「みんな」の学校:子どもの学びを主体に、
教職員や地域住民などさまざまなプレイヤーが混じり合う
理想的な空間とは?(後編)
文部科学省によって創設された、新しい時代の学びを実現する学校施設づくりを支援するプラットフォーム「CO-SHA Platform(コーシャプラットフォーム)」。「令和の日本型学校教育」に向けた未来の学校施設づくりの実現、および、そのための施設整備の推進に向けて活動しています。
そんなCO-SHA Platformでは、「CO-SHA ミートアップ vol.2」と題し、イベントを開催。今回は「『みんな』の学校をつくるには?」をテーマに、教育と学校建築の有識者4名をゲストにお招きし、トークセッションを実施しました。イベントの模様を前後編でお届けします。
子どもたちがつくる「みんな」の学校とは?
松井:今回のテーマである「『みんな』の学校をつくる」の“みんな”とは誰かも含め、関わるひとの特性の活かし方について議論したいと思います。学校は子どもが学ぶ場所ではありますが、一方で教職員の働く場所でもある。それから父兄や地域の方々も関わる場所であり、ある種の“社会”であると捉えられると思います。先ほど「子どもたち自らが学習環境を獲得できるようにする」というキーワードが出ていましたが、長島先生は特別支援級のお子さんたちを企業のオフィスに連れて行っておられましたよね?
長島先生:はい。本校では「和み」ルームという特別支援教室(不登校支援)がありまして、横浜市教育委員会の校内ハートフル事業によって支援員が配置されています。一人ひとりのブースがあって、それぞれが勉強していたり、ICTを活用して毎朝9時にオンライン学活をやっていたり。学年関係なくいろいろな人たちとの関わりのなかで自律して学んでいく場になっています。昨年末、この「和み」ルームをどう過ごしやすくするかを考えるために、サイボウズさんの本社を訪問してオフィスを見せていただいたんですね。その際に「100人いれば100通りの働き方がある」というサイボウズの考え方を伺ったことで、子どもたちも「自分たちで自分たちの居場所をつくっていいんだ」ということを知り、学び合いや軽スポーツに使える「和み」プレイルームという新たな部屋をつくりました。
松井:立花先生、このようなソフト的なアプローチ以外に、ハード的なアプローチで学校を変えられるアイデアがあればご紹介いただけますか?
立花先生:フィンランドの小学校の事例をご紹介します。教育はこれからも変わっていくと思いますが、新しいことに取り組むのは実際大変なことなので、先生同士の支え合いが大切だと思うんですね。下の写真は教職員専用のラウンジです。休み時間になると先生たちがここに来て、フリーコーヒーを飲みながら雑談したり、相談したりできる場所になっています。児童・生徒からは見えない部屋です。先生たちがリラックスできる場所があるって、いいなぁと感じました。
上野先生:私もイギリスやアメリカの学校をいろいろ見て来ましたが、日本の学校の教職員スペースは、極めて見劣りしますよね。非常に過酷な環境で、ほとんど顧みられていない。教職員の職場環境としての学校を快適にするという視点はとても大切なことなので、もっと強く発信していただきたいと常々思っていました。
松井:教員不足の問題にも大きく影響するところですよね。子どもたちの教室を良くするのと同等に、とても大事なテーマだと感じています。野中先生も頷いておられますが、「教職員スペースをもっとこうしたら良いのではないか」といったアイデアをお持ちですか?
