モノやコトを通じて伝わる “ポエジー”への興味

ー今回、金森さんがロフトワークに入社することになったきっかけは何だったのでしょうか?

金森:3年程前に「ファッションは更新できるのか?会議」というプロジェクトをやっていて、その一環として行った「100人会議」というイベントでロフトワークにも関わりの深い福田敏也さんに全面的にご協力いただきました。その福田さんとのご縁がきっかけで、諏訪さんとお会いしたのがはじまりです。

諏訪:そうだね。今回の出会いは、ロフトワークのことをよく理解している福田さんのインスピレーションが大きかったと思う。お互いに信用している方がつないでくれたというのがよかったね。

金森:そうですね。私は、アパレルブランド「シアタープロダクツ」を中心にファッション業界で17年くらい仕事をしながら、平行してNPO法人「ドリフターズインターナショナル」でシンポジウムや勉強会の企画をやっていました。それらのプロジェクトや、「ファッションの未来を発明する1日 100人の大会議」を経て、多様なジャンルで異なる価値観を持った人たちが出会い情報交換がされていく中で、新しいものが生み出される場をつくることをやっていきたい、と思うようになったんです。

2017年にシアタープロダクツを辞めることになり、自身のNPOや劇団の活動をしながらも、そういうことができる場や仕事をもりもり生み出す環境はどこかないかしら、と思いながらいろいろな方にお会いしていた中で、ロフトワークと出会いました。

FabCafeMTRLでのイベントに出させていただいたこともありましたし、(林)千晶さんには「100人会議」に出てもらったこともあって、ロフトワークには興味があり親しみも感じていました。いろんな分野のいろんな興味を持っている人たちが行き交っている“トラフィック”のようなイメージ。場=コミュニティとしての魅力を感じていましたね。

諏訪:金森さんというと、シアタープロダクツのファウンダーでもあり、クリエイティブディレクター。ファッションという業界で活躍していたから、僕だけでなく多くの人が、真ん中には「ものづくり」があるイメージを持っていると思う。でも今のお話を聞いていると、「モノ」も好きだけどそれはツールのひとつでしかない、っていう感覚があるのかな。

金森:そうですね。モノや出来事を媒介して人から人へ、ある“ポエジー”が伝わる、みたいな「現象」の方に興味があるんです。そして、それ自体を作る人たちにも興味がある。ポエジーが何かって聞かれると、説明するのが難しいのですが……(笑)ここでいう「ポエジー」は、言葉にならない、でも確実に存在するもの、世界の見方を少し変えるようなきっかけ、とでもいいましょうか。あったら生きてる時間がちょっと豊かになるようなもの、かな?

日常と物語との境界が曖昧になる瞬間。その混沌から生まれる豊かさ

ー金森さんが言う“ポエジー”への関心は、ご自身のどんな体験やバックグラウンドから来ているのでしょうか?

金森:私の原体験は5歳くらいの時。劇団員をしていた親に連れられて「人魚姫」の演劇を観に行ったことがありました。そこで人魚姫を演じていたのは、当時よく遊んでくれていた知り合いの女性だったんですけど、上演中はそのことに気づかなくて。カーテンコールで客席に降りてきた時に、「あ、いつものお姉ちゃんだ」って気づいたんですね。その時に、役の中から人間が飛び出てきたような不思議な感覚があって。

日常と物語の境がわからなくなる、その混沌としたところにダイナミズムを感じたんです。そして、虚構の物語と実際に生きている人の狭間が曖昧になっている時間がとても豊かなものに思えました。身体表現と日常生活とが繋がったり離れたり、そういうことが「作品」はもちろん、より日常を侵食するような服やプロダクトを媒介して起きることが面白いなー、そういうものは人生を豊かにするなー、と思いながら生きてるんです。

ーファッション業界において服を作るだけでなく「コト」を起こす、体験をつくり出す、ということに取り組むようになるきっかけはあったのでしょうか?

