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GOOD DESIGN BEST 100とその未来 vol.2 - ヤマハ「SILENT Brass™」に学ぶプロダクトデザイン 開催レポート

新たなイノベーション創造拠点「KOIL」のオープンを機に企画されたシリーズイベントの第2回が、2014年6月6日に開催されました。2013年度“グッドデザイン・ベスト100”に選ばれた企業として、第1回のダイハツ工業株式会社に続き、今回はヤマハ株式会社をゲストに迎え、イノベーションのヒントに迫りました。

オープンでフラットな関係の中でイノベーションを加速する「KOIL」

ロフトワーク プロデューサー 松井創

オープニングにあたり、ロフトワークの松井創が挨拶。「KOILのキーワードは、オープンイノベーション。一人ひとりは個性的でも、組織の縦割構造の中ではなかなかエコシステムを作り出せない。KOILのような場を作ることで、オープンでフラットな関係の中でのものづくりや場づくり、ビジネスの創出が可能になると考えた。今日はオープンコラボレーションを体験いただく時間も用意したので、ぜひ楽しんでほしい」と語りました。

三井不動産株式会社 ベンチャー共創事業室長 松井 健氏

続いて、三井不動産株式会社の松井健氏がKOILの概要を紹介。開発コンセプトは「あなたが世界を変える場所」。オープンイノベーションを加速させる人、空間、プログラムが結集したプラットフォームであり、実に多様性に富んだ人たちが集まり、自分や世界の新しい未来を切り拓くための挑戦が行われようとしています。しかも、「考えて計画するだけではない。スピーディーに具体的なモノを作り、コトを起こしていく」と具体的な施設を紹介しました。

KOIL内の施設

「想定ユーザーは、クリエイターやエンジニア、大学の研究者、ノマドワーカー、さらには住民までと幅広い。この点で、都内のコワーキングスペースとはかなり性質が違う。この街には大学があるので、実証実験に積極的に地元の人が参加していたりして、地元住民の意識が非常に高い。こうした地元との融合も大きな特徴の一つ」と松井氏。

最後に三井不動産として、KOILを中心とした街づくりにかける想いを語り、「世界に誇るイノベーション拠点として愛してもらえるように、いろいろなアドバイスを受けながら、みなさんと一緒に盛り上げていきたい」と締めくくりました。

さまざまなトライアルを外部に発信しながら、アイデンティティを鍛える

メインセッションでは、世界唯一の総合楽器メーカーであるヤマハ株式会社から川田学氏が登壇。「楽器とデザイン」について語るにあたり、「楽器の歴史はものすごく古いのに、デザインの概念自体は歴史が浅い。そういう意味ではユニークなテーマ」と切り出した川田氏は、アコースティック楽器と電子楽器、さらにはその両方を持ち合わせたハイブリッド楽器の開発事例を提示しながら、楽器というジャンルを通して展開する事業の全体像を俯瞰。同社の事業を支えるのは次の3つの軸だと言います。

<ヤマハの事業の全体像>
・これまである伝統的な世界をより「究める」
・新しい技術をもって新しい音楽の可能性に「挑む」
・裾野を「広める」

ヤマハ株式会社 デザイン研究所 所長 川田 学氏

また、川田氏率いるデザイン研究所のデザイン体制にも触れ、「1人のデザイナーが1つのアイテムを最初から最後まで担当。モノの価値が高まる一方で個人技になり過ぎないよう、ヤマハフィロソフィーを策定している」と語り、指針となる5つのキーワードを紹介しました。

<ヤマハフィロソフィー>
・INTEGRITY:本質を押さえたデザイン(本物っぽいのとは違う)
・INNOVATIVE:革新的なデザイン(いかに常識を破るか)
・AESTHETIC:美しいデザイン(美しいものには意味がある)
・UNOBTRUSIVE:でしゃばらないデザイン(表現の主体は表現者、流行を追い過ぎない)
・SOCIAL RESPONSIBILITY:社会的責任を果たすデザイン(多様性に富んだ人たちが共生でき、調和した社会を目指す)

「つまり、長く愛されて人生の伴侶となり、使いこまれて価値が一層増すような、とても完成度の高い半完成品。そんな楽器を目指している。」(川田氏)

こうしたフィロソフィーに基づいて生み出された商品の一つが、本題に掲げられた「SILENT Brass™」。楽器に装着して音を閉じ込めるPickup Mute™と、演奏者にイヤホンを装着していないかのような演奏感をフィードバックするPersonal Studio™の組み合わせで、“いつでもどこでも自然な吹奏感”を実現する商品です。

会場には、トランペット演奏や管楽器開発の視点で商品企画に携わった同社の福田氏もサプライズで登場。実際のトランペットの豪華な響きが、Silent Brass™を装着すると小声で話す程の音量に消音される様子を実演し、この時に演奏者自身がイヤホンから聴ける自然な音色も来場者に体感してもらいました。Silent Brass™ の花弁のような形状は、取り出しやすさを突き詰めた結果であり、川田氏は「吹き口が朝顔管と呼ばれるように、花のモチーフはもともとあったものだが、今回の形状は狙ったのではない。機能に忠実に開発を進めた結果が情緒的な要素を持つのであれば、それは楽器になったということ。迷うことなくこのデザインを採用した」と説明します。

