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XPD2014 Autumn - Report Part2 -

ターゲットのコンテキストを正しく理解する

日本アイ・ビー・エム株式会社の落合和正氏は、「顧客体験をどうデザインするかを考える際には、コンテキスト(背景や前後の事情)を正しく理解する力が不可欠」として、同社が提唱するコグニティブ・コンピューティングについて解説。

モバイル、ソーシャルメディア、ビッグデータ、センサー、位置情報などから大量データの分析を行い、瞬時にターゲットのコンテキストを理解し、意味づけし、何を伝えればいいかを考える。その中核を担うのが、コグニティブ・コンピューティングです。IBMのコグニティブ・システムWatsonは、アメリカの人気クイズ番組「Jeopardy!(ジョパディ!)」の中で、情報の海の中から知を再構築し、難解なクイズの答えを3秒以内に見つけることに成功。世界のクイズ王に勝って一躍有名になりました。

日本アイ・ビー・エム株式会社 Business Development Executive/Senior Managing Consultant 落合 和正氏

一方で、「コンテキストを正しく理解しすぎると、不気味な感じさえある」として、落合氏は、利便性とプライバシーの狭間にあるコンテキストの課題にも言及。便利なら情報を公開してもよいと考える人も多数派であるものの、プライバシーをむやみにさらすことには問題もあります。解決策の一つとして、自分の管理下に個人情報を置き、信頼する会社にのみ開示するVRM(Vendor Related Marketing)の考え方も議論されて始めています。

コグニティブ・コンピューティングが実現する未来を表現したアニメ

体験をデザインする6つのカギとは?

続いて登壇した、ロフトワークのイノベーションメーカー棚橋弘季が紹介したのは、体験にまつわるデザインそして、体験デザインをビジネスに活かす6つのカギ。体験型エンターテインメントや参加型イベントを提供する事業者へのインタビューなど、Experience Designの実践から導き出したリアルなヒントです。

ロフトワーク イノベーションメーカー 棚橋 弘季

冒頭、「体験にまつわるデザイン」について言及した棚橋は、対象者との関係を軸に以下3つの分類にまとめました。

さらに、体験のデザインをビジネスに活かす6つのカギを紹介しました。

  • 1.利用者から「参加者」へ
    一緒に作りたくなるようなデザインが重要。ポイントは、参加した人が嬉しくなったり悔しくなったりするようなデザイン。
  • 2.結果よりも「価値ある時間」を
    一連のプロセス自体を楽しみ、作ったもの以上に、参加する時間、体験する時間に価値を感じてもらえるようにする。
  • 3.答えを見せずに「ヒント」をわたす
    自分で解釈できる余地を残すことでコミットメントを深め、満足度を高める。
  • 4.アイテム・要素は「組み合わせ」がカギ
    空間・言葉・小道具・照明・ニオイ・音響など、複合的な要素の組み合わせで、体験の場を楽しく盛り上げる。
  • 5.見る側から「見られる側」に
    参加者同士が出会い、話し合えるポイントを設計し、緊張感の中で参加させることでコミットメントを深める。
  • 6.会議をやめて「キャンプ」する
    体験のアーカイブが自分自身にないと、すばらしい体験は作れない。合宿、キャンプ形式で、デザインする側も楽しみながら考える。

棚橋は、「体験のデザインはUXばかりではない」ことを強調してセッションをまとめました。

完成品を提供するカメラづくりから、共創の場づくりへ

最後のセッションでは、オリンパスイメージング株式会社の佐藤明伸氏が、現在進めているOPCのプロジェクトをロフトワークの松井創と共に紹介。OPCは、「つくる」人が誰でも参加できる新しいオープンプラットフォームカメラのユーザ参加型プロジェクトであり、佐藤氏の「新しい映像体験をつくりたい!」という熱い思いからスタートしました。

オリンパスイメージング株式会社 IBP推進本部 開発グループリーダー 佐藤 明伸氏

「作り手が“完成品”を提供するカメラづくりは限界。人びとはスマホやインターネットなどのツールを得て、カメラではない新しい映像の世界を自ら創り出している。ここに着眼し、今のカメラのカタチにこだわらなくても、映像体験を楽しめれば持続できるのでは?という仮説を立てた」と佐藤氏。

