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「イノベーションを起こす5つの実践プロセスを学ぶ START INNOVATION ! with this visual toolkit.」開催レポート

次なる成長を視野に、多くの企業がイノベーションへの挑戦を始めています。しかし、アイデアはあっても、それをカタチにするのは決して簡単ではありません。実際、企業担当者の悩みを聞く機会も増えるなか、2015年6月24日、ロフトワークは一般社団法人ビジネスモデルイノベーション協会とセミナーを開催。『START INNOVATION ! with this visual toolkit.』の著者ハイス・ファン・ウルフェン氏(以下、ウルフェン氏)を迎え、イノベーションの実現に必要な要素について考えました。

過去の探検物語に学ぶイノベーションの実践ポイントとは?

ロフトワークの君塚美香は、オープニングでウルフェン氏の著書を紹介。「ロフトワークが手がけるプロジェクトも約1割がイノベーション案件」と説明する君塚は、「イノベーションに失敗はつきもの。その事実を受け入れ、ときには無視して、前に進むべきというウルフェン氏の言葉は励みになる」と語りました。

ロフトワーク 君塚 美香

ウルフェン氏のセッションでは、同氏の書籍の日本語版監修を務めたビジネスモデルイノベーション協会 代表理事の小山龍介氏が逐次通訳を担当。ウルフェン氏は、参加者とのインタラクティブなやりとりを楽しみながら、イノベーションの実践ポイントを解説していきました。

はじめに「イノベーションは改善ではなく改革。どれだけ新しいか、誰のためのものかという2つの観点が重要になる」とウルフェン氏。また、「7つのイノベーションプロジェクトのうち、6つは市場にも出ない。イノベーションは非常にリスキーなものである」と強調。実際、イノベーションプロジェクトはあいまいな状態でスタートし、いざ市場に出そうという段階で足止めを食らい、前に進めなくなることも少なくありません。

参加者とのインタラクティブなやりとりから、セッションを開始したハイス・ファン・ウルフェン氏(Gijs van Wulfen)

ここでウルフェン氏は、著書にもあるとおり、「マゼランやコロンブス、アムンセンなどの探検物語から多くを学べる」として、イノベーションを成功に導くためのヒントを紹介しました。

1)タイミングを見極める
何もしないことがより大きなリスクとなるときこそ、イノベーションを起こすタイミング。つまり、企業が再び成長しなければならないタイミングを見極める。
2)一人ではイノベーションは起こせない
自分のアイデアは愛せても、他人のアイデアのためには真剣にならないもの。アイディエーションはみんなで行い、合意形成を経て「我々のアイデア」にする。
3)不確実性を減らす
社内に対し明確な道を示さなければ誰もついてこない。ワークショップの実施など、構造化されたプロセスを通じて不確実性を最小化する。
4)観察と学び
初めてのマーケットに参入する際には、観察して学び、そこから既成概念を破ってアイデアを出していく。
5)一頭の馬に賭けない
1つのチャレンジに対し、複数のアイデアを試してみる。

では、イノベーションを探検のように始めるには、具体的にどうしたらよいのでしょうか?ウルフェン氏は次の4つを挙げました。

●チームづくり
チームにはもっとも保守的な人を入れること。10人のチームなら4人は保守的な人を選ぶ。どこに向かいたいのか明確な課題を提示し、プロセスを共有することで合意形成できる。

●顧客の問題を特定する
「あったらいいな」ではなく「なくてはならない」からスタートする。たとえば他社製品に乗り換えるなど、顧客が行動を変えようと思うのは、何かしら問題が起こったとき。したがって、観察と学びを通じて顧客の問題を特定することから始め、アイデアにつなげる。

●顧客の声を聴く
観察と学びからインスピレーションを得てコンセプトを策定したら、テストを行ってアイデアを試す。顧客の声を使ってベストなアイデアを見つけることで、社内の説得材料にもなる。

●ビジネスに立ち返る
企業の成長のためのイノベーションであるから、最後は単なるアイデアではなく、ビジネスに落とし込むプロセスが不可欠。

以上の内容を総括すると、次の5つに集約できます。

5つの学び

  • 一人ではイノベーションは起こせない
  • 構造化された方法で確実性を高める
  • 適切な課題を見つけ出して解決する
  • 社内を説得するためにも顧客の声を活用する
  • ビジネスに落とし込む(ビジネスに立ち戻る)

