ネリ・オックスマンはメディアラボの助教授で、3Dプリンターなど最新テクノロジーによる新構造や新素材の開発を進めるグループ(Mediated Matter design research group)を率いています。構造や技術(ハードなもの)と、生物や自然環境(ソフトなもの)のデザインによる融合を追求していて、その表現はプロダクトからファッション、建築にまでおよびます。
Photo: Tom Allen
今年1月には、パリで開催された2013年春夏ファッションショーで、デザイナーのイリス・ヴァン・ヘルペン(Iris Van Herpen)に技術協力を行い、3Dプリンターで出力されたシームレスなワンピースを発表。ファッション業界でかなり話題になっていました。(詳細はこちら)
今回、MITメディアラボで開催された研究成果発表(リサーチ・アップデート)では、「3Dプリンターは素晴らしい。でも私たち生物は成長もするし変化もする。それをどう融合していくのか “3D printer is awesome, but Nature doesn’t work that way.”」という問題意識を提起しました。 そこで彼女のリサーチチームが注目したのは、なんと「蚕(silkworm)」。蚕が吐き出す繭糸は、驚くほど伸縮性があり、繊細だといいます。(グーグルで調べてみると、繭3個の繭糸の長さは、富士山をの標高(3776m)をはるかに超えると書いてあるので驚きです!)その繭糸と3D出力したシルクとを融合させたのが今回の実験。
繭の形にインスピレーションを受けて、ベースとなる糸を縦横無尽に緻密に張り巡らせた六角形をいくつも組み合わせてコクーンをつくり、そこに(聞き間違いでなければ)1600匹の蚕を放ちます。彼らは真っ白で繊細な繭糸を吐き出し、コクーンの編み目の薄いところを見つけ出しながら自然に強化し、全体を真っ白な繭糸で覆ってしまいました。 私は偶然、準備期間に足を踏み入れるチャンスがありました。最初はこのプロジェクトを知らなかったので、蚕にも気がつかず「わ〜、きれい」とコクーンに近づきました。ところが、よく見てみると無数の芋虫が這い回っているではないですか!!女の子ぶるつもりは毛頭ありませんが、「キャ〜」と叫ばずにはいられませんでした。
でもリサーチアップデートの当日には、蚕は全て取り除かれていて(誰がどうやって取り除いたんだろう?!)、真っ白に輝くコクーンが飾られていました。
テクノロジーと生物のコラボレーション。それは対立するものではなく補完しあうものだというネリの解説が説得力がありました。無理にテクノロジーだけで解決しようとしない。昔からある生物や自然のもつ力をうまく組み合わせることで、大きな可能性が見えてくる。これは他の多くの領域にも当てはまるように感じました。 しかし、何よりも印象的だったのは、ネリの美しさです。堂々としていて、スタイルも良くて。そんな美しいネリが、うっとりとしながら「蚕ってすごいのよ」と蚕が糸を吐く映像を解説する姿に、すっかり魅了されてしまった私でした。