リスクのある方向に進むと、違う世界が見えることがあります。地上にいると見えない景色も、危険をおかして高い木に登ると、全く知らない世界が広がっていたりするように。

人は本来好奇心で生きています。好奇心はリスクをテイクさせるモチベーションとなり、古代から現在に至るまで人間の営みを進化させています。

そんな人間の本能に導かれたのか。リスクを意識し単身海を渡った社員がいます。

まだ立ち上がって間もなかったロフトワーク台湾に唯一の日本人として参加し、日本とアジアを繋ぐ新たな挑戦の日々を送る藤原悠子にインタビューしました。(聞き手:マーケティング Div. 山口 謙之介)

地元企業との仕事も増加中。ロフトワーク台湾の今

— 藤原さん、お久しぶりです。藤原さんが台湾に渡ってから丁度1年になりますが、ロフトワーク台湾は今どんな活動しているんですか?

藤原 お久しぶりです!もう1年経ちましたか…。早いですね。今総勢7名ですが、おもにロフトワークのプロジェクトを担当しているのは代表のTimと3名のディレクターです。案件の種類としては日本と大きく変わりません。

台湾企業のWebサイト開発もあれば、グローバル企業の海外向け製品コンセプト開発もあります。台湾の地元企業とお仕事をすることも多くなってきました。クラフトビールや、百貨店のブランドサイトなどですね。

ロフトワーク台湾 ディレクター 藤原 悠子

— 藤原さんは、プロジェクトにはどんな関わり方をしているんですか?

藤原 台湾代表のTimがプロジェクト責任者を務めて、私がその下でディレクションを一手に行うような体制ですね。チーム内は英語でコミュニケーションしますが、私は中国語が話せないのでクライアントとは直接コミュニケーションできません。その分、どう彼らの意図を汲み取り合意形成できるかを計画して、チームで役割分担しながら進めないといけない難しさがあります。案件が落ち着いている時は、マーケティング施策を考えたり、チームをどう育て、仕事の質を上げていくかということも考えています。

リスクをとらないリスクへの意識

–立ち上がって日が浅いロフトワーク台湾で働くのは、結構勇気のいることだったんじゃないかなと思うんだけれど、もともと海外で働きたいという希望だったんですか?

藤原 う〜ん。そうですね…。ロフトワーク入社前に約1年半ニューヨークに留学していたのですが、そこで出会った人たちや編集のインターンシップ経験をとおして「リスクを取る」ことを刷り込まれたのかもしれません。ニューヨーク自体はライフスタイルがすば抜けてかっこよいな…という不埒な理由で行きましたけど、彼らは「リスクを取らないリスク」を意識していることが、日本とは大きく違っていました。

日本は同じ会社に長く勤めることをよしとする風潮がまだ残っていますが、ニューヨークの人たちは、同じ会社に勤めながら一つのスキルしか持たないことを非常にリスクとして考えているんですよ。

失敗を受け入れる覚悟でリスクをとって挑戦した人がプロフェッショナルとして成功できる世界だと感じました。そういう人たちに出会って、感化され、リスクをとって挑戦したい=海外で働いてみたい、と繋がったように思います。

2013年〜2014年に留学してたくさんの刺激をもらったニューヨーク

— 確かに。僕はロフトワーク1社が長いので、漫然とした不安はあるかもしれない。ニューヨークでの経験が原体験なんですね。

藤原 そうですね。

日本だと30歳を越えてからのキャリアチェンジは難しいと思っていましたが、ニューヨーカーたちは臆せずに、どんどんと肩書きを変えていく。働き方の常識みたいなものは、完全にひっくり返りました。あとは、「堂々とした振る舞い」も重要なスキルだと強く感じましたね。自分がインターンシップという立場で経験が浅くても、堂々とコミュニケーションすればそれに答えてくれるし、逆に自信がなさげに話していると、早々に会話を切り上げられたりとか。

— 海外に出ると、常識がひっくり返る体験ってありますよね。ひっくり返された数だけ成長していく気がします。

藤原 だといいんですけど。そういう意味では、今も台湾で常識をひっくり返されていますね。

— 台湾ではどんな毎日を過ごしてるんですか?

