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『イノベーションを生み出す共創のデザイン:InnovationGuide vol.1』
イベントレポート

2017年8月2日、「共創」をテーマにしたInnovationGuideを開催。
多くの企業が共創というアプローチを実践していますが、目的や求める成果が多岐にわたる中で、思うような成果が得られないことも多くあります。
今回のイベントでは、京都大学で異分野融合に取組む宮野氏、ソニーでMESHプロジェクトを牽引している萩原氏をゲストに迎え、共創の現場で何が起こっているのか、何が必要なのかを改めて考えました。

哲学によって企業にイノベーションを起こすための問いかけ

最初の登壇者は、哲学、特に学問論、大学論を専門とする京都大学准教授の宮野公樹先生。現在は京都大学の「学際融合教育研究推進センター」において、分野を越境して対話をする気風や土壌づくりに取り組んでいます。

トークは、今回のイベントのテーマである「共創」「イノベーション」という言葉に対し、疑問を呈するところから始まりました。 「最近はよく「共創」というこの言葉を耳にしますが、「共創」は「協働」とはどう違うのでしょうか?なぜ新しい言葉をつくる必要があるのか、学者としての興味はそこにある」と語ります。

新しい言葉は、新しい精神を生みます。しかし、「今のところ『共創』という言葉が踊っているだけで、具体的な内容が聞き手には伝わっていないように思える」というのが宮野先生の意見。

「共創」を通してイノベーション(価値変革)を起こしたいのであれば、まずは共創という言葉で何がいいたいのか?何を目指しているのか?生み出したい価値はほんとうの価値か?これらにたいして徹底して 自覚的にならなけばいけない」といいます。

そこで、イノベーションを起こす実例としてダイキン工業株式会社との産学連携プロジェクトを紹介しました。
目的は、「哲学で新しい製品をつくること」。そのために、さまざまな分野の研究者を集めた「100人ワールドカフェ」を行い、そこで出たデータを見ながら、今度はミニワークショップを繰り返し、「そもそも空気とは一体何なのか」といった根本的な問いを掘り下げました。
このプロジェクトでとくに注目すべきなのは、すべてのワークショップでダイキンの社員がファシリテーターを務めたこと。「大事なことは自社でやらないと意味がない。会社は「人」である以上、イノベーションを起こすためには社員、あるいは会社組織全体の意識改革をするしかないんです。そこで、研究者との交流を徹底的に行うことで、社員の方々に、こういう考え方もあるんだと実感してもらうことを大切にしました」と語ります。

「イノベーションを起こすためのノウハウなんてない。しかし、本当にやるべきことはなんなのか、という問いは発することはできます。定義にまで立ち戻って考える“そもそも論”がすべてです。」と言い切る宮野先生。
己を振り返って思考することでしか、本来の意味での「イノベーション」は起こりえないという言葉は、ビジネスの話を超えて、現代の生き方に対する警鐘でもあるようです。

外部視点を取り込むだけでは何も始まらない。 イノベーションを起こす、ロフトワーク式「共創のパターン」

続いて登壇したのは、ロフトワーク プロデューサーの松岡 大輔。
プロデューサーとしての視点から、イノベーションを起こすためにどのようなパターンで共創プロジェクトに取り組んでいるかを紹介しました。

一口に「共創」といっても、プロジェクトの目的によってアプローチ方法は異なります。
そこで、プロジェクトの種類を3つのパターンに分類して解説しました。

1つ目のパターンとして考えられるのは「共創体験によって組織の意識改革を図ること」。
外部の人を交えたワークショップを行い、アイデアが生まれたとしても、組織内のモチベーションが低ければ次のステップに進むことはできません。「イノベーションを起こそうとするメンバーが目的を共有し、共創の有効性を認識している必要がある」と、松岡はいいます。そのために、クリエイターネットワークを活用したワークショップやリサーチを行う方法があります。

2つ目は、「プロダクトの新しい価値の探索」。
具体的なアプローチは、アイデアや作品を募るアワードの開催です。アワードの強みは、一定期間中に広くアイデアや人材を集めるエンジンとして機能すること。さらに定期的に開催すれば、コミュニティを成長させる起爆剤にもなります。

3つ目は、「新たなユーザーの獲得」です。クリエイティブベースを使い、展示や体験イベントを行います。場を用意することで中長期的なリサーチや実験的な試みが可能になることに加え、通常ではなかなか接点をもてない人のタッチポイントも生まれます。

このように、目的によって共創のアプローチは異なります。「共創はあくまで手段であって目的ではない」と、松岡は強調します。

企業とデベロッパーの関係性をデザインする。 オムロン「SENSING EGG PROJECT」で実現したオープンイノベーション

松岡が共創のパターンを紹介したところで、ロフトワーク シニアディレクターの川上直記から実際のプロジェクト事例を紹介。

共創プロジェクトのケーススタディとして、「SENSING EGG PROJECT」を紹介しました。オムロン株式会社の人認識センサー「ヒューマンビジョンコンポ」の、プロモーションを目的としたプロジェクトで、企業とデベロッパーとのオープンコラボレーションを採用した事例です。

