学校法人武蔵野音楽学園 PROJECT

既存サイトを活かしたWebリニューアルで
「安定・便利」な大学広報の基盤を構築

2021年夏、ロフトワークは、93年の歴史を持つ武蔵野音楽大学のWebサイトのリニューアルを支援しました。

Webサイトのリニューアルプロジェクトにおいては、多くの場合、要件定義からデザインを策定、その後システムコーディング・CMS構築・コンテンツ移行構築という順序で進めていきます。しかし、今回のリニューアルでは、Webサイト制作やシステム開発の技術支援を担当するテクニカルディレクターがプロジェクトマネージャー(以下、PM)を兼任するなど、目的に沿った効率的なリニューアルを実現するために、通常とは異なるアプローチでプロジェクトを遂行しました。

どのような経緯でプロジェクトを進めたのか、リニューアルを実施したチームに話を聞きました。

Outline

武蔵野音楽大学 Webサイト

Why:プロジェクト開始前の課題

  • リニューアルから7年が経過し、改めてデザインを時代に適したものにアップデートする必要があった
  • Webサイトで使用しているサーバーの使用期限が近づいていた

What:プロジェクトの実施内容

  • 大学サイトに新たなデザインを適用
  • 大学サイトのCMSを新たに再構築し、コンテンツ移行を実施
  • 大学サイトに加え、付属の高校・幼稚園・音楽教室の計4サイトを新サーバーに移設
  • 問い合わせフォームなどを外部サービスに移行

How:プロジェクトのポイント

  • 前回のリニューアル以降、保守サポートを通じて運用状況の把握やコミュニケーションを継続しており、信頼関係を構築
  • テクニカルディレクターがPMを兼任し、技術面の実装と全体進行を一括で管理
  • コンテンツやサイト構造が固定化された制約条件のなかで、サイトイメージを一新するデザインを実装
  • 既存サイトから形を崩さないことや外部サービスの活用などにより、広報部が主体的に情報発信をしやすい設計に

聞き手・企画・編集:後閑 裕太朗、岩崎 諒子(loftwork.com編集部)
執筆:中嶋 希実
撮影:山内 康平

話した人

左から
中島 祐/武蔵野音楽大学 広報室長 演奏課長
奥田 蓉子/ロフトワーク クリエイティブディレクター
川竹 敏晴/ロフトワーク テクニカルディレクター

保守サポートで培った信頼関係

ーーまずは、今回リニューアルを行うことになった経緯を教えてください。

武蔵野音楽大学 中島さん(以下、中島) ロフトワークさんとは、2013年から2014年にかけて行った前回のリニューアルからご一緒しています。それから7年経って、デザインがさすがに古くなっているなどの課題はあったものの、全体をつくり直す必要性を感じるには至っていませんでした。それでリニューアルが延ばし延ばしになっていたんです。

ロフトワーク 川竹(以下、川竹) 前回のリニューアルから、保守サポート*というかたちでの支援が続いていました。定期的に運用状況や困りごとを確認する中で、これまで使ってきたサーバーの機能に期限があり、サーバーの移設を行う必要性が見えてきたんです。まったく同じデザインで移設することもできましたが、せっかくなら見た目も変えたいとのご要望があって、リニューアルすることになりました。

*保守サポート

ロフトワークでは、ロフトワークが開発・構築したCMSテンプレートやシステムの問い合わせや支援を行う「保守サポート」をサービスとして提供しています。使い方についての問い合わせから、障害発生時の原因調査や復旧作業などに対応可能な契約プランです。

中島 川竹さんとは2014年のリニューアル以降、長いこと一緒にやらせてもらっていて。急な困りごとがあってもすぐに対応してもらっていたこともあり、すごく信頼を寄せています。この関係があったからこそ、今回も安心してお願いすることができました。

ーー具体的に、保守サポートではどのような内容の支援を行なっていたのでしょうか。

中島 台風や大雪のときにはアクセスが集中して、Webサイトがなかなか表示されないという苦情が来たことがありました。そういうとき、大学では対応しきれないので、ロフトワークさんに連絡するということを繰り返していたんです。

