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職場を科学するPeople Analyticsシリーズ vol.01
「職場の人間科学」出版記念特別イベント
〜MITメディアラボ研究員と考える、未来の会社・理想の働き

ライフスタイルが多様化し、「働き方」に高い関心が集まる昨今。科学的なアプローチによって“理想の働き方”を分析するMITメディアラボ研究員のBen Waber氏が、新著『職場の人間科学』(早川書房)の発売を記念して、プレゼンテーションと、ゲストを招いたトークセッションを開催しました。

未来の「働き方」をセンシング!?

「People Analytics」とは、仕事の生産性や満足度を上げる方法を、データの解析によって導き出す手法のこと。Ben氏の取り組みの注目すべき点は、これまで経験則や主観的な観察によって得ていたデータを、オフィスでのWebの閲覧履歴やメールの記録、そしてウェアラブル・センサーなどから得られるビッグデータに基づいて科学的に解析するところです。

Ben氏によるプレゼンテーションに先駆け、司会進行を務める「TOKYO WORK DESIGN WEEK」の横石氏と、モデレーターのロフトワーク代表・ 林千晶が開催趣旨を説明。旧来の恣意的なアンケートやインタビューからは浮かび上がらない“本音のデータ”が、未来の働き方に与える良い影響への期待を語りました。

ベンチ 横石 崇氏(左) ロフトワーク 林 千晶(右)

”雑談”が生産性をあげる?データに表れる「非公式的コミュニケーション」の価値

そしていよいよBen氏によるプレゼンテーションがスタート。開口一番、「今日、何人とどれくらいの時間、会話をしたか思い出せますか?」と流暢な日本語で問いかけるBen氏。天候や体調、心情によって変化する人のコンディションや記憶のあやふやさを指摘すると同時に、「企業が顧客のデータに基づいて店舗のレイアウトなどを決めるように、“自分自身”についての精確な計測データを得ることができたら、働き方はどう変わるでしょうか?」と語りかけます。管理されるためではなく、自分自身の「働き方」を理解し、よりクリエイティビティを高めるためにデータを収集・分析するという視点は、「People Analytics」全体に通底する重要な考え方です。

Ben Waber氏

「People Analytics」を支えるのが、MITの開発した「ソシオメータ」(社会学的な計測器)と呼ばれる汎用的なセンサー装置。赤外線、音、運動といった複数のシグナルを同時に測定し、人間の行動を客観的に分析するためのデータを収集します。Ben氏が研究に用いるのは、それを進化させた「ソシオメトリック・バッジ」。現在開発中で完成間近の最新型は、トランプほどの大きさで重さはわずか25g。首から下げるなどして身につけることができます。

ソシオメトリック・バッジ(http://hd.media.mit.edu/badges/ から)

「People Analytics」でわかることの一例

  • 自分のインタラクションパターンの理解
  • 声の音量や速度からストレスレベルを把握
  • 姿勢から自分のエネルギーレベルを把握
  • デジタルツールでコミュニケートしている相手とその頻度
  • 会議中に自分が発言している割合の計測

また、「People Analytics」は、個人の働き方はもちろん、集団の働き方にも次のような新しい視座を与えてくれます。

  • 「非公式なエキスパート」の存在
    あるIT企業で行った計測実験では、組織の中で特別に目立った実績を上げている訳ではないけれど、その人物と会話することで他の人間の生産性が上昇する、いわゆる「非公式なエキスパート」の存在が明るみになったそうです。自身の生産性ではなく、他者の生産性を上げることでグループに寄与するこのようなスタッフの存在も、「People Analytics」を取り入れることで正当に評価することができます。
  • エンゲージメントと生産性の関係
    ひとつの管理システムで動いているコールセンターで、なぜグループごとに生産性がちがうのかを「ソシオメトリック・バッジ」を用いて検証。客観的な生産性と行動の相関を調べたところ、グループのエンゲージメントが高ければ高いほど、生産性も高まるという結果に。そこで、これまでグループ内で時間差で取るようにしていた休憩時間を揃えるように変更したところ、インタラクションの増加とストレスの軽減、生産性の向上が認められました。

このような事例から、これまで生産性と直接結びつくと考えられていなかった、雑談などの「非公式的コミュニケーション」が、非常に重要な意味を持つことがわかったと語るBen氏。それと同時に、大がかりな組織改革を行わずとも、タイムテーブルの見直しや、スタッフが集まるウォーターサーバーの位置の工夫などによって、職場の生産性を飛躍的に変えられる可能性を示唆しました。

プレゼンテーションの締めくくりは、職場の未来について。未来のオフィスを想像するとき、映画『ハリー・ポッター』のように、自動的に動き出す階段が頭に浮かぶというBen氏。階段がフロアとフロアをつないで会話を交わすべきグループ同士にインタラクションをもたらしたり、ロボット化したコーヒーメーカーが自ら動いて新しいブレイクスペースを提供する風景。人がオフィスに合わせるのではなく、人に合わせてオフィスが変化する未来も、「People Analytics」が浸透した社会ではありうると想像させてくれました。

データは未来を変える新しい”ものさし”

後半は、参加者同士の意見交換タイムをはさみつつ、ロフトワーク代表・林と『WIRED』日本版 編集長 若林 恵氏を交えての質疑応答とトークセッション。三者がそれぞれ実際に「ソシオメトリック・バッジ」を身につけ、そのリアルタイム計測結果を背後に投影しながらトークを行いました。

