ビジネスを躍進させる創造的チームの作り方
世界を変えるスタートアップには、どんなチームが必要なのか? 2015年3月25日、ロフトワークは、新たなイノベーション拠点として期待されるKOILを会場にセミナーを開催。創造的チームづくりや新しい働き方を実践するゲストから、多くのヒントを学びました。
直感的にいいと思えないこと=未知の良さにフォーカスしよう
オープニングトークで、ロフトワークの原亮介は、冒頭で一冊の本「REWORK(日本語訳著:小さなチーム、大きな仕事)」を紹介しながら、「孤独な勇者も、多様なスキルセット持つ小さなチームを組めば大きな冒険ができる」と強調。とはいえ、小さなチームに本当に大きな仕事が成し遂げられるのでしょうか。原は、「日本で実践しているゲストの話や、小さなチームでビジネスを考えるワークショップを通じて、大いに体験してほしい」と語りプログラムがスタートしました。
ゲストセッションのトップバッターは、任天堂Wiiの元企画開発者であり、現在はわかる事務所を設立しプランナーとして活躍する玉樹真一郎氏。
玉樹氏は前半で、創造的なチーム作りを学んだきっかけとして、任天堂が1985年に発売したファミリーコンピュータ用ゲームソフト「スーパーマリオブラザーズ」の画面を使い、「面白い」について説明します。
初めて画面を見て『なんだこれ?』と思ったユーザも、マリオが右側を向いて左端にいることで、直感的に『右に行けばいい』とわかり、だんだん『面白いな』と感じます。説明書を読まなくても、“右に行く”“右に行けば勝ち”というゲーム最大のルールを一瞬でユーザに伝えることができたことが、このゲームのすごいところ。さらに重要なのは、ゲームは面白いからやるのではなく、わかるからやるんだ!と気づけたこと。面白いが先に来るのではない。人は、わかるから面白くなるという法則を見つけた瞬間だった。」
⇒ 結論①:わかること>面白い(良い)
玉樹氏はこう続けます。「ではどうして「わかる」と「面白い」のか。そのキーワードは、「自発性」。マリオの場合、右に進んでみると、クリボー(敵)が出現したりとゲームが進んでいく。これで自分の行動は正しかったとわかり、それが気持ちよさ、ひいては面白さにつながっていた。人は、自分で学ぶからうれしいし、自分でやるから深く信じてくれる。これは、新しいことを始めるチームを作ることにもとても役立つ気づきだった。」
これを議論に置き換えると、どんなに正しい主張も、理解されなければ意味をなさないことになります。「自分の考えのほうが正しいと思うから、意見が衝突する。「良い・正しい」という力で前に進むのではなく、まずは「わかること」を優先できるかどうかが勝負」だと玉樹氏は強調します。
続いてWiiの開発エピソードに触れた玉樹氏。「一家団欒で鍋を楽しむのと同じようにゲームを楽しんでもらえたら・・・と提案したところ、『ゲーム世代は家族を嫌う、核家族化で食事は別々だ』と否定された。でも、「直感的にいいと思えないこと」にフォーカスしない限り、新しいことは生まれない」と構想段階の裏話を披露。
「直感的にいいと思えるもの正体は、「知っている」=「わかっている」からです。これは、既知の良さとも言えます。一方で、既知の良さからは、創造的なものは生まれにくい。そこに新しいものはないからです。逆説的に考えると、直感的にいいと思えないことの中には創造的なものが生まれる「未知の良さ」がたくさん詰まっている。創造的なチームであるためには、この「未知の良さ」を創造・共感できるかどうかがカギになってくると言うのです。 玉樹氏は、一回否定されても「わからないだけかも」「自分の伝え方が悪いのかも」と受け止め、わからないことを伝える努力の大切さを強調。そうして「未知の良さ」への共感という最も困難な壁を超えたとき、成功が見えてきます。
⇒ 結論:チームメイトがわかる>良い・正しいものをつくる
「直感的に否定されるということは、それが未知の良さであるという大ヒント。一般的に正しいとされているものをもとに話し合っても意味がない。」という玉樹氏のアドバイスは、否定=ボツという発想になりがちな議論に、新しい視点を与えてくれました。
小さなチームに権限委譲し、コントロールしないマネジメントを目指す
