ロフトワーカーが木を切り、かなづちを握る!?

みなさんこんにちは!今年も7/21-7/22と合宿に行ってきました。(昨年の様子はこちら)場所は多摩の奥。すなわり奥多摩です。緑豊かで自然にあふれる素敵な場所。もちろん、ただキャンプをしてきたわけではありません。今年も色々やってきました。合宿班の面々がレポートとしてお届けします。

ものづくり体験したいよね

思い起こすこと数カ月前、合宿候補地を考える※G8会談中。(Gassyuku班8人衆)

▲今年も有志メンバーが合宿班に名乗りを上げました。

「ロフトワークの仕事がどんどん広がってきているから、より多様な課題からサービスを発想するトレーニングがしたい」
「どれだけテクノロジーが進化して便利になっても、丁寧なものづくりを忘れてはいけないよね」
「いつもパソコンの前に向かっている時間が長いので実際に手を動かすアクティビティを入れよう。!」

そこで考えられたテーマがこちら!

奥多摩の間伐材で、「木工 Make-a-thon(メイカソン)」をしてみる。

渋谷にオフィスを構えるロフトワークにとって、身近な「森」である東京都・奥多摩エリア。その森がかかえる課題を学び、奥多摩の間伐材を使った製品、サービスを実際に手を動かして考えてみよう。ということになりました。

Make-a-thon(メイカソン)とは「Make(つくる)+Marathon(マラソン)」の造語。 みんなで集まり意見を出し合い実際にプロトタイプを作ってみるイベントです。(テクノロジーの世界だとHack-a-thon(ハッカソン)が有名ですよね。そのものづくり版です。)
今までの合宿は事前にじっくり準備して挑むプレゼン大会がほとんどだったため、「現地で作る」のは初めての試み。さて、どうなることか・・・。

Day1:森に触れ、森を学ぶ

ということで、7月21日の日曜の朝(!!)から、渋谷に全員集合。奥多摩に向けバスで出発しました!ロフトワーク合宿初の“貸切バス”ですよ〜。「ロフトワークご一行様」の文字にテンションがあがります。

バスに揺られること2時間。細い山道を華麗にすり抜け、森と市庭さんの社有林に向かいます。山の麓に来たら、お弁当をかついで、軽く山登り。1日目のランチタイムは、贅沢にも森の中でいただきました。ごはんは地場の食材を提供する森のカフェ「アースガーデン」さんのお弁当です。地産地消のお弁当は地元産のわさびの入ったコロッケなど。とても美味しかったです。

「おいしい!」

腹ごしらえがすんだら、皆でヘルメットを被っていざ森の中へ。

今回、森ついての説明と間伐の実演をしてくださったのは、東京チェーンソーズの吉田さん。都心の仕事から転職し、林業に転身した異色の経歴の持ち主です。森を健康に保つために必要な「間伐」。吉田さんは、7人の仲間と「多いときには一日に100~150本を伐る」んだそうです。

吉田さんが伐ってくれたのは高級木材・檜です。刃が入った瞬間、檜風呂などとは比べものにならないほど濃厚な香りがしました。伐ったばかりの断面はフルーツのように瑞々しかったです。多分樹齢25年前後の樹木でしたが、「劣勢木」(上方からも側方からも陽光は制限され、成長が劣っている木)なので、他の木の成長のために「間伐」されました。そう、すべての人工林はこうやって手をいれてなくてはいけないので、国内にはたくさんの間伐材が余っているのです。

▲東京チェーンソーズの吉田さん

素人目には「勿体ないなあ」、と一瞬思ってしまうわけですが、間伐をしなければ木々の間隔が狭まってどの木も痩せ、商品化できません。森の健康も保てません。まさに「木を見て森を見ず」です。身近なようで知らない「モク」の話を、五感とともに学んだ森林体験でした。

▲みんなで木をきりました
▲伐採した断面。ひのきの香りが周囲に漂います

奇跡? 危機的? 日本の森についての話

さて一行は、森を出て、旧小河内小学校に。10年前に廃校になったとは思えないほど綺麗に保った学校の体育館で、森林価値を高める多角的な事業を展開されているトビムシの代表・竹本さんの話をうかがいました。

▲トビムシ竹本さん

森の前に、まず水の話から。地球上にある淡水の割合が0.1%でしかないということと、それを保っているのが森だということ。現在は各地で森がなくなり、山は保水できず、雨は地表を流れすぐに川へ、そして海へと流れ込んでしまうことを教わりました。世界中の川がグランドキャニオンのように枯れてしまうピンチです!