藤原 4ヶ月前から、午前中は大学で中国語を勉強し始めました。もともと語学が好きなので楽しいですが毎日ヘトヘトです。そのままお昼から会社にいきます。オフィスシェアをしている会社によく3歳の女の子が遊びにきたりして、会社の雰囲気はいい感じです。彼女と中国語で話して練習してみたり。

混沌と矛盾のなかに身を置く醍醐味

— 日本と台湾のロフトワークで、仕事を進める上での違いってありますか?

藤原 仕事の種類は変わりませんが、進め方やチームはかなり違いがあります。日本はすでにきちんと役割分担がありますよね。台湾チームはメンバー全員で走りながらアウトプットしている感じです。千晶さん(ロフトワーク代表 林千晶)に、毎日がカオスのようです・・・と話したら「クリエイティビティに大切なのはカオスなのよ!」と川喜田二郎さんの「創造性とは何か」を読むように勧められました(笑)。

— 川喜多二郎さんはKJ法の生みの親で影響を受けているロフトワーカーも多いですね。

藤原 わたしも共感する点がすごく多くて。混沌と矛盾のなかに自ら身をおいて、実践によって問題解決に取り組む。そうして創造されたものをあとで振り返ると、すごく自然で、これしかないな、と思える。といったようなことが書かれていて、まさしく同じ経験をしてる!と思いました。

まだチームも若いですし、中国語が話せない私がプロジェクトをリードしていることがそもそも矛盾かもしれません。でも言葉を越えてどうチームで働けるか、アウトプットの質を高められるかを自分なりの方法で実践できる。混沌から始まるけれど、あとから振り返ると必ず納得感があるんです。その挑戦がロフトワーク台湾で働く醍醐味かもしれません。

台湾オフィスで仕事中の藤原

— 昔のロフトワークを思い出しますね。10数年前は、プロジェクトを進行しながら、新規のお客さんを獲得もしていましたし、開発環境をディレクターが構築することが普通に行われていた時代がありました。 

藤原 まさしくその状態ですね、今。逆に質問なんですが、そういう創生期に働けるメリットと今のロフトワークで働くメリットって何か違いはありますか?

— 全員で走りながらアウトプットしているというのを経験できることはメリットじゃないですか?やっている時は大変ですが、振り返った時にすごく成長を実感できたりします。あと創業者の諏訪さん林さんと近い距離で働けたのは今思うとラッキーだったと思います。

藤原 そうですよね。私もそれはモチベーションですね。ロフトワーク台湾の創業者のTimもアメリカで都市デザインの仕事をしていた人で、クライアントに言葉でデザインをどう伝えるか、など勉強になることが多いです。よく「Take your position!」って言われます。明確なポジションを取っていないデザインや提案には意味がない、と。プライベートでは柔らかい人ですが、いざ案件となると非常にロジカルで厳しい一面を見せます。

それで結構意見がぶつかることもあるけれど、いい経験をしていると思っています。

— 確かに、昔諏訪さん千晶さんもしょっちゅう意見を戦わせていましたね。でもその意見をはっきりいいあう状況が今の会社を作ったのかなって思いますよ。

藤原 二人の様子が想像できますね〜。

台湾が持つ可能性とは?

— 日本に帰りたいって思うこともやっぱりあるんですか?

藤原 毎日思います!

— 毎日思うの!テイクリスクしなきゃっ!って選んだ道なのに(笑)

藤原 そんなに深刻ではないけど、ふとしたときによく日本のことを思い出します(笑)外に出たからこそ、日本のいいところが見えてくる部分はありますね。

— 日本のいいところって例えば?

日本人の「コンテンツ力」って本当にすごいな、とか。映画や漫画などはもちろん、日常レベルの小さな単位で一般の人たちが「もっと楽しく」「もっと面白く」「もっとよく暮らす」ことを追求している。毎日の料理、ファッション、写真、音楽、インテリア、またはニッチな世界で高いクオリティで世界観を発信する人たちがいて、さらに彼らの欲求を満たすために毎月あらゆるジャンルの雑誌が生み出されている。ハードではなくソフトや体験の時代と言われる中で、そういったコンテンツを極める力は、アジアでも貴重だと思います。台湾にいると、アジアにおける日本の強みが見えやすいように思います。

— 今、台湾の景気動向どうなんですか?

