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ベネチア・ビエンナーレ レポート本編

前回の簡易レポートに続き、弟53回ベネチア・ビエンナーレについてきちんとレポートを書いてみます。
今回は「ヴェルニサージュ(verinssage)」といわれる、一般公開に先立って開催される招待者限定のプレビューに参加してきました。ちなみにアート業界では一般公開の前に招待客だけを対象に「特別内覧会」を開催することが多いですね。アートバーゼルやビエンナーレだけでなく、国内の企画展のオープニングなどでもよく耳にします。VIP感を醸成するための演出なのかな? IT関係ではそういう仕掛けはないから不思議な感覚。
さて、ベネチア・ビエンナーレはいわばアート業界におけるオリンピック。各国がその時のアート業界の第一人者をコミッショナーとして登用して展示アーティストを選出し、自国の文化芸術を競いあうわけです。今回は史上最多となる77ヶ国が参加。すごい規模です。
展示会場は大きく3つの領域に分かれています。
メイン会場が「ジャルディーニ(Giardini)」。アメリカやイギリス、ロシア、フランス、イタリア、ドイツなど、いわゆる主要国のパビリオンが存在しています。日本のパビリオンもジャルディーニの中。いわゆる目抜き通りに面していて、日本人として嬉しい感じです(笑)ベネツィア・ビエンナーレ会場「Giardini」入口
第二会場が「アルセナーレ(Arsenale)」。もともと造船所だったところを巨大な展示エリアに変えたもの。毎回、その時のアーティスティック・ディレクターのキュレーションで展示されるエリアです。またジャルディーニにパビリオンをもっていない国の展示も吸収しています。中国とかチリ、アラブ首長国連邦の展示もアルセナーレにありました。アルセナーレ会場
3つめの会場が、ベニスの街中全体。シンガポールやメキシコなどたくさんの国が、ベニスの街中に面白いスポットを見つけ、独自の展示を展開していました。シンガポール館(シンガポールの展示会場)
この3つのレイヤーでベニスの街全体がアートで包まれるわけです。ベニスという街の適度な小ささが、逆に一体感を醸成していてどこを歩いてもアートを楽しめる感覚がとても魅力的でした。
さて、ここからが本題。実際に展示されていた作品についてですが、ヴェルニサージュ期間はかなり混んでいて、実は人気のパビリオンはあまり見ないで終わってしまいました(笑) 例えば金獅子賞を受賞したブルース・ナウマンのアメリカ館は外観しか見てない。バカですね。そのためビエンナーレの見どころはあまり紹介できません。
でも自分にとっての備忘録もかねて、印象に残った作品をリストアップしておきます。


ロシアのパビリオン
▲ロシア館のAndrei Molodkinの作品。「国際紛争の裏には石油がある」ということを表現している作品。チェチェン紛争で戦った兵士の血と石油を混ぜた液体が、ガラスの天使像の中を流れる様子を映像で映し出していました。
Denmark and Nordic Countries Pavilion
▲▼北欧のパビリオンも新鮮でした。パビリオンの建物自体を「不動産の売り物件」に見立てて、中に飾られている作品は「家主が残していった品物」として解説しながら全体を案内してもらう企画。20人くらいがひとつのチームになって一緒に見るのも面白く、作品展示に時間軸も加わった新鮮な展示でした。
Denmark and Nordic Countries Pavilion
(慌てて出て行ったからお皿も洗っていない、という設定。カワイイ)
「家主が死んでいるプール」
(こちらは家主がプールで死んでいた、という設定)
日本館 やなぎみわ
▲▼日本館の展示アーティストはやなぎみわさん。My Grandmothersがとても素敵だっただけに今回の展示はちょっとガッカリ。パビリオンにかかっている黒いテントが重苦しくて、展示内容にもなんとなく華やかさがありませんでした。日本経済の先行きを暗示しているかのようで、ちょっと暗くなりました。ガク。
日本館 やなぎみわ
(やなぎみわさんの展示にあわせて黒いテントがかけられていました)
オーストラリア館
▲オーストラリア館ではShaun Gladwellという若い男性アーティストの映像作品を楽しんできました。道路で轢かれて死んでいるカンガルーを抱きかかえて土にかえす映像が流れていました。広い大地と青い空、カンガルーとバイクの男性。コントラストがとてもきれいでした。
Jan Fabreの作品
ビエンナーレで「すごい!」と思ったのはなんといってもヤン・ファーブル(Jan Fabre)の作品です。よく見てみてください。これはコガネムシのような玉虫色に光る昆虫の羽根ですべて作られているのです!しかも後で知ったのですが、ヤン・ファーブルは「ファーブル昆虫記」で有名なジャン=アンリ・ファーブルのひ孫なんだそうです。このつながりが面白いですよね。
▼ヤン・ファーブルの作風は多岐にわたっていて、人体を対象にしたアイロニーな作品もこれまた目を奪われる強さをもった作品でした。
Jan Fabreの作品
Jan Fabreの作品
Jan Fabreの作品
▼それから前のブログでも書いたロシアの人気アートユニット『AES+F』の映像。グループ名はメンバーの頭文字をとったもの。(最初からのメンバーの3人 Tatiana Arzamasova, Lev Evzovich and Evgeny Svyatskyと1995年に加わった写真家のVladimir Fridkesで4人) まさにこの4人だから生まれたと思われる、写真の美しさを活かしたままの映像でした。単なる動画ではなく静止画からのモーフィングを使っているのか、不思議な未来感のある映像でした。描かれている世界も、黒人あり東洋人あり白人あり、ゴルフもあればテニスもあり、チャイナドレスも着物もあって、世界中の文化が融合されていて圧倒的でした。世界の文化がうつしだされている映像
▼ビエンナーレ全体では、マジックミラーをつかって繰り返しを生み、「無限」的な表現している作品も多く見られました。LEDと組み合わせるときれいですよね。
どこからが反射かわかりますか?
マジックミラーを使うと奥が続いているみたい
▼街中で展開されている展示でインパクトがあったのがメキシコ館。
え!これが展示?!
これのどこが作品なの?と思いますよね。でも壁に書いてある説明を読むと、「ビエンナーレ期間中、メキシコで殺された人の血が混ざった水で毎日床を磨き続けます」と書いてあるではないですか。殺人がいかに頻繁に起こっているかを表現するための政治的な作品とのこと。
展示室に足を踏み入れたとき、なんか不気味なこもった空気のにおいがすると思っていたら、このせいだった!一気に気持ちが悪くなってしまいました。
殺された人の血で染まった作品
▲こちらも血で染まった作品
最後にベネチア・ビエンナーレの面白さ。それは展示作品の鑑賞だけではなく、世界中のアートに関心のある人たちが一堂に会し、情報交換できる「ネットワーキングの場」としての面白さがあるのではないでしょうか。
世界を代表するアーティストや建築家、評論家、そしてコレクターとしてのビジネスマンが集まり、ヴェルニサージュ期間中目白押しのオープニングパーティなどで近況を報告しあう。これはウェブ業界のWeb2.0やAdTech、オライリーなどのカンファレンスと同じ構造ですね。人はコミュニケーションなしでは生きられない動物なのです。
私自身、3年前にアートバーゼルに行くきっかけをつくってくれたアートフェアー東京の山下さんや前田さんに会えたり、夢いっぱいの若手アーティストに会えたり、素敵な出会いがたくさんありました。日本館のパーティにて
最後はサンマルコ広場の写真で締めくくります。歴史と文化が出会う街、ベニス。また行こう!
海と一体化するサンマルコ広場



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