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GOOD DESIGN BEST 100とその未来 vol.3 「マスキングカラー」にみる共創プロダクト開発 開催レポート

2013年度“グッドデザイン・ベスト100”に選ばれた商品にフォーカスし、イノベーションのヒントに迫るシリーズイベントも、今回で3回目。塗って剥がせる塗料「マスキングカラー」を開発した太洋塗料株式会社から開発プロジェクトの全貌が明らかにされたあと、アイデアソンを通じて商品の未来を考え、新たな価値を生み出すための共創プロセスを体感しました。

人の磁力で世界の未来を変えるオープンイノベーション拠点「KOIL」

オープニングトークでイノベーションに言及した株式会社ロフトワークの松井創は、世界最古の洞窟壁画に使われた色を例に、「砂に動物の血を混ぜて赤を作り、木を燃やして炭化させることで黒を創り出した。これもイノベーション。先史時代から現代までの塗料の歴史を通じてイノベーションの種類を提示した。また、オーストリアの経済学者シュンペーターは、まったく違うもの同士を結び付けて新しいものを生み出す活動をイノベーションとして、“New Combination(新結合)”と表現した」と説明。

株式会社ロフトワーク プロデューサー 松井 創

いくらでも色を表現できる時代になり、色にイノベーションを起こすとしたら何ができるのか。「本日の会場KOILは、他の人とコラボレーションすることで新しいものを創造する場。本日はマスキングカラーを題材に、自分と他人の個性をつなぎ合わせながら、色の世界もまだまだ広がる可能性とオープンイノベーションを体感して欲しい」と語りました。

続いて三井不動産株式会社の加藤慶氏がKOILの概要を紹介。コンセプトは、「あなたが世界を変える場所」。大学と連携した街づくりを模索する中で、市民と一緒に身近な社会的問題を解決していく理想モデルを作ろうと考えたのがそもそもの経緯であり、「オープンイノベーションを加速させる人やプログラムが集まり、生活者を含む多様な人が融合することで、世界の未来を変える挑戦を生み出そうとしている」と加藤氏。

三井不動産株式会社 ベンチャー共創事業室 主査 加藤 慶氏

KOILには、170名収容可能な国内最大のコワーキングスペース「KOILパーク」をはじめ、デジタルファブリケーションが行える「KOILファクトリー」、大規模なイベントスペース「KOILスタジオ」、生活者も気軽に利用できるカフェなどの特徴的な設備が多数用意されています。

KOILパークでアイデアを考え、KOILスタジオで化学反応を起こし、KOILファクトリーでアイデアをカタチにしたら、カフェで生活者に試作品を体験してもらい、ミーティングルームで改良に向けた議論を重ねながら事業化していく。そんなオープンイノベーションによる新産業創造のプラットフォームになることが狙いです。

しかし、何もないところから新産業を生み出すのは簡単ではありません。そこで、2009年にTXアントレプレナーパートナーズ(TEP)を発足。「日本には世界に誇る技術はあっても、それを事業化できない。シリコンバレーとの大きな違いは、エンゼル投資家のネットワークだ」として、充実した創業支援プログラムが提供されるのも、KOILの大きな特徴です。

さらに、起業家の視点を世界に向けるべく、日本発(初)の国際的ビジネスコンテスト「アジア・アントレプレナーシップ・アワード」も開催。イベントを通じてベンチャー企業のグローバルなネットワークを築いていく計画です。このように、ソフトとハードを融合した新しいプラットフォームKOILは、集まる人を磁力に、また人を集め、柏の葉から世界を変えるイノベーションを生み出そうとしています。

今ある技術からイノベーティブな視点を生み出した、デザインの力

太洋塗料株式会社にとっての転機は、2012年度(第一回)東京ビジネスデザインアワード。それは、優れた技術を持つ都内の中小企業がテーマを提示し、デザイナーが新しい用途の商品開発を軸としたビジネス提案をするというものでした。

太洋塗料株式会社 技術部 部長  神山 麻子氏

老舗塗料メーカーとして同アワードへのお誘いを受けた同社が、業務用塗料をテーマとして提示したところ、デザイナー小関隆一氏による「マスキングカラー」の提案がテーマ賞を受賞。創業60周年の節目にあった同社は、記念事業として、マスキングカラー事業で初めてBtoC市場への参入を果たすことにしたのです。

