FabCafe Kyotoをオープンした。

6年前。2011年夏、京都の四条烏丸にロフトワークのオフィスを、その4年後、2015年の12月にMTRL KYOTO(マテリアル京都)を五条河原町に開いた。
伝統的な素材も先端素材も含めた、ローカルな「素材」に取り組むMTRLは順調に成長してきている。
沢山の伝統的な工房やメーカーと対話やワークをし、コラボレーションも進んでいるし、面白いプロジェクトが生まれている(与謝野町のプロジェクト、西陣織と水耕栽培機のコラボレーションetc)。一方で日本を代表する先端技術企業ロームが始めたオープンな取り組みのプロジェクトも2年目に入っている。

そしてFabCafe”京都”のオープン。

2年前のMTRL構想時から各種法規もクリアした上で厨房をつくり、カフェはいつでもオープンできる設計。
つまり今回のFabCafeオープンはその時が来た、ということ。

最初のお客さんのふり(笑)

FabCafe京都は世界で9番目。台北、シンガポール、タイバンコク、スペインバルセロナ、フランストゥールーズとストラスブール、そして日本の渋谷と飛騨、いずれも新しいクリエイティブやアイデアが生まれている面白い街。そして2017年内に香港、そして北米2店舗がオープンする予定。

FabCafeは当初からグローバル展開を目指した設計と運営をされている。コンセプト、どんなコミュニティであるのか、展開の手法、そしてコミュニケーションのルール。日本初で世界に広がっているサービスは沢山ある。でもロフトワークをはじめとした新しく小さな組織、限られたリソース、そして限られた資金の組織が「世界に」サービスを展開することは簡単ではない。僕らもそうだし、多くの日本のスタートアップがそうだろう。そして企業内の新規事業でさえ部門レベルでは実は同じ状況であることも多い。

「優れたアイデアやクリエイティブは国境を越える」と口で言うのは簡単。でも「国境を越えることができるクリエイティブは限られる」のも事実。クリエイティブの持つ強さや、思想、情熱、”国境を越えるためのデザイン”、そして”運”を持っていないと言語や法律や国境や税金の壁に阻まれる。

6年前、京都に働く場を構えてみると京都の持つ文化の強度に驚いた。それは世界から京都に今人々が殺到していることからもわかるし、この6,7年で我々日本人自身も京都を筆頭に”地域”が持つ文化の価値と力を大いに再発見している。

もし4年前に東京に続き京都でFabCafeをオープンしていたらどうなっていたか。おそらくFabCafeはグローバルに展開できていなかった。飲食サービスはその場所が「飽和」してから異なるエリアに展開するのが常道だ。でもFabCafeは飲食店ではなくコミュニテイだ。東京と京都から生まれる日本人だけの濃いコミュニティをつくってしまってはもう外国人が入ってこれない。特に京都は「日本そのもの」の力を強烈に持っている。「外に出て行く力」より中で楽しくなってしまう。

台北の街

一方でFabCafeを最初から海外で始めていても、うまくいかなかった、と思っている。4年前、台北の場を決めるために何日も歩き回り、何ヶ月かをかけて台北の街を知る。どこにクリエイティブが集まり、20年後も力がありそうか。飛騨で場所を決めるにあたっては、代々続く古川名家の当主と話し合い、飛騨市の人々と多くの時間を使った。でもそれはほんの「始め」で実際に僕らが持つ得意な力をその場所でアジャストするのには1,2年の時間がかかる。同じ米国でもシリコンバレーに行って成功させる、よりも(15年以上も前になるけど)3年ほど住んでいたNYの方が多分うまくいきやすい。

場所を持つ力をどうサービスにつなげるか。それは自分がどうその場所の事を「知っているか」という関係のリフレクションだ。

台湾の電子企業の巨人デルタ電子の新規事業をはじめるにあたり、その担当者のマーベリックさんは渋谷のFabCafeをユーザーと対話をしつづけカイゼンをしながらプロトタイピングをする場所に選んだ。彼は毎日FabCafeの席に座り、ユーザーがどうそのプロトタイプと接するかをみていた。
昨年のYouFabアワードには31カ国から196の作品が集まった
今、飛騨のFabCafeには世界中から学生30人が訪れ、建築とAIと組み木の融合を考えるワークショップを行なっている

デザイン・ファッション・建築・メディアアートを専攻する学生約30名と各大学の教授4名が飛騨に3週間滞在。飛騨の主要産業である林業、木工、伝統の組木技術を学ぶと同時に最先端のIoT技術などを用いてサービスやプロダクトを実作。

「ローカルなクリエイティブコミュニティがグローバルに繋がると何が起きるのか」

FabCafeの実験と実践、共有は順調に進んでいる。京都に生まれた9番目のFabCafeが世界の中でどんなイノベーションノード(結節点)になるのか。
京都の技術や素材と文化を求めて世界から京都へ。
世界に向けた発表会を京都とシンガポールで同時に行なってもいいかもしれない。超高品質の製品は京都から発表とコミュニケーションをはじめ、京都との職人とのコラボレーションを世界に問うたらどうだろう?東京からあるいはSXSWから、よりずっと世界からの興味を引くかもしれないし分厚いデザインを世に出せる可能性があるんじゃないかな、って感じている。

京都のFabCafeそしてMTRL、お楽しみに。そしてよろしくおねがいします。

諏訪 光洋

Author諏訪 光洋(代表取締役社長)

1971年米国サンディエゴ生まれ。慶應大学総合政策学部を卒業後、Japan Timesが設立したFMラジオ局「InterFM」立ち上げに参画。同局最初のクリエイティブディレクターへ就任。1997年渡米School of Visual Arts Digital Arts専攻を経て、NYでデザイナーとして活動。2000年にロフトワークを起業。Webデザイン、ビジネスデザイン、コミュニティデザイン、空間デザインなど、手がけるプロジェクトは年間200件を超える。 グローバルに展開するデジタルものづくりカフェ「FabCafe」、素材に向き合うクリエイティブ・ラウンジ「MTRL」、クリエイターとの共創を促進するプラットフォーム「AWRD」などを運営。

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