EVENT Report

今、日本企業が取り組むべき、DX戦略とは?
デジタル・フィジカル・ヒューマンを意識したDX実践の選択肢
景色を変えるDXーDXX Insight Vol.1 開催レポート [後編]

2021年1月21日、企業のDX推進支援を目的としたコンソーシアム「DXX」の発足後初となるオンラインイベント「DXX Insight」が開催されました。前編では、デジタルを手段として変化に柔軟かつ競争力のある事業モデルへと舵を切ることがDXの本質であること、及び、ロフトワークでの実践例を用いながら、DX推進において必要なアプローチにフォーカス。目的やゴール、変化のためのチームや業務プロセスの設定がDX実践への切り札になることを解説してきました。

後編はコミュニティを活用したDXのはじめ方の例として、FabCafeがベンチャー企業と進めたプロジェクト、ロフトワークと共にDXXを立ち上げたJNSホールディングス株式会社の藤岡淳一氏によるセッション、さらに藤岡氏と株式会社INDUSTRIAL-Xの八子氏、ロフトワークの諏訪の3名によるクロストークの様子をお届けします。

コミュニティと共創するスタイルで未来を描く

道玄坂上に2012年にオープンしたFabCafeは、カフェ機能を有し、デジタルによるものづくりの枠を越えて、新しいテクノロジーやトピックと出会える場所。東京からスタートし、今や世界12拠点に広がっています。Fabcafeがユニークなのは、その「コミュニティ」。各都市で開催するイベントはクリエイティブのハブになっています。

セッションでは、コミュニティを活用したDXのはじめ方の例として、FabCafeが海洋ベンチャー企業であるエバーブルテクノロジーズと進めたプロジェクト「A.D.A.M(Ai Design Autonomous Multihull、アダム)」を、FabCafe Tokyo CTOの金岡大輝が紹介しました。エバーブルテクノロジーズから提示されたお題は、「無人自動操船ヨットを創る」というもの。そこで、FabCafeに来店するアーティストやクリエイターと共に創るCommunity Driven Designを行いました。

具体的には、航空機のエンジニア、3Dのデザイナーなど、FabCafeに集まった様々なプロフェッショナルと、毎晩のように議論を繰り広げながら、コミュニティとしてデザインを起こしていくという作業です。最終的に洋上試験ができるような2Mクラスのヨットを3Dプリンターで製作。現在試験を実施中だと言います。

FabCafe Tokyo CTO 金岡 大輝

「DXというお題に対して、企業が社内のリソースだけで変革を推進するのは難しいでしょう」と金岡は語り、「そういうときにこそFabCafeをご利用いただけると、コミュニティを通じてイシューに合わせたワークグループをクイックに構築できます。これも変革の一つの進め方です」とアピール。FabCafeとの連携により、外部の知恵と技術、人の力を借りて共創というスタイルで未来を創るチャンスが広がります。

労働人口減少時代に、もはや避けては通れないDX

JNSホールディングス株式会社 代表取締役副社長 兼 JENESIS株式会社 代表取締役社長の藤岡淳一氏によるセッションでは、「DXのはじめかた」から「DXの実践」へと焦点を移し、事例紹介を交えながらそのポイントを整理していきました。

藤岡氏が駐在する中国の深圳では、顔認証レストランオーダーシステム、ロボット案内サイネージ、サンプル配布機など、街中で当たり前にDXを見かけることができると言います。

「日本は今後労働人口が激しく枯渇し、テクノロジーの活用による解決しか道はありません。人海戦術にも限界があります。これからは人の手を介さないというのがDXの重要な要件になり、労働者の作業をテクノロジーで置き換えていく必要があります」と藤岡氏。

そうなると、従来のモノづくりの固定概念を壊した、軽くて超速に製造できるサプライチェーンが必要になりますが、「DXを実践したい企業が、試作から量産、保守に至るまで工程別に取引先を探すとなると膨大な労力とコストがかかります」とも指摘。だからこそ、同社は深圳のサプライチェーンを活用して低価格で短納期、かつワンストップでの支援を提供しています。

藤岡氏は、DXを実践するにあたってのヒントを次のようにまとめました。

<まとめ>

  • 少子高齢化、労働人口減少の問題を抱える日本では、DXは避けては通れない必須事項になりつつある
  • 地球温暖化、CO2削減、SDGsなどの観点から、大量の発電をし、大量の電力を消費する時代ではない
  • コロナ禍でリモートワーク、非接触、遠隔コントロールの重要性が高まっている
  • 上記の課題はテクノロジーの社会実装により解決する方法しかない
  • ありとあらゆる個人と企業が今すぐに始めるために、目線を揃え、DXのクリニックとして寄り添ってくれる企業が求められる

丁寧にエクスペリエンスを作るか、やる気のない部門はおいていくか。「景色を変える」DXは、どこから進める?

