ソウル(韓国)で開催されたクリエイティブ・コモンズのアジア国際会議に出席してきました。2009年10月に米国NPO法人クリエイティブ・コモンズにおいて「アジアプロジェクトコーディネーター」という役割について初めての国際会議です。CEOのジョイや創始者のラリー、そしてアジア各国のCC責任者や関係者が集まり、200人規模のイベントになりました。
会議は、基調講演と4つのセッションで構成されました。
ー “Government2.0” 政府によるCC活用
ー ”Business” ビジネス視点でのCC導入事例やその効果
ー “Art” デザインやアート領域でのCCの可能性
ー “OER(Open Education Resouces)”
教育領域におけるオープンコンテンツの重要性
主催国である韓国、そして日本、フィリピン、中国、台湾、シンガポール、香港、中近東、オーストラリアなど、幅広い国々から人が集まって、「オープンイノベーション」をテーマに最先端の事例や動向を共有する。非常に刺激的なカンファレンスです。この会議を通じて感じたことや学んだことを簡単に整理してみました。
▲ジョイの基調講演でスタート
○政府にまで広がるオープン性
今回の会議で最も感動したのがオーストラリア政府によるクリエイティブコモンズへの取り組みです。オーストラリアから参加したAnne Fitzgeraldが発表してくれました。オーストラリア政府は今月、国会サイトの多くのコンテンツをクリエイティブコモンズライセンス(表示・非営利・改変禁止の条件)で提供することを決定しました。それにより、2010年後半には国が保有する統計情報や議案の情報、議会の議事録などがすべてオープンなコンテンツとして提供されることになります。おそらく世界で最も進んだ政府の取り組みといえます。
このプロジェクトに取り組んできたAnneとJessicaに話を聞いたところ、「構想10年、政府との交渉も6年以上かけて取り組んできた結果」とのこと。大きなことをやり遂げるには、本当にこつこつと忍耐づよくプロセスを積み重ねる必要があるのですね。
オーストラリアは「British Commonwealth」といわれるように、現在でもイギリスやニュージーランド、カナダの政府とゆるやかに連携しながら動いています。そのため今回のCCの採択は他のコモンウェルス国家も関心を持っており、そちらにも働きかけていくとのこと。学ぶべき姿勢がたくさんありました。
▲オーストラリアで活動しているAnne
▲同じくオーストラリアのJessica
○NPOという組織のあり方
2007年にラリーにインタビューした時、私は「ボランティアで成り立っているクリエイティブコモンズという組織はサステナブルになりえますか?」と質問しました。その時に彼は
「健全な人間は、人生の中に少なくとも二つの側面を持っている。ひとつはお金を稼ぐための面と、そうでない面。そして、多くの人は自分がしていることが何か「善い」ことであってほしいと願っている。ボランティア活動というのは、そういう「いいことをしたい」という欲求を形にするためのいい方法の一つ。」
と答えてくれました。そしてその回答が3年後のこのカンファレンスでまさに実現していました。クリエイティブコモンズのライセンスが適用されている国は当時36カ国だったのが、2010年では54カ国にまで拡大。現在も中近東や南米を中心に積極的に導入が進められています。また昨年はウィキペディアによるCCの採択が実現したし、YouTubeやUstreamといった新しいメディアへの働きかけも継続的にされています。何よりカンファレンスに参加しているみんなの目が輝いているのです。
今後、クリエイティブコモンズに限らず、「一つのミッション」を共にする仲間が国境を越えて活動するNPOやNGOの存在がますます重要になってくるのだなと実感しました。
▲ラリーとの再会
○アップルが提示している新しいコントロールとオープン性の関係
ラリーが基調講演で警笛をならしたのがこのテーマ。かつて過大なコントロールをしようとしたマイクロソフトに対し、インターネットのフリーカルチャー支持層が中心となってオープン性を求め、囲い込みよりもオープン性をわれわれ消費者が選択したのは数年前のこと。
でも今、私たちが新たに直面しているのはもっと複雑な表情をした「コントロールの世界」。その代表として挙げられたのがアップルなのです。ラリーはスティーブ・ジョブズのメールを引用し
「彼は、『(プログラムを配付する)ストアをアップルが管理することで、個人データを漏洩するようなプログラムやバッテリーを無駄に消費するプログラム、あるいはポルノコンテンツといったものからの「自由」を我々は実現している。時代が変わったんだよ』と主張している。」
▲ジョブズの返信メール(拡大すると読めます)
「果たして本当にそうなのだろうか?そうであれば我々が信じていたオープン性というものは単なる流行でしかないのかを問い直さざるを得ない」と。そしてそれに答えをだすのもあなたたち(消費者)だと結びました。
▲「自由とはただの流行りなのか?」
なぜオープン性が重要なのか?
それは、特定の企業の論理の枠を超えて、「社会全体」の視点で考えた時に、オープン性こそが進化を生み出すための「サステナブルな基盤」になるからなのではないでしょうか。
これからまた新たな挑戦が始まりそうです。
追記:
iPhoneにしろiPadにしろ、アップルが生み出すエクスペリエンスは秀逸。そしてそれらのハード/ソフトを通じて、私たちが想像もできなかった「新しい世界」を体感させてくれました。それはまるで魔法のよう。アップルマジック。
ただすべてをiTunesによって紐づけようとするところ、甘美なインターフェースの裏ではアップルが不適切と考えたプログラムが抹消されているところに違和感を感じることも事実。なにか、どこかが気持ち悪い。この気持ち悪さは、心の奥底で「ねえ、なんかどこかおかしくない?」と言っている自分がいるからなのだと思います。
Comments 4
>アップルが不適切と考えたプログラムが抹消されているところに違和感を感じる
>ことも事実。なにか、どこかが気持ち悪い。この気持ち悪さは、心の奥底で「ねえ
>、なんかどこかおかしくない?」と言っている自分がいるからなのだと思います。
自分はiPhoneを使うのをやめました。
まー、私もアップルさんには痛い目に遭ったトラウマがあるので、
そろそろ信者?の皆さんも気付く時が近付いているのではないかと思ってますよ…。
それはさておき。
> “OER(Open Education Resouces)”
> 教育領域におけるオープンコンテンツの重要性
ここに、ものすごーーーく興味がありますっ!
今、某所で教育コンテンツを作っているのですが、
テキストをオープンコンテンツにするかどうか議論中です。
私としては、オープンコンテンツにして、エコサイクルの形成と言うか、
自分達だけではなく、ステークホルダーを巻き込める
ビジネスモデルを形成した方が得策では?と提案しています。
しかし、良質なコンテンツの継続提供には、ある程度の投資は必要です。
そのため、テキストも最初から有料にすべきだと言う意見もあります。
…えー、千晶さんのオープンコンテンツ化への応援コメントお待ちしています(笑)
Twitter経由でのコメントをみていても、アップルに違和感を感じている人、少なくないんですね。驚きました。なんか熱狂的な支持者が多いと思っていたので。
とがえりんさん
OERに興味あったら一度打ち合わせしましょうか?内容が教育に限ってのことであればOpenCourseWare Consortiamと話してもいいかもしれません。彼らは協力なCCの利用団体でもあって先日のCCベトナムのローンチもOpenCouseWareのイベントと共同開催でした。サイトはこちら http://www.ocwconsortium.org/
打ち合わせの提案ありがとうございます!
まだ今はデリバリー以前にコンテンツ自体が方向性すら固まっていないので、
もう少し具体化したら必ずご相談させてもらいます。
# もしかしたらウチのboss経由でお願いに上がるかもしれません。
# そのプロジェクトは、彼女も非常に力を入れているプロジェクトなのです。