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GOOD DESIGN BEST100とその未来 vol.4 こころを動かすデザイン・アート 「ハンディキャップ」の未来を変える 開催レポート

2013年度“グッドデザイン・ベスト100”に選ばれた商品にフォーカスし、イノベーションのヒントに迫るシリーズイベント第4弾は、メディカルチャープラスが開発した「ドライカーボン松葉杖」に注目。同じく福祉業界の常識や価値観を再考する取り組みとして、ヨコハマ・パラトリエンナーレを主導する栗栖良依氏をゲストに、新しい視点から「ハンディキャップ」を取り巻く社会課題と向き合いました。

コンセプトは新産業創造。多様な人とオープンな発想で未来を創るKOIL

オープニングトークで、「未来は予測するものではなく創るもの。多様な人が集まって一緒に未来を考え、そこで生まれたアイデアを実行していった先に未来がある。それを可能にする場が、本日の会場KOILです」とロフトワークの林千晶。

ロフトワーク 林 千晶

本シリーズイベントも、未来を創る活動の一つとして始まったものであり、林は「優れた未来を創った人たちをゲストに、いわゆるビジネスセミナーではない、この距離だからこそ引き出せる生の声を聴く。さらに、話を聴いた上で次のプロダクトをどうイメージするかまで考える。これが趣旨です」と説明します。

ここで三井不動産株式会社の加藤慶氏が加わり、KOILの特長を紹介。

加藤氏は、「コンセプトは新産業創造。そのためのコワーキングスペースKOIL PARKは、いろんな人が集まって、オープンな発想ができる場所にしていきたいと考え、人との交流や出会いを大事にした空間、多様な人を巻き込む仕掛けを用意している」と語り、林からは、アイデアをすぐにカタチにできる機能、人の気持ちに寄り添い、偶然の出会いが生まれることを狙った空間などがアピールされました。

三井不動産株式会社 ベンチャー共創事業室 加藤 慶氏と林

仕方なく使う歩行補助器具から、持っているだけで誇らしい松葉杖へ

「自分に合う松葉杖に出会えません」。この一通のメールがきっかけで、株式会社メディカルチャープラスの代表取締役社長、杉原行里氏は松葉杖の開発に着手。市場に流通する松葉杖はレンタルユーザーを想定したもので、いわゆる量産品がほとんどです。その方にとっては一生使うものなのに、個人消費を目的とした松葉杖に出会えずにいたのです。

株式会社メディカルチャープラス 杉原 行里氏

ちょうど医療・福祉業界で自分たちのアイデアや想いを表現したいと考えていた杉原氏。個人消費を目的とした松葉杖をデザインするにあたり、次の5つの課題がありました。

課題

  • ものすごく重い
  • アジャストメント機能があることによって自分の所有物と感じられない
  • アジャストメント機能があることで摩耗してくる
  • ビスが外に出ていて洋服が傷む
  • デザインがないがしろにされている

そこで、素材にはドライカーボンを採用し、従来の1/3の軽さ310gを実現。パイプ部分はレディーメードで長さを変えられ、カラーリング展開も用意。「計算し尽くされた最高傑作。23万円、どうですか?」と会場の笑いを誘う杉原氏は、「仕方なく使う歩行補助器具が、ユーザーの所有欲を満たす松葉杖へと生まれ変わった」と強調します。

わずか310gのドライカーボン松葉杖

続いて同社の共同代表取締役で、デザインディレクターである山崎晴太郎氏が、プロダクト開発に必要な3つのデザイン「思想・概念デザイン」「基本デザイン」「実施デザイン」のうち、自身が担当した「思想・概念デザイン」について持論を展開。同氏が目指した思想・概念設計は、ファッションのように豊かな選択肢を与えること。それは、使わなくてはならないものの中からの選択ではなく、使いたいという積極的な嗜好性を生み出すこと。

株式会社メディカルチャープラス 山崎 晴太郎氏

いつか乗りたい車、いつか行きたい場所と同じように、いつか使いたい松葉杖があっていい。そのために、ヒアリングを通して情緒の中から新しい概念を見つけるプロセスがあり、それを機能に落とし込み、再び情緒に戻して社会にリリースしていく作り方をした」と山崎氏。

今回は「カーボン、かっこいい」の一言が決め手になったように、“失ったものを補う”のではなく、失ったところに“新しい情緒を拡張”することで、以前より生活を豊かにするアプローチです。最後に山崎氏は、「もちろん、この松葉杖がすべての環境を変えられるとは思っていない。世の中に何らかのインパクトを与えられれば、そこから派生していくものはいっぱいある。そこに意味があると思う」と語りました。