「People Analytics」データは誰の物か

「『People Analytics』を紹介した際、コミュニケーションが可視化されることにワクワクする人と、怖がる人に分かれた」と林。それを受けて、もし計測に参加したくない場合はダミーのバッジを付けることも可能と説明するBen氏。けれど実際には、この1年間では約95%の人が実計測に協力したそうです。その理由として、個人の「People Analytics」データを企業にそのまま提供しないことが挙げられると言います。会社に提供するのは平均値や結果と相関まで。その上で、個人も自分自身のデータのフィードバックを閲覧できるとのこと。このトピックスは、会場でも特に気になっていた方が多かった様で、うなずいたりメモを取る姿が多く見受けられました。

ロフトワーク 林 千晶

ビックデータによる新しいものさし

若林氏は、野球を引き合いに出しながら「基準にするパラメーターによって、ゲームの定義がガラッと変わる」現象について言及。「今までの世の中は、非常に雑な物差しでしか人を測ってこなかった。勤務時間や案件の獲得件数だけではなく、選球眼の善し悪しのようなものにも評価が与えられるようになるのはいいこと。何が生産性に寄与しているかを見つめ直すことで、“仕事”というゲームの再定義がなされていくでしょうね」。その良き実例でもある「非公式なエキスパート」の存在について「そうした人物はどの職場にもいて、人間関係を重んじる日本では特に重要な存在になる」とBen氏は言います。

『WIRED』日本版 編集長 若林 恵氏

未来を変えていく技術

「人間は、毎日の気圧や血糖値の変化でも調子が悪くなったりする。そういう自分のパフォーマンスのクセも、データを見ることで発見と対処ができる」と若林氏。今まで時間をかけて経験則から発見してきたことが、データによってよりスマートかつ精確に把握できるようになります。同時に、何かを変えたり決定する際の裏付けとしても、データが活躍してくれることが予想できます。「この技術を活用することで、自分の働き方だけでなく、自分の人生。そして、新しい会社だけでなく、新しい社会をつくることができる」と語るBen氏。

「People Analytics」を通して、一人ひとりがより自分らしいパフォーマンスを発揮して日々を過ごす。そんなポジティブな未来像を会間見ることができるセッションとなりました。

Ben Waber氏

イベント概要

いま、“創造的な働き方”が求められ、働き方や会社は大きく変わろうとしています。

毎日のように、新しい働き方や会社にまつわる書籍は出版され、Facebookのタイムラインにはステキな仕事術の記事が並びます。でも、そこに書かれている働き方や組織づくり、コミュニケーション論というのは、あるひとりの成功者の伝記や精神論、根性論が多く、主観的で、昔ながら慣習に囚われがちな前時代的なものが多いのも事実です。

そんな中で、最先端のテクノロジーを活用して”理想の働き方”の科学的な分析アプローチを行うMITメディアラボ研究員のBen Waber氏が「People Analytics」という一冊の本を出版し、話題を呼んでいます。 「People Analytics」というアプローチは、職場の人々のつながりや協調、信頼の構築という今までは目に見えなかったものをビッグデータ収集と分析によって、まったく新しい測定基準を生み出し、まったく新しい経営観を生み、仕事のパフォーマンスを強化することができる注目の新技術です。

今回、日本での出版を記念してBen氏をお呼びし、「創造的な働き方を測定して、評価するにはどうしたらいいのか?」をテーマに、クリエイティブ産業に関わる人たちと一緒に未来の会社や働き方、組織づくりについて学んで、対話していくことを目指してみようと思います。

 

開催概要

セミナータイトル 職場を科学するPeople Analyticsシリーズ vol.01
「職場の人間科学」出版記念特別イベント
〜MITメディアラボ研究員と考える、未来の会社・理想の働き方〜
開催日時 2014年6月3日(火)19:00~21:00(開場 18:30)
場所 loftwork Lab.[ 東京都渋谷区道玄坂 1-22-7 道玄坂ピア10F ]
参加費 2,000円
※1ドリンク+登壇者の著書「職場の人間科学」(早川書房)付き
定員 先着70名
主催 Tokyo Work Design Week  
発起人 林 千晶(ロフトワーク)
Mitsuo Yoshizawa(TEDxTokyo)
小島 幸代(ベンチ)
横石 崇(ベンチ)
協力 早川書房
TED x Tokyo
BENCH
loftwork

プログラム

19:00
開始

19:15
Benさんによるプレゼンテーション

Ben Waber氏
ソーシャル・センサー技術を用いた経営コンサルティング・サービス会社「ソシオメトリック・ソリューションズ」の社長兼CEO。MITメディアラボで博士号を取得し、現在は客員研究員をつとめる。ハーバード・ビジネス・スクールの元上級研究員。日立製作所の中央研究所やリコーの中央研究所で働いた経験を持つ。ウェイバーの研究はワイアード誌、ニューヨーク・タイムズ紙、ナショナル・パブリック・ラジオで取り上げられており、ハーバード・ビジネス・レビュー誌の「革新的なアイデア」や、テクノロジー・レビュー誌の「新興技術トップ10」に選出されている。また、LGやマッキンゼーといった大手企業のコンサルティングを行なうほか、グーグル、EMC、サムスンなどから講演の依頼を受けている。 

20:00
未来の会社トーク
ゲスト:WIRED編集長 若林恵氏
モデレーター:ロフトワーク代表取締役 林千晶
進行:Tokyo Work Design Week代表 横石崇氏 

21:00
終了

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