「レーザーカッターのあるカフェ」として親しまれている『FabCafe』は、2012年3月にロフトワークがオープンしました。クリエイターはもちろん、近所のビジネスマンから通りすがりの旅行者まで、様々な方々でいつもにぎわっています。開店半年で約1万5000人が訪れ、カフェで制作された作品は約1,000点以上。国内外のメディア100媒体以上にも取り上げられ、2013年には海外展開もスタートする、注目のデジタルものづくり拠点です。

世界で広がっている「ものづくり革命」のムーブメント”Fab”。この言葉には「FABrication(ものづくり)」と「FABulous(愉快な、素晴らしい)」の2つの意味が込められています。そしてFabCafeは、そのスピリットをカフェという場に持ち込んだ、クリエイティブを愛する人のためのカフェであり、ラボであり、発信基地です。今回は、FabCafeの仕掛け人、Fabディレクターの岩岡孝太郎をご紹介します。

「またやりましょう」から始まったFabCafe

岩岡とロフトワークの関係は、2011年夏、ものづくりの市民工房「FabLab」とロフトワークが共同開催したコラボレーションイベントから始まりました。FabLabはレーザーカッターなどの工作機械を持ち込み、ロフトワークは建築家やグラフィックデザイナー、編集者などのクリエイターを呼ぶ形で、一泊二日のものづくり合宿を開催しました。このとき、FabLabのメンバーとして参加したのが岩岡だったのです。

「これが本当に楽しくて、“またやりましょう!”と林や諏訪には話していたのですが、“また”っていつ実現するか分からないじゃないですか(笑)だから合宿から帰ってすぐFabCafeのアイデアを企画書にまとめ、林に送ったんです。」

この、イベントの後の1通のメールからカフェを作るという計画が始まります。

FabLabとロフトワーク合同で開催されたイベントにて。自分たちで制作したトートバックを持って記念撮影

「それまでもFabLabではワークショップやイベントをたくさん開催していました。新しいものづくりをより生活に近づける試みも行ないました。ただ、イベントという形式では存在が有限であり限られた人しか参加できません。この合宿も同じでした。もっと日常的に存在して、誰でも気軽に入れてくつろぎながらFabを楽しんでもらえないかなと考えた時、カフェというアイデアが出てきたんです。ベースはカフェで、エスプレッソマシン等のカフェの厨房機器のならびにレーザーカッター等の工作機械がある。ラテを頼んでカウンターに取りに行き、まるでシロップやクリームを取るように、その流れで横にあるレーザーカッターでノートを加工したり、アクセサリーを作ってしまうような環境です。ロフトワークが持っている場所と、クリエイティブなネットワークでなら実現できると思ったんです。そんな場所はいまだかつて見たことないし、きっと面白いからやりませんか?と提案しました。するとすぐに、“ぜひ具体的に話そう”という返事が帰ってきたんです。」

当時、FabLabに参加していたほか、東京藝術大学の講師としてものづくりを教えていた岩岡ですが、あっという間にロフトワークへの入社が決まりました。8月末にコラボレーション合宿に参加し、入社したのは9月。そしてわずか半年後の2012年3月にFabCafeが誕生します。今や岩岡はFabディレクターとして、イベントのコーディネートや新規企画を担い、Fabを通した新たな可能性を模索しています。

家具から始まった建築への情熱、その先にあったFab

そんな流星のごとくロフトワークにやってきた岩岡ですが、もともとの夢は家具デザイナーだったと言います。

「高校時代から家具が大好きで、よく有名なデザイナーの家具を見て回っては、自分もこんな家具をつくりたいなと思っていたんです。でも絵も下手だしデザインの勉強もしていない。美大は難しいだろうと思いながらも、それでも何か良いところがないか探していた時に、千葉大学の工学部にデザイン学科があることを知りました。学科の中では、デザイン系と建築系のコースに分かれていて、はじめはデザイン系に行きたかったのですが、スケールの大きい建築ができれば、家具もできるだろうと思い、建築コースに入ることにしたんです」

家具デザイナーを目指して建築の道に入った岩岡。しかし4年間のうちに、いつしか建築そのものに夢中になっていき、建築事務所で働きながら設計士を目指すようになります。そんな岩岡を、再びものづくりの根本に引き戻したのが、FabLab Japanの発起人でもある、慶應義塾大学・湘南藤沢キャンパス(SFC)准教授の田中浩也氏との出会いでした。