最後にウルフェン氏は、初めて飛行機に乗った女の子がパイロットに宛てた手紙を紹介。革新的な飛行機が着陸に成功するかどうかはパイロットの腕次第。手紙の終わりにあった「すてきなフライトをありがとう。着陸を失敗しないでね」という言葉を通じて、革新的なアイデアをビジネスに落とし込むことの重要性を強調し、「探検の幸運を祈る!」と締めくくりました。

FOTRH Innovation Map日本語版を大公開

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想定外を楽しみながら、ひたすら地道に続けていくこと

続いて、ロフトワークの浦野奈美をモデレーターにパネルディスカッションを実施。ウルフェン氏、小山氏のお二人に、ロフトワークの西本泰司が加わり、イノベーションの実践プロセスについて本音で語り合いました。

(左から)ロフトワーク 浦野、西本、ビジネスモデルイノベーション協会小山氏とウルフェン氏

●イノベーションを起こすタイミングとは?

小山:外部環境の変化が起こったとき。経営層は常にライバルが何をしているか気にしている。競合が動き始めたという情報はイノベーターにとって恰好の情報。他社より早く、よりいいものを創り出す上で、経営層を説得しやすい。

ウルフェン:一つは、成長率が下がり始めたとき、あるいは経営層が「これ以上どうやって成長させたらいいのか?」と問題意識を持ったとき。もう一つは、成長が止まり、やがてリストラが始まるタイミング。前者の段階では緊急性はないがお金はある。後者は緊急性が高いがお金がない。このトレードオフが課題。

●イノベーションを阻む問題をどう解決する?

小山:社内で勉強会を行い、意識の高い人をつないでおく。必ずフラグを立てること。あの人がやっていると認識させることで、しかるべきタイミングがきたときに指名してもらえる。クライアントもそう。問題意識を持っていても、適切なタイミングでないと耳を傾けてもらえない。少しずつ情報を投げ、伏線を敷いておく。

ウルフェン:イノベーションを起こしたいなら、イノベーションの余地がまったくないところにいてもしょうがない。思い切ってイノベーションのタイミングが見えている場所に移ったほうがよい。そういうところこそ、イノベーターを必要としている。

●本質的な問題をどう発見する?

西本:当社の場合は顧客に会いに行き、インタビューを通じて課題を深堀していく。具体的には、こことここがわかれば自分たちのやりたいことが見えてくるだろうという仮説を立て、それに沿って質問項目を設計している。答えにくい内容の場合は、いくつか用意した単語の中から選んでもらうなど、関係性を作るために工夫する。

小山:何に困っているか?と急に聞かれても答えられないので、顧客と一緒に考えるコクリエーションが最近注目されている。たとえば、大学生向けのサービスを考えるなら、大学生と一緒にゲームをやりながら欲しいサービスを作ってみるとか。それを後からレビューし、大学生の取った行動からニーズを推測していく。楽しみながらクリエイティブに問題・課題を発見していくのが最近の潮流。

ウルフェン:他人任せにしないこと。見ること、聴くことも大切だが、まずはクライアントと同じ立場に立ち、同じことをしてみるのが一番効果的。

●イノベーションをどうやって実現させる?

小山:アートのようにセンセーショナルでインパクトのあるものを投げ入れるプロセスと、それを最後にビジネスに落とし込むプロセスが重要。

西本:野球のボックスシートは、野球場の外にいる人たちが居酒屋でわいわい楽しんでいることにヒントを得たもの。野球のことだけ考えていたら生まれなかった。視点や立場を変えて見ること。

ウルフェン:自分たちで突き詰めたものが、他人から見ると見当違いである場合もある。オープンにして、いろんな部門、いろんなタイプの人たちをチームに巻き込むとよい。

参加者からの質問を交えインタラクティブなパネルディスカッションを展開

パネルディスカッションの最後は、登壇者から参加者へのメッセージで締めくくられました

西本:結局のところ、施行錯誤するしかない。心の中にあるイノベーションへの熱い想いを育み、周囲を巻き込みながら、大火事を起こすつもりで臨みましょう。

小山:計画しながら計画を捨てること。想定もしなかったような顧客の行動に対して誠実にリアクションし、即興ができる組織にしていく。そのためには、組織を変えるだけではなく、みなさん自身も想定外を楽しめる体質に変えていかなければならない。

ウルフェン:大切なのは、ひたすら地道に続けていくこと。

イノベーションは決して簡単ではありません。だからこそ、楽しみながら探検のような施行錯誤を続けていくこと。これがイノベーターに必要な心得のようです。

イベント終了後の懇親会でサインに応じるウルフェン氏(左)、会場で販売された書籍(右)

イベント概要

あなたのイノベーション、アイデア出しで終わっていませんか?
今が本当にイノベーションに乗り出すべきタイミングですか?
イノベーションにおけるあなたのミッションはなんですか?