続いて、「Backlog」をはじめ、「Cacoo」「Typetalk」など、コラボレーションを切り口としたツールの開発を手がける株式会社ヌーラボの橋本正徳氏が登壇。
建築業、DTP、八百屋、派遣エンジニア、OSSプログラマーといった多様な業種・業界を経験してきた橋本氏は、舞台演劇を高校から7年続け、そこで創造的チームの土台を学んだといいます。
「舞台演劇は単なる自己表現の場ではない。大道具、音響、照明、監督、演出家など、いろんな人が協調し合い、各々の技能がバランスよく混じり合う場所」と橋本氏。ヌーラボ創設には、この経験が活かされています。
実際、社員には、プログラマー、コミュニティマネージャー、総務担当、ユーザサポート、デザイナーなど多様な職種の人がおり、国籍もさまざま。いろんな文化的背景を持つ33人の職人が集合し、日々コラボレーションを追求しています。
特徴は、33人全員が一箇所に集まるのではなく、4~5人の拠点が世界各地に散らばっていること。小さなチームの集合体がヌーラボを構成するという、興味深いチームづくりを実践しています。その理由を、「密にコミュニケーションができる人数だから。リアルな場でのチームでなくなる難しさはあるが、一箇所で人数が増えていくのもリスキー。ちょうどいい人数で設計できた」と説明。
そんな橋本氏が、小さなチームで仕事を進める上でのポイントを3つ挙げました。
1.Fun
コラボレーションにはワクワクとした「楽しさ」が必要。楽しさがないとネガティブスパイラルに入ってしまい、成功から遠ざかってしまう。
2.Diversity
言語や性別、興味関心、タレント性などは関係ない。いろんな人が会社にいること自体が重要なのではなく、とにかく誰かと一緒にモノやコトを作るのが好きで、里見八犬伝のように「手に光る玉を持っている人」を集めること。何かを作った経験が原体験としてあることを重視する。
3.Holacracy
各チームに権限を委譲し、意思決定してもらう。俗に言うマネジメントはトップダウンだが、敢えてコントロールしないマネジメントを目指す。
橋本氏は、「いろんな人がいて、一人ひとりがかなりの自由と責任を持って働いている。日頃のヌーラボの様子は、Facebookをいいね!して見てほしい」と語りました。
「共感」を呼び起こすことが大事
続くパネルディスカッションでは、KOILを拠点に活動するFULLER株式会社の櫻井裕基氏が加わり、玉樹氏と橋本氏、モデレーターを務めるHackCampの関治之氏の4名でディスカッションを展開。その一部をご紹介します。
関:どういう人とチームを組むべき?
玉樹:ベストなチームを作らねばと構えるのではなく、会った人と仲良くするぐらいの気楽さが必要ですよね。
橋本:やはりモノづくりを楽しめる人。あとは、他のメンバーの中にポンと置いたときに違和感があるかどうかは大事かもしれません。
櫻井:この人と一緒にモノを作ったら化学反応が起こるのでは?という期待感がある人ですね。
関:ビジョンはどうやって共有したらよいでしょう?
橋本:個人的には、ビジョンを社員や周囲に語らないようにしています。
玉樹:言われたものは信じないのが常。ビジョンだから理解しろと言った瞬間に負け。少人数で最初にビジョンを作れば、みんなの中に芽が生えるから、その時点で共有させる必要がなくなるんです。自分だけに芽が生えている場合は、みんなの中に勝手に芽が生えるようなプレゼンをする。少し時間がかかっても、自分でそうだよな……。と納得するところに持って行くことが大事だと思います。
橋本:要は、共有するより「共感する」なんですよね。
関:働きやすい環境はどのように作りますか?
橋本:小さいチームを複数作って権限委譲します。みなが楽しんでやればいい。デメリットは、僕の活躍の場がないことかな(笑)。
櫻井:みな違う動きをする働き方に対応していくためには、セッションでも出ていた「コントロールしないマネジメント」が大事なのかもしれないと感じました。
関:共有ではなく「共感」が大事。そのためには傾聴スキルが必要で、小さいチームづくりには、傾聴しやすい環境づくりや共感を生むための取り組みが必要ですよね。本日はありがとうございました。
コワーキングスペース「KOILパーク」から化学反応が起こる!
