サーキュラー・エコノミーの実践者とともに語りあう日本の未来
事業や組織、地域、人が成長する“生態系”をつくることを目指すロフトワークでは、2020年7月からSMBCグループとともに“GREEN×GLOBE Partners(GGP)”という取り組みを開始しています。『環境・社会課題解決の「意識」と「機会」を流通させる』ことを目的に、同じ志を持った仲間たちが集うコミュニティでは、これまでにいくつものイベントを実施してきました。
そのひとつが2021年3月17日に開催したSMBCグループ・ロフトワーク共催イベント「サーキュラー・エコノミーの実践者たち――サーキュラー・エコノミー先進都市アムステルダムの事例と小田急電鉄の取組」です。サステナビリティの観点から、昨今、日本でも少しずつ注目を集めるようになってきたサーキュラー・エコノミー。資源を廃棄することなく循環し続ける社会を目指し、各所でさまざまな取り組みが始まっています。サーキュラー・エコノミーによって新たな社会関係資本の循環を生み出していくために、私たちにできることは何なのでしょうか。
サーキュラー・エコノミーの実現に向けて動き出している2名のゲストをお招きし、議論を深めました。
オランダと日本の事例で見るサーキュラー・エコノミー最前線
まずはサーキュラー・エコノミーの実践者であるCircular Initiatives&Partnersの安居昭博さんと小田急電鉄の正木弾さんのゲストお二人が、オランダと日本の取り組みをそれぞれ紹介していきます。
オランダ:「MUD JEANS」「FAIRPHONE」
サーキュラー・エコノミーの先進国であるオランダに居住経験を持つ安居さんは、「MUD JEANS」と「FAIRPHONE」という2つの事例を紹介してくれました。
「MUD JEANS」は月額制でジーンズをレンタルするサービス。使用済みのジーンズは回収され、再繊維化された後、新しいジーンズの製造に活用されます。資源の使用量を抑えながらも、経済成長と環境負荷の低減を両立させているサーキュラー・エコノミーの好例として、高く評価されていると言います。
「(サーキュラー・エコノミーというと)日本では先にプロダクトや素材に目が行きがちですが、オランダでは先に『使用済みのプロダクトをいかに利用者から返却してもらうか』という廃棄を出さない仕組み作りを考え、それに合わせてプロダクトを開発していきます。『MUD JEANS』のようなサブスクリプション以外にもキャッシュバック、デポジットも企業へ使用済み品の返却を促す手法として採用されています。
加えて、リサイクル素材は需要拡大と技術革新により年々コストが抑えられてきており、新しい原材料を調達こととコスト的にほぼ変わらない素材も出てきています。特にコロナ禍においてアジアやアフリカからの安定的な素材の供給が見込めなくなっている今、自分たちの社会の中で、廃棄されるものを活用する仕組みづくりをしておくことがリスクヘッジにつながるという考え方が広まっています」(安居さん)
もうひとつの「FAIRPHONE」は、誰でも簡単に分解して修理やカスタマイズができるように設計されたスマートフォンです。「FAIRPHONE」では最新のカメラ機能を手に入れるために、スマートフォン本体を買い換える必要はなく、約5,000円のカメラのモジュールだけを購入して自分で交換すればOK。すべてのパーツやモジュールは企業に返却するとキャッシュバックが得られるため、企業は利用者から資源を回収し再生産に活用することができるのです。
2020年3月に発表された「欧州新サーキュラー・エコノミー・アクションプラン」では、消費者の権利として“修理をする権利”が提唱され、将来的にはメンテナンスやリペアを前提とした修理のしやすい設計の商品でなければ、EUの市場に供給できなくなる旨が勧告されました。
いま私たちが使用している家電製品の多くは、修理のためにメーカーに依頼してもそもそも修理がしやすい設計になっていないため高額な修理費が発生し、新しく買い替えざるを得ない仕組みになっています。しかし“修理する権利”が守られることで、企業と私たちとの関係性も一方的から双方的なものへと変わってくるのではないでしょうか。
日本:小田急電鉄・ごみ収集運搬のDX化
続いて、日本の事例として正木さんより小田急電鉄の取り組みの紹介です。全長120.5kmの小田急沿線には約520万人の人が住んでいます。東京から神奈川にかけて、都市や住宅街だけでなく山・川・海といった自然資源に囲まれている小田急沿線では、ビルの老朽化・高齢化・獣害・オーバーツーリズムなど、日本の社会課題が凝縮されていると言います。
2018年に複々線化という大プロジェクトが完了し、次の100年に向けて小田急グループが何をすべきかと考えたとき、循環型社会の実現に向けた身近な課題として“ごみ”問題と向き合うことに。昨今、日本では人材不足によってごみ収集業に就く人が非常に減っているようで、自治体が委託しているごみ収集に対応できず断らざるをえない事業者が出てきたり、ごみの収集コストが高騰するという問題が発生したりしていることがわかりました。
小田急グループが生業としてきた鉄道や不動産と同様に、ごみの収集運搬も街を支える大事なインフラ事業。インフラ屋として培った強みを発揮すべく、アメリカのルビコン・グローバル社と業務提携を行い、ごみの収集運搬のDX化を実現するプロダクトの開発に着手したのです。
この自治体向けの廃棄物の収集サポートシステムは、これまで紙の上で行われてきたごみの収集業務をデジタル化するもので、2020年8月から実証実験も始まっています。現時点ではごみ収集車の積載量が2割ほどアップし、ごみ収集車の稼働台数の削減にもつながっていると言い、ここで生まれた余力を使って環境にまつわる別の取り組みも始めているそうです。
「“ごみ”とは、そもそも人間が勝手につくった概念です。自然に戻せば“ごみ”なんて存在しない。“ごみ”という言葉自体がなくなる世界を目指すのがサーキュラー・エコノミーだと思います。そうなれば、ごみ収集の仕事は、街中の資源を回収する、非常にスマートで魅力的な仕事へと変わるはず。そんな未来を創っていきたい」(正木さん)
環境に対する意識の低い日本ではサーキュラー・エコノミーはうまくいかない?!