藤原 GDPとしてはまだ緩やかに伸びていて、中国に生産拠点をもつ電子機器のOEMや製造業がそれを支えている状況です。IT系のスタートアップも多数あります。

ただ、そういった製造業の売上も減少傾向ですし、日本と同じく少子高齢化の問題もあります。これからは日本と同じように、大企業だけでなくスタートアップや中小企業が新しい価値を提供できるかどうかの転換期のように思います。

そういう意味でロフトワーク台湾は新しい価値の模索をはじめた台湾の企業と一緒に領域を越えたオープン・コラボレーションを促進できると感じています。

— それはやり甲斐もありそうで面白いですね。藤原さんが感じる台湾の魅力や可能性って?

藤原 私は日本のクリエイターが海外で活躍する最初のステップとして台湾の可能性を感じています。 日本のデザインやクリエイティブの成熟度は台湾から見るとかなり高いと思います。ただ日本は成熟している分、認められるのには時間がかかったり、ニッチに尖ることを求められたり。台湾で活躍し、経験を積んで日本に逆輸入される流れがあってもいいんじゃないかな、と。石垣市とロフトワークのプロジェクト「USIO Design Projcet」では台湾をメインターゲットにとらえて、石垣島の名産品をデザイナーがリデザインしました。それらが台湾でもっとも権威あるデザインアワード金點設計獎(Golden Pin Design Award)で表彰され、若手デザイナーが名誉ある賞を獲得できたことは私たちにとっても嬉しかったです。

— 商習慣の違いは感じる?

藤原 コミュニケーションがフランクでスピーディーですね。ディレクターがクライアントと初回のMTGでLINE交換していることにびっくりしました。企業対企業のいわゆるカチっとしたやり取りよりも、人対人で信頼関係が成り立っているというか。ロフトワーク台湾もクライアントが次のクライアントを紹介してくれるケースも多いです。

— 日本だとビジネス上でLINE交換はなかなかないですよね。

藤原 そうなんですよ。でもクライアントとフランクに接しやすいので、一緒に価値を考えていくような案件では、とくにやりやすいと感じることが多いですね。日本と比べて、伝統や基準といった共通ルールに囚われない自由さや寛容さ、を感じます。

国境や専門領域を超えたコラボレーションを促進する

— 藤原さんは、今後のロフトワーク台湾でどんな仕事をしたいと思ってるんですか?

藤原 いま力を入れたいのが「Creative Impact in Asia」というロフトワーク主催のプロジェクトです。国境や専門領域を超えたコラボレーションを促進する、というテーマを持ってイベントなどをしています。まだ探り探りで、日本や香港のデザイナーによるトークイベント、アーティストの滞在制作をしたりと幅広くトライしています。

— FabCafe Taipeiと一緒にやっているんですか?

そうですね。FabCafe Taipeiがある「華山1914文化創意産業区」は、台北のなかでも常に人が集まるとてもいいロケーションにあります。この立地は、日本のクリエイターが海外に活動を広げる玄関口として最適だな、と思ったんです。

FabCafe Taipeiも入居している華山1914文化創意産業区

藤原 台湾は海外なんだけど日本人からすると挑戦のハードルが低い。クリエイターの活躍する場が海外に広がればいいし、それが台湾企業とのコラボレーションに繋がればロフトワークのプロジェクトにも繋がる。個人的にも、領域を超えた創造に積極的な人たちとの仕事は刺激的です。

FabCafe TaipeiでのCreative Impact in Asia vol.3 の様子

— まだまだ挑戦の日々が続きそうですね。最後に、文化の違いを越えて働く面白さってなんですか?

藤原 文化や言葉を越えてなにかを実行することはコミュニケーションに労力がかかります。でもそれ自体が挑戦だし、挑戦している人をまわりは必ず応援してくれます。こちらが壁を越えようとする分、応援してくれる人たちも増えるので「あれ、できちゃってる?」と、結果的にはやりたいことをやりやすいんだと思います。自分ひとりではできない分、メンバーと働く面白みも味わえます。

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