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コミュニティを取り戻そう
ー“サステナビリティ×コミュニティ”シリーズVol. 1

ロフトワークは、2020年7月からSMBCグループ主催の“GREEN×GLOBE Partners(GGP)”というコミュニティの運営をパートナーとして支援しています。『環境・社会課題解決の「意識」と「機会」を流通させる』ことを目的に、同じ志を持った仲間たちが集うこのコミュニティでは、これまでに世の中の環境・社会課題を問うイベントを実施してきました。

これまでGGPとして活動する中で、「人類がいま直面している環境・社会課題は、“コミュニティがないこと”によって生じているのではないか」という仮説が見えてきました。この仮説を検証すべく始まった新たな試み“サステナビリティ×コミュニティ”シリーズの第1弾として実施した今回のイベント。2021年6月4日に開催したSMBCグループ・ロフトワーク共催イベント「“サステナビリティ×コミュニティ”シリーズ —Vol. 1コミュニティを問いなおす」です。

シリーズ第1回には、『コミュニティを問いなおす』『人口減少社会のデザイン』の著者であり、現代社会におけるコミュニティのあり方について研究をしている京都大学こころの未来研究センター教授の広井良典先生をゲストに迎え、コミュニティの歴史を紐解きながら、これからのサステナビリティとコミュニティの関係性を探りました。

京都大学 こころの未来研究センター教授 広井 良典先生

なぜコミュニティが求められている?

今回のイベントのテーマである「コミュニティ」。皆が知っている言葉でありながら、それがどんなものなのか定義しにくい存在です。広井先生は、著書『コミュニティを問いなおす』において、「コミュニティ=人間が、それに対して何かしらの帰属意識をもち、かつその構成メンバーの間に一定の連帯ないし相互扶助(支え合い)の意識が働いているような集団」と暫定的に定義されていますが、イベントの冒頭では、コミュニティとは何なのか?コミュニティがなぜ求められているのか、という問いを歴史を紐解きながら広井先生にご紹介いただきました。

「狩猟・採集が人間の生活の中心だった頃は、コミュニティをつくって団結しなければ、食糧を確保することもままならないし、いつ他の動物から襲われるかもわかりません。つまり人間は“生存確保のため”にコミュニティをつくってきました。人間は元来コミュニティ的な生き物であり、コミュニティなしでは生きていけないもの。人と人とのコミュニケーションによって”コミュニティ”を発展させることで、人間は社会を進化させてきました」(広井先生)

コミュニティの結束力が強かった狩猟・採集社会、農耕社会を経て、近代社会はコミュニティではなく、市場経済・「個人」が中心の社会へと変革を遂げてきたと広井先生は語ります。
「近代社会というのは「公(パブリック)」と「私(プライベート)」の二元論だった。企業はとにかく自社の利潤(私利)の最大化を追求する。そこから生じる格差や環境などの公的な問題は、政府が解決するとはっきり切り分けられてきた。
そのやり方は、高度経済成長の時代にはそれなりにうまくいった面もあったが、それを続けているうちに、格差は広がっていくし、環境の問題は解決しない、ということで、公と私ではないもう一つの領域に視線が向くようになってきた。それがまさに「共」であるコミュニティなんだと思います。」(広井先生)

これから目指すべきは成長よりもサステナビリティ

日本社会でコミュニティの価値が見直されるようになった背景には、少子・高齢化という日本の人口構造の大きな変化も影響しているといいます。

(図表1)日本の総人口の長期的トレンド

日本の総人口の推移では、鎖国が明けて明治に入った頃から急激に人口拡大が続きましたが、2008年をピークに急下降していく様が見て取れます。2011年以降は、完全な人口減少トレンドに入り、さらに減少し続ける見込みです。

経済成長の鈍化や人口減少は日本社会にとってたくさんの課題を生み出しています。しかし、人と人とのつながりを再考する上では、逆に「チャンスだと捉えている」と広井先生は語ります。
「経済や人口が拡大し続けていた時代は、かなり無理をしていたと思う。山登りにたとえると、山頂というゴールを目指して、ただひたすら一直線に(多様性や人生の選択肢は無視して)拡大・成長のために進んできたけれど、山頂に到達したいま、視界がいわば180度開けてくるので、広く世界を見渡しながら個人が自由に自分の道を選んで行ったり、いろんな繋がりをつくっていく時代になったと言えるのではないでしょうか」。(広井先生)