OPCの特徴は、作り手になる可能性のある人との共創の場づくり。ものづくりへの熱い思いのある人とオリンパスとが場を共有し、その熱が伝わることでユーザが増えていく設計です。さらに、場だけはなく、アイデアを実現しやすくするためのタネとして、SDKや3Dデータ、プロトタイプを提供。イベントなども実施しながら、「つくる」人の輪を広げようとしています。

松井とのフリートークで、ものづくりをオープンにすることへの挑戦に触れた佐藤氏は、「一番大事なのはパッション。小さくてもこれがやりたいという人の意見を織りなしていくことで、チームとしてのアウトプットが社会的に意味のあるものになると思う」と力強く語りました。

ワークショップで実践!エクスペリエンスのデザイン

セッションパートが終了したところで、日本アイ・ビー・エム株式会社の柴田順子氏、三井不動産株式会社の松井健氏、株式会社ロフトワークの西本泰司の3名より、ワークショップの内容が紹介されました。

Workshop1:顧客視点アプローチ(日本アイ・ビー・エム株式会社)

架空のスーパーマーケットの主要顧客を設定し、どうすれば店舗により多くのお客様が来店し、気持ちよく買い物をし、お店のファンになってくれるかを考えていく。さらに、実現に必要なオペレーション、スキル、ITなどを具体化すると共にKPI設定を行うところまでをチームで体験する。

「顧客視点でのモノの見方を体験してみたい方、異業種の方とディスカッションしてみたい方もぜひ。顧客視点のアプローチを実際の仕事の中でどう使えるか、それがどう役立つかを発見する機会になると思う。」(柴田氏)

Workshop2:イノベーションスペース連携で考える新しい働き方 (三井不動産株式会社)

三井不動産はKOILのようなイノベーションスペースを首都圏に5拠点所有している。それらをいくつも自由に使えるとしたら、どんな新しい働き方、どんな新しい価値が生まれるかを考えていく。

「5拠点を1つのアプリのようにして、さまざまな利用者に使いこなしていただけるようにしたい。新しい働き方やコワーキングスペースに興味のある方、イノベーションの環境を変えたいという方に、ぜひアイデアをいただきたい。」(松井氏)

Workshop3:ドローンを活用した新サービス(株式会社ロフトワーク)

農業や軍事分野でDroneの活用が話題になっているが、それ以外の分野でのDroneの活用アイデアを、異業種メンバーで構成したチームで考えていく。アイデア出しを行う際のツールや手法も用意している。

「これまであまり考えてこなかったようなジャンルでDroneの活用アイデアを考えてみたい。未来のサービスのタネを探すきっかけになればうれしい。」(西本)

3名のワークショップの紹介後、各グループに分かれて、ワークショップが開始されました。

新しい未来へ、多くの気づきを得たワークショップ

約1時間半のワークショップ終了後、柴田氏、松井氏、西本が、各会場の様子と成果を報告。「モノを売るときに魂が伝わらないと差別化できない。という認識のもとで盛んにディスカッションできた。アナログからデジタルまで幅広く考えていただけたことは私自身の勉強にもなった」(柴田氏)、「短時間でこんなにアイデアが出るとはびっくり。デベロッパーがサービスを提供する上で大事なことに気づかせてくれた。これを機に新しい働き方を突き詰めていきたい」(松井氏)、「面白いアイデアがたくさん出た。会社に戻ったらぜひ作ってみてほしい」(西本)など、いずれのワークショップも手ごたえは十分だったようで、中にはプロジェクトとして動き出すものもありそうです。

すべてのプログラムを終え、クロージングスピーチに立ったロフトワークの諏訪光洋は、モノのインターネット(IoT)のプラットフォームであるFabCafeを例に、「IoTという文脈で見たとき、東京あるいは日本が持つパワーは想像以上に大きいと思う。なぜならテクノロジーの持つ力が大きいから」と説明。「このポテンシャルを引き出す上で重要なのが、体験のデザイン。体験をもっともっといいものにしていくために、みんなでがんばりましょう」と締めくくりました。

