DESIGN CAMP FOR TOURIST EXPERIENCE
Day1 開催レポート
年々増加する訪日観光客。彼らはどんな体験を求めてやってくるのか?どうすれば彼らの求める体験をより良いものにできるのか? ロフトワークは、訪日観光客へ実際にサービスを提供している企業を集め、ワークショップを中心とした3日間のイベントを開催。本レポートでは、サービスデザインの考え方に基づいて、デザインリサーチを行い、訪日観光客の体験を改善する、サービスアイデアへと落とし込んでいくプロセスを追いかけます。
Day1
本イベントをナビゲートするロフトワークのカワナ アキ(以下、アキ)は、オープニングトークで、「デザインプロセスにはサイエンスがある。発想の跳躍(クリエイティブジャンプ)を起こす確率を高めるための方法論があることを体感いただきたい」と挨拶。
さらに、「デザインプロセスを体感するにあたって大事なことは、手を動かしながら考えること。本イベントではデザインリサーチのプロセス、すなわち体験を作るプロセスを圧縮版でお届けする」と語り、1日目のキーワードに「インサイト」「ペルソナ」「メンタルモデル」の3つを挙げました。
ここで、参加者が積極的に発言できるように、ロフトワーク 柳川雄飛のファシリテートでアイスブレイクを実施。自己紹介、他己紹介を通じてインバウンド対策への課題意識を共有したあと、“手を動かしてみる体験”として、誰でも簡単に“私の流儀”が語れる番組公式アプリ「NHKプロフェッショナル私の流儀」を使ったムービー作成を体験しました。
ユーザ体験を紡ぐためのファーストステップ:デザインリサーチ
ワークショップの前には、多数の戦略的デザインリサーチのプロジェクトを実行してきたアキが、サービスデザインおよびデザインリサーチに関するインプットを行いました。
1)サービスデザインとは?
「ユーザーに何を提供していくかを考えるにあたり、サービスデザインという言葉をぜひ覚えてほしい」とアキ。サービスデザインについて、Wiki英語版から重要なキーワードとして次の4つを抽出し、そのポイントを解説していきました。
Planning and organizing:
サービスデザインを考えるときは、1つの製品やサービスだけでなく、ユーザー起点でのサービス開発で事業インパクトをどのように出せるかを、組織のトップから現場の担当者まで様々なレイヤーの人たちが議論をする。
Interaction between service provider and customers:
顧客・ユーザーとのインタラクションが起きる場所を明確に定め、どのようなインタラクションを起こしていくかを考える。
Needs of customers:
顧客ニーズを押さえる。アンケートはニーズを把握する一つの方法ではあるが、実際の言動との間にギャップがあることが多い。回答を鵜呑みにせず、なぜその人がそう言うのか、言動の源泉であるメンタルモデルを捉えることが重要。
Competences/capabilities of service providers:
やらないという選択も含め、自分たちのできること、できないことをきちんと見極める。そのサービスを実現するにあたってパートナーとなるべきプレーヤーを選定する。
続いてアキは、「Human-centered Design」という考え方を紹介し、「出せば売れる時代から、今は選んでもらう時代になった。誰に対してデザインするのかをきちんと捉えるために、ユーザーの思考や言動を把握し、共感しながらデザインに落とし込んでいく必要がある」と強調。また、「単体の体験から、体験の総和へ。1つの製品・サービスの体験から、製品・サービス全体の体験の総和を作るイメージを持ってもらいたい」と語り、そのポイントは「2つの軸で考える」ことだと言います。
体験の総和を作る際の2つの軸
●時間軸
ユーザー体験を時間軸で捉える(=カスタマージャーニーマップ)。例えばインバウンド観光客の文脈で言えば、自国で訪日計画を決めて予定を立て始めるところから、飛行機に乗り到着し、ホテルに滞在したり観光地を見て、おみやげを買って自国に帰り、想い出を共有するなどの一連の流れを考えることがそれに当たる。
●エコシステム
ユーザーを取り囲むタッチポイントの有機的な繋がりを捉える(エコシステム・マッピング)。インバウンド観光客の文脈で言えば、飛行機やホテルの予約・購入、現地での通信環境、位置情報のGPS、様々な商品の購入店、公共空間や移動中の接点、あるいはそれらのサービス提供者側がどのように連携しているのかを考えることがそれに当たる。
2)デザインリサーチとは?
