インタビュー DeNAの機械学習活用した体験提供の挑戦
今年の3月24日、25日に開催予定のイベント、Experience Design 2016 SPRING(通称:XPD2016 SPRING)。これまで様々な切り口から、UXとCXの今を考えてきましたが、今年は「データ」に注目。「Data × Design」をテーマに、未来を描き続ける経営者、サイエンティスト、プロダクト開発者などを迎えて参加者と一緒に考えていきます。今回はその登壇者の1人、株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)で機械学習活用したサービス開発で活躍している濱田晃一氏を訪ね、普段どのようにデータ活用をし体験のデザインに関わっているかを伺いました。
機械学習を活用し、新たな価値ある体験提供を設計・実装する
ー まず最初に、普段はどのような仕事をしているのか教えていただけますか?
DeNAの全サービスを対象として、機械学習を活用したサービス開発を行っています。DeNAはMobageなど、利用ユーザー数が数千万人を超える複数のサービスを運営しており、1日に50億件を超える行動ログが集まります。大規模ユーザー行動ログ・ソーシャルグラフ・テキスト・画像などを用い機械学習を活用して、数千万人のユーザーひとりひとりに対しそれぞれの興味・個性・つながりにあった体験を提供しています。
ー 実際にサービス開発まで関わるのですね。
はい。提供体験の設計から、機械学習の分散処理の実装まで行います。
ー お仕事の流れを教えていただけますか?
機械学習活用したサービス開発では大きく8つのことを行っています。最初は分析フェーズとして、課題設定を行います。
どの対象領域、ユーザークラスタ、ユーザー状況をターゲットにすると課題解決による価値が高いかを分析します。それをもとに、価値提供のポテンシャルが大きい挑戦すべき対象から取り組んでいきます。次に、詳細なユーザー体験設計とサービス設計を順に行います。
例えば、ここで「親密な仲間と一緒に新しいゲームを遊び楽しむ」という体験を提供するとき、どのような親密な仲間と・どういう状況だとより一緒に楽しめるか等、体験の詳細をつめていきます。サービス設計では、その体験を実現するためにはどのようなサービスの形がよいか提供方法の詳細を考えていきます。体験設計とサービス設計を同時に行ったり、そこからまた分析フェーズに戻ったりと行ったり来たりを繰り返しながらどのような新たな体験提供ができるかを考えていく、重要なステップです。サービス運営・開発を行っているメンバーと一緒に活動します。
ーサービス運営・開発メンバーと一緒に体験設計、サービス設計を行うのですね。
そうですね。機械学習活用し「どのような新たな価値ある体験提供ができるか」、提供体験から一緒に設計・議論を行っています。機械学習は新たな価値提供のポテンシャルを持っています。ただ、機械学習に関わったことがない方には何ができるかわかりづらい。また重要なのは機械学習の手法ではなく、それによって生まれる体験です。そのため、機械学習の知見があるメンバーが「機械学習活用しどんな体験提供ができるか」を考え、一緒に行う設計・議論は「提供体験」にフォーカスし行っています。
ー たしかに、機械学習をどう活用できるか企画段階から知れるのは、発想の幅が広がりそうです。
先ほど例に出した「親密な仲間と一緒に新しいゲームで遊び楽しむ」体験設計の話では、機械学習の活用で、ユーザーのアクセス特徴・アクセス先のコンテンツの特徴から目的にあった興味を、興味・ユーザー間のコミュニケーション特徴からゲーム・コミュニティを横断した目的にあった親密性をもつ仲間を、日々ユーザーひとりひとりに対し自動学習することにより、仲の良いユーザーが別の新しいゲームを始めて楽しんでいる時に「あなたの友人がこの新しいゲームで遊んでいます」とさり気なく新しい冒険の旅へ興味が惹かれるサービス体験を実現します。こういった体験は機械学習を上手く活用するからこそ提供できます。
引用資料:https://www.slideshare.net/hamadakoichi/dena-46573694/128
ー 企画側の「こんなことできたらな」という未来アイデアが、実は機械学習技術の発達で実現できるようになることが、これからもたくさんありそうですね。
そう思います。次のステップの洗練サイクル設計は、機械学習を活用したサービス開発で特徴的であり重要な要素です。ユーザーが日々何気なく利用するだけで体験が洗練されていく仕組みを作る。使えば使うほど興味学習が深められ、より適切な情報が提供される、というように設計・実装しています。これに関連して、ログ設計や、連携データ設計を次に行います。洗練サイクルに必要なデータを設計しサービス側でログ出力する、提供したい体験に合わせた連携形式を決める。
そして最後のフェーズでは、大規模なデータでもスケールするように、分散アルゴリズム設計を行い実装します。数十億/日のユーザー行動ログが蓄積されていき、数千万ユーザーひとりひとりに対して学習する必要があるため、機械学習アルゴリズムを数百台・数千台と分けて分散実行できるような実装をする必要があります。また、こういう体験を提供したいというときに、ぴったりと合うアルゴリズムが存在しない場合が多いため、足りない場合は自分で実装します。そうすることで、より早く挑戦のサイクルを回せるようにしています。
機械学習は手段。一番大事なのは「どんな体験をデザインするか」
ー 一連の作業の中で、重要視している工程はどこですか?