障害者というコトバがやがて死語になる日を目指して、新しい挑戦が続く

ヨコハマ・パラトリエンナーレ※の総合ディレクターを務める栗栖良依氏は、障害者と挑む新しい試みを紹介。

※ヨコハマ・パラトリエンナーレ:鋭い知覚や能力のある障害者と、高い技術をもつ多様な分野のプロフェッショナルが、出会い、共鳴し、試行錯誤の末に新しい芸術表現を生み出す場として企画されたフェスティバル。

ヨコハマ・パラトリエンナーレ 総合ディレクター 栗栖 良依氏

栗栖氏の活動は、2009年、横浜市の「象の鼻テラス」を拠点とした新しいものづくりの実験事業「横浜ランデブープロジェクト」から始まりました。アーティストと障害者施設による自由なものづくりの可能性を模索する取り組みを続けるうち、2011年、すべて1点ものの手作り雑貨ブランド「SLOW LABEL」が誕生。栗栖氏は、「我々はマスプロダクションの先にある次世代型のものづくりを追求している。たまたまパートナーが障害者だっただけ」と強調します。

しかし、生産が追いつかなくなったのを機に、2012年、アーティストが開発した“道具”や“製法”を用いた市民参加型ものづくりプロジェクト「SLOW FACTORY」を開始。そこで目の当たりにした障害者の鋭い知覚や能力と、多様な分野のプロフェッショナルの技術力とを組み合わせることで、新しい芸術表現を生み出そうとスタートしたのが、「ヨコハマ・パラトリエンナーレ」です。

すべて1点ものの手作り雑貨ブランド「SLOW LABEL」が誕生

栗栖氏は、「これはスローレーベルの活動を、現代アートへの挑戦、実社会への応用という2つの領域に拡散していく取り組み。超人同士のランデヴーによるハイレベルな作品づくりと、誰でも楽しく参加できるイベントという2つの側面を持つフェスティバルです。ターゲットイヤーは2020年。日本が大きく変わるチャンスを迎え、多様性に目を向けさせるためのアクションでもある」と説明。

重要なのは、フェスティバルをみんなで創り上げていく過程で生まれるたくさんの気づき。「障害者というコトバがやがて死語になる。そんな日を目指して、ここからはじめてみませんか?」と語りかける栗栖氏の言葉は、未来を変える強い意思にあふれていました。

パラトリエンナーレの様々な取り組み

多様な個と個が組み合わさると化学反応が起きるから面白い

セッション終了後は、林をモデレータに、杉原氏、山崎氏、栗栖氏によるパネルディスカッションを実施。ハンディキャップをテーマにさまざまな議論が展開されました。その一部をご紹介します。

そもそも障害とは?障害者とは?

栗栖:人は人。障害は人ではなく社会の側にある。それが大前提。法律とか制度とかで障害者をひとくくりにするのも間違い。
杉原:障害を持っていない人は一人もいない。マイノリティかマジョリティかの問題。
山崎:全員をターゲットにすること自体がナンセンスなのに、障害者に対するアプローチだけなぜかひとくくりにしがち。

どうしたら人と人をつなげられる?

杉原:松葉杖を見て「あの人かわいそう」と思うのではなく、「あの松葉杖ってどのくらい重いのかな」と考える。視点を変えること。
山崎:相手が障害者だと知ると、一番大きなアイデンティティが障害に置かれてしまうことが問題。人として共感することから始める。
栗栖:障害者である前に人。本来一人ひとりが違う人間なのに、ムリに平等を意識するから不自然になる。多様性を受け入れると同時に、調和力が大事。多様な個と個がいるだけでは何も起こらないが、パズルのように組み合わさると化学反応が起きる。

情報格差もあるなかで、どうやって伝えていく?

栗栖:障害者は普段私たちが使っているのとは違うメディアを使っている。そこに気づいたのは大きな一歩。だから、パブリックな空間でプロジェクトを展開し、それを地道に続けることだと考えている。
山崎:僕らの一番の役割は、この松葉杖を拡販したり、他のバリエーションを作ったりすることではなくて、今までになかった領域に、例えばデザイン性があり、超軽量の松葉杖というような、火種を創ること。めげないで火種を起こし続けることで、コミュニケーションが広がるきっかけになれば。
杉原:より多くの人たちに僕らの想いが伝わるような潮流を作っていきたい。すぐに反応がないとくじけそうにもなるが、いつか返ってくると信じて諦めない。

3人のイノベーターに刺激された今回のイベント。そのエッセンスを組織の仕組みの中にどう組み込んでいくのか。参加者たちの挑戦もここから始まります。

2014年グッドデザイン賞 受賞結果発表

イベント概要

”GOOD DESIGN BEST100”選出のプロダクトにフォーカスして、企画開発の背景や成果を紹介し、デザインの役割やイノベーションの本質を考えるイベントの第四弾。