「ユーザ体験を理解する作業の第一ステップに、デザインリサーチがある」とアキ。デザインプロセスには、一般論として、調査分析してインサイトを導く「Discover」→作るものを設計する「Design」→イメージをカタチにする「Deliver」の3つのフェーズがあります。
この「Discover」にあたるのがデザインリサーチですが、ここでインサイト(洞察)を導いたリサーチャーが次のフェーズに関わらないケースは少なくありません。それではせっかく得たインサイトが後半のフェーズに反映されなくなってしまうため、アキは、この3つのフェーズがほぼ重なるようなデザイン開発が理想だと指摘します。
「つまり、大事なのは一緒にやること。すべての役職の方がリサーチャーであり、戦略を考える人であり、企画を考える人であり、アイデアをカタチにする人である。今日からみなさんもサービスデザイナーもしくはデザインリサーチャーを名乗ってほしい」とアキ。
また、体験は一つひとつの感情の連続であり、デザインリサーチでは、それがどんなメカニズムで起こっているのかを探らなければなりません。そのためにはユーザーに共感する必要があります。そこで、「観察+インタビュー」を行うことになります。観察によってバイアスのかかっていない客観的事実を明らかにし、その事実がどういう意味合いを持っているのか、ユーザーへの質問を繰り返しながら翻訳していくのです。ユーザーのどのような思考プロセス(メンタルモデル)があるからそれらの言動が客観的事項として観察可能な状態になっているのかを理解する。これが、インサイトを導く作業というわけです。
「デザインにはアートとは違ってロジックがある。なぜ?と聞かれたときにこうだから!と答えられないといけない。天才と違って、ひらめきがそのままカタチになるわけではない。だからこそ、デザイン思考やデザインリサーチという科学的アプローチが大事」と説明するアキは、デザインリサーチのプロセスでは「なぜ?」という質問と回答の往復が大切だと強調しました。
Workshop
現状と理想の間にあるギャップを明らかにする
インプットを終え、いよいよワークショップがスタート。旅行中のライフライン「モバイル」をテーマにワークを行い、3日間をかけて、モバイルのサービスアイデアへと落とし込んでいきます。1日目は、ペルソナのプロトタイプを作成することをゴールに、3つのステップを通じてユーザーのインサイトを導いていきました。
STEP1 観察とインタビューを通じてユーザーの言動に関する事実を収集する
3人編成のチームで渋谷の街に繰り出し、訪日観光客をリクルーティングしてきてインタビューを実施。日本滞在中にモバイルサービスを利用する訪日観光客にどのような欲求があるのか、それに基づいてどのような行動が現れているのかを探りました。
インタビューで確認するポイント
- 訪日外国人はどのような情報をもとに旅行の計画を立てて実行しているのか?(意思決定をするときに何が影響しているのか?)
- 旅行中の体験をシェアすることがあるかないか?それによってどんな欲求を満たそうとしているのか?
STEP2 収集した事実から言えることの意味合いを翻訳する
インタビューのメモを見返しながら発言や観察事項を黄色の付箋に書き出し、それらの意味合いを考えながらグルーピング。さらに、グル―ピングしたものの意味合いを言語化し、青い付箋に書き出していきました。
STEP3 翻訳された意味合いからメンタルモデルの要素となるインサイトを導く
さまざまなペルソナのメンタルモデルを構成するインサイトをリスト化。具体的には、青い付箋だけの模造紙を作り、それらの意味合いを考えながら、さらにグルーピング。グルーピングしたものの意味合いを言語化し、ピンクの付箋にまとめていきました。このピンクの付箋が、デザインリサーチで導き出したインサイトです。
最後に、3つのステップを経て導き出したインサイトをもとに、ペルソナのプロトタイプを作成。「ペルソナとは、製品やサービスを作るとき、どういうメンタルモデルの人のために作るのかを明確に定義したもの。したがってセグメント情報はなるべく排除して行動の源泉となる考え方を中心にまとめることが大切。」とアキ。参加者は、ペルソナのタイトル(例:自己完結型のデジタル世代トラベラー)、概要、ゴール、ニーズ、キーとなるインサイトなどを、STEP1~3で書き出した付箋を使い、模造紙上で整理していきました。
このペルソナのプロトタイプをベースに、1人1つずつペルソナを作成すること。これが参加者に出された宿題です。一週間後のイベント2日目には、このペルソナに肉付けをし、カスタマージャーニーマップに落とし込んでいくことになります。
アキは「旅行のプランニングのきっかけから想い出を共有するまで、あるいは日本に滞在している時間の中で、どういうタッチポイントがあるのか、そのタッチポイントでどんなことが起こるのかを、Head(考えていること)、Heart(感じていること)、Hand(行動していること)の3つのHで考えていく」と予告、1日目のプログラムを終えました。
3日間のダイジェスト動画
イベント概要
訪日観光客のタッチポイント企業が幅広く参加
