「SFプロトタイピング」の可能性を紐解く
作家から学ぶ、アイデア創出のために欠かせない舞台設定とは
遥か昔から人間は、未来を見ようと様々な実験を繰り返してきました。それでも未だに、人間は未来を予言することはできません。
19世紀に誕生したとされるSF(サイエンス・フィクション)は、人間が想像力を爆発させる遊び場として、人々を空想の世界へと誘いました。映画「スター・ウォーズ」、アニメ「電脳コイル」など、数々の名作が誕生。私たちは近い将来に起こりうるかもしれない未来を想像し、心躍らせています。
もし、科学的事実に基づくSFを、新技術や新製品開発に使うことができたとしたら、未来はどのように変わるのでしょう。
2020年2月28日、ロフトワークは、FabCafe Kyotoにて「Future Design Scramble ー SFプロトタイピングで勝手に他社の未来を考えてみる」を開催。新しいアイデア創出手法として、SFプロトタイピングの可能性を探りました。
テキスト:北川 由依
バックキャスティングで未来から現在へストーリーを繋げる
イベントのファシリテーターを務めたのは、ロフトワークのプロデューサー小島和人。2013年にインテルの商品開発手法として発表されたSFプロトタイピングに、独自の解釈を加えながらアイデア創出手法としての可能性について語りました。
小島:SFプロトタイピングは2013年、インテルの商品開発の発想法として発表されました。社内にいるフューチャリストは、未来の人々がコンピューターなどをどのように使うのか予測し、10年後のコンピュータやガジェットのあるべき姿を考える仕事を担っていました。そして、未来予測をするために、未来における人間ドラマを描いたSFプロトタイプを活用していたのです。この時点でSFプロトタイプは、製品のアイデアを考える手法として活用されており、その後他社にも導入される中で、企業が進むべき方向性を見極めるための“シナリオ”として用いられるなど、現在ではその可能性が広がっています。
小島:私が考えるSFプロトタイピングは、新サービスや新商品を生むためのものだけではありません。未来を描き実現するためには、アイデアだけではなく人材育成や社内体制、継承システム、環境へのアプローチ、地域との関わりなど、企業活動に関する幅広いジャンルについて逆算し、準備していくべきなのです。目指す将来像から逆算し、10年後、5年後、1年後に実際に何をしていくのか、脚本を書くように行動指針を作る。そうすることで、社会に影響を与えうるストーリーを描けるようになるでしょう。
リアルな未来世界に向けて現在とのギャップを作ることが、イノベーションを生み出すことに繋がるのです。
SF Prototyping / LW Kojima ver.
1. 知見を集め未来を仮説する(舞台設定)
2. 未来に到達するまでの目標(脚本)
3. 目標に到達するための施策を考える(台本)
4. 今すべきことを逆算して行動する(ACTION)
ここからは、ゲストトークとワークショップを通じて、小島の提唱するアイデア発想法を紐解いていきます。
リアルな舞台であることが重要
注目されつつあるSFプロトタイピング。新しい取り組みを考える際に重要なのは、発想力以上に、考えるための舞台設定にあると小島は考えています。
例えば、舞台設定が現在の生活から遥かに飛んだファンタジーな世界だった場合、その世界でのアイデアもファンタジーなものになってしまい実現の可能性が低くなります。逆に現在と限りなく近い現実的すぎる世界では、どこかで見たような汎用的なものになり新しいものは生まれません。
そこで、本イベントではデザイン・フィクション・ライターの太田 知也氏、そして脚本家・演出家・放送作家・アクトコーチの徳田 博丸氏をお迎えし、リアルな未来の描き方のヒントを探りました。
小島:小島:太田さんはデザイン・フィクション(未来洞察の一環でデザインに関するフィクションやシナリオを作ること)の実践者、徳田さんは吉本新喜劇の脚本などを手がけられているボケとツッコミのプロです。リアルな未来設定を作る上で、お二人の知見は参考になることが多いと思います。
小島:僕は未来に対するアイデア創出を、ボケとツッコミに置き換えられないかと思って、最初に徳田さんに相談しました。しかし、徳田さんからは想定とは違った面白い反応が返ってきたんですよね。
徳田:実は、吉本新喜劇ではSF世界の設定はタブーなんですよ。やる時もあるのですが、ウケないんですよね。吉本新喜劇は、町のどこかの一角というリアルな舞台で、役者さんが変なことをするからウケるんです。SF世界のように鼻から真っ当な世界からズレたところでボケたとしても、笑ってはもらえません。
小島:なるほど。お笑いでも、いかにリアリティある舞台設定の上でギャップを生むかがポイントになるんですね。太田さんは、お笑いを見ますか?