ワークショップの前に、KOILコミュニケーションディレクターの大須賀芳宏氏より、KOILの紹介が行われました。
オープンイノベーションを起こすプラットフォームとして2014年4月にオープンしたKOILは、多様な人々が集まって化学反応を起こしていくために、170席のコワーキングスペースを中心とした多様な空間と、触媒としての多様なアクティビティを用意しています。 大須賀氏からは、施設・設備やイベントの内容だけではなく、KOIL利用者の多彩なプロフィールや、利用者同士の具体的なコラボレーション事例の説明がありました。
「オープンから1年。意欲的なスタートアップはもちろん、受験勉強中の学生からママ起業家、70歳を超える大ベテランまで多様な方々が集まっています。そして意外な組み合わせによる共創事例が次々と出てきています。今後も“あなたが世界を変える場所”として、チームが創造的であり続けられる場所にしていきたい」と大須賀氏は語りました。
ここからは会場をコワーキングスペース「KOILパーク」に移し、ロフトワークの原をモデレーターに、5人のチームに分かれて、多様なスキルセットでビジネスプランを作るワークショプを実施。
各チームは、各個人が感じた身近な「ゆるせない話」を起点に個人ワークを行い、その後「考える人」「つくる人」「まとめる人」「その他ゆかいは人」という異なるスキルセット同士でチームを組み、、ビジョン、ユーザ、ソリューションの3つを軸にビジネスプランの具体化に挑戦。約2時間のワークの最後に、各チームのビジネスプランを発表しました。
日々アイデアが生まれているこの場所で、短時間とはいえどのような化学反応が起こったのでしょうか。
東京一極集中を解消するオフィスの交換ビジネス、国民のマナー改善に向けて行動を監視・評価するツール、インテリジェントに渋滞を防ぐシステム、アプリを使った野菜を余らせない仕組みなど、いずれもモノづくりの心をくすぐる斬新なアイデアばかり。ワークショップを機に一致団結し、次の展開を本気で考え出すチームもあったようです。
イベント概要
新たな働き方のパラダイムシフトが起き、起業や独立、パラレルワークを志す学生・社会人が増えるなか、はじめに直面する問題は孤独感だと言われています。 ひとりでは“変われない” “変えられない”ジレンマは、多様なスキルセットを持った創造的なチームを組むことで大きなビジネスへと飛躍します。
本イベントでは、新しい働き方・創造的チームの作り方に関するゲストセッション、そして多様なスキルをもったメンバー同士が新しいビジネスプランを創造するという、参加者の皆さんの明日からのアクションにつながる一連のプログラムをご用意しました。
小さなチームを率いて世界3億人が夢中になった任天堂『Wii』の企画担当を担い、現在は故郷・青森で活動する玉樹氏と、福岡で3人の仲間で起業、小さな組織のままで、世界の100万人以上のリモートワークを支援するヌーラボの橋本氏がゲストスピーチ。 さらに、パネルディスカッションでは、KOILを拠点に活躍する若手スタートアップ、FULLER株式会社の櫻井氏を交えビジネスを成功させる創造的チームの作り方をディスカッションします。
ゲストスピーチでインスピレーションを受けていただいたあとは、創造的空間、そして、多様な人材が集まるKOIL(柏の葉オープンイノベーションラボ)という場を徹底活用し、新しいビジネスプランを創造するIde-a-thonを実施。
ビジネスプランのアイディエーションのヒント、多様なスキルをもった新しいメンバーからのインスピレーションを得る場としてぜひご参加ください。
開催概要
セミナータイトル | – 任天堂Wii 元企画者 玉樹氏・ヌーラボ代表 橋本氏登壇 – ビジネスを躍進させる創造的チームの作り方 |
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開催日時 | 2015年3月25日(水) 13:30〜19:00(13:00受付開始) |
場所 | KOIL(柏の葉オープンイノベーションラボ) 最寄駅:つくばエクスプレス線 柏の葉キャンパス駅 ※「東京駅」から33分、「秋葉原駅」から30分 地図 |
対象 |
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参加費 | 無料 |
定員 | 100名 |
主催 | 株式会社ロフトワーク |
共催 | 三井不動産株式会社 |
ご注意 |
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プログラム
- 13:30~13:45
- オープニングトーク
- 13:45~14:15
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「小さなチームの大きな冒険 〜任天堂「Wii」の企画はなぜ少人数で成功したのか〜」
・世界を変えるコンセプトづくり
・任天堂「Wii」企画チームの成功要因
・地方の個人でも実践できるチームワークとはわかる事務所
代表/任天堂 Wii の 元企画開発者
玉樹 真一郎氏 - 14:15~14:45
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「小さなままで世界を相手に冒険できる自己組織化したチーム」
・派遣プログラマが、チームを組んだ理由
・職人集団はなぜコラボレーションを追求する
・自己組織化チームの実践株式会社ヌーラボ
代表取締役
橋本 正徳氏 - 14:45~15:00
- 休憩
- 15:00~15:50
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パネルディスカッション「創造的チームの作り方」
・チーム、コラボレーションの最適解
・チームは誰と組むべきか
・リモートワークvs密集ワークわかる事務所
代表/任天堂 Wii の 元企画開発者
玉樹 真一郎氏株式会社ヌーラボ
代表取締役
橋本 正徳氏FULLER株式会社
取締役 CDO
櫻井 裕基氏HackCamp
代表取締役/Code for Japan 代表理事
関 治之氏 - 15:50~16:00
- KOIL紹介
- 16:00~16:10
- KOIL見学
- 16:10~18:10
- Ide-a-thon「多様なスキルセットでつくるビジネスプラン」
・スキルセットが異なる参加者同士でチームビルディング
・世界を変えるビジネスプランを議論
・発表 - 18:10~19:00
- 交流会