全セッション終了後は、株式会社INDUSTRIAL-Xの八子氏とロフトワークの諏訪に、リモートからJNSホールディングス株式会社の藤岡氏が加わりパネルディスカッションを実施。モデレーターをロフトワークの岩沢エリが努め、「新規事業におけるデジタル上の課題とは?」「中小企業の課題感とは?」「景色を変えるDXとは?」の3つのテーマを中心に進行しました。

岩沢:デジタル化の推進においてはアナログが障壁になることもありますよね。日本ならではの難しさもありそうですが、いかがですか。

株式会社ロフトワーク マーケティング 岩沢エリ

八子氏:ユーザーや現場のことを考え、アナログやフィジカルな手段を多少残しながらも徐々に変えていく。あるいは、どんなにいいことがあるのかを先に見せてしまい、一気に変えてしまう。やり方はいろいろです。

諏訪:慣れ親しんできたものを変えなきゃいけないとなると、現場の抵抗感たるやすごいものがあります。現場の意見を吸い上げて1つのエクスペリエンスを創り上げていくのはロフトワークの得意分野ですが、それでも苦労することがあります。

藤岡氏:中国の深圳は極端な例ではありますが、WeChatやAlipayがないと電車にも乗れないし、レストランで注文もできません。IT弱者を切り捨ててしまっているわけです。これに対して、日本の企業やサービス、社会は、スタートが弱者を守るところから始まっているからドラスティックなサービスが生まれません。コロナ禍での気づきとして、やらなくてもいい選択肢があるなら、やらなければいいのでは?という考え方もできます。

岩沢:抵抗勢力に対してはどんな進め方がよいのでしょうか。

八子氏:提案の段階で経営陣とDX後のあるべき姿について合意を形成します。さらに、やる気のない部門はいったん置いておくことです。やる気のある人たちで率先して進めていかないと立ち上がらないからです。これって実は、DX推進のための社内マーケティング活動をしているだけのことなのです。

諏訪:ロフトワークの場合は、経営企画室からのご相談が大半を占めます。トップからではないので、ある程度丁寧にあるべき姿を作っていく作業が必要です。DX推進を支援する企業によってもそれぞれ得意分野が異なるので、大事なのはどこに相談するのが最も望ましいかを見極めることです。

八子氏:日本はまだまだ自前主義なところがありますが、餅は餅屋に任せて、信頼できる相手に相談したいですね。

岩沢:どこから始めるべきか、優先順位がつけにくいときは?

八子氏:現場が一番困っているところを探すこと。組織の境目、手段の境目、お客様と自社との境目に課題が存在しています。これらの課題を早い段階で解消しながら、小さな成功体験を積んでいくとよいと思います。

藤岡氏:たとえば、24時間稼働の町工場があって、夜中に問題がないことを確認するのに誰かが見に行っているとします。これをDXしようというときに、全部変えようとするからお金もかかるし時間もかかるのです。CRTモニターのOKかNGかという表示を確認して、NGのみRaspberry Piなどを活用し、エッジAIカメラから通知が来るようにすれば5000円で出来てしまいます。これも立派なDXですよね。

岩沢:DXを推進する組織の作り方という点ではどうですか?

八子氏:違う視点で見てくれる社外の人と作っていくことで、独りよがりにならずに、大きな視点で創り上げていくことができます。

藤岡氏:60点くらいの中途半端な合格点を目指すくらいなら、気持ちよく失敗させてあげて全力で失敗をほめてあげられる上司がいることが重要かもしれません。

岩沢:最後に八子さん、総括をお願いします。

八子氏:デジタルなものとフィジカルなものとヒューマンなもの。これらは三つ巴のようになっていて、バランスがなかなか難しいものです。DXと言いながら、我々はフィジカルなトランスフォーメーションやデバイスを以てしてもっともっと便利に、ヒューマンなものを以てしてデジタルをもっともっと使いやすいものにしていく。その真ん中にあるのがエクスペリエンスなのではないでしょうか。

記念すべきDX推進コンソーシアム発足第1回オンラインイベントは、八子氏の総括で終了。

すでにDXに着手している企業もそうでない企業も、デジタルを活用して、よりわくわくする体験や心地よい体験を増やし、「景色を変える」ことができるでしょうか? DXが生み出す価値は企業活動や社会、人々の暮らしにどのような景色をもたらすのでしょうか?

“ユーザー体験(UX)”と”DX戦略”をテーマに学びを深めるイベントシリーズ「DXX Insight」では、今後も定期的なイベント開催を通じてオープンな議論を行い、DX実現に向けた考察・検証を進めていきます。第2回以降はもう少し踏み込んだテーマを設定し、企業のDX推進をドライブするたくさんのヒントをお届けしていく予定です。どうぞお楽しみに。

レポート前篇

今、日本企業が取り組むべき、DX戦略とは?DXの本質と実現へのアプローチ

DXの本質、そして、絵に描いた餅で終わらせないDXのはじめかたについて解説

イベント開催概要

“ユーザー体験(UX)”と”DX戦略”をテーマに学びを深めるイベントシリーズ

株式会社ロフトワークとDXソリューションやX-Techサービスを手がけるJNSホールディングス株式会社は”ユーザー体験(UX)”と”DX戦略”をテーマに、様々な企業・自治体・人とオープンな議論を行うコンソーシアム「DXX(ディーエックス)」を発足しました。本イベントは、DXXが企画する学びの場としてのイベントシリーズ「DXX Insight」の第一弾です。

第一回目イベントでは、基調講演に株式会社INDUSTRIAL-X代表取締役八子知礼氏をお招きし、DX推進プラットフォーマーとして様々な企業との協業から見えたDXの最新事例についてお話しいただきます。最先端のDXが実装された深センで事業を手がけられるJNSホールディングス株式会社 代表取締役副社長 兼 JENESIS株式会社 代表取締役社長 藤岡淳一氏より、日本企業におけるDXの一歩を踏み出すための、リテラシーに左右されない“クライアントに寄り添うDX”の実現について。ロフトワーク株式会社 執行役員 棚橋弘季より、ユーザー体験価値ののデザインについてお話します。
パネルディスカッションでは、各登壇者と共に参加者のご質問も交えながらDXの実践について議論を深めます。

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