
意識改革の起点は、“働く空間”だった。
経営ビジョンを実現するオフィスリニューアル
Outline
社員のマインドや働き方を進化させるオフィスへ
中央復建コンサルタンツ株式会社(以下、CFK)は、社会インフラ分野のパイオニアとして、計画系/道路系/鉄道系/構造系/環境・防災系の5つの技術部門を有する総合建設コンサルタントです。国内のみならず海外にも事業を展開し、幅広い地域で活躍しています。
CFKは根幹となる価値観や働き方、そして未来に向けた進化を支える経営ビジョンとして「プロジェクト志向」を掲げています。これは「真の顧客を意識し、自ら問題を設定して能動的に動くスタンス」を意味し、全社的な姿勢として取り組んでいます。
2021年、ウィズコロナによって働き方が大きく変化する中、CFKは新たな時代に対応するためのオフィスリニューアル計画をスタートさせました。本プロジェクトは、経営ビジョンである「プロジェクト志向」を具現化し、社員の意識や働き方を進化させる重要な取り組みとして位置づけられています。その目的は、単なる物理的な空間の刷新にとどまらず、「これからの時代にふさわしいオフィス環境の創出」と「価値創造へとつながる新しい働き方への進化」を実現することにあります。
プロジェクトは、CFK、建築パートナーのetoa studio、ロフトワークの三者が、ワンチームとなり推進しました。ロフトワークはプロジェクト全体の進行を担当し、多様なクリエイターをアサインしてプロジェクトを実行。社内外のメンバーとの連携や協業を通じて、社員のマインドや行動に変化をもたらし、CFKらしい働き方と価値創造へつながるオフィス環境の計画プロセスと空間をデザインしました。
CFKが重視したのは、社員のマインドや働き方の進化です。特に、U35世代(35歳以下の若手)を中心に多くの社員を巻き込み、マインドセットの変革を促すイベントやワークショップを多数開催。これらプログラムを通じて、オフィスリニューアルのプロセスそのものを社員の意識・行動改革の機会としました。また、これらのプロセスは、コーポレートサイトの記事コンテンツとしても公開しており、社外への発信・ブランディングにもつながっています。
2025年春には、大阪本社オフィス第1期リニューアル工事が竣工し、社員による自主的な企画や活動が生まれるなど、オフィスの活用法にも新たな変化の兆しが見え始めています。
Output
中央復建コンサルタンツ 大阪本社オフィス
1Fフロア「1TTAN(いったん)」
「1TTAN(いったん)」と名付けられた1Fフロアは社内外の人々が集まり、様々な活動に対応できるよう、特徴的な機能を持たせています。具体的には、トークイベントや展示に使える「パーク」、多面的な映像共有が活発な議論を促すスタジオ「Xスタ(クロスタ)」、そしてデジタル技術で天然木の素材を最大限に活かしたロングテーブルが特徴の「カウンター」などがあり、多目的に利用できます。
ネーミング「1TTAN(いったん)」には、明確な目的や動機がなくても「一旦」1Fに行ってみれば、面白いことや新しいことに出会える・相手の意外な考えの「一端」を知ることができる・誰かとつながり何らかのチームの「一端」になれるという想いを込めています。
1Fの使い方

