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セミナーレポート 実践ステップ オープンコラボレーションでサステナブルな商品開発へ

新しい価値を創造する上で、組織の枠を超えてオープンに共創しようとする動きが高まっています。しかし、ただ闇雲にオープンにすればよいわけではありません。そこには、さまざまな障壁も待ち受けています。2015年5月22日、ロフトワークはオープンコラボレーションをテーマにイベントを開催。成功プロジェクトから多くのヒントを学びました。

商品の設計段階で適度な余白を残す

オープニングでロフトワークの君塚美香は、自社で企画したハッカソンの映像を流し、「会場にいていつも感じるのは、ものすごい熱気。作りたい、触れたい欲求が伝わってくる」と説明。

そこで、まずはオープンコラボレーションへの注目が高まる理由を紐解こうと、君塚をモデレーターに、ヤマハ株式会社の神谷泰史氏、凸版印刷株式会社の田邉集氏、両社のプロジェクトを担当したロフトワーク西本泰司でパネルディスカッションを実施しました。

左からロフトワーク君塚、ヤマハ神谷氏、凸版印刷田邉氏、ロフトワーク西本

プロジェクトのきっかけ

神谷:新しいことをはじめようと思った時に、一部門の枠の中では新しい価値は生まれないと判断し、複数部門を集めて社内プロジェクト「Start-up Sketching」を始動した。

田邉:デジタルファブリケーションの分野で我々にできることを模索する中で、オープンデザイン文化の拡大に向けたプラットフォームの提供に注目した。

具体的な取り組み

音楽系ハッカソンイベント「Play-a-thon」

神谷:音楽系ハッカソンイベント「Play-a-thon」を2回開催。目的は3つ。社内では生まれないようなアイデアの創出、今後商品や技術を開発する際のパートナーになり得る優秀なエンジニアの発掘、事業化に向けて協働してくれるパートナー探し。現に、イベントがきっかけで起業する人が出て、今年商品がリリースされようとしている。

TOPPAN × loftwork "Ready Make-a-thon"

田邉:メーカーから提供されたCADデータをハックして新しい作品を作るイベントを開催。我々の取り組みに価値があるかどうかを検証した結果、実に多様なアイデアが出てきて、これは期待できそうだと感じた。

スタート時の設計

神谷:従来のプロダクトは想定どおりに使われることを目指してきたが、ユーザの手で商品に別の価値が与えられるようなことが起こり得る。商品の設計段階で、その余白を残しておく必要もある。

西本:両社ともイベントからスタートしたのは、優秀な人が集まりやすいという狙いもあったと思う。実際、イベントはWin-Winの関係が作りやすい。

社内の説得方法、巻き込み方

田邉:最初からオープンコラボレーションを前面に出すのではなく、世の中の動向や他社の成功例などを地道に説明。並行して、キャッチーなキーワードで社内に情報発信していき、共感してくれる人を集めてメーリングリストや情報交換の場を作っていった。

神谷:目的に同意してくれるモチベーションの高い社員を見つけて交渉した。正式なプロジェクトではないが、取り組み自体は会社に承認されている。ビジョンに共感してくれる人たちによる緩やかな組織を作ると、ポジティブな協力を得られやすい。

オープンコラボレーションで大事なこと

神谷:トラブルにならないよう、知財の取り扱いには十分配慮しておくべき。

田邉:始める前に関係者間で信頼関係を築いておくと、トラブルへの対処もしやすい。

西本:予定不調和が常なので、1つは即興力。2つ目は設計力。ただイベントを開催するのでなく、明確なビジョンと実現性を踏まえた上での設計が必要。3つ目は余白力。余白は取り過ぎても少なすぎてもつまらない。予定調和がはずれたときに許容する包容力も必要。

田邉:一言でまとめると、ちゃんと設計しつつ、即興が起こるような余白を残しておくということですね。

オリンパスの成功事例に学ぶ、オープン化の価値

自社の技術をオープンにし、デベロッパー、クリエイター、ユーザと共に新しい写真体験を開拓するプロジェクト「OPC Hack & Make Project」。トークセッションに続いては、OLYMPUS AIRの発売に先立ち、このプロジェクトを立ち上げたオリンパス株式会社の石井謙介氏と佐藤明伸氏、ロフトワークの松井創、石川真弓の4名が登壇し、プロジェクトを振り返りました。

左から、ロフトワーク松井、ロフトワーク石川、オリンパス佐藤氏、オリンパス石井氏

まずは石井氏が、製品化までの経緯を説明。メンバー企業としてMITメディアラボの学生と未来のカメラについて議論し、プロトタイプを開発する中で、別の場所で同じことを考えていた事業部門の佐藤氏と意気投合。オープン化の価値を検証するためにハッカソンやアイデアソンを実施しながら社内を説得してきたと言います。