そして、こうした現象は日本に限らず、世界共通で起きていることだと言います。
「近代社会というのは、工業化・テクノロジーの進化によって生活が豊かになり、人口も拡大してきた反面エネルギーの消費量も一気に増えた。何億年もかけてできた化石燃料を私たちは今たった200〜300年で使い果たそうとしています。人口拡大にブレーキがかかったのと同様に、エネルギー消費にも限界が来ているのです。こうした現状の中で、人口や経済が拡大を続けた時代の発想・成功体験ではもう立ち行かない。だからこそこれからは「成長」よりも「サステナブル」。企業がとにかく利潤を極大化して、問題が生じたら事後的に政府が是正すればいいというこれまでの発想ではなくて、相互扶助や支え合いのようなコミュニティ的な原理を、企業の行動の中にも入れていくことが大切です。」(広井先生)

日本は「都市型のコミュニティ」をつくることができるのか

では、私たちはどのようなコミュニティを形作って行くべきなのでしょうか。
広井先生はコミュニティのタイプとして、人と人との関係性のあり方を象徴的に示した「農村型コミュニティ」と「都市型コミュニティ」に分類できるといいます。

(表1)コミュニティの形成原理の二つのタイプ

「農村型コミュニティ」とは、同心円を広げてつながる、共同体的な一体意識と情緒的な繋がりによって関係性が形づくられています。ですから、場の空気や周囲との同質性を重視するのが特徴です。一方、「都市型コミュニティ」は独立した個人が個人としてつながる、公共意識を大切にした、言語によるコミュニケーションに重きが置かれ、一定の異質性(ダイバーシティ)を前提としているのが特徴です。
日本社会では圧倒的に農村型コミュニティが強いことは、言うまでもありません。広井先生はそんな農村型コミュニティで形成された行動様式や関係のあり方が、現代社会で人々の孤立や拘束感・不安を強め、さまざまな“生きづらさ”をもたらす源となっている、と指摘します。

「いまは“個人が独立しつつ、つながる”という、真の意味での『都市的な関係性』をつくっていくことが求められています。そもそも人々の関係のあり方や行動様式は決して固定的なものではありません。自然環境や生産構造、社会構造等の変化の中で、それに適応しつつ進化していくものです。今日こうしてコミュニティのあり方を考えるイベントが開催されているように、現在の日本社会では、さまざまなところで新しいコミュニティづくりに向けた動きが生まれている。私より上の団塊世代に比べると、若い世代の方には柔軟性が出てきているようにも見えますし、まさにコミュニティは進化の過程にあると言えるでしょう」(広井先生)

この指摘に対し、ロフトワークの棚橋とSMBCグループ・GGP運営事務局の木村智行さんは、企業というコミュニティのあり方を例に、以下のように考察します。
「例えば今、企業ではオープンイノベーションが必要であると言われていますが、必要だとわかりながら二の足を踏んでしまう企業が多い。それは、同じ「会社」という閉じたコミュニティのうちに篭ってしまって、一社の中だけで解決しようとしてしまっているからなのだと感じました。本当にやらなければならないのは他の会社と協働することだし、場合によっては国とか自治体、市民と協働していくべきなんだけど、なかなかそれができない。それは企業だけじゃなく、国も同じ。日本人ができない、苦手とするところなのかなと。
GGPでは1社だけで解決できない社会・環境課題を、コミュニティの中で解決していきますと謳っているけれど、むしろこれからは、1社でできないこと、1コミュニティではできないことを積極的にやっていくことが必要なのかもしれません」(棚橋)

「環境・社会課題の解決は多くの企業にとって既存の事業範囲を超えています。1つの企業だけで取り組もうとしても、人材の同質性が事業範囲の捉え直しを阻みます。今の企業は固定された目標に対して最適化されている一方で、今のように事業環境が大きく変わる時、やはり多様な人材が必要です。多くの企業にとって人材の多様性確保は難しいからこそ、オープンイノベーションが必要だと思います。」(木村さん)

