オープンイノベーションのはじめ方とつながりのデザイン
「オープン」をキーワードにした新たな価値創出に注目が集まっています。異なる企業同士が手を組み、新たな価値を創出するオープンイノベーションの新しい取り組みとして、3月9日、ソニーのスタートアッププロジェクトから生まれた「MESH(メッシュ)」と、新たな写真体験を提供するカメラ「OLYMPUS AIR」がタッグを組んだコラボレーションプロジェクトが発表されました。発表イベントとなった「オープンイノベーションのはじめ方とつながりのデザイン」の模様をレポートします。
未来の「当たり前」をつくるためのキーワードは「オープン」
ロフトワーク代表取締役の諏訪は、「日本は海外からの観光客が年間1300万人を超えたが、『おもてなし』については、まだまだ学ぶべきことがある」と切り出しました。たとえば、ホテルにチェックインするとき、海外のホテルでは、ラウンジに座ってリラックスしながらタブレット端末からチェックインが可能であるのに対し、日本では、フロントに並びチェックインする画一的なスタイルのままです。
こうした点について、諏訪はWebメディアの報道を引用し「一番の問題は、課題を日本人だけで解決しようとする点にある」と指摘。「環境の変化に柔軟に対応し、自前主義に陥らないためのキーワードが『オープン』である」とイベントの重要なキーワードへと繋ぎました。
続いて登壇したプロデューサーの松井は「未来の社会価値に向けて、現在において、何かしらのジャンプを起こす地点がイノベーション」と話し、いくつかの事例を紹介しました。
たとえば、ヤマハでは、楽器以外の領域で新しい演奏体験を提供しようと、社外のアーティスト、エンジニア、クリエイターと一緒に「Play-a-thon」を開催。このイベントでプロトタイピングされたモーションセンサーとLEDによる「光る靴」は、その後ブラッシュアップを重ね、製品化の道をたどっています。
松井は、「自前主義からオープンコラボレーションの時代へと移行しつつある。異質な人、立場の違う人と一緒に“未来のアタリマエ”を作っていく環境がこれからさらに整っていくだろう」と今後の展開を予想しました。
企業の垣根を越えた、IoTのオープンコラボレーション
続いて、MESH × OLYMPUS AIRによる「IoTオープンコラボレーションプロジェクト」が発表され、両社のプロジェクト担当者によるプレゼンテーションとデモンストレーションが行われました。
ソニーの「MESH」は、ブロック形状の電子タグと、スマホアプリを組み合わせ、簡単に「仕掛け」を作ることができるDIYツールキットです。電子タグは無線通信機能を備え、タグごとに「人感」「ライト」「ボタン」「明るさ」といった7つの機能が付与されています。どのタグを使って、何に、どんな動きをさせるかという「回路」は、アプリ側でプログラミングスキルなしに設定できます。
ソニーのMESH project リーダー萩原 丈博氏は、同製品を「遊び心を形にできるツール」と紹介。萩原氏は、「MESHを使ったレシピサイトも公開されている(→MESHレシピ)。オリンパスとのコラボレーションにより、待望のカメラ機能を用いた体験をつくる可能性が広がることに期待している」とコメントしました。
一方、「OLYMPUS AIR」はスマホとミラーレス一眼が融合した新コンセプトのカメラで、撮影の設定はすべてスマホアプリで行えます。また、ソフトウェア開発キットや、3Dデータが公開され、開発者やクリエイターが自由にアプリやアクセサリーをつくることができるオープンプラットフォームとして展開している点が特徴です。
オリンパスの石井 謙介氏は、「2015年3月の発売時にはすでにFacebookページのファン数が1000人超、現在は7000人を超えている。ユーザー自身が思い思いのやり方で撮影を楽しんでいる」と紹介。さらなる認知拡大のため立ち上げた活用事例サイト「PLAY AIR」では、AIRの活用事例を発信し、エコシステムの構築にも取り組んでいます。
ソニーとオリンパスの実践にみる、オープンイノベーションの現在
後半はロフトワーク石川のモデレーションのもと、このオープンイノベーションの立役者であるソニーの萩原氏、オリンパスの石井氏、ロフトワークの松井によるパネルディスカッションが行われ、Q&A形式で議論が展開されました。
――ソニーとオリンパスはどういう経緯で組んだ?
