
子どもたちを巻き込めば加速する、新しい学校の空間づくり〜CO-SHAソウゾウ プロジェクト成果発表会~
文部科学省によって創設された、新しい時代の学びを実現する学校施設づくりを支援するプラットフォーム「CO-SHA Platform(コーシャプラットフォーム)」。「令和の日本型学校教育」に向けた未来の学校施設づくりの推進に向けて活動しています。
そんなCO-SHA Platformでは、学校施設整備・活用に向けてプロジェクトを立ち上げ、新たな一歩を踏み出すみなさんを支援する「CO-SHA ソウゾウプロジェクト」を提供しています。
2025年2月7日には、2024年度のCO-SHA ソウゾウプロジェクトに採択された3つのプロジェクトの代表者を迎えたオンラインイベント「CO-SHA ソウゾウプロジェクト 最終発表会 プロジェクト活動から紐解く実践のヒント -生徒主体の共創空間をつくるには?-」を実施。各プロジェクトによる約半年間の活動成果発表と、アドバイザーを交えた座談会形式のふりかえりの模様をお届けします。
各団体による最終成果発表
(1)女子美術大学付属高等学校・中学校
プロジェクト名:『[CAFÉ 1915]~共創を視覚化するカフェ~ 』
発表者:藤原典子さん(女子美術大学付属高等学校・中学校 美術科教諭(デザインコース)、施設デザイン / CO -SHAソウゾウプロジェクト学内担当)
住吉貴一さん(女子美術大学付属高等学校・中学校 美術科教諭(デザインコース)、総務部・施設デザイン / CO -SHAソウゾウプロジェクト学内担当)

女子美術大学付属高等学校・中学校では、売店の移転をきっかけに、隣接する休憩スペースも含めた約130㎡の改修工事を実施。2024年9月に新しいカフェテリアとして生まれ変わりました。この新たなスペースを、共創空間としてつくり上げていくべくプロジェクトを発足。生徒の心がときめく、ワクワクできる空間を目指しました。
プロジェクトの中で最も苦労したのは、生徒からアイデアを集める過程だったと言います。プロジェクト初期にはオンラインでアンケートを実施したものの、あまり回答が集まらなかったのです。そこでアドバイザーの倉斗先生に相談したところ、「(カフェテリアに新設された)ホワイトボードを活用して、付箋を貼ってもらうようにしたら?」とアドバイスをもらい、実践してみることに。すると、日に日にその数が増えていき、最後には貼れる場所がなくなるほど、カラフルな付箋で埋め尽くされました。

これらのアイデアを、主に中3と高2の計19名の有志のプロジェクトメンバーが何度も話し合いを重ねながら、空間のレイアウトを検討したり、どのような機能を持つ家具が必要かを協議したりしていきました。
女子美 藤原さん:今回、アイデアが実現されていくプロセスを体験できたことで、生徒から「もっと学校の他の空間にも関わりたい」という意見がたくさん出ました。プロジェクトメンバーをはじめ、生徒と一緒に喜び、同じ方向に向かっている実感を得ることもでき、今後も生徒とともに学校空間をつくりあげていきたいと強く感じました。
女子美 住吉さん:生徒を巻き込みたいと思っても、どうしていいのか全く分からず、これまでいかに教員主体でやってきたのか、改めて気付かされました。生徒のエネルギーをもっと意識的に取り入れることで、学校をさらにより良い空間に変えていけるのではないかと感じています。

アドバイザーの倉斗先生より
初めて訪問したときに驚いたのは、廊下や階段など、学校の至るところに生徒さんの作品が飾られていたこと。「この創造のエネルギーに満ちた子どもたちを巻き込まない手はないのでは?」と思いました。中3の子たちが考えた手描きスケッチをもとに、高2の子たちが寸法を測って図面化していて。共創の場をつくっている過程で、まさに共創の学びを体現している姿が見られました。これからもみんなでこの場を育てながら共創を続けてもらいたいです。

(2)聖学院中学校高等学校
プロジェクト名:『アナログ(図書館)とデジタル(ファブラボ)のシームレスな接続による未来の教育DXに向けた教室環境の実現』
発表者:山本周さん(聖学院中学校高等学校 情報科主任/学校法人聖学院教育デザイン開発センターDX教育デザインユニット長)