太田:たまに、見ます。今日のテーマに関係するものとしては、中川家の漫才が面白いと思っています。彼らがするガソリンスタンド店員や母親のモノマネは、もちろん誇張はされていますが、私たちが普段見過ごしているかもしれない日々の細部に気づかせてくれるときがあります。モノマネを見た後は、人々の動きなどを日常の中で見過ごすことができなくなる気がします(笑)。
太田:未来のシナリオを作る時に重要だと思うのは、日常への視点です。例えば、近年は脱プラスチックの動きが広まりつつありますね。それが作られた当初は、飲み物をパックして届けられたら楽だと思って誕生したはずです。でもペットボトルが日常化した今の未来では、環境問題になっています。つまり、何かを変えた後に訪れる日常をどこまでリアルに描けるかは、未来洞察に欠かせません。
社会に影響を与えるリアルな未来の描き方
小島:SFは良くも悪くも社会に影響を与えてきました。数あるSF作品の中でも、社会に影響を与えるストーリーに共通する要素とは何でしょうか?
太田:やはり、未来の日常にどれほど意識的であるかが問われると思います。さらに展開して考えると、日常と非日常のギャップをうまく作ることが重要かな、と。例えば、SF映画の「レディ・プレイヤー1」はゲームに耽溺する人々を描いた物語なのですが、主人公らはボロボロのトレーラーハウスに住んでいるという設定なんですね。いわば「こんなひどい世界になっちゃったんだから、ゲームで現実逃避しないとやってられないよ」という具合です。一方には厳しい日常が、他方にはそこから逃れるためのゲームという非日常があり、両者のギャップから視聴者の共感を生んでいるんですね。
小島:日常との関連性があることは、欠かせないポイントのようですね。徳田さんは、普段どのような発想法で、ボケの文脈を作り出しているのでしょうか?
徳田:吉本新喜劇の舞台は、基本的にどこにでもある日常。だからボケを考える時は、クエスチョンが出ることを作ります。考え方としては、まず失礼なことから考えます。「ありがとう」と言うところを怒ったり。怒るところで、泣いてみたり。感情で動かすことが多いです。
徳田:ツッコミの人は常識人。つまりお客さんの目線を持つ人です。だから、台本を作る時も演出する時も、僕自身がどれだけお客さんの目線でいられるかを一番大切にしています。
小島:徳田さんのお笑いの話は、太田さんが話された日常と非日常の話や、専門とされているデザインフィクションに近いですね。ユーザー目線が大切であるというのも、共通するメソッドのようです。
太田:そうですね。非日常のほうへ逸脱するボケと日常に属する観客目線のツッコミと。共通してくる要素がありますね。
オリジナルワークでSFプロトタイピングを体験
ゲストトークを終えた後は、SFプロトタイピングのエッセンスを体験するワークショップに進みました。ファシリテーターは、ロフトワーク クリエイティブディレクターの伊藤 望が担当。テーマは、「SFプロトタイピングで勝手に他社の未来を考えてみる」。4〜5人のグループに分かれ、一人ひとりがSF作家になりきり社会課題から未来を想像しました。
ワークの狙いは、様々なスキルや関心を持つ多様な人の知見が混ざり合うことで、SF作家が持つ多角的な視点を体験すること。そのためワークには、「ブラック・スワン」の考えを入れ込みました。
ブラック・スワンとは、従来の知識や経験からは予測できない事象が発生し、それが人々に多大な影響を与えることを意味します。予測できない事象を発生させるため、ワークではチームメンバーが一コマずつストーリーを回し書きすることで、再現しました。
あっという間に2時間のワークショップは終了。SF的に未来に思考を飛ばしてみてから、逆戻りする有効性を体験する時間となりました。
SFプロトタイピングは、アイデア創出手法。しかし実際にワークショップを体験すると、単なるアイデア手法ではなく、包括的に企業活動に影響を与えるものだとわかりました。
実験し、実践につなげるワーキンググループ
ロフトワークでは、知見を高め共に学び実践する仲間が集まる、「SFプロトタイピングワーキンググループ」を主宰しています。SFプロトタイピングや未来のストーリー作り、課題解決に関心をお持ちの方は、お気軽にご連絡ください。
▼お問い合わせ先/Loftwork Kyoto
kyoto.marketing@loftwork.com