さらに、実際の商品につながるイノベーションや先行デザインへの取り組みにも言及。「いろんなタイプのトライアルをし、それを外部にどんどん発信しながら、何が自分たちらしさなのかを日々検証する。それがアイデンティティを鍛えることだと考えている」として、楽器そのものではなく、楽器の周辺にある名脇役をデザインしてみたり、敢えて家具のデザインに挑戦したりといったプロジェクトを紹介。こうした活動を通して得た気付きが、新しい商品を作るときのベーシックなコンセプトになっているのです。

同社の取り組みは、まさにKOILが目指すオープンイノベーションそのもの。「KOILで行われることは即役立つものではないとしても、新たな切り口となり、独自のコンセプトとなって、確実に実際の商品に注入されていくと思う」と語る川田氏の言葉も説得力に溢れていました。

視点を少し変えるだけで、想像もしなかった新しい“何か”が見えてくる

セッション終了後は、ロフトワークの高井勇輝がファシリテーターを務め、イノベーションのプロセスを体験するIde-a-thonを実施。「普段何気なく使っている道具を“プレイ”という観点で見直し、新しい価値観、可能性を探る」ことを目的としてワークを行いました。

Ide-a-thonのファシリテーターを努めたディレクター 高井勇輝

<ワークの流れ>
1)選んだ道具について普段使うシーンの所作を演じてみる(USE)
2)かっこよく、楽しく使う所作を演じて見る(PLAY)
3)1と2で何が違ったか、ポストイットに書き出す
4)PLAYを通じて抽出した“かっこいい・楽しい”の要素を踏まえ、道具を進化させてみる
5)どういうデザインなら“かっこいい・楽しい”が実現できるかチーム内でディスカッション&アイデアスケッチ
6)リデザインした道具を使っているシーンを演じながら発表

発表の舞台上では、各チームが、ゴミ箱、団扇、傘、自転車の空気入れ、目薬などをもっとかっこよく、楽しく使えるリデザインアイデアを体当たりで披露。視点を少し変える(リフレーミングする)だけで、想像もしなかった面白いアイデアが生み出せることや、オープンイノベーションの意義を体感しました。

イベント概要

2014年4月、柏の葉オープンイノベーションラボ「KOIL」がオープンしました。KOILは、スタートアップ企業から大手企業の新規事業など幅広い方々のイノベーション実現に向け、環境、コラボレーションネットワーク、イベントなどを提供していきます。

このたび、KOILオープンを記念し、公益財団法人日本デザイン振興会とコラボレーションが実現。2013年度グッドデザインの中で特に高く評価された“グッドデザイン・ベスト100”に選ばれた企業と商品に焦点をあて、開発に関わったデザイナー/エンジニア/事業担当者などをゲストにお招きするシリーズイベントを開催します。

第2回目となる今回は、管楽器の消音で場所・時間を選ばず演奏を可能とした、まさに日本の住環境や消費者ニーズをくみ取った人気商品「SILENT Brass™」の開発を手がけたヤマハ株式会社 デザイン研究所 所長である川田氏をゲストにお迎えします。

「SILENT Brass™」の開発の全貌や裏側はもちろん、生活の一部としての楽器という考え方とそのためのストーリー設計、商品開発において変わりつつあるデザイナーの役割、イノベイティブなアイディア着想につながる活動などをご紹介いただきます。

後半のセッションでは、参加者の皆さんにもIde-a-thonを通して、デザイン思考のプロセスを体験いただきます。なお、休憩時間にはKOILの各施設をご案内する見学会も予定していますので、イノベーション空間の活用などをお考えの方のご参加もお待ちしています。

開催概要

セミナータイトル KOIL オープニング記念イベント
GOOD DESIGN BEST 100とその未来 vol.2 – ヤマハ「SILENT Brass™」に学ぶプロダクトデザイン
開催日時 2014年6月6日(金)13:00〜19:00(12:30受付開始)
場所 KOIL(柏の葉オープンイノベーションラボ)
[千葉県柏市若柴178番地4 柏の葉キャンパス148街区2 ショップ&オフィス棟6階]
*「東京駅」から33分、「秋葉原駅」から30分 地図
対象 ・優れたプロダクトの開発プロセスに興味のある方
・参加者同士のディスカッションを通し新たなヒントを得たい方
・新規事業担当者、プロダクト開発者、デザイナー
参加費 無料
定員 50名
主催 株式会社ロフトワーク
協力 三井不動産株式会社、公益財団法人日本デザイン振興会
ご注意 ・参加者の皆さんの聴講・作業風景などのお写真や、発表いただく内容は
後日弊社サイトにて掲載させていただく可能性があります。予めご了承ください。
・プログラムは予告なく変更される場合があります。

プログラム

12:30~13:00
受付
13:00~13:10
オープニングトーク
13:10~13:30
柏の葉イノベーションラボ「KOIL」とは?
三井不動産株式会社
ベンチャー共創事業室長
松井 健氏
13:30~14:15
2013年度グッドデザイン・ベスト100 受賞 - ヤマハ株式会社「SILENT Brass™」
・楽器のデザインとは?
・変わらないものの中で考えるべきイノベーション
・生活の中の楽器とそのストーリーを考える
・数々の実験から得られる着想
・SILENT Brass™ のコンセプトと開発現場
・USE / PLAY
ヤマハ株式会社
デザイン研究所 所長
川田 学氏
14:15~14:30
質疑応答
14:30~14:45
休憩 & KOIL見学
14:45~17:30
Ide-a-thon
17:30~19:00
懇親会

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