近年、MIT Media Lab Hugh Herr(ヒュー・ハー)教授の義足研究にみるように、義足をつけた陸上選手が健常者の我々よりもより速く走れるようになり「ハンデ=機能の欠如」という既成概念を、テクノロジーによって覆すイノベーションが世界中で起きています。そこで今回「ハンディキャップ」を取り巻く社会課題に挑むプロジェクトとイノベーターを紹介。

メディカルチャープラス 山崎 晴太郎氏は、「ドライカーボン松葉杖」で2013年グッドデザイン賞を受賞。デザインとテクノロジーを組み合わせ、ハンデを補うだけの道具だった松葉杖を、真に利用者目線にたったプロダクトに昇華させました。

ゲスト 栗栖 良依氏は「芸術表現」によって社会課題にアプローチ。ヨコハマ・パラトリエンナーレと呼ばれる、障がい者と多様な分野のプロフェッショナルが協働して新しい芸術表現を生み出すことで、社会で当たり前とされている常識や価値観を再考するための場づくりをすすめています。

ハンデがハンデではなくなる社会を目指し、社会課題に異なるアプローチで挑む実践者おふたりと、発想や視点を変えることで生み出されるインパクトについて、ワークショップも交え考えてみたいと思います。 ビジネスパーソンが仕事で活用できる新しい視点も満載の内容です。企業にお勤めの方もぜひご参加ください。

開催概要

セミナータイトル GOOD DESIGN BEST 100とその未来 vol.4
こころを動かすデザイン・アート「ハンディキャップ」の未来を変える
開催日時 2014年9月30日(火) 13:00〜17:10(12:30受付開始)
場所 KOIL(柏の葉オープンイノベーションラボ)
*最寄駅 つくばエクスプレス線 柏の葉キャンパス駅
(「東京駅」から33分、「秋葉原駅」から30分)
*所在地 千葉県柏市若柴178番地4 柏の葉キャンパス148街区2 ショップ&オフィス棟6階
地図
対象 ・優れたプロダクトの開発プロセスに興味のある方
・参加者同士のディスカッションを通し新たなヒントを得たい方
・社会課題におけるデザイン、アートの役割に関心がある方
参加費 無料
定員 50名
主催 株式会社ロフトワーク
協力 三井不動産株式会社、公益財団法人日本デザイン振興会
ご注意 ・参加者の皆さんの聴講・作業風景などのお写真や、発表いただく内容は後日弊社サイトにて掲載させていただく可能性があります。予めご了承ください。
・プログラムは予告なく変更される場合があります。

プログラム

12:30~13:00
受付開始
13:00~13:10
オープニングトーク
13:10~13:30
柏の葉イノベーションラボ「KOIL」とは?
三井不動産株式会社
ベンチャー共創事業室 主査
加藤 慶氏
13:30~13:45
KOIL 施設内の見学
13:45~14:25
「情緒豊かなプロダクトによる医療と福祉の発展」
・松葉杖を30年利用したモニターとの共同開発における発見
・最先端素材ドライカーボンのデザインにおける可能性・ユーザーの所有欲を満たすプロダクトとは
株式会社メディカルチャープラス
代表取締役社長
杉原 行里氏
「ひとの気持ちを動かすデザイン ”いつか使いたくなる松葉杖”開発のプロセス」
・課題解決のためのプロダクトデザインの役割
・人の気持ちを動かすデザインとは?
・ユーザ目線でのリサーチ、プロトタピングの重要性
GOOD DESIGN BEST 100とその未来 vol.4 こころを動かすデザイン・アート 「ハンディキャップ」の未来を変える
・課題解決のためのプロダクトデザインの役割
・人の気持ちを動かすデザインとは?
・ユーザ目線でのリサーチ、プロトタピングの重要性
株式会社メディカルチャープラス
共同代表取締役 デザインディレクター
山崎 晴太郎氏
14:25~14:40
休憩
14:40~15:10
「ハンデ+アートで”常識”のコペルニクス的転換をヨコハマ・パラトリエンナーレの挑戦」
・芸術表現を通じた社会課題へのアプローチ
・「障害」に関する既成概念を覆すための取り組み
・場、コミュニティのデザインプロセス
ヨコハマ・パラトリエンナーレ
総合ディレクター
栗栖 良依氏
15:10~16:10
パネルディスカッション
・人によって異なるハンディキャップという言葉
・ソフトウェアの解決とハードの解決から見る視点の差
・ハンディキャップを持つ人々が過ごしやすい街・社会とはどういったものか?

ヨコハマ・パラトリエンナーレ
総合ディレクター
栗栖 良依氏

株式会社メディカルチャープラス
代表取締役社長
杉原 行里氏

株式会社メディカルチャープラス
共同代表取締役 デザインディレクター
山崎 晴太郎氏

16:10~17:10
懇親会

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