日記

ミャンマー体験記 2日目水路

水路しかないエリアへの進入
朝ご飯が終わったら、水路を遡って農家訪問。6ケ月続くというモンスーン期で川の水量は豊富。船酔いしやすいので、窓から外をぼーっと眺めていた。濁った水がずっと広がっていて、河辺にぽつりぽつり、小屋が建っている。電気はほとんどの家にきてない様子。娘、お父さん、お母さん。家族の生活が見えてくる。
こういうところで過ごす人生も、東京で過ごす人生も、同じ人生なんだな。どちらがいいでも悪いでもなく、ただ不思議な気持ちでみていた。


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Myanmar


村の暮らし、僧院の役割
ボートを降りると、まず村の有力者に挨拶しないといけないらしい。「みんな口が赤いけど、ビートルナッツ(噛みタバコ)を噛んでいるからであって吸血人種じゃないから安心してね」と事前に言われた。言葉が通じないので笑ってペコペコお辞儀したら、いいよ、いいよ、みたいな身振りで歓迎してくれた。確かに笑うとみんな歯が赤い。田舎のおじいちゃんみたいで可愛い。
村の有力者たちとの挨拶が終わると、次にMonastery(僧院)のモンク(僧)を訪問。この村だけでなく多くの場所で、人々の今にも崩れそうな家屋に比べ、修道院はコンクリートで建てられていて、驚くほど立派だ。僧院を中心に強いコミュニティが形成されていることが見てとれる。
2008年に発生した巨大台風ナギ(Cyclone Nargis)では13万人以上の死者がでたと報告されているが、そういった際の海外支援金が真っ先に入るのが僧院で、それを使って地域の子供に無償で教育を提供したり、貧しい家にお金を貸したりする役割を果たしているそうだ。
素朴な生活の中で、宗教が果たす役割はどんなものなんだろう。吹いたら飛びそうなベニヤの家に住みながら、金銀で飾られた寺院を敬うのはなぜだろう?人はなぜ神を信じるのだろう?色々な疑問が頭に浮かんでは、答えを得られないまま消えていく。
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少し裕福な農家の暮らしをリサーチ

それぞれへの挨拶を終え、いよいよリサーチがスタート。村で比較的、裕福な農家におじゃました。
何を聞きたいかは事前に共有してあるので、私たちのために通訳しながら進めるわけではない。相手にとって滑らかでストレスのないヒアリングが大切なので、現地パートナー中心にどんどん会話が進められていく。私たちはところどころサマリーを共有してもらい、大切なポイントに抜けがないかを確認する。
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(今回取材させてもらった農家の家)
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言葉が通じず眺めているだけの私に、ヤンがリサーチのポイントを教えてくれる。
「Chiaki、村人には『何パーセントが携帯を持っていますか?』ではなく、『村で何人くらいの人が携帯を持っていますか?』と聞けばいい。200人規模のこの村で、把握できないという答えがかえってきたら、それなりに普及しているということだし、10人くらいだよ、と答えたら、普及率はまだまだ低いということだ」
「写真は最初から撮ってはいけない。信頼関係もできてなくて相手が違和感を感じるからね。30分くらい話して、表情が柔らかくなってから聞くんだよ、『写真を撮ってもいいですか?』と。小型のプリンターを持参して、その場で撮った彼らの写真を出力してあげたら最高だ。」
「家に何があるか、壁に何がかかっているか観察するんだ。例えば、玄関に子供の卒業写真が飾ってあることに気付いたかい?子供が学校を卒業すると、みんな額に入れて飾るんだ。ここでは最高に誇らしいことのひとつだから」
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(柱に卒業写真がかざられている)
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(きれいに並んだオブジェは子供の遊び道具でした)
農家の人が何年かにわたる家計簿を見せてくれた時に
「こういう時間をかけてつくられた資料や素材を見せてもらえたら、リサーチは大成功さ。嘘がない生活見えてくる。単なる質問には、人は少し美化して答えてしまうものだから」
「足を組み替えたり、タバコを吸い始めたり、身体を動かし始めたらタイムオーバー。聞かれることに疲れてきたサインだからね」
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それ以外にも色々教わったけど、もったいないので残りは内緒。興味を持った人は、ヤンの『サイレント・ニーズ〜ありふれた日常に潜む巨大なビジネスチャンスを探る』を読んでみてほしい。彼の行動観察に対する視座がよく描かれている。
ヤンと話していて実感するのは、従来のマーケティング手法の限界である。私はもともとマーケティング専攻だったので、消費者調査はそれなりに経験してきた。定性調査、定量調査、市場調査…..。消費者のニーズを把握するための活動という意味では、今回のフィールドリサーチと同じである。でも、そのアプローチとプロセスが違う。そしてその結果得られるものは、似て非なるものであると感じた。
相手に答えさせるのではない。できるだけ(無意識の)嘘をつかなくていいように、リサーチャーは限りなく透明人間になる。存在を少しずつ消しながら、状況を観察して、何気ない会話から相手の感情や意志を感じることに徹する。そして、現場を離れてから、記憶を一気に書きとめて、統合し、分析する。
考えてみると、リサーチは農家の家に入った時ではなく、ボートに乗り込む時から、いやいや、この国に降り立った瞬間から始まっていた。この国のおかれている状況、周囲のビジネス環境、村の有力者との関係性、僧院の役割。そういった状況をスキャンして初めて、相対的に農家の現状や欲求がわかってくる。そんな気がした。
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(今回のリサーチチーム)
ミャンマーはタイやベトナムなど他のアジア諸国に比べて20年以上、経済発展が遅れているという。たしかに道や電気、水道の状況をみると、それら公共インフラが整うまでに猶に10年はかかりそうだ。
一方で、驚く勢いで広がりそうなものがあった。携帯電話である。
何が欲しいか?と農家に聞くと、インターネットにつながる携帯が欲しい、と即答した。それで農業に関するノウハウを手に入れたい。水の引き方や、有効な肥料についても知りたい。収穫量を高めてもう少し余裕ができたら、他の作物も栽培したいし農具も購入したいと熱く語っていた。
ちょうど私が滞在している時に、海外の携帯キャリアがサービスを開始した。電気も満足に通じていない村の中に、携帯電話の広告が誇らしげに掲げられていた。東京では想像もつかない欲求が、携帯電話の爆発的普及を生み出すのだろう。会議室の中では捉えることができない、真摯な欲望(サイレント・ニーズ)を発見した気がした。
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