聖学院中学校高等学校で唯一の情報科を担当している山本さんは、「物理的な距離のある図書室とファブラボを有機的につなぎ、それぞれの空間を使っている生徒同士のつながりを生み出したい」「図書館などファブラボ以外の空間に、3Dプリンタ等のファブリケーション機器を配置することで、普段はなかなかファブリケーション機器を触る機会のない生徒に興味を持ってもらうと同時に、読書家の生徒とも交流しながら、ものづくりを進化させてもらいたい」といった想いから、CO-SHAソウゾウプロジェクトに応募することに。中学棟地下1階にある図書館から高校棟4階のファブラボまでは徒歩5分ほどの距離があります。
当初、離れた場所にあるこれらの空間をうまく連携するために、可動式什器を作成し、機材を自由に持ち運べないかと考えていましたが、安全面や価格面の問題から作成を断念。加えてアンケート等で調査を行ううちに生徒たちが想像以上に空間づくりに注意を向けていないことがわかりました。
そこで、ファブラボという空間に囚らわれず、普段Fab機器を使わない生徒たちにも体験の機会を提供するために、「ワークショップを行う空間を、生徒自身で検討してもらおう」と、プロジェクトを方向転換することにしました。

活動の中心となったのは、生徒主導・教員主導で複数回行なった、ファブリケーション機器を使ってものづくりに取り組むワークショップです。最初はインプットのために外部団体の協力も得ました。生徒が受講者としてワークショップを体験した後、ファブラボと図書館の間にあるオープンスペースにファブリケーション機器と本を持ち寄って、生徒が自らワークショップの主催者として、より良いワークショップ会場にするべく空間づくりに挑戦しました。
企業のオフィス見学に行ったり、主催者としてワークショップを行う空間を模索したりといった経験を重ねるうちに、「空間が少し変わるだけで、人の気持ちも大きく変わるのだ」と実感が湧き、最初は空間づくりに興味のなかった生徒たちも、イキイキと活動するようになっていったそうです。

聖学院 山本さん:プロジェクトを通じて、関係者が2人から30人へと大幅に増え、教員によるちょっとした仕掛けによって、空間を意識した生徒主体のワークショップができて良かったです。やはり自分が主体的に関わるきっかけがないと、なかなかアイデアは出てこないものだと実感しました。
アドバイザーの野中先生より
生徒は先生が考えてつくった空間で授業を受けているので、なかなか自分たちで“つくる”意識にはならないことがよく分かりました。そこから「ワークショップを企画する」という仕掛けによって、生徒が空間について主体的に考えるきっかけを与えられたのは、とても良かったですね。

(3)泉大津市立小津中学校
プロジェクト名:『「学校フードコート」設置プロジェクト』
発表者:倭倫子さん(泉大津市立小津中学校 指導栄養教諭)
高橋敏也さん(泉大津市立小津中学校 校長)

学校目標をはじめ、授業や行事、校則など、学校生活のあらゆるものを“生徒が創る”ことを大切にしている小津中学校。このような生徒主体の活動が広がっていくにつれ、「ミーティングやイベントを気軽に行えるスペースが不足している」という課題に直面していました。そうしたなかで、小津中学校では校舎の改修工事が進んでおり、以前は職員室として活用していた大きなスペースが空くことに。また、今年度から栄養教諭として赴任した倭さんは、「食育の一環として、ランチルームの進化版のようなスペースが欲しい」と考え、CO-SHAソウゾウプロジェクトに応募したと言います。
プロジェクトのテーマは、生徒・教員・保護者・地域の「食べる・集まる・催す」の拠点をつくること。サブタイトル「夢物語を現実に!!」を掲げ、プロジェクトメンバーを募ったところ、19名の生徒が手を挙げてくれました。
まずは、「こんな空間があったらいいな」という夢物語を書き出すことから始め、何度もランチミーティングを重ねながら、アイデアを具体化する方法を探っていきました。生徒はみんなワクワクして取り組んでいる一方、実現できるイメージが湧かず、行き詰まっていた倭さん。