ロゴ・サイン
道の途中に何かができそうな無限の可能性を秘めた空間がある。そんな様子をイメージしたロゴデザイン。 1Fのサインデザインなどにも展開しています。




コピーライティング:久岡 崇裕・小園智香(株式会社parks)、ロゴデザイン:清水 艦期
執務フロア
執務フロアの使い方

Approach
現状の業務に留まらないフィールドで、オフィスと社員自身を変えていく
新しいオフィス環境の基本構想を描くにあたり、CFKは単なる空間設計にとどまらず、社員の意識や行動変容を促すための仕掛けとして複数の「フィールドリサーチ」を実施しました。オフィスの外に出て新たな領域や価値観に触れることで、社員一人ひとりが業務の枠を超えた視野を広げ、探究心を育むことを目的とした取り組みです。
訪問先として、生物多様性に配慮した東本願寺の飛地境内地の庭園「渉成園」、林業のマイクロ六次産業化に取り組む鳥取県智頭町、そして日建設計の共創スペース「PYNT」などが選ばれました。これらの場での体験を通じて、参加者は多様な生き方や考え方のヒントを得るとともに、自身の内面にも変化を感じる機会となりました。仕事から少し離れた環境で時間をともにすることで、互いの人となりが自然と表れ、信頼関係や相互理解が育まれました。
また、自然と共生しながらつくる庭や、意図的に“整えすぎない”空間の在り方からは、「完成を目指す」のではなく、「変化に開かれ続ける」という新たな空間設計の視点が得られました。すべてを一気に解決しようとせず、できるところから仲間と楽しみながら実験的に取り組む姿勢の重要性にも気づかされました。
このような気づきの積み重ねは、オフィス運営のあり方そのものを再構築していく思考のアップデートへとつながっています。
さらに、このフィールドリサーチで得た視点は、実装フェーズにも波及しました。たとえば、京都の公共空間の整備に支障する樹木を廃棄物としてではなく、オフィス家具の素材として活用する試みが始まり、実際の空間づくりにも活かされています。(詳細記事を読む>>)
このように、フィールドリサーチは「プロジェクト志向」を行動として体現し、CFKらしい価値創造のあり方を具体化する原動力となっています。
智頭町でのフィールドワークの様子
映像制作:ロフトワーク クリエイティブディレクター太田佳孝
ハードだけでは変わらない。若手社員の“意志”を創発する仕掛け
オフィスを綺麗に・機能的にリニューアルするだけでは、組織や働き方は変わりません。CFKが重視したのは、リニューアルを通じて社員一人ひとりの内面を創発させ、意識、行動を変革すること。そして、その中心にいたのが、全社員の約33%*を占める35歳以下の若手社員たちでした。
彼らが新しいオフィスを「自分たちの場」として主体的にとらえられるよう、プロジェクトでは共創パートナーや社内メンバーと対話を重ねながら、ボトムアップ型の空間づくりを推進。単なる設計プロセスにとどまらず、マインドの変化を促す「参加型の仕掛け」が複数展開されました。
たとえば、社内で自分たちの働き方の現状と理想を語り合うワークショップ「喫茶シランケド」や、中期経営計画を咀嚼し、未来のCFK像を若手なりに描く「価値創造を噛み砕くロジックモデルワークショップ」。さらに、オフィスの本棚のあり方や運用方法を考える実践型のワークショップなども行われました。
*2023年12月時点での数値。CFKで働く社員523名のうち、35歳以下は173名、全体の約33%を占めています。
これらの取り組みを通じて、若手社員たちの中に、「互いの個性と意見を尊重し、働きやすい環境を一緒につくっていきたい」といった意識の変化が芽生え始めました。プロジェクトが進むにつれ、ひとりの「意志」から、チームとしての「自分たちの意志」へと広がっていく——。新しい働き方への当事者意識が着実に育っていきました。
オフィスリニューアルは、物理的な空間だけでなく、社員の内面にある“働く理由”や“関わり方”までも再構築するプロセス。CFKの取り組みは、まさに「人が変わる」ことから始まる空間づくりといえます。

プロセスをオープンに発信し続ける。マインドを伝え、関係人口を増幅するコンテンツ
コーポレートサイトでプロセスを常時発信
CFKでは、「自分たちの手でつくるオフィス環境」というメッセージを社内外に発信するため、プロジェクトの進捗や取り組み内容を継続的に可視化する仕組みを構築しました。その中心となったのが、コーポレートサイト上で展開している「オフィス環境づくりシリーズ」です。
本シリーズ記事は、プロジェクトに直接関わっていない社員にもそのプロセスを伝え、理解や共感、参加意識を育むことを目的に制作しています。また、採用サイトからもアクセスしやすい導線を整えることで、入社前の候補者にもCFKの価値観や意思を伝える重要なタッチポイントとなっています。
オフィスリニューアルの取り組みを単なる「完成後の空間紹介」で終わらせず、プロセスそのものをコンテンツ化して発信し続ける。こうした姿勢が、社員の当事者意識と組織文化の醸成、そして社外との接点づくりの両面で、確かな効果を生んでいます。
オフィス環境づくりシリーズ記事コンテンツ(CFKコーポレートサイト内)
01:新たな価値創造を支える働き方の実現に向けて
02:社内外の共創を生み出すには? 対話を通して空間や仕掛けづくりを考える
03:地域の生態系ネットワークと呼応する、オフィスと都市の未来
04:大阪中津・西田ビルに学ぶ、自社オフィスを通じてまちを良くしていく覚悟
05:リサーチから見えてきた、わたしたちの未来の作り方
06:本音を話すことからはじめよう。部門を超えた同世代の繋がりづくり。U35ワークショップ「喫茶シランケド」
07:これからの仕事と働き方を、私たちが作っていくために。U35「価値創造を噛み砕くロジックモデルワークショップ」
08:『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』著者・三宅香帆さんと考える、CFKらしい「オフィスの本棚」
09:まもなくリニューアル。生まれ変わったオフィスを自分たちらしく活用するための手引きを作ろう
各フロアの取扱説明書「ここらで いったんHAND BOOK」/「FLOOR GUIDE & MAP」
リニューアルされたオフィスを、社員が自分たちのスタイルで柔軟に活用できるようにするために、CFKでは「ここらで いったんHAND BOOK」というユニークなハンドブックを制作しました。
この冊子は、各フロアの“取扱説明書”として機能するだけでなく、オフィスに対する好奇心を喚起し、利用の幅を広げるためのガイドとしても設計されています。掲載内容はフロア名称に込めた意味、活用のヒントやアイデア、新しいオフィスを起点に生まれる未来予想図など。
単に「使い方」を説明するのではなく、「どう使えばもっと面白くなるか?」という視点を重視した本ハンドブックは、社員一人ひとりの主体的なオフィス活用を促し、新しい働き方の実践を日常に落とし込むための重要なツールとなっています。
Process

