「これからは、データ活用も含めてUIやUXのデザインが重要になる」
「いやいや。無形のものまでデザイン対象に含めるから、日本のデザイン力は低下した。今こそ、物のデザイン力を高める必要がある」
こんな議論から『産業競争力とデザインを考える研究会』はスタートした。委員の間ですら、デザインの定義が定まらない。それこそが、社会における「デザイン」のつかみどころのなさを象徴しているように感じた。
まあまあ。それでも、それぞれの信念がありますし。
研究会の途中までは、自己の信念や意見は発言しながらも、他人の意見には必要以上に被せない。そんな大人な作法を通じて、和やかに、でも統一見解にまとめることは難しそうな雰囲気で進んでいた。そんな流れが変わったのは、研究会も半ば。宗像長官の存在だ。
「デザイン思考の本質は、どこにあるのですか?グローバル競争に負け続けている日本にとって、デザインは突破口になりうるのでしょうか。そうであれば、そのための指針をきちんと示したいです」
宗像さんの熱のこもった、本音のコメントが響いた。 大きなテーブルも、マイクも、予定調和のアジェンダもなくして、本気の議論が始まった。私はホワイトボードを使って、議論のファシリテーションをすることにした。すると、今まで逆向きに聞こえていた委員の意見が、語っている領域や時間軸に違いはあっても、コアのメッセージでは一致していることに気が付いた。正直、ビックリだった。
「デザインは、経営にとって重要な資源である。世界のリーダー企業はとっくにそのことに気づき、投資を増加させている。それなのに、日本企業の多くはいまだ技術力をイノベーションの手段として捉え、デザインの重要性を認識していない。第四次産業革命ではモノとネットが融合し、ビジネスモデルも根本から変わる。そんな時代に、新しい事業の起点を見つけ、圧倒的な強度でその価値を体現するのはデザイナーの仕事であり、デザイン活用は不可欠である。」
研究会メンバー間で意識が共有され、議論はさらに加速した。問題は、それが研究会も残すところあと1回というタイミングだったこと。
「許されるなら、期間を延長して議論を深めさせてもらえませんか?」
長官の呼びかけに、研究会メンバーは満場一致で賛成した。また、委員が調査表全ページに目を通して重要なところを抜き出したり、報告書の骨子を言語化した。その結果が、5月25日にリリースした「デザイン経営」宣言、およびその先行事例集としてまとまっている。
重要性を表現するために、デザイン立国宣言を出すのはどうかという議論もあった。でも、いくら立国宣言したって社会が動かなければ意味がない。軽々しい立国宣言は、むしろデザインの評判を落としてしまう。そうではなく、デザイン経営というものをきちんと広めるために、シンプルに「デザイン経営」宣言とし、推進活動を今後も積み重ねていくことを決意した。もちろん、報告書を出しただけで、社会が変わるわけではない。 これからの集中的、かつ継続的な取り組みが不可欠だ。その一歩として、本報告書の意図や活用法、読んでくれた人からのフィードバックを聞かせてもらうために、カンファレンスを開催することにした。中小企業庁なども巻き込んで、全国津々浦々、広めるための方針も考えてみたい。
この研究会が起点となり、どんな変化が起こせるのか。それこそ、私たちのデザイン力にかかっている。
「デザイン経営」宣言 http://www.meti.go.jp/press/2018/05/20180523002/20180523002-1.pdf
「デザイン経営」の先行事例 http://www.meti.go.jp/press/2018/05/20180523002/20180523002-3.pdf
委員一覧 http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/sangi/sangyo_design/pdf/001_00_01.pdf