野中先生:まさに教員不足の解消には、働き方改革で業務改善するとともに、働く環境を充実させることが不可欠ですよね。休憩時間の確保と同時に,海外の学校のように,教員が休憩するスペースをつくるしかないと思います。もちろん子どもたちや外部の人から遮断された空間でね。
あと、働き方改革の資料を参照すると、先生たちに足りないのは、授業準備とか成績評価とか、個人作業の時間なんですよ。そう考えると、いろいろな人が出入りする職員室でやる必要はまったくなくて、個人作業できるスペースを空き教室などを活用してつくればいい。この2つは早急にやるべきだと思います。
ただ、建築の寿命が50年以上あることを考えると、今いいと思ってやったことが、将来的にもいいままであるかといえば、そうではないと思うんです。つまり、創造的であり続けるには、可変的である必要がある。小さな部屋を大きくするのは難しいけれど、大きな部屋のレイアウトを変更することはできるので、教職員のワークスペースも広いスペースを確保しておくべきではないかと考えています。
学校とまちは融合できるのか
松井:学校に関わる「みんな」には地域の方々も含まれると思いますが、「学校はまち、まちは学校」をコンセプトに学校建築に携わっておられる上野先生から、いくつか事例を紹介していただけますか?
上野先生:はい。こちらはある地方の中学校の図書館です。この図書館は、学校の図書館であると同時に、地域の図書館でもあり、地域の人々が本を借りたり勉強をしたりするために訪れる場所となっています。実際に足を運ぶことで、学校教育にも関心を持っていただけると同時に、中学校の生徒も日常的に地域の人たちと触れ合うことで、さまざまな物事を学ぶことができます。
もうひとつ、これは少子化で空いた小学校の教室を、高齢者のデイサービスセンターに改造した事例です。80年代当時は、非常に物議を醸しましたが、休み時間になると、子どもたちがこの場所を訪れ、高齢者と自然に交流が生まれていました。決して先生から「行きなさい」と言われているわけではないんですよ。
ご存知のように、一般的な高齢者施設は非常に閉鎖的です。小学校も基本的には閉鎖的ですよね。これらの閉鎖的な2つの施設がぶつかった瞬間に、非常にさわやかな地域社会の風が吹き抜けていくような印象を受けました。小学生も高齢者も帰宅時間はだいたい15時頃ですから、子どもたちが高齢者の帰宅を見送りに来てくれるんですね。この光景を見て、ジーンとしてしまいました。
もうひとつは、みなさんもご存知だと思いますが、小学校と地域図書館と地域の生涯学習の施設を複合化させたケースです。とても魅力的な図書館ですので、中休みや昼休みに小学校の子どもたちが図書館を訪れ、地域の人たちと一緒に学ぶ姿が見られます。
松井:ありがとうございます。上野先生の想いを受けて、立花先生はいかがですか?
立花先生:すごく共感しまして、私もいくつか事例を紹介させていただければと思います。学校に地域の方が来るパターンと、逆に子どもたちが地域に出ていくパターンの両方があると思うのですが、最近は総合的な学習の時間等で地域の方と学ぶ場面は増えています。それを先生が差配するのは結構大変だと思うのですが、この大槌学園には専門のコミュニティスクールコーディネーターの方が常駐されていて、学校の中に「井戸端会議室」という地域の人たちがいつでも来ていい場所をつくっているんです。「ふるさと科」という科目を新たにつくり、コーディネーターの方がそのマネジメントをされています。
こちらは軽井沢の風越学園のライブラリーです。右の大きな窓からは浅間山を一望でき、週末には地域の方を招いて、ジャズコンサートなどが開かれているそうで、すごくうらやましいなと思いました。また、放課後には、子どもたちが保護者や地域の方たちと一緒に活動ができる環境を目指しているそうです。
長島先生:風越学園のライブラリーには、ICTに強い方と本に強い方の2方向の司書さんがいて、そこが非常に強みになって子どもたちの学習を支えていると聞きました。
松井:そういう意味では、大槌学園のコーディネーターや風越学園の司書のように、建物に手を加えるようなハード面だけでなく、人材のようなソフト面でのアプローチによって変えられることもありそうですね。では最後に、上野先生から今日の感想をお願いいたします。
上野先生:今回のイベントは、私や立花先生のような建築の人間と、野中先生や長島先生のような教育の人間が、学校や子どもたちの学習環境について、一緒にディスカッションできる、極めて有意義な機会になったと思います。本当にありがとうございました。
次回のCO-SHAミートアップは2024年2月の実施を予定しております。どうぞ、お楽しみに。