しかし、一級建築士の資格をもつ学校関係者や、校長先生の同級生でもある家具デザイナーの方に相談できたことで、「廃棄予定だった旧技術室の大きな机をベースに、古材で新たな天板をつくってオリジナルのテーブルをつくる」という、思いもよらないアイデアが生まれました。また、「学校用にこだわらずに家庭用の家具で考えたら?」という校長先生からのアドバイスによって、選択肢が無限大に広がったと言います。アドバイザーの立花先生からも「頭の中で想像するだけじゃなくて、図面と模型を使用して可視化してみては?」とアドバイスをもらって実践してみたところ、話し合いではまとまりきらなかったところが、一気に具体化して、プロジェクトが前に進み始めました。
小津中 倭さん:限られた予算を最大限に活用するのは、大人の使命。バーカウンターやファミレスのようなボックス席、iPadを映すモニターやストリートピアノの設置など、生徒の願いをできるだけ実現していきました。肩肘張らずに、豊かな気持ちになれる空間として、フードコート改め“OZU Hygge(オズ ヒュッゲ)”と名づけました。私自身の頭の固さからたくさんの壁にぶつかりましたが、生徒のアイデアに大人が少しサポートするという協働の成功と、終始楽しく活動したことで、最高の空間が生まれたと思っています。
小津中 高橋さん:「子どもたちが求めていたのは、自分たちがゆるゆると過ごせる場所。学校にはそういう場所はなかなかないので。うちは子どもからの提案が合理的であれば何でもOKにしています。今回のプロジェクトは、子どもたち以上に教員も楽しんでいた。みんながずっと楽しそうにつくっていた点が良かったのではないかと思っています。

アドバイザーの立花先生より
何よりも生徒が楽しそうに過ごしていることが印象的でした。これからの生徒の自律的な学びや学校生活を支える場として、全国の学校にとって参考になる事例となったように思います。生徒と教員、専門家の協働によるプロセスも素晴らしかったです。

3ヶ月を振り返って
座談会では、3団体の発表者のみなさんとアドバイザーのみなさんをお招きして、プロジェクト活動全般の振り返りを行いました。テーマは「この期間を漢字一文字で表すと?」です。それぞれ、どのような回答だったのでしょうか。

女子美 藤原さん:最初はゆっくり歩き始めたのですが、徐々にいろいろな学校施設に見学に行ったり、生徒からアイデアをもらったりしながら、どんどん駆け足になっていき、最後は猛ダッシュという感じで駆け抜けたような印象だったので、「動」を選びました。
倉斗先生:私も学校へ伺うたびに、生徒と先生の距離感も含め、学校の空気が大きくゆっくり動いている印象を受けました。今回は空間をつくるプロジェクトではあったものの、学校の文化をつくるきっかけにもなったように感じています。
聖学院 山本さん:プロジェクトを進めるなかで、什器を動かせないなど、いろいろと想定外のことが起きて、途中でプロジェクトが大きく変わっていったこと。また、プロジェクトの前後で、空間の使い方はもちろん、生徒の意識も大きく変わっていったことから、「変」を選びました。
野中先生:「まずは先生が意識を変えることが大切だ」ということですよね。最初は大人による方向づけや支援があって、その後、協働や共創が生まれていく。教員からの働きかけによるきっかけづくりは、空間づくりの第一歩を踏み出すうえで欠かせないと感じました。
小津中 倭さん:たくさんの壁にぶつかりながらも、そのたびに解決できて、どんどん楽しい方向に進んでいっている感覚があり、ただただ楽しかったので「愉」を選びました。最後にできあがった空間を子どもたちが楽しそうに使ってくれているところを見て、それもまた楽しくて。終始、楽しませていただきました。教員が楽しんでいれば、子どもたちも興味を持ってくれると思っていたので、「とにかく楽しもう」というマインドは絶対に忘れないよう、心がけていました。

上野先生による総括
上野先生:全国の学校には、オープンスペースや多目的スペースなど、さまざまな可能性を秘めたスペースをお持ちの学校が多いのですが、これをいかに有効で楽しく素晴らしいスペースに転換していくかについて、今回の3つのプロジェクトは非常に大きな示唆を与えてくれました。また、すべてのプロジェクトにおいて、教員と生徒がともに考えデザインするワークショップ形式で、生徒の主体性を引き出すことに成功しておられて、大変感銘を受けました。今回、みなさんが実感された「環境を少し変えるだけで、人の気持ちや行動、学び方や生活の仕方を、ドラスティックに変化させられる」というのは、まさしく私どもが目指している学校環境の改革が目指すところです。多くの示唆を与えていただき、どうもありがとうございました。