一方、世界から森が姿を消す中、日本は戦後全国で植林をし、今はそれが生えそろった時期。なんと中世以来、もっとも国土面積中の森林面積が広い状態なんだそうです。これは先進国各国を見渡しても唯一。日本の森は、「奇蹟のような状態」だそうです。

ただ、木材は輸入した方が安いという理由から、日本は各国の原生林を輸入している状態。「在庫過多」です。「手入れに手間暇かかるため原価高い」国内植林木材は売れない。売れず林業に資金が入らないと、森の手入れが行き届かない。出荷できるクオリティの木が育たないと、誰も手をいれず……やがて山は死んでしまう。これが日本の森の危機的現状だというのです。

  • 森林伐採で問題なのは温暖化だけじゃない。CO2上昇だけじゃない。水がなくなる!
  • 人工林は手を入れ続けないと出荷価値のある木材を育てられないが、その資金と人手が足りてない
  • 日本は森が多いのに、その木材を使わず他国の原生林伐採して輸入してる

皆が驚いたのは「森は使わないとだめ」ということ。使い捨てはだめ、物は大切に──そう教わってきた私たち。今までは、割り箸を棄てるのもためらいがあったのですが、むしろどんどん使っていかないと、森はこのまま枯死してしまいます。10年後には日本の森は出荷もできない事実上のはげ山になってしまうのだそうです。

ブレスト開始!「誰が」「いつ」使う!?

さて、実際に森に触れ、竹本さんの話を聞いた後は、その課題に向き合うアイデアを考える番です。「日本の、多摩の木でしかできない商品」開発のためのブレストを班ごとに行いました。「誰が」「いつ」使うものかを考えるところからスタート。1日目はユーザーニーズのアイデアを出し合って終了しました。

▲いつ。誰が使うのかからアイデア出しを開始。
▲この段階ではまだ何をどんな材料で作るか迄は考えません

肉だ! 炎だ! Make-a-thon本番に向けて鋭気を養う

手と頭を使ったあとは、翌日に備えて腹ごしらえ! 渓流沿いのジンギスカンハウスで、たんまりお肉をいただきましたよ。

▲夕食は肉。ジンギスカン!
▲肉で乾杯してみる。

宿泊地は、氷川キャンプ場。今年の宴会はロケーションが違います! 川の音、月のあかり、木々のざわめきに囲まれた大自然の中でキャンプファイヤー。自然の癒しパワーを全身に浴びて、なんだか例年よりみんな大人しかったような(笑)。ゆったりと火を囲んで、普段あまり話す機会のない仲間とも、会話を楽しんだ夜でした。

▲ロフトワーク合宿初のキャンプファイヤー
▲マイムマイムをやってみました

Day2:手づくりの朝ごはんからスタートする、手づくりの合宿2日目

2日目の始まりは、キャンプ場での朝ごはんから。モノづくりにこだわる今回の合宿では、手作り朝食にチャレンジです。なんと72名分の食事を作ることに!!……つかの間の給食のおばちゃん体験を味わうことになりました。

▲山の朝はいつもより早い!寝ぼけまなこで、朝ごはんをいただきました。

「パッシブデザイン」を学ぶ

朝食の後、再び旧小河内小学校に移動。まずはチームネット甲斐さんのお話を伺いました。

▲チームネット甲斐さん

チームネットは「ここちよさ」をテーマにデザインを行う会社。デザインを考えるときの根底にある、二つの考え方を教わりました。

  • アクティブデザイン:スペックのデザイン
  • パッシブデザイン:体感のデザイン

例えば家を探すのに不動産を探してみると、いわゆる「スペック」が並んでいます。住居専有面積、部屋数、断熱材、床暖房……などなど。これらスペックの質を上げるのが「アクティブデザイン」だとすると、「リストには書いてないけれど、北側に小さい窓があるおかげで、風が通っていつでも涼しい」というような、「ここちよさ」の質を上げるのが「パッシブデザイン」です。

「昔は技術の問題もあって、スペックを高めるのにも限度があった。だから自然に合わせ、如何に快適に過ごせるかを追求して家をたてた。こういったアプローチを”パッシブデザイン”と呼んでいます」と甲斐さん。 

江戸時代の古地図と現代の地図を比較してみると、昔は街道沿いと山の麓の境界線に民家が集中していたことが分かります。山が風雪を遮るので、山の麓は過ごしやすい。ここに家を建てる知恵は「パッシブデザイン」、街道沿いは人通りが多くて便利。これは「アクティブデザイン」というわけです。

それが現代の地図になるとどこもかしこも家で埋め尽くされている。技術が向上して、どこにでもスペックを上げ、適度に快適な家を作ることが出来るようになったからです。「近代とはパッシブデザインが廃れ、アクティブデザインに埋め尽くされた時代」ともいえるのです。

みんなで立ち上がってパイプ椅子の金属部分と、木材の樹の部分に腕を当ててみて「冷たく感じる方はどちらか」「ではなぜか」というような体感ワークショップもやってみました。「放射」や「対流」など、理科で習った説明を交えながら説明された、「ここちよさ」のデザインのお話は非常に分かりやすかったです。「いまだからこそ出来るパッシブデザインとは?」という甲斐さんの問いかけは、ワークショップの重要なヒントになりました。

いよいよ「木工Make-a-thon」開始!