ペン先は直接描けるように細い口にし、キャップを外すだけで、ハケやローラーがなくてもすぐに描ける。色は、塗料としては珍しい14色を揃え、その絶妙な色合いはプロのイラストレーターも絶賛。

マスキングカラーの一番の特徴は、垂直面にも液ダレせずに描けて、乾いたらはがして再び貼り直せること。太洋塗料の神山麻子氏は、「はがせる特性に着目し、従来では考えられない場面で使える商品として一般の方が使いやすい形を提案いただいた。完成した商品は、提案時のグラフィックとほぼ同じ形状。ビジュアルで完成形を明確にしてもらうことで、目的や目標を共有できたのが大きなポイントだった」と振り返ります。

また、ビジネスデザインについてもすばらしい提案があり、「商品の面白さやデザイン性にきちんと注目してもらえるよう、ロフトや東急ハンズなどに置かれる商品を目標とし、什器や販促物の提案に至るまで細かい気配りがなされていた。何をどう進めていけばこういう商品が出来て、当社にとって何が有利で、どんな事業展開が可能なのかが具体的に見える提案で、事業化に素直にうなずけた」と説明。

その後、ユーザーのフィードバックをもらいながら試作品の改良を重ね、2013年6月、ついにイベントで初のお披露目。バイヤーから予想以上の反響があり、大きな目標だったロフトや東急ハンズでの販売も決定。計画どおり、2013年夏には店頭に並べることに成功しました。12月にはグッドデザイン賞を受賞し、現在もさらに認知を広げています。

神山氏は、「デザインは大企業だけのものではない。デザインの力を借りて今ある技術を違う切り口で見せてあげることで、イノベーティブな視点が生まれる。そこで自分たちの商品の魅力に気付くと、モチベーションもアップし、技術力に誇りを持って次のものづくりを進められる」と強調。デザイナーとの共創プロジェクトを次のように総括しました。

共創がもたらしたビジネスメリット

  • 開発コストを抑えた新しい事業展開
  • 新しい販路開拓の促進
  • 新しい商品による市場イニシアチブの獲得
  • Made in TOKYOの品質
  • 将来的な国外市場への進出

共創プロジェクトのポイント

  • Speed(やると決めたらすぐ行動に移す)
  • Dream(デザイナーと企業が同じ夢を見る)
  • Money(お金がどう流れていくかを考える)

「この3つが揃えば、デザインの力を最大限に活かして、企業の持つ力を伸ばしていける。このあとのワークショップを通じて、我々が感じたワクワク感を共有してみてほしい。」(神山氏)

アイデアソンを通じて、ワクワクドキドキする共創プロセスを体感

セッション終了後は、ロフトワークの高井・太田を進行役に、共創プロセスを体感するアイデアソンを実施。参加者は3人1チームに分かれて、マスキングカラーを使ったワクワク、ドキドキするようなアイデアをジェネレートしていきました。アイデアソンと平行して、フリーのイラストレーター富岡美紀氏による、マスキングカラーを使ったライブペインティングも行われ、ディスカッションに華を添えました。その様子をワークの流れに沿ってご紹介します。

進行をつとめたロフトワークの高井と太田。ライブペインティングを行ったイラストレーターの富岡氏

1)ワクワク、ドキドキするシーンを考える

マスキングカラーを使ってみたら面白そうなトキ(When)、モノ(What)、コト(How)の3つを3人で分担し、各自が10個出す。

2)一番面白いストーリーを選ぶ

面白いと思えるアイデアから順に並び替え、上位4つを残してチームメンバーで共有。その中から、トキ、モノ、コトの一番いい組み合わせを1つ見つけてストーリーを考える。

3)ストーリーを膨らませる

選んだ1つのストーリーについて、テキストやイラストを使ってさらに膨らませる。

4)アイデアをブラッシュアップする

各チームの代表が他チームに説明して回り、そこで出た意見を自分のチームへフィードバック。説明を受ける側のメンバーは、他チームのアイデアから新しい視点を得て、自分たちのアイデアをさらにブラッシュアップする。