川竹 Webサイトを運用するときには、OSやミドルウェアのバージョンアップなどにも対応する必要があります。ただ、対応できる担当者が大学のなかにいらっしゃることは少ない。武蔵野音大さんの場合も、これまで困りごとが発生したらその都度連絡をいただくことで、保守サポートを行ってきました。そこで、今回のリニューアルではサーバーを増強したことに加え、サーバーの運用管理を専門の会社に対応してもらう体制を組みました。今後はサイトが重くなることを懸念しすぎることなく、コンテンツの更新に集中していただけるはずです。

テクニカルディレクターが全体進行を務めたからこそのプロジェクト

ーーリニューアルでは具体的に、どのようなことを行ったんですか。

川竹 今回はデザインやコンテンツを見直すことよりも、タイトなスケジュールのなかで、システム環境のアップデートをスムーズに行うことを優先しました。サーバーを移行するうえで、極力妨げがないように工夫していったんです。また、大学サイトだけでなく、附属の高校・幼稚園・音楽教室のWebサイトの新規サーバーへの移行も行っています。

本プロジェクトでは、サーバーの移行に加え、大学サイトにおいてCMSをアップデートする必要がありました。リニューアル実施以前は、1つのサーバー上で4つのサイトを運用していたところをコンテンツ量の多い大学サイトと、他3サイトを別のサーバーに分ける形で移行を行いました。また、大学サイトではCMSのアップデートに伴い、コンテンツ移行も実施しています。

ロフトワーク 奥田(以下、奥田)  一般的なWebリニューアルプロジェクトでは、まず要件定義を行って、それをもとにデザインを提案し、デザインに合わせてシステムを構築するというプロセスを踏んでいきます。今回はそうではなくて、コンテンツや構造を変えずにリニューアルを行う必要があったので、今ある状態を起点にできることを考えていきました。変わった進め方ですが、テクニカルディレクターである川竹さんがPMを担ったからこそ、優先順位づけをスムーズにすることができたんだと思います。

川竹 普段と同じプロセスでこの規模のリニューアルをするには、倍くらいの時間や費用がかかるかもしれませんね。裏側の設計については大改装を行っていますが、表側に極力影響がでないように考えていきました。デザインの変化としては、ナビゲーションが上にあったのを右に移動したり、トップページに動画を入れたりしていますが、Webサイトの基本的な構造は変わっていないんです。

奥田 リニューアル前のWebサイトは明るめのベージュを基調にしたデザインだったんですが、今回は武蔵野音大のロゴにも使われている紫と黒をベースに、色味をガラッと変えました。コンテンツはそのままでも、印象を大きく変えることができたのはよかったですね。

川竹 コンテンツもサイト構造もおおよそ決まっていて、制約が多いなかでデザインを考えていく必要があったので、難しいことも多かったと思います。スムーズに移行することを優先して、デザイン面では諦めたこともありましたが、その分、次回大規模なリニューアルをする際の土台づくりはできたと思います。

リニューアル前後における「キャンパスライフ」のページの変化。コンテンツはそのままに、配色や細かな調整で現代的でシックなデザインに。

ツール運用やサイト更新を自分たちの手で進めやすいサイト設計

ーーさまざまな工夫をしながら進められたプロジェクトだったんですね。リニューアルしてみて、反響はいかがですか。

中島 「ぜひサイトを通して発信したい」ということで、各部署から新着情報がどんどん集まってきます。それ自体は嬉しいことですが、音楽大学なので演奏会のお知らせなども掲載する機会が多く、情報の整理が大変なんです。新着情報の枠は限られているので、時期によっては、演奏会のイベント情報や入試情報の更新だけで埋まってしまうようなこともあります。

ただ、これまでWebの更新は私たち広報部に仕事が集中していましたが、リニューアルによってページ更新や申し込みフォームの作成が簡易化されたことで、他部署との業務分担が可能となり、効率的な運営ができるようになっています。

