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寄付の価値って、なんだっけ?
—寄付のデザインでサステナブルな社会を目指す

事業や組織、地域、人が成長する“生態系”をつくることを目指すロフトワークでは、2020年7月からSMBCグループとともに“GREEN×GLOBE Partners(GGP)”という取り組みを開始しています。『環境・社会課題解決の「意識」と「機会」を流通させる』ことを目的に、同じ志を持った仲間たちが集うコミュニティとして、これまでにいくつものイベントを実施してきました。

そのひとつが2021年6月30日に開催したSMBCグループ・ロフトワーク共催イベント「寄付のデザイン−寄付から生まれるサステナブルな社会とは?」です。

寄付は、ふるさと納税やクラウドファンディングによって、日本でも少しずつ普及し始めましたが、それでも日本における寄付の市場規模はアメリカのわずか40分の1程度。まだまだ文化として根付くまでには至っていないと言われています。

しかし、寄付の価値は、金額の大きさがすべてなのでしょうか?

本来、寄付の価値は金額の大きさばかりではなく、社会課題を一緒に解決したいという想いのはず。そうした課題意識から、「寄付」に取り組む有識者をゲストに招き、寄付がもっと私たちにとって身近なものとなるには、どうすれば良いのか、寄付からはじまるサステナブルな社会のつくり方について考えました。

株式会社ロフトワーク 執行役員 兼 イノベーションメーカー 棚橋 弘季/株式会社SOLIO 代表取締役 今井 紀明さん/一般社団法人more trees 事務局長 水谷 伸吉さん/三井住友フィナンシャルグループ 企画部 サステナビリティ推進室 室長代理 木村 智行さん

寄付の使われ方を知る

まずは新たな寄付のかたちに挑戦している株式会社SOLIO 代表取締役 今井紀明さんと、一般社団法人more trees 事務局長 水谷伸吉さんの取り組みを紹介していきます。

「寄付の始め方がわからない」を解決する「solio」

「国際協力」や「出産・子育て支援」など、全12種類の社会課題の中から、気になるジャンルを選んで、自分だけの寄付のポートフォリオをつくれる「solio」。スマホアプリを使って、毎月の寄付額とジャンルごとの割合を設定するだけで、簡単に寄付を始められるこのサービスは、10年にわたって認定NPO法人 D×P(ディーピー)を運営されてきた今井さんが、昨年新たに立ち上げたものです。

これまでD×Pでは、「10代の孤立を解決する」というテーマで、不登校や中退、貧困などで悩みを抱える5,000人以上の若者を、LINE相談「ユキサキチャット」を通じて支援してきたといいます。

「コロナ禍に入る前は、進学・就職相談をしてきましたが、最近は『アルバイトが無くなって、親もいないので頼ることもできず、所持金が5,000円しかない』というような相談が大量に入り始めたので、食糧支援や現金給付に切り替えました。政府による定額給付制度は世帯支援だったので、子どもたちに届いていない。D×Pの資金源は、会員約2000人から集めた月額1,000円〜2,000円の寄付。僕らは寄付で運営しているからこそ、国や民間企業では手の届かない、きめ細やかな対応ができています」(今井さん)

そんな今井さんがsolioを始めたきっかけのひとつは、他のNPO法人からの今井さんのところは寄付が集まっていいけれど、私のところは寄付を集めるのが難しいという多くの声を聞いたから。日本全国に約5万団体あるNPO法人ですが、支援に集中しているため広報には手が回っていないのだといいます。そして、solioを始めたもうひとつのきっかけは、今井さんのTwitterのフォロワー約1.8万人のうち、50%ほどしか寄付の経験がないことを知ったから。NPO法人の代表である今井さんのフォロワーでさえ、どのNPO法人に寄付していいのかわからないという理由で、寄付をしたことがない人が半数もいたのです。それなら個別の寄付先は設定されてあり、ジャンルを選ぶだけで寄付できるサービスを始めたらおもしろいのでは、とsolioの立ち上げに至ったのでした。

「solioはまだ法人からの寄付を合わせても総額300万円ほどの小さな規模ですが、寄付を集められずに困っているNPO法人を支援することで、間接的に国や民間企業ができないような社会課題の解決を支えられるところに意義があると考えています」(今井さん)

(図1):solio サービスイメージ:自分の寄付したジャンルが寄付額に応じたソーシャル・ポートフォリオとして可視化される。

森林破壊の問題解決に挑む「more trees」

「世界では1秒間にテニスコート15面分の森林が失われている」という衝撃的な事実をご存知でしょうか。インドネシアや南米のアマゾン、カリフォルニア、オーストラリアなどの熱帯雨林を中心に、深刻な森林破壊が進んでいます。この遠い国で起きている森林破壊という問題は、つい私たちには関係だと考えてしまいがち。けれども、森林破壊の一因は、私たちが日常的に使用しているシャンプーや洗剤、化粧品や食品などに含まれている「パームオイル」という植物油脂を採るためなのです。