サステナブルなコミュニティを支える街づくり

ここまでは、人と人の関係性という“ソフト”に着目して話を進めてきましたが、コミュニティを考える上では、“ハード=空間、場所”についても欠かすことができません。広井先生はコミュニティ空間のあり方として「ヨーロッパの北のほうがいいと思っている」と話し、ドイツのエアランゲンという人口10万人ほどの地方都市の事例をご紹介いただきました。

(写真1)中心部からの自転車排除と「歩いて楽しめる街」(ドイツ エアランゲン)

「ドイツの地方都市では、中心部から自動車をシャットアウトして、歩行者だけの空間を作っています。車をシャットアウトすることで、ベビーカーを押す人や車椅子に乗った人が、街中で快適に過ごしている。何より、人口が約10万人しかいないのに、街が賑わっていますよね。日本だと20万人以下の地方都市は、ほぼ間違いなくシャッター街になっていますよ。いまの日本のような、自動車中心の街づくりになっていたり、職場と自宅が離れすぎていたりすると、自分自身が「地域」というコミュニティに属している感覚が薄らいでしまう。見知らぬ人同士のコミュニケーションもほとんど見られませんよね。」(広井先生)

それ対し、棚橋は、次のように所感を述べます。
「ハードというのは、生きるために必要な機能を外部化したものと言えるわけですから、日本のように高度経済成長期に合わせてつくられた街のままでは、現在のコミュニティのあり方にフィットしなくなってきているということですよね。これからのコミュニティにとって居心地のいい空間をリデザインしていく必要がある気がしています」。

これに続き、SMBCグループ・GGP運営事務局の木村智行さんは、「仮に東京に1-2時間くらいかけて通勤して、地域には寝に帰るだけという生活をしていると、地域のコミュニティに対する帰属意識が薄れるというのは当然だと思います。ただ昨今はテレワークによって、以前よりは長く地域にいられるようになってきた。そうすると、また少し違った感覚が芽生えてくるのかもしれません。」と語りました。

2016年に京都大学に設置された日立未来課題探索共同研究部門(日立京大ラボ)と広井先生が行った、AI(人工知能)を活用した「2050年に向けた日本社会の持続可能性」に関するシミュレーションによると、「人口、地域の持続可能性や格差、健康、幸福といった点において、『地方分散型』のほうが望ましい」という結果が出た、と言います。
「この研究では、日本社会にとって重要と思われる約150の社会的要因からなる因果連関モデルを作成し、AIを使って2050年に向けて日本が持続可能であるために2万通りのシミュレーションを行いました。もちろん単純な『分散』ではなく、『集中』のメリットも取り入れた『都市・地方共存型』と呼べるような社会のあり方が理想だと思います。また、学生など最近の若い世代を見ていると、ローカルとか地域といったテーマに関心を向ける層が増えていると感じています。」(広井先生)

最後に「これから私たち人間がサステナブルに生きていくには、エネルギーなど、いろいろな資源を地域のコミュニティの中で地産地消しながら循環させられる仕組みを整えていく必要があると思います。人財も含め、地域のさまざまな“財”が、すべて都市に流出してしまうのは、どう考えてもサステナブルではない。“財”を地域に定着させる方法を模索することも、これからのコミュニティを考えていく上で、大切な要素なのではないでしょうか」と棚橋が語り、イベントを締めくくりました。

コミュニティが現代社会の環境・社会課題の解決の糸口になるのでは?という仮説をイベントを通じて広井先生と紐解く中で、理想のコミュニティのあり方、コミュニティの存在意義がより浮き彫りになってきました。ロフトワークは“GREEN×GLOBE Partners(GGP)”の活動を通じて、さまざまな事業者のみなさまとともに、環境・社会課題をコミュニティ の力で解決することを目指して活動を続けていきます。

Speaker

広井 良典

広井 良典

京都大学
人と社会の未来研究院 教授

木村 智行

木村 智行

三井住友フィナンシャルグループ
企画部 サステナビリティ推進室 室長代理

棚橋 弘季

株式会社ロフトワーク
執行役員 兼 イノベーションメーカー

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