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《タイムマシーン》過去から未来へつなぐもの

過去から何を受けとり、未来につなぐのか。タイムマシーンに乗って、大きな河のように流れ続ける時間を俯瞰できるとしたら、今、私たちがやるべきこと、やれることは何なのだろう。そんな問いを主題に、ヘルシンキ(フィンランド)でデザインカンファレンスが開催された。

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街中がキャンバスの 「ヘルシンキ・デザイン・ウィーク」

フィンランドを訪問するのは、生まれて初めて。マリメッコ、北欧家具、フィヨルド、白夜…?! そんな貧困な連想しか持っていない状態でレッツゴー。でも、初めての場所を訪れる瞬間はいつだって胸が高まるのだ。

今回の目的は、ヘルシンキ・デザイン・ウィーク(HDW)。東京デザインウィークも含め、国際的にネットワークされているデザインイベントだ。メイン会場には、フィンランド国立博物館と、L3 Design Dockと呼ばれる海沿いの赤レンガ倉庫跡地が選ばれ、秋の澄んだ青空の下で、石畳や赤褐色レンガが美しいコントラストをなしていた。それ以外にも街全体を会場に、セミナー、ワークショップ、展覧会、ツアーなど200のプログラムが10日間にわたり展開されていた。

私は、メインセミナーのスピーカーとして招待されていたが、他にはオランダの建築集団MVRDVのプロジェクトリーダーや、ニューヨークで都市開発コンサルティングを手がけるNPO”Van Alen Institute”の主宰者、環境問題に取り組む社会起業家などが呼ばれており、「デザイン」の射程がいかに拡大しているかがわかる。セッションではタイムマシーン(Time Machine)をテーマに、ものごとを捉える時間軸をグーンと引き伸ばして、デザイナーは未来に向けて何ができるのかを多様な視点で議論した。

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IMG_0772.JPG フィンランドの森と日本の森、その共通点と相違点

「タイムマシーン」というテーマを目にして、私がまず思い浮かべたのは日本の森だ。不思議な縁で林業に取り組むことになり、今年5月にヒダクマを設立してから、森に足を運ぶ機会がぐっと増えた。荒れている森、手入れされて喜んでいる森を一目で見分けられるようになったし、日本の林業が抱える構造的な難しさも学んだ。

日本の森林の多くは、戦後、旺盛な木材需要が見込まれたいた時期に植林されたものだ。拡大造林をキーワードに、小さな苗木が大きな資産になると信じ、地主は植林に取り組んだ。足場が悪かろうと、険しい山道であろうと、驚くほど真面目に規則的に、山全体を覆うように植えられている。まさかそれらが、輸入自由化で価格が急落し、国が抱える負債になってしまうなんて、誰が想像できただろう。

それから十分な時間が流れ、それらの木は今、ちょうど伐採期を迎えている。森林を負債のまま未来に先送りするのか、ここをターニングポイントと捉えて50年先、100年先に向けて価値に変える努力をしてみるのか。タイムマシーンで未来が見えたとしたら、私たちは今、何をするのだろう?

そんなことを考えながら、日本とフィンランドにおける林業の共通点と相違点、そして飛騨における林業イノベーションの挑戦を紹介をしてきた。

Time Machine – Helsinki Design Week from Chiaki Hayashi

(プレゼンのポイント)
・日本とフィンランドは、森林率の高さでは両国とも世界有数。しかし森林活用では大きな差がある。フィンランドでは林業は重要な産業のひとつ。木材は大切な輸出品目でもある。一方、日本の森林はほとんどが手付かずで、木材自給率は3割弱で停滞したまま。木工を行う家具職人や大工の人材育成も課題になっている。

・ロフトワークは今までデザインとテクノロジーの力でイノベーションを目指してきたが、新しい挑戦として林業に取り組もうとしている。具体的には、日本の伝統的な組み木技術を生かし、組み木の3Dデータベースを構築すること。従来の”大量流通”に依存せずインターネットを使って新しい木材や家具の販売サービスをつくること。木を加工するプロセス(製材、乾燥、加工含む)に積極的にセンサーやロボットなどテクノロジーを取り組む計画などを紹介。フィンランドの木工職人やデザイナーと交流プログラムも実現して、森の国同士で交流を深めたいというメッセージを伝えてきた。
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国民が享受できる権利としての森林

日本とフィンランドのもっとも大きな違い。それはフィンランドで制定されている”Everyman’s Right”と呼ばれる自然享受権に表れているような気がする。環境省が管轄しているこのガイドラインは、フィンランド国民が豊かな森林や自然を、誰に許可を得る必要もなく、無料で楽しむ権利を有しており、それは複雑なルールによって制限されることがない基本的な権利であることを保証している。

Everyman’s Guideの法律と実践ガイドはオンラインでも閲覧できる
• applies to anyone living or staying in Finland
• no need to obtain a permit or permission to enjoy everyman’s right
• cannot be prevented without just cause
• always free of charge
• exercising the right must not cause more than minor damage or disturbance
• using an area based on everyman’s right is not affected by land ownership
• does not cover yards, cultivated fields and other areas under special use
(フィンランドに住む人なら誰もが、他人に許可を取る必要なく、邪魔されることなく、いつでも無料で、良識の範囲内で行使できる権利である。ただし、土地所有権とは関係なく、また特別な利用目的エリアは対象外とする。)

そこに浮かび上がってくるのは、森と人の共生の姿だ。森は、産業のためだけに存在しているのではない。豊かな森は、季節とともに花を咲かせ、果実を実らせる。足を踏み入れるだけで、澄んだ空気は身体に染み渡り、エネルギーを与えてくれる。自然享受権は、そんな大地に根ざした生き方の大切さを教えてくれる。

私たちは改めて、森の中で深呼吸をしてみる必要がありそうだ。木材自給率の向上とか、そんなことは置いておいていい。ただ単純に、言葉にできない自然の心地よさを肌で感じるために。

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