「終わらせ方」に挑戦した3年目のUSIO Design Project
プロジェクトを終わらせるプロジェクト?
─ 今年のUSIO DESIGN PROJECTは、どのようなきっかけで始動したのですか?
寺井:
これまでの活動を通じて、取り組みやプロダクトの評価は得られていましたが、情報が届いている範囲が限定されるよね。と石垣市役所のみなさんと話をしたのが起点になっています。今までストーリーやプロセスにこだわって伝えてきましたが、それだけでは伝えきれない、「美味しそう〜とか、いい匂い〜とか、行ってみたい〜」をもっと伝えたいと思いました。
これまでの2年間でやってきたのは、どちらかというクリエイターや、アーリーアダプターな人たち向けのメッセージになっていましたが、同じ素材を使って、いわゆる一般旅行者に届くような翻訳をして届けよう。ということで3年目のプロジェクトである「ISHIGAKI NOW」がはじまりました。
ただ一般旅行者向けと一言でいっても、石垣市役所のみなさんもロフトワークも、もうどっぷり石垣側の視点になっていたので、外部からの視点を入れる必要がありました。そこで、雑誌という形で「広く届ける」ことに取り組み続けているPAPERSKY※の編集長に入ってもらい、我々に足りない部分を補ってもらっています。彼らの嗅覚や取材先をセレクトするさじ加減で、コンテンツを作ってもらっています。
※PAPERSKY(地上で読む機内誌というコンセプトの雑誌 : http://www.papersky.jp/)
それから、今回のプロジェクトは、プロジェクトの終わらせ方にも挑戦しています。
以前プロジェクトに関わっていた中田一会さん(2015年までロフトワークに在籍)が、「地域プロジェクトの終わり方」というタイトルで記事を書いていました。プロジェクトの終わらせ方はずっと考えながらやっていたことなので、記事を読んだ時に、最後一緒にやってないのに、どうして考えてることがわかるんだろう。とびっくりしました(笑)
─ なるほど。プロジェクトが終わっても、どのうように続いていくかを考えるプロジェクトでもあったんですね。
寺井:
そうです。Webメディアみたいに頻繁な更新がなくても、生きていて、仮に続けられるとなってもちゃんとアップデートしていける仕組みのデザインです。
Webサイトや見え方の設計はもちろん、プロジェクトの運営体制としても沖縄の地元雑誌であるモモトの編集部と一緒に作ることで、ロフトワークが抜けても、島の中でトーン&マナーが共有され、石垣市役所のみなさんを中心に情報がアップデートしていけます。
─ 一過性の企画ではなくて、きちんと地元の人たちが自走できる仕組みを作ったということですね。
寺井:
千晶さん(ロフトワーク代表取締役 林千晶)と最初にはなしていたのは、USIOっていう名前がなくなっても続けられるようにやろうよ。ということで、USIOという名前ありきじゃなくてちゃんとものが残っていくようにしようと。
続いていくという視点では、Instagramにも挑戦しています。Instagramの#ishigakinowがサイトトップに表示されるので、サイト自体更新がされなくても「今」のリアルな石垣島を感じられます。また市役所のみなさんが島内で「インスタやってるので#ishigakinowでアップしてください〜」と島民/旅行者に声をかけるネタとして機能することも想定しています。その為に#ishigakinowを紹介するカードも作りました。
サイト自体の更新は2016年3月で止まっていますが、#ishigakinowは1700件以上も投稿されていて、中には2000件以上のいいねがついているコンテンツもあります。
“島の中で見る”という体験のデザイン
─石垣島の魅力に気付いてもらい、実際に島に行き体験してもらいたいということですね。
寺井:
もちろんそれもありますが、実はこのサイトは石垣島に来る前に見るためには作っていません。島の中で見て欲しいんです。もちろん別に事前にみてもらうのは全然構わないのですが、メインはそこではありません。