何か新しいものをつくり出すときに、「廃棄が出ない=ごみがでない」仕組みづくりを行うのがサーキュラー・エコノミーの本質です。だとすれば、ヨーロッパでサーキュラー・エコノミーの取り組みが進んでいるのは、“環境に対する意識の高い人たち”がそもそもたくさんいるからなのでしょうか?
この疑問に対し、安居さんはNOと言います。「サーキュラー・エコノミーがビジネスとしてうまくいっている企業に共通しているのは、これまでの大量生産・大量消費型では得られなかった、まったく新しいメリットや楽しみ方、お得感をうまく伝えられている点です。エコ意識にだけ訴えかけるのではなく、一般の人たちにも純粋に魅力的に思ってもらえる商品・サービスの開発を行う。ヨーロッパでもいわゆる“意識高い系”の人たちは少数派であり、その人たちだけにアピールしてもビジネスとして成立しないのは、日本と同じです」(安居さん)
生活者が環境のために我慢したり不便を強いられたりするのではなく、自然な営みの中で新しい楽しみや充足感が得られるような仕組みをつくることが企業には求められているのですね。
資源の少ない日本が見習うべきオランダの知的財産型ビジネス
2012年に初期モデルの販売が始まった「FAIRPHONE」は、これまでに13万台以上が売れて、ずっと品切れの状態が続いているのだそう。これを聞くと「なぜすぐに100万台、1000万台と増産しないのか?」と疑問に思うのではないでしょうか。
その答えは、「オランダ企業に共通して見られる特徴としては、モノを売ることだけではなく、その過程で得られた知的財産でビジネスをすることが挙げられる」。オランダ企業のビジネスには2段階あり、まずは「社会にどれほどのインパクトがあるか」を示す第1段階が終わったのちに、第1段階で得た知見やノウハウを提供する知的財産型ビジネスをしていく第2段階に入ると言います。
オランダは歴史的に、ドイツ・スペイン・フランス・イギリスといった大国に囲まれていたことから、大量の人員や資源を使って大量生産・大量消費を行う大国のビジネスモデルをなぞっていたのでは、絶対に勝てなかった国。そこで世界の進む方向を先読みし、先進的なモデルを築き、そこで得られた知見やノウハウをもって知的財産型のビジネスを行なってきたのでした。
安居さんによると、アムステルダムでサーキュラー・エコノミー分野で注目の高い企業にはアメリカ・インド・中国・韓国などから、多い日では一日10社視察に訪れることもあるそう。オランダ企業にとって視察の受け入れはビジネスですから、5万円〜50万円のフィーが発生し、それだけででまとまった売り上げにつながるビジネスになっていることがわかります。
これは人口減少が進む日本にとっても参考にできるビジネスモデルです。「サーキュラー・エコノミーで先進的なモデルをつくり出し、その知的財産をもとに海外諸国に向けたビジネスを行なっていくという発想は、これからの日本にとって重要なものになると個人的に考えています」(安居さん)
サーキュラー・エコノミーでデザインする私たちの未来
今回の話を受け、「サーキュラー・エコノミーは、環境的な側面だけでなく経済合理性から見ても利点があるとは言いつつも、炭素税の議論が活発になるなど規制を強めてきている欧州の動きを鑑みると、否応なしに対処せざるを得ない状況が差し迫っていると思う」と語るSMBCグループ・GGP運営事務局の木村さん。
これに対し正木さんも「サーキュラー・エコノミーに取り組まないと選ばれない時代が近づいているように感じる」と率直な危機感を述べました。
「サーキュラー・エコノミーに適応した社会の中では、ごみがごみでなくなるように、きっと生活者は無意識のうちに、既存の概念が書き換えられていくのだと思う。この仕組みをいかにデザインできるか。昔は当たり前のように我々が持っていた“修理する権利”を取り戻すように、昔あった利点を未来の社会に組み込むための方法のひとつがサーキュラー・エコノミーなのだろうと気がつきました」とロフトワーク・GGP担当メンバーの棚橋は語り、イベントを締めくくりました。
これからもロフトワークは“GREEN×GLOBE Partners(GGP)”をはじめとする、さまざまな事業者のみなさまとともに、環境・社会課題に取り組むコミュニティの支援活動に取り組んで参ります。