「パームのプランテーションにする以外にも、牛肉や天然ゴムなど、我々の生活を支える商材を採取するために森林破壊が進んでいるという現状を、ぜひ知ってもらいたい」(水谷さん)

次に、日本の森の現状について。戦後、国策としてスギやヒノキを中心とした植林を大々的に行ったことにより、日本の森の面積はこの100年で増えていますが、日本の木材自給率は、わずか30%台ほど。残りの60%以上は海外からの輸入に頼っています。その理由は、林業が儲からない産業になってしまっているからだそう。

「林業の担い手が減り、手入れをされずに、放置されている森がたくさんあります」(水谷さん)

これらの森林にまつわる社会課題を解決するため、「都市と森を繋ぐ」をテーマに、国内16ヶ所、海外はフィリピンとインドネシアの2ヶ所で植林活動や森林の手入れを展開している「more trees(モア・トゥリーズ)」。他にも森のリソースを活用したオリジナルプロダクトの制作や、企業ノベルティの制作、オフィスや店舗などの空間プロデュースも手がけています。こうした取り組みの資金源の7〜8割は企業寄付によるものだと言います。

「森を育てるには、非常に長い時間がかかります。木材として販売するにしても、投資額を回収するまでに半世紀以上の時間を要することから、投資対象として敬遠されがちです。森林の価値は、木材として利用する以外にも、CO2を吸収してくれたり、土砂災害を防止してくれたり、といろいろありますが、なかなか経済的には評価されず、資本主義から外れた領域。そんな公共領域だからこそ、寄付との親和性が高いのだと考えています」(水谷さん)

(図2)SDGsウェディングケーキモデル:SDGsで取り上げられている17の目標を3層構造に分解したモデル。森林や海、気候といった自然資本に支えられて社会インフラがあることで、初めて経済活動が成り立っていることがわかる。(Credit: Azote Images for Stockholm Resilience Centre)

寄付に対するハードルを自分で勝手に上げていないか?

社会課題に取り組む団体に寄付をすることで、国や企業の手の届かず、経済的にも評価されにくい領域の社会課題を支援できることがよくわかりました。

ここからはクロストーク形式で、「理想の寄付のあり方」について議論を深めていきます。

例えば、私たち寄付する側にとっては、一つの団体だけに寄付することを不公平に感じてしまったり、少額を寄付することに意味があるのか不安に思ったりと、寄付に至るまでのハードルがあるのも事実。そこでおふたりに「1人から100万円を寄付してもらう」のと、「1万人から100円ずつ寄付してもらう」のとでは、どちらが良いのか聞いてみました。

これに対し、今井さんは「大きな金額の寄付を否定するわけではないし、一概にどちらが良いとは言えないが、個人的には1万人から100円ずつ寄付してもらうのが、ものすごく強いことだと思う」と回答。しかもその100円が継続的に寄付されることにこそ、大きな意味があるのだと言います。

「支援に持続性があるということは、事業として計画性を持てるし、リスク分散できるから。コーヒーを買うくらい日常的な行為として、寄付を身近なものにしていけたらと思っています」(今井さん)

それに対し、水谷さんも「more treesの活動を始めた当初は効率性の面から『1人から100万円』を重視していましたが、寄付してくれる母数が少ないと、クラウドファンディングのような何かの呼びかけをしたときに、大きな力にならない。だから今は、寄付したらおしまいではなく、僕らの活動に共感して、その後も伴走していただけるような“仲間づくり”を強く意識している」と語ります。

「NPO団体に寄付をするのは、企業の株を買うのと同じだ」と指摘します。「株を買ったら、その企業の業績や株価の値動きを気にするはず。同じように、寄付先の団体がどういう活動をしているのか、継続的に見てもらいたい」(水谷さん) 

すべての企業に投資することが非現実的であるように、自分が興味のある社会課題の領域や団体に限定し、少額からでも寄付をすることは、ごく自然で当たり前のことだったんですね。

寄付は仲間あつめ。課題意識を共有して同じゴールへ向かう

さらに、日本で寄付の文化が根付かない背景には、私たち寄付者の勝手な思い込みや先入観があるだけでなく、「NPO側の姿勢にも問題があるのではないか」と水谷さんは指摘します。