金森:学生時代は現代美術を学んでいたので、興味があるのはどちらかというとファインアートの方でした。演劇少女でもあったので、演劇の制作に関わったり、パフォーミングアーツとしてチンドン屋をやったりもしていて。

でも、ロンドンで通っていたセントラル・セント・マーチンズという学校がファッションで有名だったので、ファッションデザイナーの卵たちと一緒にいろいろなプロジェクトに関わる機会も多く、その中で日用品が人の生活にダイレクトに与える力ってすごいな、と思うようになりました。

演劇やアートが日常と切り離されたところでの観賞体験であるのに対して、日々を浸食するファッションてすごいなぁ、と。身体芸術の日常化に興味があったんです。

ーそれが「シアタープロダクツ」に繋がっていった。

金森:そうですね。シアタープロダクツに関していえば、アイデア自体はデザイナーのもので、私はそれを広げていく役割でした。

デザイナーは、言葉にならない衝動でモヤモヤしたものを始めるので、それを翻訳してこっちの人にはこう伝え、あっちの人にはこう伝え、ということをやりながらプロジェクトをドライブさせていくことが私の仕事でした。形になる前のものを言葉にするというか。

人にどう伝えるか、プロジェクトをどう育てるか、ひとつのアイデアを軸に異なる価値観の人たちをどう繋ぎ合わせるか。そういうことに面白さを感じていたので、ロフトワークでもその経験が活かせるといいな、と思っています。

新たなプラットフォーム「AWRD」編集長として

ー今回、金森さんの入社に関しては、諏訪さんからの熱烈オファーがあったとか。どんな理由だったのでしょうか?

諏訪:ロフトワークは、「loftwork.com」というクリエイターコミュニティからスタートしました。2000年にスタートし、この18年の中でクラウドソーシング的機能やオンラインストレージ機能などいろいろな機能をつけたり、不要な機能を無くして育ててきたクリエイターのポートフォリオサイトでした。

ロフトワークの中で最も古く、長く続いているサービスだったけれど、ここ数年でビジネス自体がWeb制作やイノベーションの方に移行する中で、ここに登録している数万人の若いデザイナーやイラストレーターと、ロフトワークの仕事とが次第に乖離してきてしまって。そしてポートフォリオサービスもクリエイターには不要になりつつあるし、サイトはシンプルにひとつの機能を求められる時代です。

近年のロフトワークはクリエイターと一緒にゼロから1を生み出すイノベーションの領域が得意になっているし、FabCafeにはそういうクリエイターが集まっている。

数年前から取り組んでいるYouFabアワードは世界的なアワードに成長し成功している。ゼロからイチを生み出すクリエイティブを皆で生み出すアワードやコンペティションの領域に特化した「AWRD」(アワード)というサービスにシフトしようと考えたんです。このプロジェクトでは、クリエイターのモチベーションがとても重要になる。人と人をどう繋げていくのか、その重なりの部分をどう見出すのか、が大事。

僕は、戦略とかロジックとか、言わば左脳担当なので、ビジネスをデザインしたりビルドするのは得意だけれど、人のモチベーションやサプライズをデザインするのはあまり得意じゃない。2.5万人のクリエイティブのコミュニティをもっと面白くデザインしてドライブできる人がいないかなぁ、と思っていた。

そんなタイミングで金森さんに出会って、素晴らしい! と。クリエイターと一緒にどれだけ素敵なイマジネーションを生み出せるか。金森さんなら、とてもいい形にプロデュースしてくれるんじゃないかと思っています。

金森:責任重大ですね(笑)。

諏訪:20年30年と第一線でやってきて名声を築いたプロフェッショナルが、若い人に知見や名誉を伝えていくという側面もあると思います。それが同業から同業へというだけでなく、デザイナーから起業家へとか、その逆だったりとか、違うところに手渡されるのが面白い。

昔からクリエイティブな世界にあるコンペティションを、今回、どうデザインしていくか。そこで、金森さんの経験やアイデアを活かしてもらえたらと思っているんです。

金森:私もこれから勉強しなくちゃいけないことはたくさんあると思いますが、「ファッションの未来を発明する1日 100人の大会議」やシアタープロダクツで実施した、アパレルの製造プロセスを分解して、型紙を軸にファッションと洋裁を繋げるようなプロジェクト「THEATRE, yours(シアターユアーズ)」でもっとやりたかったことを、このプラットフォームの中で新しいプロジェクトに繋げていけたら楽しいですね。

諏訪:やっぱり金森さんが作ってきたものって、本当にかっこいいと思うんですよ。引き出しが多い。そういうものがどうやって仕立てられていくのか、僕も金森さんの仕事を見せてもらいながら勉強したいんです。

クリエイターへの好奇心が突き動かす、 「架け橋」としての発想バリエーション

ーそんな金森さんの「引き出し」は、どういうふうに作られてきたんでしょうか?

