三井住友フィナンシャルグループ×ロフトワークのプロジェクトから紐解く、
上流工程から外部を巻き込む意義
企業とそこで働く人の関係だけでなく、働く環境が大きく変化しつつあります。独立して起業に挑戦する人、自身のスキルを活かしてフリーランスとして働き始める人、企業に残りつつ副業を始める人など、雇用関係によらない多様で柔軟な働き方の選択が可能になっています。企業とすれば、より有能な個人を流動的な人材として活用できる機会が増えた、と考えることもできます。
一方で、昨今は「オープンイノベーション」や「共創」の取り組みを数多く目にするようになってきました。こうした潮流を受け、従来の仕事は「企業単位」から「プロジェクト単位」へと変化しており、企業は内部の人材のみで進めてきた仕事のやり方をリデザインする必要に迫られています。
外部の人材とどうつながるか-。これが、今後の重要なテーマです。
そこでロフトワークでは、9/19に「プロジェクトの上流工程からはじめる外部とのパートナーシップ」についてディスカッションできる場を企画。ケーススタディとして、三井住友フィナンシャルグループとの共創の取り組みを紹介しつつ、同社のITイノベーション推進部の木村智行氏、吉田愛氏、松田卓久氏の3名に外部と取り組むプロジェクトの意義や課題を伺いました。
テキスト=佐々木 みのり
三井住友フィナンシャルグループ×ロフトワークのプロジェクトに見る共創の意義
将来の事業ポートフォリオの変化を見据えた事業開発を重要なミッションとする三井住友フィナンシャルグループ ITイノベーション推進部。 ちょうど一年前に「これからの法人ビジネスのあり方を一緒に考えたい」という相談をいただきました。
「まず何から始めるべきか我々も悩みましたが、そもそもSMBCさんが何に興味を持たれるのか?を明らかにするための、ワークをみなで一緒にやることから始めようと考えました」とプロジェクトマネージャーを務めたロフトワークの棚橋は振り返ります。
こうして動き出したプロジェクトは約一年で5つ。プロジェクトの上流工程から外部とのパートナーシップをはじめたことは、どんな意義があったのでしょうか。ここでは、そのうちの3つをご紹介します。
プロジェクト1:目先のゴールよりも、ゴールに向かうための前提を揃える
──プロジェクトの目的は、2025年の社会変化を予測し、自分たちの言葉で「こんな未来が来ます」と語れるようにすること。そこで、3日間のワークを通じて約270個の“未来の兆し”を集め、KJ法などの手法を使いながら分類。今後どのような社会変化が起こり得るか、プロジェクトメンバー間で共有しながら抽出していきました。
木村氏 率直に言うと、脳みそが痺れるようなワークでした。つら過ぎて詳細を覚えていません(笑)。
吉田氏 非常に疲れましたし、大変でした。何が大変かというと、自分の考えを人に伝わる形で明文化する作業が難しかったですね。
石田(ロフトワーク) ワークにはファシリテーションをはじめとする一連のスキルが要求されることもあり、実は裏の目的として、リーダー的な人材を発見・育成する狙いもありました。
木村氏 曖昧な領域においては、付箋を使って可視化したり、自分たちの言葉でしっかりと残したり、伝えたりしていくことが重要なのだと気づきました。
松田氏 作業や時間を共有するなかで、こうしたことの重要性がメンバーに自然に伝わっていき、共通言語ができたり、コミュニケーションが取りやすくなったりすることを実感しました。
──かなりハードなワークではあったものの、お互いの考え方の深い理解に繋がり、プロジェクトとしてよいスタートが切れたのも事実です。見えてきた未来の変化は「我々が考える2025年の世界」としてまとめています。最終的に未来においてどのようなビジネスがあり得るかを具体的に考え、三井住友フィナンシャルグループの未来像をドキュメント化していきました。
プロジェクト2:具体的な集客方法の検討よりも、誰に何をどう伝えるかを整理する
──プロジェクトの目的は、三井住友フィナンシャルグループ ITイノベーション推進部が展開するプログラム、SMBC BREWERY(ブリュワリー)(以下BREWERY)の集客面における課題を解決すること。BREWERYとは、SMBCグループ各社と異業種企業のアセット連携により、新たなビジネス開発を目指すための完全招待制のオープンイノベーションワークショッププログラムです。