萩原氏「2015年にロフトワークが主催したオープンコラボレーションサロンが最初の出会い」
石井氏「まずは飲みましょうというふうに交流を深め、本当にコラボレーションできるという具体的感触を得たのは2015年の秋ごろ」
――オープンコラボレーションに対する社内の理解はどのように得た?
石井氏「MESHのようなデバイスはオリンパスにはないので、協業することが必須であった。オープン化は、個人も、スタートアップも、大企業も平等に扱うのが原則であり、ユーザー価値を高めることに注力するべきと考えている」
萩原氏「ソニーにもデジカメはあるが、『OLYMPUS AIR』とはオープンで誰でも使えるというコンセプトや世界観を共有できた。社内ではコンセプトと活動内容を丁寧に伝えることで、支援への理解を得た」
――技術をオープンにすることのメリット、デメリットについてどう考えるか?
石井氏「一つの完成したカメラで市場を満たすことは難しい。MESHと組み合わせなければ撮れないという体験を提供できることが大事。それがオープンコラボレーションの一番の意義であり理由」
萩原氏「MESHが実現したいコンセプトはアナログ的で、デジタルの世界では、まだ技術的に超えなければいけない課題がある。これを自前だけで解決しようとせず、ビジョンを共有できた方々と活動していくのが大事」
このディスカッションを経て松井は、「オープンな取り組みはまだ始まったばかりだが、近い将来、当たり前の世界になってくるだろう」と語り、「つながることへの難しさや障壁もあるが、どんどん外に出てつながってほしい」とコメントしました。
最後に、今後の展望として、石井氏は、「事業貢献の観点からも、オープンプラットフォーム化が利益につながるかまで挑戦したい」と語りました。また、萩原氏は、「MESHの使い方を知ってもらうためレシピサイトをリニューアルしさまざまな作例を紹介させていただく形にした。ちょっとしたアイデアや気づきを共有できるようにして、生活、仕事、世の中を良くしていきたい」と締めくくりました。
パネルディスカッションの後は、自由に実機に触れることができるタッチ&トライを実施。参加者は実機に触れたり登壇者と交流を持ちながら、新しい体験を通じてアイデアや刺激を持ち帰りました。
イベント概要
これまではメーカー(作り手)とユーザー(使い手)は交流に乏しく、作り手が作ったものを使い手は購入して使うだけ、という一方通行の生産-消費プロセスでした。しかし、メーカーが今までのやり方を続けていてもイノベーションを起こすのは難しいと言われています。オープンコラボレーションの強みは、ビジョンを発信して共有し、既存の枠組みを超えた幅広いネットワークをつくり、ユーザーへの新たな価値をデザインすることで、イノベーションを生み出していくところにあります。
さらに外部のメーカー同士が手を組み、技術とアイデアを組み合わせたオープンコラボレーションを実現するケースも生まれてきました。ソニーのスタートアッププロジェクトの一つ、電子タグとアプリであなたの「あったらいいな」を実現できるDIYツールキット「MESH(メッシュ)」と、ロフトワークがこれまで支援してきた、オリンパスの新しい写真体験を開拓する「OPC Hack & Make Project」。
2015年度のグッドデザイン・ベスト100、未来づくりデザイン賞にも輝いた両社のプロジェクトが、企業の垣根を越えた、IoTのオープンコラボレーションを実現しました。
本イベントでは、両社が独自に進めてきたユーザとの共創の場を広げる活動の中で、それぞれの先進的なプロジェクトの担当者がタッグを組むことで、どのようにオープンコラボレーションが実現したのか、そして「オープン」をどう企業内でデザインし実現したのかを考えます。また、実機のデモンストレーションとタッチ&トライを交えて体験する場もご用意しています。
開催概要
セミナータイトル | オープンイノベーションのはじめ方とつながりのデザイン |
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開催日時 | 2016年3月9日(水)17:00-19:30(16:30 開場) |
場所 | FabCafe MTRL〔地図〕 |
対象 | ・イノベイティブな商品開発プロセスと既存技術の可能性を広げるデザインに興味のある方 ・事業責任者、R&D、商品企画・開発担当者、マーケティング担当者の方 ・デザインやテクノロジーに携わる方 ・MESH、OLYMPUS AIRを使ってみたい方 |