「オープンイノベーションは研究から商品化まで様々なフェーズで実行できる。どのフェーズの話しをしているのか明確にしながら話を進める必要がある」と石井氏は説明。

続いて、ロフトワークの石川が、ロフトワークとのプロジェクト内容を紹介しました。

  • 週1回計7回のワークショップを通じてコンセプトを策定
  • フィールドワークでコンセプトを検証
  • MIT Media Lab @Tokyo 2014でOPC構想を発表
  • 最先端クリエイターによるパイロットプロジェクトを実施
  • Engadget Fes 2014でプロトタイプ発表、会場で活用アイデアのコンテスト実施
  • 製品のテスター30名を募集する一方で、定期的にリアルの場でイベントを開催
  • 2015年2月5日にロフトワークを会場に製品発表、同日開催のブロガーイベントでメディア露出を促進
  • その他、Facebook運営、Webサイト構築、ブログによる情報発信などもサポート

「プロジェクトの価値を最大化するべく努力してきたが、一番大事なのは、オープンコラボレーションの力を信じること。特にステークホルダーの合意形成は不可欠。発売から約2ヵ月、蒔いてきたタネが芽を出し始めている」と石川。 ここからは4人でトークセッションを展開。主な内容は次のとおりです。

オリンパス株式会社 佐藤明伸氏

オープンコラボレーションの成功要因

石井:コミュニケーション能力が高く、パッションのある人を巻き込んでいかないとうまくいかない。とにかく興味を持ってもらうことが大事。

佐藤:私自身、これをやったら絶対面白い!というパッションを持てたことが一番大きい。共感してくれた若手メンバーとスタートしたが、ものづくりの価値観だけで進んでしまうと、偏った製品が出来上がってしまう。モノよりコトに目的を置いているので、コンセプトワークを通じて言語化に取り組んだ。

オリンパス株式会社 石井謙介氏

オープンの価値

石井:社内の人が考えられないようなキラーコンテンツやキラーアプリがでてくれば嬉しいが、それだけがオープンの価値ではない。

佐藤:OLYMPUS AIRの一番の強みは、共創によって進化していく点。

今後の展望

石井:まだまだ認知度が低い。情報感度の高い人だけでなく、一般ユーザにまで認知を広げたい。グローバル規模でのコミュニティの拡大が課題。

佐藤:今は何がどう出てくるのかわからないフェーズ。次の段階では、出てきたものに対し、我々が注力すべき部分を見極めていく必要がある。そのための下地は出来た。取捨選択の実行が今年一年のテーマ。

サステナブルな製品開発の実現に向けた実践ポイントとは?

本イベントを総括するセッションで、「オープンコラボレーションはあくまでも手段。その先に何を生み出すかが重要」と切り出したロフトワークの松井創は、「サステナブル」の観点から、製品開発のあり方を2つのフェーズに分けて考察しました。

ロフトワーク プロデューサー 松井創

<企画フェーズ>

重要な5つの要素

1)Interdependence/相互依存
自分の領域だけを考えるのではなく、全体の横のつながりを俯瞰するステップが必要。
2)Share/共有
最初の設計が重要。何を誰にシェアするか、どんなフィードバックがほしいか、あらかじめ予想する。
3)Ethics/倫理
モノを売りたい、という誤解が生じないよう、どんなコンセプトで、何を伝えたいのか、何を大事にしたいのかを明確化。
4)Collaboratinon/コラボレーション
全体像をどう描くか、どう作っていくかを具体化。
5)Open/オープン
広がりを生むための触媒となるツールを検討。

<実行フェーズ>

フトワークのプロジェクトでの実行例。

●ダイバーシティー・チームをつくる:熱いチームを創る。強制ではなく共感が大事。
●Webプラットフォームを立ち上げる:触媒となるメディアを創る。
●イベントを主催する・イベントに乗りこむ:後者のほうがスタートしやすい。
●SNSをフル活用する:非公式のファンクラブが出来てしまうほど、SNSの可能性は大きい。
●想いを伝える・想いを集める:コンセプトや想いを外に対して勇気を持って伝えていく。
●領域を超えたつながりを創る:異業種間のつながりから新しい価値が生まれる。
●最初は小さく始める:想いがあればコミュニティは広がっていく。

最後に松井は、「ロフトワークなら、2万人のクリエイターネットワークFabCafeでのつながり、クリエイティブの学びを提供するプラットフォームOpenCUなどを使って、オープンコラボレーションを進められる」と語り、社内外のつながりを武器に、イノベーションの創出に貢献するクリエイティブエージェンシーであることをアピールしました。

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