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「モビリティ」の未来は、効率や利便性の外側からやってくる。
“移動”の意味を問い直す「NewHere Project」イベントレポート

21世紀に入って以来、「モビリティ」あるいは「移動」を取り巻く環境は変化し続けている。

観光産業の成長、定住する家をもたずに多拠点生活を行う人々の登場。あるいはAirbnbやUberといったテクノロジー企業は建築物やクルマのもつ「意味」の書き換えを行ない、国境を超えたプラットフォーム型サービスが人々の移動を支えるインフラとなりつつある。クルマは「モビリティ」と呼び名を変え、MaaSの社会実装が近づいている。

また、物の移動に注目すれば、世界規模で相互に接続された物流ネットワークの登場により、Amazonで購入した商品が世界のどこからでも短時間で家に届くようになった。

変化の兆しを挙げていけば、枚挙に暇がない。現代においてモビリティを考えることは、これからの人間、ひいては社会のあり方を考えることに他ならない。

そんな時代において、モビリティの価値や可能性をいま一度見つめ直し、ユーザー視点から新たなサービス創出を目指すプロジェクトが始まった。

ロフトワークがJR東日本・モビリティ変革コンソーシアムとともに共催する「NewHere Project」だ。ユーザー視点にたち、これからの社会をモビリティがどのように変革するのかを考え、課題解決に向けたアイデアを公募する。プロジェクトの過程ではアイデアを具現化し、実験やプロトタイプを繰り返し、デモデイでの発表を行う。その先には、社会に広くインストールするという目的がある。応募の締切は7月11日で、チームでの参加を広く募集している(応募フォームはこちら

「NewHere Project」は「ワクワク」「カイテキ」「アンシン」の3テーマを設け、アイデアを求めている。従来の移動体験やモビリティサービスの常を覆すような“ワクワク”する体験の提供、便利を極めた先にある新たな価値として“カイテキ”の提供、安全であるべきものを更に“アンシン”して利用できるようにするプロダクトやサービスの提供だ。

「家」や「住まい」を移動させることも、モビリティの射程範囲内にある

6月24日には、「NewHere Project」のオープニングセッションが行われた。登壇したのは、ソニーコンピュータサイエンス研究所のリサーチャー アレクシー・アンドレ、株式会社リ・パブリック共同代表の内田友紀、AnyProjects共同創業者でデザイナーの石川俊祐、そしてJR東日本・モビリティ変革コンソーシアムの福田和人の4人だ。

ゲストの3名は、プログラムのメンターを担当する。アレクシーは「ワクワク」を、内田は「アンシン」を、石川は「カイテキ」のアイデアに対してプログラム期間中にアドバイスを行う。トークセッションでは、メンターたちによるユニークな視点が参加者に共有された。この視点が、その後に行なわれたワークショップや、プログラム参加者の刺激的なアイデアの起点となるはずだ。

デジタルテクノロジーがあらゆる産業や業界を変えていく時代において、単なる「移動」から解き放つ、これからの「モビリティ」の価値は何か。

宇宙の小型衛星やホテルから食の分野に至るまで多様な領域のデザインに携わる石川は、どの領域においても、「移動」を考えることは不可避だと語る。「『モビリティ=動くモノ』という思考が前提にあると、発想が広がりにくいんです。街や人にとって動くコトにどんな価値があるのか、また固定されているものがどのように変わるべきかを考える必要があります」。

石川が事例として挙げた、全国各地の拠点に住むことができる月額サービス「ADDress」は、家や住所が流動的になる「住まい」のモビリティだ。ひとが住まいを移動する際の、経済的な領域に留まらないコストを下げることで、ひとの動きを円滑にしていると言える。他にも、「定住」から人々を解放することを目指し、可動式の「モバイルセル」と固定された拠点となる「ハウスコア」を展開するSAMPOなどのスタートアップが、この領域には存在する。

石川俊祐(AnyProjects共同創業者/デザイナー)

「モビリティにおける一番の変化は、これまで自分がA地点からB地点に動くという考え方にとどまっていたものが、自分のところにきてくれる、または固定された地点自体が流動性をもつという発想が生まれたことです。『家』『住まい』など、一見動かないものに対しても、人間の行動に基づいた移動という視点から『モビリティ』を考えていくと面白いですし、そうした思考のほうが多くのひとに刺さるものが生まれる可能性が高いと考えています」(石川)

「満員電車」の意味をどのように転換するか

「ひとは人生の多くの時間を移動に割いています。特に通勤時間は、とても大きなものですよね」と石川は語る。電車が主な通勤手段となる都心では、通勤はもっとも過酷な仕事のうちのひとつだ。

来日して17年というアレクシーは、石川と同様に「電車にはもうほとんど乗ってない」と話す。

アレクシー・アンドレ(ソニーコンピュータサイエンス研究所リサーチャー)

「来日したころは、日本の平均的な往復の通勤時間が90分と聞いて驚愕しました。フランスの田舎でも渋滞して30分が限界です。なぜ日本人はこれに耐えられるのか。これが当たり前になってしまう社会が、なにが原因で形づくられるのか。とても疑問でした。電車通勤はつまらないですし、とにかく疲れます。雨の日なんてなおさらです(笑)」(アレクシー)

現在、法やインフラの整備が進みつつある自律走行車は、単純な「移動」から人間を解き放つ可能性を秘めている。その際には、公共交通機関である鉄道や駅の役割を再考しなければならないという危機感は、モビリティ変革コンソーシアムの福田による「我々の鉄道事業は、目的地に辿り着くためのサービスでした。しかし今、さらにその先を考える必要があるんです」という言葉にも表れている。