内閣府の『令和元年度 市民の社会貢献に関する実態調査』によると、寄付の妨げとなるものは何かという問いに対する回答は、多い順から「経済的な余裕がないこと」「寄付先の団体・NPO法人等に対する不信感があり、信頼度に欠けること」「寄付をしても、実際に役に立っていると思えないこと」でした。

それに対し、「この結果は、寄付のおかげでどういう成果を上げられたのか、寄付者に対するフィードバックが足りていないことの表れ。そのせいで寄付を継続するモチベーションが失われているのでは」と水谷さん。

一方で、「いくら透明性が大事だとわかっていても、『僕らの活動によって、どれだけ生態系にプラスになったのか』というアウトカムを数字で明示することは、極めて難易度が高い。森林に限らず、多くの社会課題は定量化しづらくいこともあり、寄付者とどのようにコミュニケーションをしていくかには課題がある」と寄付者とのコミュニケーションにおける課題も語りました。

これに対し、個人からの寄付を多く集めている今井さんは、寄付者を“同じ目的を共有した仲間”として接することの重要性と、そのために工夫していることについて、次のように明かしました。「D×Pでは月額会員になると『サポーターグループ』というFacebookグループに入ってもらうのですが、そこで経営方針や財務的な報告を月2〜3回は必ず公表するようにしています。あとは、僕個人もそうだし、スタッフもTwitterで発信しているので、それを見るとD×Pのことがだいたいわかると思うし、常にコミュニケーションが生まれる環境を整えています」。

まずは社会課題の解決に挑む人たちへの共感から始まり、寄付者も同じゴールへ向かっている実感を持ちながら、一緒にチャレンジを続けていく。そんな関係性が理想なのかもしれません。

自分の叶えたい未来に向けて、寄付に意志をのせよう

そもそも、なぜ社会課題の解決を、国や民間企業ではできないのでしょうか。補助金ではなく寄付でやらなければならない理由について今井さんは、次のように分析します。

「まずNPO法人の代表には、起業家としての課題発見能力が備わっています。それに加え、小回りが利いて実行力が高い。一方で、行政からの委託事業につく補助金は、行政がそれまでやってきたことを企業が委託されるだけなので、施策の内容はもちろん、目標や補助金の用途も決められているんです。その点、寄付は寄付金で何をするか、何に使うのかの自由度が高い。今ある課題に対してきめ細やかで具体的な支援を生み出せるところが、寄付の強さだと思います」。

これに対し水谷さんは、「『森林破壊の問題解決なんて国がやればいいじゃないか』とたまに突っ込まれるのですが、それをやると日本全国で一律の政策になってしまうんですよね。『この地域には昔からこの種類の木があるから、これを中心に多様性のある森をつくりたい』と思っても、それに該当する補助金のメニューなんてなかなかない。行政は金太郎飴のように均等な分配にしなければならない立場ですからね。寄付金で運営している僕らが小回りを利かせて、地方自治体などとご一緒していくというのが現実的だと思います」と語ります。

このような実態を受けて、SMBCグループ・GGP運営事務局の木村智行さんは、「国や企業がNPO法人と組んで社会的成果をあげようとする関係性は、大企業がスタートアップなどと組んで新規事業に取り組むオープンイノベーションと同じだ」と指摘。「だから、やはり寄付に公平性は必要ない。『元来、寄付とは恣意的なものである』と割り切って、お金に自分の意志をのせることが重要なんですね」。(木村さん)

寄付をすることによって、自分と社会課題との間につながりが生まれます。そしてそれは寄付者と寄付先団体で構成された「同じ課題に向き合う人たちのコミュニティ」に入ることでもある。

「自分だけが使うモノやサービスと交換するためにお金を使うだけではなく、みんなで叶えたい未来を実現するためにお金をプールするイメージを共有できれば、寄付との新しい付き合い方が見えてくるのかも知れません」と語り、ロフトワーク・GGP担当メンバーの棚橋はイベントを締めくくりました。

今回は社会・環境課題解決への一つのアプローチである「寄付」をテーマに、寄付を受け取るNPO法人、そして寄付を促すサービスの運営者の視点で、これからの寄付のかたちを考える場となりました。これからもロフトワークは“GREEN×GLOBE Partners(GGP)”をはじめとして、さまざまな事業者のみなさまとともに、さまざまな視点で環境・社会課題解決の足掛かりを探っていきたいと思います。

Speaker

今井 紀明

今井 紀明

株式会社SOLIO
代表取締役

水谷 伸吉

水谷 伸吉

一般社団法人more trees
事務局長

木村 智行

木村 智行

三井住友フィナンシャルグループ
企画部 サステナビリティ推進室 室長代理

棚橋 弘季

株式会社ロフトワーク
執行役員 兼 イノベーションメーカー

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