FabLab Kamakuraにて

「とあるイベントで田中浩也さんとお会いしたんですが、そこでは建築家たちが、“建築とはこうあるべきだ”とか、“それはもっと建築で改善していける”という、あくまで建築をベースにした議論をしていました。その中で唯一田中さんだけが、“その問題を解決するのは、本当に建築なのかな?もしかしたら、ソフトウェアやWebサービスで解決できるかもしれない。建築にこだわりすぎじゃないかな?”という問題提起をしていました。この言葉ではっとしたんです。いつの間にか建築自体が目的になってしまっていたんですね。でも、本当は、その空間でどんな人と人との関係が生まれるかとか、どんな素敵なことができるかとかが重要なのであって、建築にこだわる必要は全くないんです。そして僕は建築という形式に捉われないデザインを田中さんのもとで学びたいと思って、大学院に進学しました。そこで出会ったのがFabというまったく新しい“ものづくり”だったんです」

FabCafe店舗の設計をした成瀬氏・猪熊氏と
FabCafe店舗の設計をした成瀬氏・猪熊氏と

岩岡は建築設計の仕事を辞め、田中浩也氏の研究室に入ります。それはちょうど田中氏がFabという新しいものづくりの概念を研究し始めた頃で、岩岡も一緒にFabの世界へのめりこんでいくことになります。

「Fabとは何かというと、一言では説明できないのですが、大量生産・大量消費時代のいわゆる製造とは違う、Webの時代・シェアの時代の新しいものづくりの概念であり仕組みです。高い技術や工作機械はこれまで製造の現場にありました。でもそれら最新の技術や機械を一般の個人が使えるようになったら、もっとクリエイティブで面白いものができると思いませんか?そして、そこにWebという手段が入った時、世界中にシェアすることもできる。その可能性にすごくわくわくするし、世の中の色々なものを変えていけると思うんです」

FabCafeはクリエイティブのHUBであり、壮大な流れの一部

そして岩岡はFabLabのスタッフとしてFabの実践者となり、ロフトワークと出会うことになります。既に多くのクリエイティブイベントやコラボレーションを実現させてきた岩岡ですが、今後のFabCafeに一体どんな未来を描いているのでしょう。

「クリエイティブが、もっと対流のように、ダイナミックに動き回るような仕組みを作っていきたいです。たとえば、ロフトワークはloftwork.comというクリエイターのネットワークがあります。参加しているグラフィックデザイナーやイラストレーターは充実しているものの、建築家やプロダクトデザイナー、クラフト作家となるとWebサイトの特性もあって、どうしてもまだネットワークが弱いのが現状です。FabCafeというメディアを通じてコラボレーション機会を増やし、全方位のクリエイター・ネットワークへと拡げていきたいですね。実際、FabCafeにいると、次々と面白い人たちが来て、クリエイティブな発想で色々なものを作っていきます。そして、そこで“それ面白いね!”という会話が生まれて、新しいイベントとかプロダクトが生まれているんです。たまたまFabCafeに来たお客さんと意気投合して、その場で夜中まで一緒に企画書を書いたこともあります(笑)」

Fabサポートスタッフの金岡君と。彼はマンチェスターのFabLabに入り浸っていたという生粋のFabボーイです。
Fabサポートスタッフの金岡君と。彼はマンチェスターのFabLabに入り浸っていたという生粋のFabボーイです。

面白いと思ったら、それにしがみつき、挑戦を繰り返し、走り続けている岩岡ですが、本人自身はいつも悶々と悩んでいると言います。

「今までも今も、本当に面白いことにチャレンジする機会に恵まれているのですが、僕自身は本当に何もすごいことはしていないし、いつも悩んでばかりです。でも、どういうわけか周りにはいつも面白い人たちがいて、自分が生煮えで足踏みしているところに、ポンと背中を押してくれる。面白い!と思って一生懸命追いかけていくとまた面白い人に出会って面白いことが起こる。それが止まらないんです(笑)」

そう笑う岩岡の人柄、そして、建築を発端としてあらゆるクリエイティブに興味を持ち、面白がり、そして突き詰めていこうと努力を続けているからこそ、常に多くの人を惹きつけていくのでしょう。Fabという新しいものづくりの可能性をキーに、クリエイティブの世界をどんな形で拡げ、「クリエイティブの流通」を展開していくのか。ロフトワークの大きな期待を、岩岡は背負っています。

「超インドアに見えるでしょ?」という岩岡の趣味は実はキャンプ
「超インドアに見えるでしょ?」という岩岡の趣味は実はキャンプ

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