このプロジェクトでロフトワークが提案したのは、まず「技術情報を開示すること」。デベロッパーが遊べる状態にしたうえでコミュニティ化のためにさまざまな仕掛けを行い、企業とデベロッパーとの共創関係を構築。発売前から大量のアプリを生み出すことによって商品価値を上げるという狙いです。

企業とデベロッパーの共創を促進するため、Webサイトやソーシャルメディアを使ったオンラインでのコミュニケーションを行いつつ、大勢が集まる場でのヒアリングも重視しました。イベントなどで実際にセンサーデバイスに触れてもらい、その感想をキャッチアップして、次のアクションを考えるという流れです。
また、テクノロジーの開発者とデベロッパーがダイレクトに意見交換を行う場も設けました。「開発者の思いに対してデベロッパーが真摯に意見を伝える機会は、共創していくうえでお互いの方向性を確かめ合うためになくてはならないものだった」と川上は語ります。意見交換後、開発者のひとりは「ふだんは一人で作業しているので、世の中の人の意見を聞くのはすごく貴重な体験だった。自分はこうして行くべきだという確信を得られた」と話していたそうです。

このプロジェクトでは、最終的にベータ開発者数が194 人、アプリ数は75という結果を得られました。しかも、有料の広告を展開したのはFacebook広告のみ。費用対効果を考えても、大きな成果を得られたといえます。

ハサミやノリのように使えるセンサーのモジュール「MESH」。 共創によって、活用の可能性はどんどん広がっていく

次に登壇したのは、ソニー株式会社 新規事業創出部 MESH project リーダーである萩原 丈博さん。また、聞き手としてMESHを使ったアイデア・アワード「MESH IDEA AWARD」の関係者である、ロフトワーク パブリックリレーションズ 石川 真弓も登壇しました。

「MESH」とは、専門知識がない人にとって扱うのが難しいさまざまなセンサーを、無線で繋がるモジュールにした製品。プログラミングも直感的に行えるため、大人だけでなく子どももアイデアを実現するツールとして使うことができます。

「MESHが誕生するきっかけとなったのは目覚まし時計だった」という萩原さん。
寝ぼけながらアラームを止めてしまわないように、音は枕元でなるけれど停止ボタンは洗面所にあるような目覚まし時計がほしいと思ったのだそうです。
市販品を探しても見つらなかったため、自作しようとしたところ、無線や電子工学、プログラミングといったさまざまな要素の知識が必要だとわかりました。
そのとき、「アイデアを簡単にかたちにできるものがあればいいな」と考えたことが、MESHの開発につながったのだそうです。

萩原さんがMESHの概要について説明したところで石川が「MESHにはどのような共創関係があるのか」と質問しました。

これに対する萩原さんの答えは、「共創しかない」とのこと。
MESHはハサミやノリのように、何かを作るための道具であるため、使う人に活用方法を考えてもらう必要があります。発売の一ヶ月後からオンライン上で開催した「MESH IDEA AWARD」には、79件のアイデアが寄せられたそうです。

石川はまた、「子どもでも使える」というシンプルな使い勝手のアイデアが、最初からあったのかどうかも質問しました。
萩原さんはこの問いに頷きつつ、「子どもでも使えるものじゃないと、道具としては不完全だと思った」と語ります。開発が始まった早い段階から、子どもが使えるけれどもおもちゃではなく、きちんと道具として成立するっていうデザインを探りながら作っていたそうです。

オープン性が求められる現代 事業の周りにどのようなコミュニティを作るかが重要に

クロージングトークとして最後に登壇したのは、ロフトワーク 代表取締役社長である諏訪 光洋。ロフトワークが手がけたプロジェクトを紹介しながら、これからの事業において重要だと考えられることについて説明しました。

ロフトワークでは年間600件ほどのクリエイティブプロジェクトを手がけており、そのうち20〜30%が空間の仕事です。そのなかでも、三井不動産のイノベーションラボ「KOIL」や、パナソニックの100周年事業「100BANCH」など、R&Dセンターをオープンにするというプロジェクトをよく行なっています。

オープンな場をつくり、そこに共創が生まれるようにするためには、ただ空間を用意するだけでは不十分です。そこで行うプログラムを考案し、どのような人が結節点となるのかを考えることによって、全体的なシステムができあがっていきます。

また、プロジェクトによってはアワードを行う場合もあります。
アワードを実施するメリットは、野心をもった優秀なエンジニアやクリエイターが集まってくること。お金ではなく名誉を求めてやってきた彼らと、コラボレーションを実現することができます。

オープン性のある空間をつくるにせよ、アワードを行うにせよ、共通しているのは「事業の周りにコミュニティをつくる」ということ。
コミュニティをつくるにあたって、たとえば事業を実現するために足りていない知見やタレントを集めるという方法があります。コミュニティをつくってからどのようなフローが発生するのかを考えることも必要でしょう。また、競合他社であっても、ともに利益を得られてかつ面白いシステムをデザインできるかもしれません。
「そうして拡大していく輪は、さらに人を惹きつけます。拡大し、ムーヴメントになっていくベクトルをどうつくっていくのか。そうしたコミュニティをつくることが大切になってくるのではなかと思います」。

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