金森:私はどっちかというと空っぽです。作品や作家に対して反射する好奇心が、「引き出し」に見えているのかもしれません。作り手の衝動に対してこっちが作動する好奇心の勢いを大事にしてます。感覚的に「めっちゃ面白いじゃん!」ていう感情の瞬発力。それは、作品のクオリティとは関係がなくて、有名アーティストの作品を見て感じることも、不安そうな学生のプレゼンに対して感じることも同等にあります。

私ができるのは、それを誰かに伝えるための架け橋を考えることかもしれません。その方法はさまざまで、「売りたい」という人には適切な受取手への段階を追った伝え方を考えたり、「掘り下げたい」っていう人には外部からサポートしてくれる人を繋いだり、「一人じゃない方がいい」と思った人には仲間を探したり。

つまるところ、クリエイティビティへの興味と、それをどんな人に結びつけていくのがベストなのか、という発想のバリエーションなのかもしれないですね。だから、私自身の引き出しはそんなにないんです。

ーこれ面白い!って好奇心がかき立てられるのは、どういうところですか?

金森:「偏り」ですかね(笑)

諏訪:なるほどー!(笑)

金森:まず偏っているなにかに惹き付けられて、それをより傾けていくことで、より面白いものになることもあります。その偏りに対して、足りないところを埋めたりつっかえ棒を入れたりすることが必要な局面もあるかもしれないけど、平均的になっても、どんどん面白くなくなってしまうし、成功しても意味がない気もする。そもそもその「偏り」が好きだから、ギリギリこの世に存在しててほしい、応援したいというとおこがましいですが、何か私にもできることがあれば差し出したい、と思うんです。

ー最後に、金森さんがロフトワークでやってみたいことやヴィジョンがあれば教えて下さい。

金森:ひとつのブランドをやっていると、どうしても限られたコミュニティの中での見え方や価値を大切にする、という思考になります。でも表現者の創造力は、もっといろんな人に対して価値を与え得るものだと思います。そういう多様な接続が可能な場やモノをつくっていきたいです。

ロフトワークのみなさんとの出会いを通して、今まで自分にはなかった視点を発見したいですし、そしてそこで一緒に築いていくまだ見ぬ価値みたいなものを発見していきたい。まだまだこれからも学び続けていきたいです。

諏訪:ロフトワークって「こういう人いたらいいな」と思っていると、力になってくれる誰かが現れるんです、いつも。今回は、金森さんが(笑)

金森:期待に応えられますように~!(笑)

 

諏訪 光洋

株式会社ロフトワーク
代表取締役社長

Profile

金森 香

株式会社ロフトワーク
AWRD 編集長

Profile

内海 織加

Author内海 織加(エディター、ライター)

新潟生まれ。広告制作会社を経て2009年よりフリーランス。雑誌や広告プロモーション分野で企画・編集・執筆・コピー制作などを行う。ライフスタイル提案やカルチャー記事、インタビュー記事を中心に幅広いジャンルで執筆。ネーミングを担当した池ノ上のギャラリー&コーヒースタンド「QUIET NOISE arts&break」にて、展示キュレーションも行う。音楽のライブ、ダンスやお芝居の舞台にも頻繁に足を運ぶ。
https://www.instagram.com/ori_/

石神 夏希

Author石神 夏希(劇作家)

1999年より劇団「ペピン結構設計」を中心に劇作家として活動。近年は横浜を拠点に国内各地の地域や海外に滞在し、都市やコミュニティを素材に演劇やアートプロジェクトを手がける。また住宅やまちづくりに関するリサーチ・企画、林千晶らと立ち上げたアートNPO「場所と物語」運営、遊休不動産を活用したクリエイティブ拠点の起業およびプログラムディレクションなど、空間や都市に関するさまざまなプロジェクトに携わる。
2016年よりロフトワークに参加。「言葉」というシンプルな道具で、物語を通じて場所を立ち上げること/場所から物語を引き出すことが得意。

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