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バイオアートは、未来を救う(気がしてきた)。
BioClub Meetup Spin-off 『バイオアート』出版記念イベントレポート

BioClubのキックオフから約3ヶ月。週末にはBio Hack Academyが開かれ、FabCafe MTRLには培養シャーレが日々増えるなか、5月23日、BioClub Meetupのスピンオフ企画「『バイオアートーーバイオテクノロジーは未来を救うのか。』出版記念イベント」が開催されました。

本書の監修を務めた多摩美術大学教授の久保田晃弘さん、寄稿をしたデザイナー、アーティストの長谷川愛さん、帯にコメントを寄せた情報学研究者のドミニク・チェンさんによるクロストークは、なんとノンストップで2時間を超える大議論に! まさに、トークのキーワードでもある「スペキュラティブ」なイベントの様子を、PRの原口がお伝えします。

バイオアートは、未来を救う(気がしてきた)。

まずは、BioClub発起人林千晶からオープニングメッセージ。

「“Maker Movement”の話が盛り上がってきたとき、銃規制の問題など恐怖を感じさせるような話がメディアに取り上げられることが多かった。これは、メディア「だけ」の情報で判断していたから。FabCafeは、デジタル工作機器で何がつくれるかわからないからこそ、まずは「場」をつくりプロトタイピングをするべくうまれた場所。

この秋オープン予定のBio Labも、バイオテクノロジーで何が生まれるかわからないからこそまずは場や機会から、ということで開設する予定。今日は、バイオテクノロジー、バイオアートのポテンシャルを感じてほしい」

バイオアートは文明を「反転」させるもの

書籍『バイオアート』は、50名のバイオアーティストの活動から、生物自体をメディアととらえ表現した作品や、未来の可能性を思索する「スペキュラティブ・デザイン」など、さまざまな作品手法とともに、バイオアートの役割、そしてバイオテクノロジーによってもらたされる未来について考察した一冊。

この本を監修した久保田さんは、著者ウィリアム・マイヤーズのことも紹介しながらこう話します。

「ウィリアムはオランダで活躍している建築出身のデザイナー。『コンピュータをより生き物らしくすることが是である』という従来のアプローチを超えた概念を前著『Bio Design』で提示し、注目を浴びた」

「生物科学が発展すると、人間は身体を、思考を拡張させ、同時に“反転”させる。たとえば、コンピュータによって自然をシミュレーションするのではなく、自然や生き物にコンピュータの機能をもたせる。ウィリアムは、細胞をプログラミングしよう、生命の情報的側面(つまりDNAなど)をコンピュータにしよう、という“反転”の概念を提示した。バイオアートは、自然/人工という社会の基盤、つまり文明を反転させる」

反転させることは、これまで気付かれていなかった機能や価値、意味や美を認識させることにつながるーー。正直なところ、バイオアートとは何なのか、どうも掴みどころがわからない……と思っていたのですが、その一端が垣間見えた気がしました。

※ちなみに、久保田さんおすすめのウィリアム・マイヤーズのスピーチ動画はこちら。スペキュラティブ・デザイン、バイオアートを行うに至る彼のアイデアや、思索のプロセスが伝わってきます。

誰が、何を良しとして、世界をつくっているのか

作品『私はイルカを産みたい…』『(不)可能な子供、01:朝子とモリガの場合』『シェアードベイビー』など、オーディエンスに議論を促すような作品を発表してきた長谷川愛さんは、作品を紹介しながら、バイオアートに期待することにも言及しました。

「スペキュラティブ(議論を起こす、思索させる)な作品をつくるなかで、いま考えているのは『民主主義とテクノロジー』。2013年に未婚女性の卵子凍結保存が認められたけれど、自分たちの身体、生命に関することなのに、国が定める取り決めはいつ・誰が・なぜ・何を良しとして判断したのか、わからないことが多い。政治家に、科学者にのみ任せるのではなく、自分たちでもっと意識していくべきではないか」

「バイオアートには、観る者に深く強い問いを投げかける力がある。疑われることのなかった価値観の新陳代謝を活性化させる、議論を起こすことが大事」

意図なきデザインは存在しない

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CCライセンス)の普及をミッションに活動しているNPO法人コモンスフィア理事のドミニク・チェンさん。CCライセンスとは、簡単にいうと「クリエイターの作品の著作権をオープンにするもの」。その「生命版」があったら面白いーーという思いで、バイオアートに関心をもったといいます。また『シンギュラリティ:人工知能から超知能へ』(NTT出版)の監訳を行ったドミニクさんは、AIと身体性について問題提起も。

「AIによって、人間からLabor(労働力)、Intelligence(知能)がリプレイスされ、そしていまIntent(思考力)が代わりつつある。おそらく次に来るのは、『意思決定』と『責任』だけれど、どちらにも必要なのは『欲』。『欲』は人間のオリジナルなものと思われがちだが本当にオーガニックなものなのか? コンピュータによる心理操作はないのか?」

「デザインには必ず意図があるけれど、その意図をあててこそ正解、ではなく、問いを立て、議論することを正当化したい。議論やコミュニケーションを成立させるには、フィクションが必要。問いを立てるデザインに取り組み、表現を通して、メディアではなくコミュニティをつくっていきたい」

あまりに濃く、色彩豊かで深さのある議論で、全てはここには書ききれないため、この辺で。
久保田さん、長谷川さん、ドミニクさん、みなさんに共通するのは、「問題提起し、議論を生み、オルタナティブな意見が飛び交う作品をつくりたい」ということ。

このイベントの会場のFabCafe MTRLでは、2016年秋にBio Labがオープンする予定です。ここでどんな実験が行われ、バイオアート作品が生まれるのか。どんな議論が生まれるのか。いまからとても楽しみです。

イベントで紹介された、書籍『バイオアート』『スペキュラティヴ・デザイン』は、全国の書店やAmazonなどで発売中。ぜひご覧ください。

『バイオアートーーバイオテクノロジーは未来を救うのか。』(2016、ビー・エヌ・エヌ新社) 『スペキュラティヴ・デザインーー問題解決から、問題提起へ。』(2015、ビー・エヌ・エヌ新社)

イベント概要

Bio Hack Academy Graduation Show  誰もがBioをハックできる時代をつくる~

  • 日時:201664日(土)13:00-16:00
  • 会場:FabCafe MTRL
    東京都渋谷区道玄坂1-22-7 道玄坂ピア2F

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