私には恐れているものがある。
想像するのも怖くて、目をそらし、全力で逃避しているもの。
それは、両親の老い。
より正確に言うなら、親の死だ。
大切な人の死は、誰にとっても、
最も想像したくないものの一つだと思う。
できるものなら、永遠に逃避していたい。
しかし、残念ながら、それは許してもらえない。
いつの間にか私は40代になり、親は70代になった。
幸い、二人ともいたって健康である。
今でも思いっきり子育てを手伝ってもらっている。
でも親の口から「友人が癌になった」
「入院している友人をお見舞いに行く」
などと聞くだけで、ヒヤッとして、
ああ、それが父や母の身に起きたことでなくて
良かったと思ってしまうのだ。
いつか必ず向きあう「老い」。
それはまず、親を通じて対峙する。
そしてその数十年後に、自分のこととなる。
それはどのようなリアリティをもって表出するのか。
取り巻く環境は、どうなっているのか。
人類が体験したことのないペースで
高齢化が進んでいるといわれる日本。
直感的に、まだまだ納得のいく環境が
生まれているようには思えない。
そうであれば、大切な人のために、
自分たちの未来のために、
今、できることがあるのではないか。
そんな気持ちが原動力となり、
経済産業省からの支援も得て、
昨年から高齢化社会についての調査を行った。
東京、吉野、成都(中国)の3地域で、
170名の方にお会いして、話を聞かせてもらった。
娘が遠くに住んでいて一人暮らしをする女性は、
電話ではつい「大丈夫」と言ってしまうけど、
本当はね、、、と寂しそうにつぶやいていた。
そうかと思うと「孫とLINEでやりとりしているのよ」と、
軽やかに時代の流れに合わせて生きている方もいた。
重たい病気に向き合っている方の
「他の人も同じような疾患を抱えていて、
同じ痛みを感じているんだと思うと、
痛みが半分に感じられるようになるの」という発言には、
ハッとさせられた。
高度な医療技術だけが解決ではないのだ。
調査を通じて見えてきたことは、
「高齢化にまつわる基礎調査報告書」としてまとめた。
180ページに及ぶレポートとなった。
また、世界における日本の役割を意識して、
日英の二ヶ国語でリリースすることにした。
ほんの小さな一歩にすぎないが、
これを起点に企業や行政も巻き込みながら、
具体的なアクションにつなげていくつもりだ。
「この取り組みをやっておいてよかった!」
80歳になった時、友とそんな会話をすることを目標に。