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「ISETAN PARK net」が選択した戦略と運営手法

昨今、自社サイトのメディア化を検討する企業が増えています顧客とつかず離れずの心地よい関係を維持しながら将来のファンを育てていくためには、どんな戦略や運営体制が必要なのか。2015年7月31日のセミナーでは、三越伊勢丹をゲストに迎え、同社のメディアサイト「ISETAN PARK net」の成功に学びました。

情報はどこが作る?テーマはどこまで絞る?メディアサイト戦略を考える

Webメディアのトレンドに言及したロフトワークの矢橋友宏は、「メディアサイトは、『プロダクション型』『キュレーション型』の2つの軸と、もう一つの見方として『広範囲ポータル型』『テーマ特化型』の2つの軸で分類できる」と説明。

ロフトワーク 取締役 兼 CMO 矢橋 友宏

メディアサイトは、潜在顧客が気になる情報を継続的に発信してタッチポイントを作り、繰り返し訪れてもらうことが主な目的です。したがって、「メディアサイトの構築にあたっては、情報はどこが作るのか?テーマはどこまで絞るのか?を決める必要が出てくる」と矢橋。

情報はどこが作るのか?

●プロダクション型:自社で一次情報を制作、編集する。
●キュレーション型:他社(もしくは他者)が作成した一次情報を収集、選別、編集する。

テーマはどこまで絞るのか?

●広範囲型ポータル型:複数のテーマ、ターゲット、シーンを広くカバーするコンテンツを作る。
テーマ特化型:特定のテーマで、独自の世界観を持つイマーシブな(読み手を引きこむストーリー性の高い)コンテンツを作る。

テーマ設定について矢橋は、「範囲を広げれば多くの人にリーチできるが、リスキーになっていく」として、「自社の製品やサービスに照らして考えるとよいだろう」とアドバイス。

テーマ設定を広くすることによるリスク

  • 内容の薄い情報になっていく
  • 効果に結び付きにくくなる
  • テーマが広い分運用負荷が高くなる
  • 内製しにくいためコストがかかる

また、プロダクション型を選択した場合によく聞かれるのが、「コンテンツが作れない」悩みだと言います。しかし、「コンテンツは中にある。自社にある情報を棚卸しして、切り口や視点を変えてみると面白いものになる。煮詰まったときは、オズボーンのチェックリストがヒントになるだろう」と矢橋。ニュースなどは短期間で価値がなくなるように、情報の寿命を意識しながら、コンテンツをラインナップしていくことも重要だと語りました。

体制の強みを生かしきる戦略と設計が成功のポイント

メインセッションでは、伊勢丹新宿店のメディアサイト「ISETAN PARK net(以下、IPnと略)」構築プロジェクトをロフトワークシニアディレクターの濱田が紹介。構築編、運用編に分けて実践ポイントを解説。ゲストに株式会社三越伊勢丹ホールディングスの横山達也氏を迎えた前半の構築編では、プロジェクトの全貌が明らかにされました。

潜在顧客をターゲットに、主にニュース、企画コンテンツの2つの軸で記事を展開するIPn。もともとは新宿伊勢丹店のリモデルに合わせて立ち上げたティザーサイトでしたが、それぞれ目的の異なる第一次リニューアル、第二次リニューアルを経て、前年同期比で流入量1.5倍、ページビュー2.3倍、直帰率の大幅な改善など、多くの顧客にリーチするサイトへと成長しつつあります。

第一次リニューアルで見えてきた課題を踏まえて第二次リニューアルに臨むことで、改めてサイトの立ち位置を明らかし、「伊勢丹新宿店に行きたくなるサイト」というシンプルなコンセプトに帰着できたのも大きな成功要因でしょう。「サイトやコンテンツの設計も“行きたくなるかどうか”という軸で判断できるようになった」と濱田は振り返ります。

また、「一年運用するうちにコンテンツが増えすぎて、見た目にもわかりにくくなっていた。一方で、コンテンツ制作を行う社内編集部のスキルが非常に高まっていたので、それをうまく生かした運用を実現したいという思いもありました」と横山氏。

こうした課題を解決するために、第二次リニューアルでは次のようなアプローチが取られました。

1) サイト構造の見直し
  カテゴリをユーザ視点で2つに集約。
2) UIの最適化
  情報接触機会を促すようなUIに改善。予期せぬものに出会える面白さを表現。
3) コンテンツの最適化
  コンテンツ品質を一定に保つため、コンテンツ制作ガイドラインを策定。
4) 新しいコンテンツの創出
  CMS導入による運用負荷の低減に伴い、より多くの顧客接点を作るための新規コンテンツ制作を推進。

完成したサイトについて、「一定の成功を収められたのは、スキルアップした社内編集部と、そこをどう生かすかを考える我々Web事業部、ロフトワークの3者がタッグを組めたことにある」と語る横山氏に続き、濱田も、「体制の強みを生かしきるように戦略や設計に落とし込んだのがポイント」と総括しました。

丸投げしない、分散しない。気持ちよく走り続けられる体制を組むこと

後半の運用編セッションにはロフトワークのグロースハッカー原亮介が登壇。「メディアサイト運用のKSF(重要成功要因)は続けること。ただ走り続けるだけでなく、KPIを指標に改善しながらゴールに向かって戦略的に走ること。そうするとナレッジが溜まり、認知が拡がり、ファンが蓄積され、ビジネス効果が生まれる」と語る原は、IPnのプロジェクトで得た知見をもとに、運用のポイントを一つ一つ解説していきました。

ロフトワークグロースハッカー 原

POINT1 ブレずに走り続けるための体制・ガイドライン・戦略

[体制]
もっとも重要。スキルセットのバランスの取れた風通しのいいチーム体制を作ること。
[ガイドライン]
単なる情報を読み物として楽しめる記事コンテンツに変える必要があるため、メディアサイトにおける専門的なコンテンツの作り方についてガイドラインを作成。
[戦略]
「伊勢丹新宿店に行きたくなるサイト」というゴールから逆算してKPIを設定。ブレないためには、やることやらないことを決め、誰に向けて発信するかを明確にし、成功イメージを描きながら共通認識を高めていく。

POINT2 ゴールへの近道はパートナーの上手な活用

パートナーのナレッジやネットワーク、センスを活用する。IPnプロジェクトの場合は、ロフトワークが勝ちパターンを作れるような特集コンテンツの制作(ナレッジ)、外国人クリエイターのアサインや外部メディアとの連携(ネットワーク)、ビジュアル(センス)などを支援した。

POINT3 “福はうち”社内はコンテンツの宝庫

自社にしかない「ひと・もの・かつどう・ナレッジ・ノウハウ・データ」をコンテンツにする発想が重要。ただ、そのままでは自社ゴトでしかなく、業界ゴト、世の中ゴトに広げていくとリーチできる人が増える。広げすぎると中身が薄くなるのでバランスが大事。

ここで再度、「やっぱり肝になるのは体制」と強調した原は、「オープンと同時に息切れしてしまうケースは多い。気持ちよく走り続けられるような体制を組むことが重要。そのためにも、パートナーに丸投げしない、複数のパートナーに分散しないこと。いい体制を風遠しよく作っていきましょう」と締めくくりました。

セッション終了後のインタラクティブトークでは、会場からの質問に登壇者3名が回答。「コンテンツのネタ探しは枠を広げるのがポイント」「O2Oはメディアサイトありきで考えない」「KPI設定は社内プレゼンスをどう高めるかを意識する」「リニューアルコストよりランニングコストを多く見ておくべき」など、たくさんのヒントが提供されました。

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