ってものを提出されると、これが起きる可能性はどの程度なのかって問い詰めます。何がどの程度の可能性で実現すると見込んでいて、それらを総合してどういう結果を求めるのかっていうところを考えないといけないですね。
そうそう、先週は遅い夏休みでJALで沖縄に行ってきました。同じようなことを考えましたよ。10月からは山崎豊子原作のドラマもスタートします。でもね、最近思うんです。「全ての人は善意で行動している」から難しいのだって。JALの人たちもみんな善意で赤字覚悟で飛行機飛ばしたり、労働者の権利を守ったりしているわけです。うちの子供が離陸前にむずかって泣いていたときに、CAがやってきて子供をあやしてピタッと泣き止んだのを見たときはプロって凄いって思いました。そして多くの人の善意を「ビジネス」として成立させるべく考えて行動するのが「経営」なんだろうなとも思います。
システムを再構築する必要性が増しているにもかかわらず、その作業をできるだけ先延ばししようという誘惑が出てくる。この誘惑に負けてはならない。理由は単純で強力だ。現在我々が住んでる世界は急変しており、そこで「何も行動しない」ことに伴うリスクと代償は途方もなく大きいということである。ーーー
2008年末のサブプライム問題と金融危機を「予言」した数少ない識者であるモハメド•エラリアンの「市場の変相」からの引用。
僕の周りでも、もうどうしようもなく行き詰った企業や組織で働いていて、それもその組織を変えるために何かしているわけではなく、文句たらたらで「他にできる事がないしリスクもあるから」と言いつつ10年。そんなこんなで今のJALみたいになる組織と企業は日本にたくさんあるし今後も増える。
不思議なのは彼らの少なからずが僕より優秀な成績を取り最高学府を出たような人間であることで普通の人からすればそんなリスクは取るに足りないと感じるはず。でも皆同じで僕自身気をつけていないと変化とリスクを恐れる気持はすぐ生まれちゃうんですよね。自分への戒めも込めてコメント、でした。
bluesさん、武富さん、suwaくん、コメントありがとう。
まさに環境が激しく変わっている中で「変化しない」ということは、つまり相対的には「変化している(どんどん古いもの、過去のものになってしまっているという意味で)」ことであり、そのリスクが途方もなく大きいという解釈に納得です。
皆んなで今の状況に甘んじることなく、どんどん変化を起こしていきましょうよ。それこそが生きるということに他ならないから。