“Creative Approach for Innovation”をテーマに掲げ、クリエイティブの力でクライアントの課題解決と新しい価値創造に取り組むロフトワーク。最近はイノベーションに関する悩みを聞くことが多くなりました。

そこで今回は、『START INNOVATION ! with this visual toolkit.』(アマゾンランキング商品開発部門2位 – 2015年6月4日現在)の著者であり、世界中の製造・サービス企業やNPO組織など、数々のイノベーションを成功に導いているハイス・ファン・ウルフェン氏をお迎えして、イノベーション実現に必要なプロセスや課題について一緒に考えます。

 

”大切なのは辿り着くことではなく、旅そのものだ”

 

ハイス氏は、イノベーションを探検になぞらえ、5つのプロセスとそれに紐づく具体的アクションへの分解を行うことで、イノベーション実現に向けての道筋を示 しています。デザイン思考、最新マーケティング手法を組み込んだ、この著者独自のメソッドを紹介するとともに、ハイス氏の書籍日本語版監修を務め、「ビジネスモデル・ジェネレーション」の翻訳でも知られる小山龍介氏も迎え、英雄(中心人物)としてイノベーションを起こしたい人向けに、イノベーションを実現させるために必要な要素をご案内します。

パネルディスカッションでは、数々のイノベーションプロジェクトの経験をもつロフトワークのシニアディレクター西本も加わり、ハイス氏のメソッドを踏まえつつ、実際のプロセスにおいて直面しがちな課題や悩みについて議論する場を設けます。

– イノベーションのスタートで起こる10の問題
– 66項目のイノベーション・チェックリスト
– アイデアの具現化ではまりがちな10の落とし穴

など、ハイス氏の著書内にもあるチェックリストを使いながら、本音で語り合います。

開催概要

セミナータイトル 著者登壇!「イノベーションを起こす5つの実践プロセスを学ぶ START INNOVATION ! with this visual toolkit.」
開催日時 2015年6月24日(水)19:00〜21:30(開場 18:45)
場所 ロフトワーク渋谷 (10F)地図
対象

・書籍『START INNOVATION ! with this visual toolkit.〔スタート・イノベーション! 〕』を読まれた方
・イノベーションのプロセスで課題を感じている方 
・イノベーションを起こすための具体的な方法やツールに興味がある方
・イノベーションの国内外の事例を知りたい方

参加費 7,000円(税込) ※交流会のドリンクを含みます
定員 50名
共催 株式会社ロフトワーク
一般社団法人ビジネスモデルイノベーション協会
ご注意 ・プログラムは予告なく変更される場合があります。
・申込完了メールは、フォーム入力のメールアドレスではなく、Peatixアカウント登録のメールアドレスに送付されます。
・決済完了をもって申込受付となります。お支払い前に定員に達した場合は、参加ができなくなりますのでATMやコンビニ決済選択の方はすみやかにお支払いをお願いします。
・領収書の発行についてはPeatixサポートページをご覧ください。
・参加費決済後の払い戻しはお受けできませんので予めご了承ください。
・参加者の皆さんのお写真は、後日公開するレポートなどに掲載いたします。

プログラム

19:00~19:15
Opening Talk 「イノベーションを起こそうとしているすべての方に」
19:15~20:15
Guest Talk 「START INNOVATION ! with this visual toolkit. – ビジネスイノベーションをはじめるための実践ビジュアルガイド&思考ツールキット」
(逐次通訳: 一般社団法人ビジネスモデルイノベーション協会 代表理事 小山 龍介氏)

Author and founder of the FORTH innovation method
ハイス・ファン・ウルフェン氏

20:15~20:25
Break
20:25~21:00
Panel Discussion 「イノベーションプロセスで直面する課題とは?」
(モデレーター: 株式会社ロフトワーク)

Author and founder of the FORTH innovation method
ハイス・ファン・ウルフェン氏

一般社団法人ビジネスモデルイノベーション協会
代表理事
小山 龍介氏

21:00~21:30
Networking

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