さぁ、今までのことを踏まえて早速「木工 Make-a-thon」のスタートです。準備された木材の端材とロフトワーカーのアイディアがからまって生まれるプロダクトとは何か・・・?!

▲木材を切る!
▲体育館が巨大な工作室に
▲木材を組み合わせる!
▲編む!

各班ごとに作品発表

Make-a-thon開始から3時間半。いよいよ、今回の合宿の集大成、各班による作品発表です!まずは、ゲストチームから参考作品が紹介されました。

特別審査員として参加頂いたバッタネイションの岩沢さん兄弟が作ったこの箱、開けると…中には森で切ってきたヒノキの木片が。森の香りを持ち帰れるというお洒落なアイデアでした。

▲岩沢兄弟の作品

ロフトワークマネジメントチームの作品は、猫の遊び場。ぴょん、ぴょんと猫がステップを上がり、カゴの中に入れる仕掛けです。

▲猫好きの多い会場からは「ほしい!」という声も

社員も各班、多摩の木を思い思いに使ったアイデアを発表していきました。

▲木材を楽器として再利用した班
▲思い出のドアノブを作れるサービスを開発した班
▲削りだした木を繋ぎあわせて万能ペーパーを作った班
▲削り出した木でハンモックを編んだ班
▲「勇者」グッズ(?)を生み出した班
▲深夜の猫よけガード(?)を作った班
▲赤ちゃんのゆりかごを作った班
▲子供の成長を記録する柱を作った班
▲全部燃やせるキャンプセットを作った班

審査員からも特に好評だったのが、こちら。食事の前に、なんと自分で木を削り出して使うという木の器、名付けて「森皿」。「ぜひ多摩のキャンプ場に置きたい!」という審査員からのお言葉もいただきました!

あらかじめレーザーカッターで木材側に切込みをいれておくことで、いろいろな形のお皿を楽しむことができます。

制作過程も大公開!

審査員から評価された作品として以下3作品の制作工程を公開します。

ゆりかご

森皿

猫除け

森を学び、森を考えた2日間

一泊二日のあっという間の合宿でしたが、今の森を取り巻く環境を学び、森について考えた2日間でした。参加した社員からは「東京にもこんな森があるなんて!」と、近場ながらも今まで知らなかった、驚きの声が聞かれました。普段直接ものを作る機会があまりないぶん、自分の手でものをつくる楽しさに目覚めた社員や、もっとじっくりと作りこみたかったと悔しがる社員なども多かったようです。

木を切ったり、火を起こしたり、虫に刺されながらご飯を食べたり…たとえWi-Fiがとばなくても、クリエイティビティをたくましく発揮できることを証明したロフトワーカーたち。

今後の活躍にどうぞご期待ください!

合宿にご協力頂いたみなさま

株式会社トビムシ 代表 竹本吉輝氏

横浜国立大学国際経済法学研究科修了。アーサーアンダーセン、ERM日本を経て、環境コンサルティング会社を設立、経営。その後、アミタ株式会社へ合流、同社経営戦略本部戦略統括を経て現職。専門は環境法。国内環境政策立案に多数関与。同時に、財務会計・金融の知見を加味した環境ビジネスの実際的、多面的展開にも実績多数。立法 (規制) と起業 (市場) で双方の現場を知る元フットボーラー、現ファン。

株式会社トビムシ
http://www.tobimushi.co.jp/

株式会社チームネット 代表取締役 甲斐徹郎氏

東京都市大学、多摩美術大学、立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科、立教セカンドステージ大学、都留市立都留文科大学文学部社会学科 非常勤講師。1959年東京都生まれ。千葉大学文学部行動科学科(社会学専攻)卒業。1995年、環境共生型の住まいとまちをプロデュースするコンサルティング会社として、株式会社チームネットを設立。マーケティング発想による独自の「つながり」理論をもとに多くの環境共生プロジェクトを手がける。また、住民主体のまちづくりプログラムを構築し、いくつものモデル事業を実施、個と個の連鎖による緑のまちづくりを推進する。

株式会社チームネット
http://www.teamnet.co.jp/

株式会社東京・森と市庭(いちば)

http://mori2ichiba.tokyo.jp/

株式会社東京チェンソーズ

http://www.tokyo-chainsaws.jp/

多摩信用金庫

http://www.tamashin.jp/

Next Contents

「ETHICAL DESIGN WEEK TOKYO 2024」内関連イベントに
Layout シニアディレクター宮本明里とバイスMTRLマネージャー長島絵未が登壇