年々増加する、海外からの訪日観光客。政府が掲げる年間の訪日観光客数2,000万人の目標は来年にも達成されると言われ、観光客が増えるとともに彼らが求める日本での体験も多様化しています。ひとつのサービスや地域で取り組んできた個別のインバウンド対策から、より広域、より包括的な視点で彼らの旅や体験を提案することが求められています。ただ、一事業体が観光客の訪日体験においてすべての接点となることは困難であることも事実です。本イベントでは、訪日観光客とのタッチポイントにおいて、キーとなるプレーヤーの各企業(空港、観光地、通信、交通、飲食、宿泊など)に参加いただき、ユーザーである訪日観光客の体験をどのように良いものにできるか議論し、各タッチポイントのアイデア、およびそれらをいかに線として結ぶかを考えます。
旅行中のライフライン 「モバイル」がテーマ
日本独特のハイコンテクスト文化(暗黙知のうえに成り立つコミュニケーションやシステム)や、外国人にとっては複雑なユーザビリティなど、ツーリストの体験には日本人が普段意識しない多くのハードルがあります。その体験を向上する可能性(体験をシンプルにする、シームレス化する、ユニーク性をもたせる、など)を、実現可能なモバイルのサービスアイデアに落とし込むことで、デザインリサーチおよび体験のデザインを実感していただくことが本セミナーのゴールです。
ワークショップ概要:顧客の視点でタッチポイントをとらえ、新サービスを考える
本ワークショップは、訪日観光客へのインタビューを行い、彼らのインサイト(潜在的な価値観)を発見するところから始まります。行動や選択のベースになる「メンタルモデル(考え方の根幹)」に重点を置くことで、ターゲットのセグメント情報(国や性別など)ではなく感情の連続である体験を基にしたサービスアイデアを発想することができます。
本イベントをナビゲートするのは、多数の戦略的デザインリサーチのプロジェクトを実行してきたロフトワークのカワナ アキ。米国のデザインファームfrogで培ったデザインリサーチの知見を用いて、新たなサービスを生み出すワークショップを設計します。成長するインバウンド・マーケットを日本企業が協業して発展できるチャンスと捉え、顧客体験の旅を描くことで「点」の施策を結び「線」にしてみませんか?
開催概要
セミナータイトル | 訪日外国人の行動を「線」でとらえ 新サービスをデザインする3日間 |
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開催日時 | 2016年1月15日(金) ・22日(金)・29日(金) 計3日間 全日 9:00 – 19:00 |
場所 | FabCafe MTRL |
対象 | ・空港、観光地、自治体、通信、交通、宿泊業界の方 ・東京オリンピックに向けて、訪日観光客への新しいサービス・製品・プロモーションを企画している方 ・3日間全てのプログラムに参加できる方(やむを得ない事情がある場合はご相談ください) |
定員 | 15名 |
主催 | 株式会社ロフトワーク |
ご注意 | ・プログラムは予告なく変更される場合があります ・当日の参加者の皆さんのお写真は、後日公開するレポートなどに掲載させていただきます |
プログラム詳細
Day1 :Understanding
問題発見、論点設定、「誰のため」のサービスかを定義する
■2016年1月15日(金)
- 09:00 – 11:00 レクチャー
- 11:00 – 13:00 フィールドリサーチ・インタビュー
- 13:00 – 14:00 Lunch
- 14:00 – 16:00 フィールドリサーチからインサイトを落とし込む
- 16:00 – 18:00 インサイトの発見、ペルソナ作成
- 18:00 – 19:00 まとめ・課題の説明・次回の案内
Day2 :Ideation
顧客体験の設定、体験施策のアイディエーション、差別化要因
■2016年1月22日(金)
- 09:00 – 10:00 レクチャー
- 10:00 – 12:00 カスタマージャーニーマップ作成
- 12:00 – 13:00 Lunch
- 13:00 – 14:00 Idea sketch Session
- 14:00 – 15:20 Provocation #1(アイデア発想1)
- 15:20 – 16:40 Provocation #2(アイデア発想2)
- 16:40 – 18:00 Provocation #3(アイデア発想3)
- 18:00 – 19:00 まとめ・課題の説明・次回の案内
Day3 :Business Model & Presentation
事業モデルに落とし込む、フィールドピッチプレゼンテーション
■2016年1月29日(金)
- 09:00 – 11:00 ストーリーボード作成
- 11:00 – 11:30 レクチャー:ビジネスモデルへの落し込み
- 11:30 – 18:00 Lunch・プレゼン準備
- 18:00 – 19:00 会場移動
- 19:00 – 21:00 チームプレゼンテーション&立食パーティー
※Day3のプレゼンテーション会場は、別途アナウンスします。