ロフトワーク

飛騨で会社をつくる理由

2015年4月、岐阜県飛騨市に「株式会社 飛騨の森でクマは踊る(通称ヒダクマ)」を設立します。変な名前の会社で一体何を始めるのだろう、と疑問に思われるかもしれません。でもその前に、「なぜ?」について話したいと思います。(プレスリリースはこちら
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まず、なぜ飛騨なのか。
飛騨には日本が世界に誇る伝統美が残っています。木造建築が生み出す美しい街並み。長い歴史をもつ大工の職人芸と組み木の技術。町中の人から愛される酒蔵の存在。古川祭り。そしてそれらを脈々と紡いできた町の人たちの生活。
都市部が効率化のために失ってしまったものの多くが、ここには残っています。そして、この美しい町がテクノロジーと組み合わさった時に、単なる伝統の継承ではなく、革新にかわり、新しい可能性を生み出すのではないかと感じました。
例えば、美しい組み木の伝統技術にデジタルファブリケーションを組み合わせたら、何ができるだろう?考えただけで想像が膨らみます。組み木のオープンデータをつくり、世界中のデザイナーや建築家とそのデータを共有して実験を繰り返す。異なる素材や色彩を用いた、新しい組み木表現や構造が生まれるのではないか。FabLabFabCafeのネットワークとも連携し、世界中から組み木ファンが飛騨に訪れ、マイスターである匠との交流が生まれる。そのことで、今は民芸館のなかで過去のものになりつつある「組み木」が、ヴィヴィッドに蘇るのではないか。そんな夢が広がっています。
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なぜ、第三セクターなのか。
ヒダクマのもうひとつの特徴は、飛騨市トビムシロフトワークの3社でつくる官民共同の事業体であることです。今の時代、第三セクターは清算されることはあっても、新たに設立されるのは珍しいこと。第三セクターと聞くだけで、どんな事業でもうまくいかない気がしてしまうのは残念です。
改めて「第三セクター」の定義を調べてみました。
『国と民間が合同で出資・経営する企業。利益追求だけが目的ではなく、公共領域の事業を、より効果的・効率的に実行するための自主的なプロフェッショナル集団である。』
まさに、私たちが目指す姿です。林業の再生、地域の活性化、伝統工芸の継承。こういったテーマは、利益追求だけを目的には取り組めません。そして日本が、成長期から成熟期に移行し、生活の質が真摯に問われる時代になった今だからこそ、取り組むことができる大切なテーマだとも感じています。
特に林業の再生は、日本が抱える大きな課題です。日本の国土の67%、飛騨市においては93%を森林が占めていて、世界と比較してもこれほど豊かな森林を所有している国は珍しい。ところが、その豊かな資産を使わずに輸入材に頼っている日本の木工産業。この豊かな森を負債ではなく、資産にできるか。多くの自治体や企業が挑戦し、なかなか成果が出せていない難しい領域であることはわかっています。それでも、森と都市はつながっています。森が荒れれば、土地は痩せて保水力も下がり、土砂災害を生みやすくなる。間伐されずに密集した木たちは、雪の重みに耐えられずに倒れ、電線を切って都市部の停電につながったり、道路をふさいでしまう。日本で木を切らないからおがくずがなくなり、牧場の寝床は中国産おがくずでつくられているのです。
テクノロジーが進化した今、改めて林業に向き合いたい。クリエイティブな視点で、価値を生み出したい。そのために、民間と公共がきちんと連携して長期視点で取り組む必要がある。そのための第三セクターだと強く感じています。
そして必要以上に怖がる必要もありません。少しずつ成功事例も生まれています。岡山県の西粟倉・森の学校がその代表例。トビムシさんが培ってきた林業ノウハウと、ロフトワークのクリエイティブネットワークを活かして、斬新な視点で、情熱をもって「飛騨の森の活用」に挑戦したいと思います。
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改めて、なぜ飛騨なのか。
初めて飛騨を訪問した時、地主の西さんの家にお招きいただきました。立派な日本家屋に足を踏み入れると、囲炉裏には土鍋で煮物、火の周りには五平餅が焼かれていました。
「これはこの地域でとれる”えごま”を擂り潰してつくった五平餅。日本一美味しいよ」
こってりと焦げ色のついた五平餅にかぶりつき、口の中に広がるふくよかな甘みを味わった時、シンプルに、生きてて良かった!と思いました。その日は山菜おこわ、鮎の塩焼き、山菜の煮物、手打ちそば、たくさんの美味しい料理をいただいたのですが、食材のほとんどは目の前の庭や川で採れたものでした。生活の知恵で、春には山菜を摘み、夏には鮎や野菜を採る。大きな冷凍庫に保管して、少しずつ食べていくのだそう。
真夏の飛騨にも行きました。牧成舎という牧場があるので視察に。小高い丘をテクテク登り、牧場でできたてのソフトクリームを食べた時の美味しさ。「最もしあわせを感じた瞬間リスト」に刻まれました。そして想像しました。自分たちで、適切なサイズの森を所有し、適切な量の木材を加工し、世界がワクワクする新しいプロダクトを開発し、そこから生まれたおがくずをこの牧場に届けられたらどんなに素敵だろう。
飛騨の豊かな自然。美味しい空気。生きている喜びを実感する環境自体が、価値なのだと思います。
豊かな自然と向き合いながら、とびっきり美味しいソフトクリームを一緒に食べませんか?
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