島で、あ。なんか時間余ったけどどうしようかな。とか、格安航空会社でノープランで来てなにしようかな……。となった人とか。その場で何か調べた人がこの情報にアクセスして、こういう過ごし方すればいいのか。というちょっとしたお手本になるようなイメージです。
─ なるほど。でも「石垣島」で検索しても出てこないですね。
寺井:
検索で「石垣島」はビッグワードすぎて検索結果には出てきません。でも、そこもちゃんと考えていて、そのために手に取れる冊子を一緒に作っていたり、島内の無料Wi-Fiのスタート画面にバナーを貼ってもらってサイトへの導線を確保したりしています。島に到着してWi-Fiを拾うと、まずこのサイトへの導線があります。
─ SEOで勝たなくていいっていうのは面白いですね。
寺井:
笑。これだけの観光スポットかつビッグワードです。SEO業者がしのぎを削っていてもおかしくないところで、新しいサイトを作って勝負しても勝てるもんじゃないですからね。
─だからターゲットは島にすでにいる人にしたということですね。
寺井:
例えば中国や台湾からクルーズ船で、多くの旅行者が石垣にきます。大型バスで島内の主要スポットをまわり、大きな食堂で一斉にごはんを食べる。この消費される旅をなんとかしたいと思いました。
彼らが島に着いた時に、こんな楽しみ方があるんですよって気付いてもらって、じゃあもうバス乗らないで好きに島内をまわろうとか、次来るときは個人旅行でゆっくりしにこようっていうきっかけを提供したいと考えました。
台湾にいる人に、このサイトを見て石垣どう?って訴求してもまだまだ距離がありますが、実際に島に来ている人には、ちゃんと深くまで届けられるし、記憶に残してもらえるのかなと。
だから、冊子も何でもかんでも情報を詰め込むのではなく、写真集みたいな形で作っています。ホテルでチェックインして部屋に入った時に、ベッドの上にぽんっておいてある。それをバラバラバラと見ると、綺麗だなと思ってもらえるし、なんかこれやってみようかなっていうのが最初のきっかけになったり。
さらに持ち運びやすいサイズも意識していて、持って帰ってまた見たいなとも思ってもらえるところまで考えています。
長期的な関係の中で見えた本質的な問い
─ CCライブラリを作ったり、島で見つけてもらうっていう考え方だったり、冊子を持って帰ってもらうっていう作りだったり。終わっても残る、続くようにというのがすごく考え抜かれているのですが、これらが続いていくためのアイデアの種はどこから生まれたのですか。
寺井:
カラダのなから湧き上がって……というわけではなく、ずっと、市役所の小笹さん翁長さんや石垣市のみなさんと飲んだり話したりいろんな活動をしていく中で、これじゃダメだね、こうしたいよね。みたいなものから自然にでてきた感じです。「サステナブル」であることを要求されていたわけではないんです。
もちろん私もできれば続けていきたいと思っていますが、3年の節目は大事だから一度終わりにするというのにも賛成でした。石垣市役所側でも、続けられるか不安に思うところもあったので、予算やリソース的にも無理せずに続けられるプロジェクトのサイズも考えました。
─ ゴールを決め過ぎないというのもよかったのかもしれませんね。この目的に向かってみんなでゴーっていうゴールを決めてしまうと、出てこないアイデアが結構ある気がします。
寺井:
納品物を何にするか。という話ではありません。冊子も依頼があって作ったわけではなく、お互い共有している大きな目的のために、じゃあ冊子作ったほうが良いよね!となっています。普通のお仕事だとなかなかこうはなりませんが、この3年間コミュニケーションはかなり頻繁にとっていました。メンバーから仕事に関係ないことがLINEで来たりするレベルです(笑)
でも、こうやって長く密にやり取りする中で、何を作るかや、本質的に考えなければいけないことがおのずと共有されていったと思います。
─ なるほど。本質的な問いが長期的なやりとりの中で見えてきたのですね。このプロジェクトは今回でいったん終了となっていますが、またどこかで続いていきそうですね。
プロジェクトの詳細
石垣島へ訪れた旅行者へ新たな「旅の視点」を提供し、一過性ではなく、島の魅力がずっと発見され続ける仕組作りに挑戦した、「地域×デザイン」プロジェクトです。