木村氏 BREWERYは、企業と企業が“なぜやるか”を創り出す場であり、アイデアをきっかけに、相手の企業と何をやったらいいかを考える取り組みです。プログラムの内容はきちんと練られていたのですが、参加者をどのように安定的に集めていくか悩んでいました。
石田 はじめは集客にあたり、ロゴやクリエイティブのツールの開発を相談いただいたのですが、そもそもBREWERYを誰にどう伝えるかのデザインが必要でした。そこで、コミュニケーション戦略の設計をご提案しました。この部分が固まれば、何を作るべきか明確になります。
──プロジェクトではBREWERY参加者のカスタマージャーニーを作成。それをもとに集客時、開催時それぞれで、シーンごとの目的及び必要なコミュニケーションを考え、効果的なツールを整理していきました。これにより、本当に参加してほしい人のターゲット像や、ターゲットへの適切なコミュニケーションとして不足しているツールが明らかになりました。同時に、BREWERYをどう言語化して伝えるかを考えるきっかけにもなりました。
プロジェクト3:曖昧な目的を、1週間で明確にする
──プロジェクトの目的は、CEATEC JAPAN 2018※1の展示方針を決めること。CEATECでの展示は何のために行い、誰に、どんな価値訴求を行うのかを明確にするとともに、これらを踏まえた展示の方向性を確定するディスカッションを、1週間の集中ワークで行いました。
※1:CEATEC JAPAN(シーテックジャパン、Combined Exhibition of Advanced Technologies)。毎年10月に幕張メッセで開催されるアジア最大級の規模を誇るIT技術とエレクトロニクスの国際展示会
棚橋 まず、なぜやるのか、そして、伝えたい価値は何かを決めたあと、ターゲットユーザーを4名設定。それぞれのユーザーにどのようなアクションをしてほしいか、どのような気持ちになってほしいかを明らかにした上で、どのような展示体験を通じてそれらを伝えるかのユーザーストーリーを考えました。そして、そのストーリーを実現するための展示の方向性をゾーニング案に落とし込んだんです。
松田氏 1週間でゾーニングまで設計できたのは、他のプロジェクトを通じて、すでに共通言語ができていたからです。
木村氏 「なぜやるか」を明らかにしないと、結果的に伝わらないものが完成してしまいます。なぜやるかが曖昧な状態であることを認識していたので、頼むならロフトワークしかいないと考えました。
石田 大半の会社が欲しいものベースでご相談されますが、プロジェクトを重ねるにつれ、欲しいものベースで相談されることがなくなっていきました。諦めてくださったのかもしれませんけどね(笑)。
より自由な発想での挑戦が可能に!大事な仕事こそ自社で抱え込まず、外に出してみる
ロフトワークと共に、一年で5つものプロジェクトを手がけてきた三井住友フィナンシャルグループ。それでもなお、同社のミッションに終わりはありません。
木村氏 どのプロジェクトも普段使っていない脳みそを使う感じがあり、2時間くらい議論していると、それこそ吐きそうになるほどです。それでも、「“いい意味で”つらい」と思えるのは、つらくないと良いものもできないことがわかったからですね。だんだん慣れてきてラクになるかというとそうではなく、どんどん内容が難しくなりハードルが上がっていきます。具体的に何をやるか決める前に、外部パートナーに入ってもらうことの意義はこのあたりにもありそうです。
棚橋 確かに、以前と同等のつらさでも、より難しいことができるようになってきている印象があります。
業種や業界の境が曖昧になり、既存事業における競争環境はますます激化する一方です。企業が新しい事業を生み出すとなると、内部にはないものについて考えなければなりません。会社の中だけで考えることには限界もあります。
「優秀な人たちが自由な状態で会社の外にたくさんいます。外にいる有能な人たちを自社とどうつなげていくかを考えるとポジティブになれるものです。大事な仕事は内部でやらないと・・・という従来の前提そのものを変えてみてはいかがでしょうか?」と棚橋は提案。
外部人材との共創を有意義なものにする。鍵は決定事項に従って、アウトプットする下流工程ではなく上流工程からの共創にあります。異能が加わるプレッシャーやストレスは、大変の一言で片付けられるものではありませんが、「つらくないと良いものはできない」というコメントに、その重要性が集約されていました。