日記

600人のアーティスト村 “Fiskars Village”

600人の村。どんな村の様子が頭に浮かびますか?

東京都内で人口が少ないイメージのある檜原村は、調べてみたら2,500人。結構、多いですね。日本だと山梨県丹波山村が600人らしい。それと同じ規模の村が、フィンランドにあるフィスカルス村。ヘルシンキから車で90分ほどの場所にあります。特徴は、600人の村民のうち200人がアーティストだということ。

もともと”フィスカルス”は、ハサミメーカーのブランド名。今でも世界的に有名な工具品メーカーだけど、製造機能は、1970年代にフィンランドの他エリアや他国に移転してしまいました。空洞化してしまった村に、移住してきたのがアーティストやデザイナーたち。彼らは使われなくなった施設を活用しながら、独自の村として進化させてきました。  

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例えば「ランドリー」というカフェ。この赤レンガの建物は、もとはフィルカルス工場で働く従業員たちの洗濯場(ランドリー)だった場所。それが今は、ランドリーという名のおしゃれなカフェに生まれ変わっています。機械などが動いてあった工場は木工職人が働く工房になり、社員住宅だった空間は、ホテルやアーティストが長期滞在できるレジデンスになっています。

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△写真上:カフェ・ランドリー 下:リノベーションされたホテルの食堂 村を歩いていると、人は少なくてひっそりとしているけど、ぽつぽつとあるショップに置かれているアイテムのクオリティの高さに、住んでいる人たちが只者ではない雰囲気が漂っている不思議な村なのです。

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ガラス作家Camillaのショップ

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陶器作家Karinの自宅兼ショップ。自宅にはサウナ完備! 「オノマ=自分たちのもの」という自負 村の人と話をしていると頻繁に出てくる言葉が「ONOMA(オノマ)」。おそらく英語のOwnと同じ語源ではないかと思うのですが「自分たちの」という意味。 村の中では「オノマ・ショップ」「オノマ・エキシビション」といった形で、アーティストたちが協同して、自分たちがつくったものを売り、自分たちがキュレーションして伝えたいメッセージを展覧会にしているのです。 オノマ・エキシビション(村の展覧会)があまりに素敵なので、「この展覧会は、村か国などの行政が支援してくれているのですか?」と尋ねたところ、とんでもない!という顔で首を振り、”No, no. It’s ONOMA Exhibition. We don’t belong to anyone.(私たちの展覧会よ。誰にも依存はしていないのよ)”と答えてくれました。

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△オノマ・ショップの店内。”Lives and Works in Fiskars”というコピーに、オノマの意思が表れていると思いませんか? 彼女たちが主催する展覧会、今年のモチーフは木でした。“We Love Wood(s)!”というタイトルで、世界中のデザイナーからデザイン提案をもらい、フィスカルスの木工職人がそれを実際の製品として仕上げて、展覧会に仕上げていました。 驚いたのは、とにかくデザインが洗練されていること。古くから木工産業が強い国なので、歴史がある分、デザインは古くなりがち、のはず。ところが、その予想は大いに裏切られました。展示されていた作品には、伝統的な組み木の技術以外にも、レーザーカッターや薄くスライスする技術などが用いられ、デザインも現代の潮流を反映させていてとても洗練されている。木という身近な素材に向き合い、新しい表現の可能性が真摯に追求されていました。伝統とは革新の連続である、そんな言葉を体現しているようでした。

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この村の木工技術とデザイン品質をリードしているのが、“NIKARI(ニカリ)”。1967年にこの地で創業した木工家具メーカーです。彼らが生み出す家具は、伝統的でありながら挑戦的でもあり、素材の風合いを生かしたシンプルな色合いでありながら、驚くほど洗練されていて、世界の家具デザイナーに影響を与える特別な存在になっています。日本にも大きな影響を与えている北欧デザイン。今後、飛騨とフィスカルスという2つの小さな地域を繋ぐことで、世界の木材の可能性に大きなメッセージを発信することを夢見ています。

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△写真上:NIKARIとJasper Morrisonとのコラボレーション家具 下:NIKARI創業者のKari フィンランドと日本の不思議な共通点 フィスカルスに雑貨屋さんが1軒あります。Catiさんが経営する”Kantti Design Shop”です。お土産を探しに入ってみたところ、急に東京にいるような錯覚に。お店の雰囲気や置いてあるアイテムが、どこか東京のショップと似ているのです。よく見てみると、去年MORE THANプロジェクトでサポートした「かまわぬ」の手ぬぐいが置いてあるではないですか!まさかこんなところで出会えるなんて。 早速、その場でCatiさんにMORE THANプロジェクトのことを紹介したら、「日本のプロダクトは人気が高いの。このお店で日本産アイテムの展覧会やりたいわ。ぜひ紹介して」と前向きな返事をもらいました。このことを事業者のみんなに伝えたら喜ぶだろうなと想像しつつ、日本の名産品や伝統工芸品を世界に発信するMORE THANプロジェクトの重要性と、私たちがまだやれていないこと、やらなくてはいけないことが沢山あることを実感しました。

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△ショップオーナーCatiと、素敵な店内 訪問するまで、北欧という大雑把なイメージしかなかったフィンランドという国。でもこうして訪問してみると不思議な接点が見えてきます。両方とも森林大国だし、同じようなペースで高齢化が進行している社会でもある。また、ヨーロッパの中で移民を受け入れるのが苦手でどこか”島国的”なんです、と 説明を受けて笑ってしまいました。 今回、フィンランドを訪問することになったのも何かの縁。ここからどんな物語が生まれるかは、私の腕にかかっているわけです。森や自然の楽しみ方、木工技術の継承と革新、オノマ・マインドなど、丁寧に、ひとつずつフィンランドと日本を繋げてみたいと思っています。

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△フィンランド訪問のきっかけを作ってくれたヘルシンキデザインウィーク主催者のKariと、NIKARIディレクターのJohanna



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