福田 和人(JR東日本・モビリティ変革コンソーシアム)

いかにして、無駄となっている移動時間を豊かにするのか。 ソニーコンピュータサイエンス研究所で子どもの主体的なあそびを促すトイ・プラットフォーム「toio(トイオ)」など、「娯楽」をベースに研究開発を行うアレクシーは、その壮大な無駄な時間を疑うところからスタートし、「遊び」と変えることでひとの喜びや幸せにつながる可能性があると示唆する。

「満員電車には可能性があると思うんです。なぜなら、ずっと同じ目線を集められるから。長時間同じ場所に留まってくれるというのは、実はゲーム会社的には魅力的な環境なんですよ。ずっと座って(ほとんどの場合は立って)移動しなければならないような時間を使うことで、いかに移動の価値転換を起こして楽しく生きていけるかを考える視点が大事だと思います」(アレクシー)

効率性の追求ではなく、人間の可能性や創造性をひらく「モビリティ」を

企業・行政・地方・大学などさまざまなセクターをつないで変化・革新を促進する事業を行う共同体、株式会社リ・パブリックの内田は、東京に拠点を置きつつ地方のプロジェクトに関わるなかで、「これまでの経済資本の考え方や仕組みのなかで、より便利にしていっても、誰も救われないと感じる」と主張する。

内田友紀(株式会社リ・パブリック共同代表)

「日本の人口減少は免れませんし、生産性や効率性を高めていくといってもジリ貧です。今までわたしたちは、既存の仕組みの中で戦ってきましたが、果たして経済だけが都市や街の資本なのか、それを見つめ直して理解し、違う仕組みをいかに創っていくかを考えないといけません。東京もそうです。実際に、この街で子育てをしていくのも本当に大変ですから」

バルセロナの半官半民組織「都市生態学庁」がICTを活用した例に「Super Block」政策がある。町中にセンサーを埋め込み蓄積したデータをもとに、都市の動きを生態学的に調査し結果、碁盤の目状に構成されたバルセロナの道路の交通量の大半を車両とそれを利用する観光客が占め、そこで暮らす住民が追いやられるという、ある種の観光公害が起こっていることがわかった。

(トークセッション中、熱心にメモを取る参加者も)

「都市や街は誰のもので、誰が幸せになるためのものなのか」という議論は、車の通行量を間引く交通政策「Super Block」に至り、車両用の道路が61%減、街のグリーンエリアが270%増という結果が出た。こうした事例は、モビリティの概念がデジタルテクノロジーによって大きく変わる中で、そのテクノロジーを移動の効率化のみに留まらせるべきではない、という視点を超高齢社会や少子化が進む課題先進国の日本にもたらしてくれている。

「すべてがデジタル化していくなかで、人の可能性をひらく都市/街とは何か。人間が最適化された『ユーザー』になるのではなく、そこに人の創造性が関わる余白をつくれるか、それぞれの人間の独自性をひらけるか、というのを考えていくべきだと感じます。これだけ鉄道が発達し、正確な運行システムが前提にあるがゆえに、『出勤地獄』が発生した。さらに正確に、安全に、多くの本数を、という既存の前提をさらにつきつめていっても、誰も幸せになれない。その前提にとらわれない移動の仕組みを、ひとの自発的な創造性をもって転換していく、または選択肢を増やしていくことが必要なのではないでしょうか」(内田)

(ワークショップの様子。掲げられた3つのテーマやキーワードをもとに、新しいモビリティのあり方を考えていった)

この日行われたイベントでは、トークセッションの登壇者の発言を切り口として、参加者が実際にアイデアを出すグループワークも行われ、活発に議論が交わされた。

イベントには様々な職種や年代の人が参加した。参加者のひとりである、都市系スタートアップ「Placy」を経営する鈴木綜真は「モビリティ領域では、ある位置から異なる位置に動く際の効率性にばかり焦点が当てられることが多いです。しかしNewHere Projectは、その『移動』にいかに意味を持たせるかを議論することのできた有益な場でした。一見非合理に思われる移動パターンにも、もしかしたらその人なりの意味が眠っているのではないか。それをエンハンス(強化)する仕組みをつくることは非常に意義があるのではないか、と鉄道会社、都市研究者、ゲーム開発者など多様なフィールドの方と話が盛り上がりました」とコメントしてくれた。

「NewHere Project」では、採択されたチームはプロジェクト期間中にメンターとなるゲストの3名からインプットとフィードバックを受けることができる。モビリティ変革コンソーシアムのサポートのもと、2020年の1月までの半年間にわたりモビリティ領域の新サービス創出を目指す。

デジタルテクノロジーが社会に浸透し、情報プラットフォーマーが実空間に大きな影響を与える時代。人の移動や豊かさを考える切り口として、モビリティは大きな可能性をもっている。日々の「移動」について抱く課題や不満を起点に、自身のアイデアを社会に実装できるチャンスでもある。

募集テーマは、従来の移動体験やモビリティサービスの常を覆すような「ワクワク」、便利を極めた先にある新たな価値としての「カイテキ」、安全であるべきものを、さらに「アンシン」にするという3つだ。これまでの「モビリティ」の発想の枠を越え、新たな価値を社会に実装せんとする方を募集している。応募の締切は7月11日で、最大5名のチームで応募が可能だ。詳細は下記のリンクをチェックしてほしい。

Text:Takuya Wada Edit:Kotaro Okada

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