やはり、「体験設計」だと考えています。様々な機械学習手法がありますが、これらは手段でしかありません。それよりも先に「だれに、どんな新たな価値提供ができるのか考えること」が大事です。
工程ごとにデザイナーやシステムエンジニアなどいろいろなメンバーと一緒に仕事をし、「体験提供」の価値を最大限に向上させるために、それぞれの役割でどんな事ができるのかという視点でサービス設計から実装まで行っていきます。ただ、実際にどのくらい価値があるのかは提供してみないとわからないので、わからないことはやってみる、挑戦するようにしています。体験の新しさ・価値がありそうなことまではある程度わかりますが、価値を感じてくれる人の規模が、1万人か・10万人か・100万人か・1000万人かは、実際に提供してみないと分からない。
また実は、事前に効果の定量見積もりができるものは、見積り程度の効果しかでないことが多いです。定量見積もりができるということは、その見積もりの元にした類似の提供が既にある状況。それよりも「価値はありそうだけどまだ前例なく、どのくらいの効果があるのかわからない」ものほど挑戦する価値があり、設計・実装し試してみることにしています。対象ユーザーを絞り、ABテストを実施し、提供価値の評価をする。価値が大きければ広く展開し、小さければ追加の洗練を検討するか、別の新たな挑戦を行います
“新しい体験を探すヒントは、ユーザーを知り、同化すること”
ー 新しい体験設計のヒントはどのように見つけているのでしょうか。
例えば、ゲームプラットフォームの提供に関して、実は私自身もゲームをすごくやるんですよ。数十万人規模のいくつかのゲームのユーザーランキングでトップ3に入ったりしています。つまり、自分自身がユーザーであって、私がゲームをやる中でこんな機能が欲しいなと思ったり、こんな体験ができたらいいのに、という原体験がきっかけになっていることも多いです。
ーデータから読み解くのではなく、自分の体験から読み解いていたのですね。
そうですね。サービス提供する上で、利用・体験する人の感覚を体感として持つことは非常に重要だと思います。しっかりとしたユーザー感覚をもっていると、その体験提供の価値がどのくらいあるかが体感としてわかり、価値ある体験提供の洗練、学習アルゴリズムの細部でより適した実装ができます。農作業のサービス提供するのだとしたら、農作業を自分でもやってみる。ウェブサービスを提供するなら、あらゆるウェブサービスを見るだけじゃなくて実際に使ってみる。それにより、何が新しいのか、何が価値なのかが体感としてわかる。その感覚を持ち、設計・実装を行うことにより、より価値ある体験提供の挑戦を行えると思います。
ー 体験を創るにはまず自分自身が体験してみること。というのを、データサイエンスの立場の方から聞けるのはとても新鮮でした。ありがとうございました。
3月24-25日、「XPD2016 SPRING - Data × Design -」開催!
3月24日、25日、「体験をどうデザインするか?」をテーマに幅広いジャンルのスピーカーを招き、先端事例を交えながらUXやCXについて様々な角度から探るシリーズイベント「XPD(Experience Design)」を開催します。
5回目を迎える今回のテーマは「Data × Design」。
いま世界ではさまざまなモノがデジタル化し、日々膨大なデータが蓄積されています。「企業は、それらをどう活かし新たな体験をデザインしていくのか?」という問いのもと、未来を描き続ける経営者やサイエンティスト、プロダクト開発者などを迎えて学ぶカンファレンス形式のDAY1、そしてワークショップ形式で学びを実践するDAY2の2日間です。
今回インタビューした濱田氏もTechnology Sessionで登壇します!濱田氏が最近興味を強く持っている機械学習や深層学習の最新テクノロジー事情の紹介や、それらを活用するとどんな新しい体験ができるのか、感性・創作に関わる新たな体験提供など今どんな挑戦をしているのかなどお話しいただきます。ご興味ある方はぜひご参加ください。
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