日記

特技は儲からないプロジェクトを作りだすこと

儲けることにハングリーになれないこと。これは長い間、コンプレックスだった。(株式会社の)経営者として利益の最大化にぶれない欲求を持つことは、会社を維持拡大させるためにとても重要だ。当たり前すぎて、言葉にするまでもない。それなのに、自分はその欲求を強く持つことができない。

もちろん、ロフトワークが長く続いて欲しいという欲求もあるし、利益を生んで次の挑戦に再投資したいという気持ちもある。でも、いつだってワクワクすることは「儲かるかどうか」ではなく、美味しい、嬉しい、気持ちいい、という五感と直結する新しい視点からの挑戦だったりするのだ。その典型が「飛騨の森でクマは踊る」の取り組み。毎年、収穫物を得て改善フローを回せる農業と比べて、木を育てるのに50年はかかる。PDCAは回しづらいし、林道整備、伐採・製材・乾燥の機材調達など、投資額も大きい。その上、健やかな森が実現するのは、自分がいなくなった後だったりもする。

▲ヒダクマの紹介動画。DRAWING& MANUALに制作してもらった

ロフトワークを一緒に育ててきた諏訪からは「君は本当に儲からないプロジェクトを作る天才だね」と呆れられる。でも驚いたことに、この弱みが強みになる状況もあることがわかった。国の政策を考える場合である。

弱みが強みに変わる

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「日本が今後も競争力を持ち、国の豊かさを維持するために何をするべきか?」

この数年、国の委員として呼ばれる機会が増えた。オープンイノベーションを推進するための委員会や、意匠制度を国際水準に近づけるためのワーキンググループなどに参加してきた。そして今回、新しい挑戦を始める。内閣府が主導する「第5期科学技術基本計画」の実践を支える科学技術イノベーション政策推進専門調査会の委員に加わり、これから2年間の科学技術政策の道筋作りと実践にコミットすることになった。

昨日、調査会の初会合が開催された。たった2時間の会合だったが、今までにないくらいにワクワクするものだった。

なぜか?

大切な理由の一つは、女性委員が多いこと。科学技術政策担当大臣の島尻安伊子さんをはじめ、議長の原山優子さん、調査委員も半数近くが女性である。アドバイザーには、イリスさん(IRIS科学技術経営研究所所長)とクリスチーナさん(一橋大学大学院商学研究科教授)。これまた心強い女性プロフェッショナルである。「女性活躍への配慮をしています」と人数合わせに呼ばれているのではない「本気」が伝わってくる。

私はフェミニストではないし、何か強制力を発動する「女性が輝く社会」のための提言を声高に訴えたことはない。「女性が輝く」という言葉が存在していること自体に違和感があり、普段は性差よりも、個人の差、つまり個性を尊重して物事を考えたいと思っている。また、女性活用について具体的な議論をするだけの知識も持っていない。

ただ、女性の存在がもたらす明確な違いを昨日は体感した。まず、場の空気が柔らかくなる。会議中も会場から自然と笑顔や笑い声が生まれる。それから、議論の抽象度が下がり、具体的なディスカッションを展開しやすくなる。前例に縛られず軽やかに新しいことを始められるのも、女性の特技なのかもしれない。例えばその一例、こんな場面があった。

原山優子議長「この手順はイノベーティブではありませんが、事務局が資料の確認をします」

事務局「いえ、イノベーティブに進めたいので、資料確認は割愛します」

会場全体 「ヒュ〜(拍手)!!」

国の会議で何回も笑いが起こり、いいコメントには自然と拍手が送られた。ありそうでなかった場面に、心から嬉しくなった。

同時に、国という俯瞰の視点で、イノベーションを生み出すための政策づくりに、今まで自分がやってきたことがどう生かせるか、そのことに全力で挑戦してみたいと思った。

そう、自分の会社の利益なんてこの際気にしている場合じゃない。私たちの未来が明るくなるなら、喜んで自分の時間と情熱を注いでみたい。そう思っている自分に気づいて、初めて、儲けることに夢中になれない自分も悪くないな、と思えたのである。



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