動画:オフィスと働き方のアップデートプロジェクト『誰よりも、好奇心』
社内外への広報・ブランディングツールとして、オフィスリニューアルの取り組みを伝える動画を制作。大阪本社オフィスのリニューアルに至るまでの経緯やハイライト、改装工事中のプロセス、今後の展望について、社員の声とともに収録しています。
撮影・編集:廣川文花(BUNCA.)
Members
メンバーズボイス
“たくさんの魅力的な人たちと出会い、新しい視点や価値観に触れる。このプロジェクトは、まさに私たちが目指す“これからの働き方”のプロトタイプです。進める中でメンバー自身に変化が生まれ、それぞれの個性を土台に共感力と創造性が自然と育まれていくのを感じました。
そんな変化を社内全体に広げる芽となった若手メンバーたちの存在は頼もしく、心から誇りに思っています。新たなオフィスを舞台に、私たちの働き方はこれからも進化していきます。”
中央復建コンサルタンツ株式会社 道路系部門 橋梁・長寿命化グループ 加藤 慎吾
“オフィスリニューアルを経て、執務空間の選択肢が多様化し、共有空間が拡充されました。これらにより、コミュニケーションが活発化しただけでなく、多様性に対して社員が寛容になりつつあります。
さらに、ロフトワークさんをはじめ、様々なクリエイターの皆さんと共に歩む中で、CFKの新たな指標となる “誰よりも、好奇心”という言葉が若手社員から生まれました。
この言葉を大切に、好奇心を日々の原動力に変えることのできる空間を新しいオフィスで育んでいます。”
中央復建コンサルタンツ株式会社 道路系部門 道路グループ 菊地 佑
“今回のプロジェクトでは、ロフトワークさんと並走しながら、様々な視座を多角的に取り入れたフィールドワークや活動を通して、私達設計チームもこれで完成という観点だけではなく、CFKさんが10年先、20年先をどのように過ごせたら良いのかという視点をもって設計することができました。可動することで色々なコミュニケーションを誘発する家具であったり、CFKさんの事業のスピンオフである支障木のテーブルなど、これからにつながるストーリーのある仕掛けを提案させていただきました。
「見た目の良い空間を作ることが目的ではない。本当に変わりたいのは自分達なんです。」とプロジェクト当初から仰っていたCFKさんとは、この4年間を通じて共に変化しながらも、芯の部分の熱さはそのままに、これからも引き続き走り抜けていきます!”
株式会社エトアスタジオ 河合 晃 / 住友 恵理
“本プロジェクトを4年間担当させていただきました。個人的なハイライトは、PMを担った3年目にプロジェクトメンバーと鳥取の山で合宿をしたこと。共に現場で作業して語り合った時間は、組織の垣根を超えた“ひとつのチーム”としての力をグッと高めてくれました。若手とベテランが混じり合ったCFKのタスクフォースメンバーですが、若手メンバーの責任感と行動力が顕著になってきたのがこの時期だったように思います。異なるロフトワークのカルチャーにもリスペクトを持ち面白がってくださったので、新しい働き方を推進するための様々なアクティビティを実践することができました。
初年度に設計者としてジョインいただいたetoa studioさんと密にコミュニケーションをとり、ハード部分はetoa studioさんたち、ソフト部分はロフトワーク…とお互いに信頼して共に歩めたことは本当に心強いことでした。
様々な過程でデザイナー、編集者、コピーライター、イラストレーター、林業家、バリスタ…多様なクリエイターに関わっていただきました。ありがとうございました!”
ロフトワーク クリエイティブディレクター 服部 木綿子
Credit
プロジェクト基本情報
クライアント:中央復建コンサルタンツ株式会社
プロジェクト期間:
- コンセプト策定 :2021年8月-2022年3月
- 基本設計:2022年7月-2023年3月、2023年5月-2024年3月
- 施工:2024年7月-2025年1月
体制
- 株式会社ロフトワーク
- プロジェクトマネジメント:服部 木綿子、上ノ薗 正人、松本 亮平
- クリエイティブディレクション:大石 果林、太田 佳孝、圓城 史也、黒田 晃佑(ヒダクマ)
- プロデュース:小島 和人
- 共創パートナー
- 株式会社エトアスタジオ
- 制作パートナー
- 1TTANクリエイティブ
- コピーライティング:久岡 崇裕・小園智香(株式会社parks)
- ロゴデザイン:清水 艦期
- ハンドブック制作
- 編集:濱部 玲美 (株式会社KUUMA)
- アートディレクション・デザイン:NATSUKI HOSOKAWA DESIGN
- イラスト:マエダ ユウキ
- 設計
- 株式会社エトアスタジオ+溝部礼士建築設計事務所
- 株式会社グリーン・ワイズ(ランドスケープ)
- 森山 茜 Studio Akane Moriyama(テキスタイル)
- 杉尾篤照明設計事務所(照明)
- 施工
- 株式会社船場
- 阪神園芸株式会社
- 株式会社飛騨の森でクマは踊る(カウンター・外構サイン)
- 進弘産業株式会社(テキスタイル)
- 1TTANクリエイティブ
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