ロフトワーク 代表取締役社長 諏訪光洋

Event Information:Pepper開発現場にみる、理想のユーザ体験を創るデザインプロセスを学ぶ

イベント概要

商品やサービスそのものの価値を高めるだけでなく、その商品やサービスを使うユーザの体験に主眼を置いた ユーザ・エクスペリエンス(UX)やユーザの体験と企業全体のビジネス成果に主眼を置いたカスタマー・ エクスペリエンス(CX)のデザインに注目が集まっています。

この両者に共通する「体験をどうデザインするか?」を幅広いジャンルのスピーカーを招き、先端事例を交え考えていきます。

開催概要

セミナータイトル Experience Design2014 Autumn
開催日時 2014年11月14日(金)10:00~17:45 (受付開始 9:30)
場所 KOIL(柏の葉オープンイノベーションラボ)
最寄駅:つくばエクスプレス線 柏の葉キャンパス駅 「東京駅」から33分、「秋葉原駅」から30分
対象 ・よりよい体験を消費者に提供したい方
・企業で顧客体験向上のミッションをお持ちの方
・事業責任者、マーケティング、デザイナー、CX・UX担当者
参加費 3000円(税込)
定員 100名
主催 株式会社ロフトワーク
協賛 三井不動産株式会社
オリンパス OPC Hack & Make Project
ご注意
  • 参加者の皆さんの聴講・作業風景などのお写真や、発表いただく内容は後日弊社サイトにて掲載させていただく可能性があります。
  • プログラムは、予告なく変更される場合があります。
  • 申込完了メールは、フォーム入力のメールアドレスではなく、Peatixアカウント登録のメールアドレスに送付されます。
  • 決済完了をもって申込受付となります。お支払い前に定員に達した場合は、参加ができなくなりますのでATMやコンビニ決済選択の方はすみやかにお支払をお願いします。
  • 10月末までにキャンセルのご連絡をいただいた場合は返金いたします。キャンセルをご希望の場合はPeatix「主催者へ連絡」よりご一報ください。11月に入ってからのキャンセルについては、いかなる理由をもってもご返金いたしかねますので予めご了承ください
  • 領収書の発行についてはPeatixサポートページをご覧ください。

プログラム

9:30-10:00
受付開始
10:00-10:10
Opening Speech
(株式会社ロフトワーク 代表取締役 林千晶)
10:10-10:50
Keynote Speech『無人飛行機ドローンが変えるこれからの体験』
(The RoboCup Federation, Founding President
株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所 代表取締役社長 所長 北野宏明氏)
10:50-11:30
Keynote Speech『エクスペリエンスとビジネスをつなぐサービスデザイン』
(慶應義塾大学 経済学部教授 武山政直氏)
11:30-12:40
Lunch
12:45-13:15
『顧客体験を科学する ~2020年へのコグニティブ~』
(日本アイ・ビー・エム株式会社 Business Development Executive/Senior Managing Consultan 落合和正氏)
13:15-13:45
『Experience Designの実践』
(株式会社ロフトワーク イノベーションメーカー 棚橋弘季)
13:45-14:15
「共創プラットフォームへの挑戦 ー OPC Hack & Make Project」
(オリンパス・イメージング株式会社 IBP推進本部 開発グループリーダー 佐藤明伸氏)
14:15-14:25
Break
14:25-14:35
Introduction for Lightning speakers
14:35-14:50
Lightning talk 1 日本アイ・ビー・エム
14:50-15:05
Lightning talk 2 三井不動産
15:05-15:20
Lightning talk 3 ロフトワーク
15:20-15:30
Break
15:30-17:00
Workshop *3room
17:00-17:15
Break
17:15-17:30
Summary
17:30-17:40
Closing Speech
(株式会社ロフトワーク 代表取締役社長 諏訪光洋)

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