5)最終発表

動物園や水族館でガラス越しに楽しめるペイント「マスキングカラー@Zoo」や、マスキングカラーで描いたキャラクターを持ち運べたり、その場で描いた武器を認識させたりして楽しめるアプリゲーム「マスキングバトル」、お祝いや励まし、ごめんなさいのメッセージを意外なところに貼って驚かせる「マスキングサプライズ」など、各チームとも、塗ってはがせるマスキングカラーの特性をよく理解したアイデアが出揃いました。

議論したアイデアを発表

「大人でもワクワクするアイデアがたくさん出てきた。マスキングカラーがそのきっかけになれたことがうれしい」と大洋塗料の神山氏。自分ひとりではなく、多様な視点をぶつけ合うことで、新しいアイデアが膨らんでいくことを体験したワークショップでした。

ライブペインティングを前に記念撮影

GOOD DESIGN BEST 100とその未来 vol.4開催決定

イベント概要

よいデザインとは何か?

私たちの暮らし、産業、社会を豊かにするよいデザインを顕彰するグッドデザイン賞。その中で、特に高く評価された“GOOD DESIGN BEST 100”に選ばれた商品に焦点をあて、コンセプト、開発プロセス、成果などを現場担当者からきくシリーズイベントを開催。3回目となる今回は、塗って剥がせる塗料「マスキングカラー」がテーマ。好きな場所に自由に使え剥して元に戻せるので、屋内外のディスプレイやイベント装飾など様々な用途で利用できる優れた商品です。

開発元の太洋塗料から技術部 神山氏を迎え、はじめての試みとしての外部デザイナーとのコラボレーション、6ヶ月という短期間での商品化、商品とユーザーの新しい関係性などマスキングカラー開発プロジェクトの全貌とよいデザインをうみだすために工夫されたポイントをご紹介いただきます。

イベント後半では、マスキングカラーを使ったアーティストによるライブペインティングや塗って剥がせるという商品の特長から新たな表現方法を考えるワークショップを実施。

商品開発に携わる方、新しい表現方法を模索されているクリエイターの方などのご参加お待ちしております。

開催概要

セミナータイトル KOIL オープニング記念イベント
GOOD DESIGN BEST 100とその未来 vol.3 – 「マスキングカラー」にみる共創プロダクト開発
開催日時 2014年7月23日(水)13:00〜19:00(12:30受付開始)
場所 KOIL(柏の葉オープンイノベーションラボ)
[千葉県柏市若柴178番地4 柏の葉キャンパス148街区2 ショップ&オフィス棟6階]
*「東京駅」から33分、「秋葉原駅」から30分 地図
対象 ・優れたプロダクトの開発プロセスに興味のある方
・参加者同士のディスカッションを通し新たなヒントを得たい方
・新規事業担当者、プロダクト開発者、デザイナー
・マスキングカラーを体験してみたい方
参加費 無料
定員 50名
主催 株式会社ロフトワーク
協力 三井不動産株式会社、公益財団法人日本デザイン振興会
ご注意 ・参加者の皆さんの聴講・作業風景などのお写真や、発表いただく内容は
後日弊社サイトにて掲載させていただく可能性があります。予めご了承ください。
・プログラムは予告なく変更される場合があります。

プログラム

12:30~13:00
受付
13:00~13:10
オープニングトーク
13:10~13:30
柏の葉イノベーションラボ「KOIL」とは?
三井不動産株式会社
ベンチャー共創事業室 主査
加藤 慶氏
13:30~14:15
2013年度グッドデザイン・ベスト100 受賞 - 太洋塗料株式会社「マスキングカラー」
・新たな販路開拓 BtoBからBtoCへ
・外部デザイナーとの共創とスピード商品化
・半製品だから広がる無限の可能性
・これまでにないユーザーと商品の関係

太洋塗料株式会社
技術部 部長
神山 麻子氏

14:15~14:30
質疑応答
14:30~14:45
休憩 & KOIL見学
14:45~17:30
ワークショップ
17:30~19:00
懇親会

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