参加費 | 無料 |
定員 | 40名程度 |
主催 | 株式会社ロフトワーク |
協力 | ソニー株式会社 新規事業創出部 MESH project オリンパス株式会社 OPC Hack&Make Project |
ご注意 | ・プログラムは予告なく変更される場合があります。 ・参加者の皆さんのお写真は、後日公開するレポートなどに掲載いたします。 |
プログラム
MESH × OLYMPUS AIRのIoTオープンコラボレーションプロジェクト
ソニーのスタートアッププロジェクトの一つ、電子タグとアプリであなたの「あったらいいな」を実現できるDIYツールキット「MESH(メッシュ)」。 デベロッパーやクリエーター、ユーザーと共に新しい写真体験を開拓するオープンプラットフォームカメラ「OLYMPUS AIR」。
双方のプロダクトによるIoTオープンコラボレーションが実現しました。
MESHとOLYMPUS AIRを組み合わせて、例えば人が通ったら人感センサーが反応してOLYMPUS AIRでシャッターを切ったり、明るくなった時だけ写真を撮る…ということが誰でも簡単につくれるようになります。
両社の技術を組み合わせて実現する、新しくて誰でも参加できるIoTプラットフォームが実現しました。
MESH™ (MTRL KYOTO, FabCafe MTRLで展示中)
さまざまな機能を持ったブロック形状の電子MESHタグをMESHアプリ上でつなげることにより、「あったらいいな」を実現する電子タグです。難しいプログラミングや電子工作の知識も必要なし。小さなブロック形状の電子タグは、動きセンサー/ライト/ボタン/明るさセンサーなどのさまざまな機能を持ち、MESHアプリで組み合わせることができます。2015年度のグッドデザイン賞ベスト100に選ばれました。
OPLYMPUS AIR(MTRL KYOTO, FabCafe MTRLで展示中)
スマートフォンとデジタル一眼のインテリジェンスが融合した新コンセプトのカメラ。撮影の設定はすべてスマートフォンアプリで行います。またOLYMPUS AIRのSDK(ソフトウェア開発キット)や、3Dデータを公開しているので、デベロッパーやクリエーターは、オリジナルのアプリやアクセサリーをつくることができます。このカメラを通してユーザーと共に新しい写真体験を開拓していくオープンプラットフォームイノベーション活動「OPC Hack & Make Project」は、2015年度のグッドデザイン賞ベスト100に選ばれました。
FabCafe MTRLについて
FabCafe MTRLは、メンバーシップ制の集中的な「ものづくり」や、中長期的なプロジェクトに取り組める新しいコワーキングスペースです。
12月7日に京都にオープンしたMTRL KYOTOと同じく「素材(マテリアル)」にフォーカスし、同ビル1FにあるFabCafe Tokyoと連携したサービスを展開していきます。
プログラム
16:30
Open
17:00〜17:10
Opening Talk
株式会社ロフトワーク 代表取締役社長 諏訪 光洋
17:10〜17:20
「企業に求められるオープンイノベーションとは?」
株式会社ロフトワーク Layout Unit CLO(Chief Layout Officer) 松井 創
17:20〜18:00
Project Presentation / Demonstration
ソニー株式会社 新規事業創出部 MESH project リーダー 萩原 丈博
オリンパス株式会社 技術開発部門 モバイルシステム開発本部 画像技術部 研究1グループ 石井 謙介
18:00〜18:25
Panel Discussion
ソニー株式会社 新規事業創出部 MESH project リーダー 萩原 丈博
オリンパス株式会社 技術開発部門 モバイルシステム開発本部 画像技術部 研究1グループ 石井 謙介
株式会社ロフトワーク Layout Unit CLO(Chief Layout Officer) 松井 創
株式会社ロフトワーク パブリックリレーションズ 石川 真弓
18:25〜19:30
Touch&Try / Networking
19:30
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