ロフトワーク

海か、山か、芸術か? ケンポクのススメ(その三)

img_3599SPREAD《Life Stripe》

芸術祭を通じてアートを拡張する

茨城県北芸術祭には、コミュニケーションディレクターという立場で参画させてもらった。「コミュニケーションディレクターって何をするんですか」と時々、聞かれるけれど、自分でもよくわかっていない(笑)
 
PRやソーシャル戦略など、情報発信の役割を想像する人が多いかもしれない。確かに、県北のオフィシャルサイトや公式リーフレットは私たちの自信作である。でも大切だったのは、そういうところ以外だったような気もする。
 
例えば、情報発信するときの運用ルール。ただでさえ行政のプロジェクトだし、これだけ規模が大きくなると、間違いがないよう厳重な承認プロセスが設定されやすい。でも、県北プロジェクトではその逆をいく。基本ルールをきちんと設計しておいて、情報更新は原則、自由。そうすることで、現場で動いているメンバーが主体的に、いきた情報を発信できるし、更新頻度も上がる。
 
プロジェクトメンバー間のコミュニケーションを、フラットにすることも心がけていた。情報の格差をなくす。同じ目線で動く。他のメンバーがやってくれたことに、積極的に「ありがとう」「いいね」をいうムードを作る。一緒に大きな挑戦する仲間なんだから、内輪で文句を言い合っても始まらない。文句を言うくらいなら、代案考え、より良くしよう。そんなコミュニケーションルールをみんなで大切にした。
 
印象的だったのは、サポーターユニフォームを議論していた時のこと。最初は値段の制約から、どこにでもあるシンプルな青と緑のビブスが選ばれていた。「せっかくだから、着るのが嬉しくなるユニフォームにしたいなぁ」と呟いたら、クリエイティブ・ディレクターの谷川じゅんじさんが「それ、いいね」。すぐにアダストリアに相談してくれて、若い女性でも、おじさまでも、格好良く着られるおしゃれなビステが実現したのだった。
 
img_3315やくしまるえつこ《わたしは人類》
 
アートの範疇外の要素をどんどん取り入れられたのも、この芸術祭が魅力的になった理由の一つかもしれない。
 
やくしまるえつこは、芸術祭のテーマソング『わたしは人類』を最先端のバイオテクノロジーを駆使して制作してくれた。具体的には、微生物シネココッカスの塩基配列を元に楽曲を制作。それを再びDNA変換して微生物に組み込み、遺伝子組換え微生物そのものを「音楽」として展示した(ややこしい話なので、詳しくはWIREDの記事を読んで欲しい)。そんなことをする人は日本で初めてだったので、遺伝子組換え微生物の展示として、何枚もの資料を準備して、経済産業省大臣の承認をとる必要があった。
 
みんなで食べるプロジェクト『カレーキャラバン』も、快く参加してくれた。オリジナルユニフォームも用意して、県北の六市町、その地固有の食材を手に入れて、美味しいカレーを振舞ってくれる予定だ(11月にも5, 6, 19日の三日間、開催予定)。また演劇ユニット『泥棒対策ライト』は、ミュージシャンやダンサーが同乗して、演劇やワークショップを組み込み、芸術祭を全身で楽しめるバスツアー「茨城県北芸術祭 アートダイビング by 泥棒対策ライト」を開催してくれる。
 
こんな風に新しい要素を自由自在に取り入れながら、芸術祭の可能性を広げるためのワクワクするネットワークをつくれたことが、コミュニケーションディレクターとして、グッジョブ!だったなと思っている。
 
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PHOTO BY ARI TAKAGI
 

飴屋法水《何処からの手紙》

 
決まっていることには逆らえない。
でも決まっていないことなのに
決まっているかのように進むことがたくさんある。

それは、僕は受け入れられない。     −飴屋法水

 
最後に。個人的には、飴屋法水さんの制作を担当させてもらったことが思い出深い。
 
今回の作品《何処からの手紙》は、ハガキを起点に始まる物語である。作品体験を希望する人に、指定の郵便局へハガキを送ってもらう。そうすると郵便局の局長が、一枚ずつ手書きで宛名を書いて、手紙を送り返してくれる。その手紙には、なんてことはない、その土地で生まれ、その土地で生き続けている人の物語が描かれている。
 
それだけ。
 
でも、なんてことはなく、ただ生きることの重さと軽さに、胸が揺さぶられるのだ。
 
飴屋さんは言っていた。演劇はどうしても観る人の数が限られる。また、決まった日時にしか観られない。だからと言って、会場に作品を展示するだけだと、きっと観客はスッと眺めて終わり。自分の伝えたいメッセージが十分、伝わる気がしない。今回のように広大で長期間に及ぶ芸術祭の中で、どうしたらもっと自由に、しかし強度を保って作品を体験してもらえるだろうか。
 
その問いの答えが、手紙となった。手紙を道しるべに、飴屋さんの眼差しを追う。同時に、朝、昼、夜、訪れる時間帯で目に映る景色は変わり、解釈は各自に委ねられる。そんな初めての試みだ。どう感じるか、ぜひ体験してみてほしい。ちなみに好評につき、定員を増やして対応してきたが、今週はそろそろ受付終了になる場所も出てくる見込み。まだの人は急いでハガキを送ってください。
 
(飴屋さんのことをもっと知りたい人は、WIREDの記事をどうぞ
 
書き始めたら止まらなくなり、何とも長いブログになってしまった。これも芸術祭の魅力ゆえと解釈してもらいたい。
芸術祭のクロージングは11月20日。前日の19日には、和田永のクロージングパフォーマンスも予定している。家電の聖地とも言える日立駅で、芸術祭期間中ずっと集めてきたテレビや扇風機を積み上げて楽器に変えて演奏するという、クレイジーなイベントになるみたい。
 
百聞は一見に如かず。
 
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森山茜 《社の蜃気楼》


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