川竹 以前は、年に数回開催される受験講習会の募集を行うたびに、決済機能を備えた申し込みフォームを改修する必要がありました。しかし、それでは非常に手間がかかる。そこで、今回のリニューアルではサーバーの運用管理と同様に、申し込みフォームの作成に外部サービスを組み入れることを提案しました。そうすることで、セキュリティ面もサービスによって担保できますし、学内での対応負荷を和らげることにもつながります。

中島 本当に楽になりました。CMSも前よりわかりやすく、早く動くようになって。もとより慣れた形のまま改良されたので、更新もしやすい。サイト内にある「楽器ミュージアム」のページも、当初は別でWebサイトを立ち上げようと考えていたんです。しかし予算の問題もあり、自分たちでつくってみようということになって。リニューアルしてもらったCMSは、そういう自由度があるところがいいですよね。これまで別サイトで運用していた受験生向けの情報も更新頻度が高いので、こっちのサイトでページを用意しようと準備を進めているところです。

ーー新しいサイトがどんどん活用されているんですね。積極的に情報を発信するうえで、難しさを感じる点はありますか。>

中島 サイトで出していく情報の中でも、受験生に対して、どのような大学のイメージを醸成するのかは難しいポイントですね。「歴史のある音楽大学である」というイメージを打ち出すと若い人から敬遠されがちですが、親しみやすさに寄りすぎると安っぽくなってしまう。どちらも両立できるよう、バランスをとるのが難しいです。

うちに限ったことではないのですが、ここ数年コロナ禍の影響で音楽活動は制限され気味でしたが、おかげさまで弊学では授業や演奏活動も通常に戻りつつあります。こういうときだからこそ、Webサイトをうまく活用してさらに志願者募集やコンサート活動などの広報に活かしていきたいですね。

ーー受験生を増やすために、今はどのようなことに取り組んでいらっしゃるのでしょうか。

中島 これまではコンテンツとして演奏会の動画を公開していたんですが、最近は少し工夫して、演奏のアドバイスや基礎を解説するレクチャー動画をたくさんつくってもらい、公開しています。音楽を学びたい世代と関わりをつくっていく方法は、これからも考えていきたいことですね。

武蔵野音大では、音楽だけでなく人間形成の部分にも力を入れています。その雰囲気を感じてもらえる場のひとつが大学祭であり、上級生から下級生への文化の引き継ぎや外部の方に向けての姿勢づくりを示す重要な機会だったのですが、これもコロナ禍の影響でずっと開催できていなくて。賑やかな大学祭の様子や普段のキャンパスライフなども、積極的にWebサイトで紹介していきたいところなんですけどね。

ーー動画コンテンツをはじめ、主体的な広報活動の積み重ねによって、現在の武蔵野音楽大学さんのブランドイメージがあるんですね。また、学生の様子を伝えるという部分は、トップページに動画を出すことで補われているようにも感じます。

中島 そうなんです。そこは、今回のリニューアルでこだわったポイントです。校舎が新しくてすごくきれいであることは、うちの強みでもありまして。

中島 ちょうど学内の様子をまとめた映像ができたところだったので、活用してもらえないか川竹さんに相談させてもらいました。結果、武蔵野音大のキャンパスや学生生活の魅力が想起しやすいものとなっています。まだまだやりたいことはありますが、このタイミングでWebサイトをリニューアルして、できることが増えていることはすごく助かっています。ありがとうございました。

プロジェクト概要

クライアント:学校法人武蔵野音楽学園
実施期間:2021年3月〜8月

  • 体制
    • プロジェクトマネージャー・テクニカルディレクター:川竹 敏晴(株式会社ロフトワーク)
    • プロデューサー:藤原 舞子(株式会社ロフトワーク)
    • クリエイティブディレクター:奥田 蓉子(株式会社ロフトワーク)
    • Webデザイン・コーディング:OUTRUN株式会社

川竹 敏晴

株式会社ロフトワーク
テクニカルグループ テクニカルディレクター

Profile

奥田 蓉子

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター

Profile

藤原 舞子

株式会社ロフトワーク
シニアプロデューサー

Profile

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